モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】 作:皇我リキ
原因不明のモンスターの狂暴化。
アルセルタスを包み込んだ黒い霧。
そのアルセルタスは、狂ったように何もない空間へと攻撃し。
その末には、自らの身体を上空から地面に叩き付け命を絶った。
そんな事がありえるのか……?
いや、人から聞かされた事なら兎も角この眼で見た事だ。現実逃避をしたって仕方がない。
ギルドに報告するも、気の良い返答は返ってこなかった。
アルセルタスが雌のフェロモンを無視して俺達を追い掛け、あまつさえ気が狂ったかのように自らを殺す。
そんな事がある訳がない。
理由がある筈だ。
それを知っていそうな奴を一人だけ知っていた。
タンジアに連絡を取る所だったのだから、丁度良いな。
知り合いのギルドナイトに宛てた手紙をギルドの受付嬢に渡しながら、俺はクエストボードの方に目をやる。
新調したブレイブシリーズの防具で身を包む一人の金髪の少女が、真剣にボードを見ながらお目当の依頼を探していた。
「お手紙ですね。タンジアギルドに……と、了解です! 所で今回もお二人は採取クエストに?」
「……どうだろうな。多分、そうだろうが」
集会所の下位クエストを担当する受付嬢は、モガの森の彼女程ではないが良く喋る。
俺達がこのバルバレに来て二週間が経つが、ミズキの人懐っこさのせいか俺まで顔を覚えられてしまった。
「まぁ……最初のクエストでアルセルタスに謎の症状が現れて、モンスターと戦うのも怖いですよね」
「その後の情報は?」
「私には何も。なんだかキナ臭~い噂を偶に聞く事はあるんですが……」
キナ臭い……?
「……詳しく」
「……ふぇ? ぁ、ふぃ、ぇーと……倒したモンスターが生き返ったとか。夜に眼が血走って光っているモンスターが現れたとか。モンスターを切ったら血が真っ黒だったとか」
なんだそれは……。
「……酔っ払いのジョークだろ」
「なんですかねぇ? 倒したモンスターが生き返るなんて、そんな事あってたまるか! ですし」
ただ、そんな彼女の言葉を聞いて俺はあの時の光景を思い出していた。
倒れたアルセルタスが、起き上がると同時に狂ったように暴れまわる。そんな姿。
これもまた、他人から聞けば酔っ払いのジョークにしか思えないかもしれない。
一体、何なんだか。
「あ、ミズキちゃん良いクエスト見つけたようですね」
「退治だと思うか?」
「納品クエストに百ゼニー」
「だろうな」
この二週間。アルセルタスの後からミズキが選ぶのは納品クエストばかりだ。
そもそもアルセルタスも俺が無理やり選んだ高収入クエストであって、ミズキが自分から退治クエストを選ぶ事は村に居た頃からなかったのかもしれない。
だが、それでは村の外でハンターをやるのは難しいだろう。
「なんとか慣れさせないと、ミズキちゃんがちゃんとハンターになれませんよ?」
それはこの受付嬢も感じているようで、満足気な表情でクエスト内容の書かれた用紙を持ってくる少女と俺を見比べる。
「……でも、それがあいつだ。甘いのは分かってるがな」
甘やかしているのかもしれない。
それで、俺があいつの成長を止めているのかもしれない。
ただ、なんだろうな。
あいつが選んだ道は、俺が間違いだと選ばなかった道だ。捨ててしまった道だ。
今は、俺が進めなかった道を歩く彼女を見ているのを嬉しく思っているのかもしれない。
だが、やはり採取クエストだけだと報酬が安定しないのは少し問題だろうか……。
「昨日はこのクエストでお願いします! キノコ狩り!」
笑顔で用紙を受付嬢に渡すミズキ。
それなのに俺は、自分のわがままを通そうとしているのだろうか……?
……分からないが。
今は進むしかない。
「サブターゲットは何かあったりするか?」
「お金にお困りで?」
「……聞くな」
こればかりは我を通している場合の問題じゃないからな。
「ジャギィ三匹の討伐、とかなら。最近、普段居ない筈の場所にジャギィが出てくるって報告があってですね」
「なら、それで」
これは、俺がクリアすれば良い。
道を踏み外した、俺が。
◇ ◇ ◇
この景色も、少し見慣れてきたかもしれない。
岩壁に囲まれた遺跡平原のベースキャンプから見える景色は、広大で気が遠くなりそう。
少しだけ慣れた感覚でガーグァが引く荷車から降りると、一つだけ普段と違う感触が足に伝わった。
鎧のブーツが地面を踏みしめる感覚。鉄で出来たちょっと重い装備が、地面と擦れて音を立てる。
——何? 防具選びで困ってるのか。なら俺の相棒に頼むと良い! ん? 金なんぞ要らん。お前さん達も我らの団の仲間みたいな物だからな!!——
私が装備しているブレイブ装備は、団長率いるキャラバン隊我らの団のメンバーであり団長さんの相棒である加工屋さんが作っている我らの団専用の装備らしい。
そんな物を私はタダで譲ってもらい。
サイズが合わないからと加工し直して、重たいからと軽量化して貰った私だけの装備。
こうやって狩場に装備してくるのは初めてだから、なんだか気分が高揚してしまいます。
クエスト内容は特産キノコ八個の納品。
ここ遺跡平原はそれなりにキノコが見付かるから、そんなに時間は掛からないだろうけど頑張ります。
なんて、意気込んでいると。
「今日はサブターゲットをクリアする」
と、背後からアランの声。
えーと……?
「サブターゲット……?」
何それ?
「クエスト本来の目的とは別の、やってもやらなくても良いクエストニャ」
半目で私を見つめながらそう教えてくれるムツキ。
なんで半目なのかな……。もしかして、知ってて当然なの?
「も、勿論知ってたよ……?」
「「…………」」
虚勢をはると、アランもムツキも顔を見合わせた後黙ってしまう。
「だ、だって、村にいた時はそんなのなかったよ?!」
「あったニャ」
もう何も言えない。
「ムツキが酷い」
「酷いのはミズキの頭ニャ」
心に杭を突き刺された気がしました。
「まぁ……知らない事は覚えていけば良い」
「う、うん。そうだよね!」
「覚えて、忘れなければ、良いけどニャ」
ムツキぃ……。
「え、えーと。それで、そのサブクエストって?」
「ジャギィ三匹の討伐だ」
「辞めよう。キノコ探さないと行けないから忙しいし」
私はそう言って、アランに背を向ける。
そうしてから、私はまたわがままを言ってる事に気が付いて足を止めた。
振り向くのが怖い。アランやムツキはどんな表情をしてるかな……。
呆れてるかな。
「狩るのは俺がやる」
ただ、アランはそう言った。
「毎日安いパンの生活で良いのなら、俺の邪魔をすれば良い」
「そ、それは……」
バルバレに来てから二週間。私達の生活は質素な物になっていた。
私が納品クエストばかり受けるから、報酬が少ないのが原因。そんな事は、分かっている。
モンスターを、生き物を殺したくない。
そんな私のわがままで、二人に迷惑を掛けていた。
「ミズキ」
「アラン……?」
彼の手が、私の頭の上に乗る。
大きくて力強くて、でも優しい手が。
「前も言った筈だ。……迷うな」
——お前がその道を正しいと思って進んだなら、そこからは迷うな——
あの日、アランが言ってくれた言葉が頭の中で木霊する。
そうだ、迷っている方が迷惑を掛ける。
なら、私は———
「サブクエストの内容は?」
「普段住み着かない所に出てくるようになったジャギィの討伐だ。数は三匹」
普段住み着かない所に……。
「ねぇ、アラン。ならそのジャギィさん達をその場から追い払うか元の住処に返せばクエスト達成になるのかな?」
「…………。あ、あぁ……そうだな」
私が言うと、アランは驚いたような表情でそう返事をしてくれた。
———なら、私は殺さない。
間違っているのかもしれない。
おかしい事なのかもしれない。
でも、この道の先に答えがあるのなら。
合っていても、間違っていても、私はそれを確かめたい。
「キノコ探すついでに、そんな事が出来る方法を考える!」
だから、迷わずに進もう。
その先の答えが———私は知りたいから。
「無いねぇ……特産キノコ」
ベースキャンプを出発して一時間ほど。
サブクエストの前に特産キノコを集めちゃおうと思っていたんだけど、思いの外特産キノコが見つからない。
おかしいなぁ、この前来た時はキノコなんて沢山あったのに。
あ、これが昔モガの村のハンターさんが言っていた
「あったニャ!」
なんて考えている所で、ムツキが五つ目の特産キノコをゲットしました。
必要なのはあと三つ。少ない筈なのになんだが多く感じてしまう。
なんでかなぁ……。
「なんかそもそも、キノコが少なくなってる気がするニャ」
私に特産キノコを渡しながらそう言うムツキ。
確かに、言われてみればそもそもキノコが見付からない。
狩場として指定されている遺跡平原として、私達はその中心まで歩いてきてるのにまだ目標数まで達していない。
「何でだろうねぇ?」
岩壁の下に見付けたキノコを取る為に、エリアの中心を流れる川を渡りながら私は返事をする。
「さぁ……ニャっと」
ムツキはそんな私の背中に乗って私と一緒に川の向こうへ。
この川はそんなに深くないから大丈夫だと思うけど、やっぱりムツキは水が苦手みたい。
「……あれ?」
所で、見付けたキノコなんだけどその正体はマヒダケだった。
でもそのマヒダケには一目で分かるような異変があったの。
「……食べられてるニャ?」
そう。ムツキが言った通り、マヒダケは何かに半分食べられていた。
生えていたと思ったけど、捨てられたみたいに地面に横たわっているだけのマヒダケはまるで食べ残されてるみたい。
「ん……これじゃ素材としても使えないよね?」
「僕を舐めて貰っちゃ困るニャ」
なんて言いながら、ムツキは落ちていたマヒダケを自分のポーチに入れる。
使えるのかな……? 半分くらいしか残ってなかったし、新鮮味の欠片もない気がするけど。
「オルタロスか?」
私の後ろで、さっきまでの光景を見ていただろうアランはそんな言葉を落とした。
そんな声に振り向いてみると、何故かアランは手に釣竿と魚を持っている。
ちょっと、私達が一生懸命キノコ探してたのにアランはお魚釣ってたの?!
「なんでお魚……」
「後で使うかもしれないからな」
お魚じゃキノコは取れないんだよ……?
「で、オルタロスなのか?」
「え、えーと……」
オルタロス……聞いた事ある気がするけど。
「……なんだっけ?」
「モガの森にも居たニャ。お腹が膨れる虫」
「あ、うん、あれね、オルトロス。知ってるよ」
「オルタロスニャ」
ぅ……。
確か、甲虫種のモンスターだよね?
そのオルタロスがどうかしたのかな?
「食べ方からしてオルタロスじゃないと思うニャ。なんかこう、豪快に食い散らかした跡みたい」
アランの質問にそう答えるムツキ。
確かに、地面に横たわっていたマヒダケは半分程大きな口で囓られた跡がある。
オルタロスじゃなくて、なんかもっと大きな生き物……。そんな気がした。
「だろうな。そもそも俺はここ最近の遺跡平原でオルタロスを見た事がない」
そしてムツキにそう返すアラン。
遺跡平原に狩りに来始めてから早二週間。
この一帯にオルタロスが住んでいるっていうのは聞いたんだけど、私は一度も見た事がない。
「食料の不足による個体の減少か……ジャギィが生息域から離れたのと関係があるのか?」
一人でアランが何か言っているけど、私にはチンプンカンプンでした。
ジャギィってキノコ食べたっけ? うーん、関係あるのかなぁ?
「この先に木が生い茂ってる所があるけど、そこも探してみるかニャ?」
「いや、そこは今ジャギィの群れが縄張りにしてる筈だ。どのみち行く事になるかもしれないが、無駄な血を流したくないなら辞めておけ」
ん、ジャギィは縄張り意識が高いから……かな?
アランと初めて会った時、彼はその縄張り意識が高いジャギィ達の真ん中で寝てたんだけど……。
逆に、彼等と仲良くなれれば縄張り意識が高いジャギィ達が守ってくれるとか?
今になって。そんな風に思ってたのかな、なんて思ったり。
「とりあえず、サブターゲットのエリアまで行くか。道中も探せばキノコくらい見つかるだろう」
うん、キノコが見付からないのはたまたまだよね。
そんな訳で、私達はサブターゲットである縄張り外のジャギィ駆除のために移動する事に。
勿論、私は殺したくない。そんな事が出来るかは分からないし、出来ない時に私がどうするかも、分からなかった。
その道中は結構な時間が掛かったんだけど、その距離を歩いても見付かった特産キノコは二つだけ。
後一つがどうしても見付からないまま、私達は件のエリアに到着してしまった……。
うーん、本当、なんでだろう。というか、どうしよう……。
「あれか……」
木陰からアランが顔を出して、エリアを確認する。
情報通り、そこにはジャギィが三匹住み着いていた。
三匹は流れる川の付近で固まってるんだけど、何をしてるんだろう?
そんな事を思った瞬間、一匹のジャギィが川に頭を突っ込む。直ぐに引き上げられたその口には一匹の魚が加えられていた。
「ご飯の時間?」
「ジャギィって草食種を襲うイメージがあるけどニャ。魚も食べるニャ?」
「鳥竜種の中でも小柄なジャギィは数が揃わなきゃまともに狩りも出来ないからな。縄張りから離れたらあんな風にしか餌を入手出来ない」
うーん、ジャギィも大変なんだ……。
私も、もし狩場で一人になっちゃったら何も出来ないし。仲間って大切だよね。
「ウォゥッウォゥッ」
「ウォゥッ!」
「ウォゥッ!」
魚を取って嬉しかったのか、跳ねるジャギィに他の二匹が鳴き声を上げる。
お腹が減っていたのか、そんなジャギィ二匹は捕った魚を奪おうとその牙を仲間に向けていた。
「仲間割れニャ?」
「喧嘩はダメだよ……」
せっかくの仲間なのに……。
「縄張りから離れてしまえば一個体として生きるしかない。さて、サブターゲットはあの三匹の排除だ……。俺はその用意をするが」
そう言いながら、アランはポーチから何やら地面に落とした。
見てみれば、それはお魚。さっきアランが釣っていたお魚?
「もしあのジャギィ達を狩らなくても良い状況になったら、俺は素直に諦めるしかないな」
「アラン……?」
細目で私を見るアラン。地面に落とされたお魚。
こ、これって……もしかして……。
「……私が……やるの?」
「お前が選んだ道なら、自分の足で進め。俺は背中を押す事くらいしか出来ない」
そんなぁ……。
「…………」
「……辞めるか? ならあの三匹は、俺が狩る」
「危ないだけニャ。アランに任せれば良いと思うニャ……その方が早いニャ」
そうだね、ムツキの言う通り。
こんな事したって、危険だしクエストの時間が伸びるだけかもしれない。
でもね、私はアランと会ったあの日。
とても素敵な体験をしたあの日。
彼のようになりたいって、そう思ったんだ。
だから———
「私、やるよ」
———この一歩を、踏む。
「……正気かニャ? 小さくても噛まれたら痛いって知ってる筈ニャ」
「ぅ……」
「…………。ま、しょうがないから僕が横でボディガード……してやるニャ」
腕を組んで、他所を見ながらそんな事を言うムツキ。
「ムツキぃっ」
「むぎゃっ」
優しいムツキに抱き着きます。
私の頼れるお兄さんが傍にいてくれれば、安心だ。
「この問題を解決するにはまずジャギィ達の状況を知る必要がある。それにはあの三匹に縄張りに戻って貰いたい訳だ」
「お魚で釣ってさっき言ってた場所まで行くの?」
「いや、その魚はくれてやれ」
ボウガンに弾を込めながらそう言うアラン。
えーと、そしたらどうやってジャギィを縄張りに返すの?
「もし縄張り近くで餌が取れなくなったという理由でここまで出てきたのなら、腹が膨れれば縄張りに戻るはずだ。そうでないなら縄張り自体に戻れない理由がある」
「なるほどぉ……」
逆説的。
「回りくどいニャ……。さっき縄張りを見てこれば良かったのにニャ?」
「縄張りに群れがちゃんと居たら、間違いなく争いになる。狩りをしないっていうのは、狩りをするより難しい……これは、覚えておいて損はない」
うぅ……難しい。
でも、立ち止まっていられない。
これは私が選んだ道なんだから。
「持っていけ」
私がお魚を拾うと、アランはいつも首に掛けている———彼が自らの戒めと呼ぶ綺麗な石を渡してくれる。
欠けているけど、なんだか見てると心が安らぐ綺麗な石。なんで、アランは戒めなんて言うんだろうか。
「……お守りだ」
そんな石を、彼は私にお守りと言って渡してくれた。
私は素直に受け取って、それを首に掛ける。
「行こっか、ムツキ」
「世話のかかる妹だニャ全く。いや、本当、全く……大体ジャギィに襲われたら……もぅ」
なんて言いながらポーチから閃光玉を取り出すムツキ。
ありがとう、いつも迷惑ばかり掛けて……ごめんね。
「俺は何時でも撃つ。その必要があると思えばな」
「……うん」
「調整者気取り……か。ミズキ、俺の意見を一つだけ聞いてくれ」
「アランの意見……?」
それは、アランの答えなのかな……?
「俺達も、自然だ。それを踏まえた上でお前の道を歩け」
そう言って、アランは私の背中を押してくれる。
私は武器を持たずに、お守りを握りしめて。魚を持って歩いた。
「ウォァ? ウォゥッウォゥッ!」
一匹のジャギィが直ぐに私に気付く。その鳴き声で、他の二匹も私に気付いて振り向いた。
うん、それで良い。三匹でちゃんと私を見て欲しい。
私の想いが、届きますように。
そんな願いを込めて。私は
「ウォゥッウォゥッ!」
「ウォァ!!」
きっと、警戒の声だよね。
当たり前だ。私は彼等の仲間ではないのだから。
「あニャニャニャ……」
「ジャギィさん……え、ぇーと、ご飯……要る?」
ゆっくりと、驚かせないように近付いて私はそう口にした。
この言葉が通じているとは限らない。でも、この言葉に想いを乗せる。
「あなた達のお話を……聞きたいな」
「クックルル……ウォァ? ウォゥ」
私がお魚を持って差し出す手に近付くジャギィ。
「ニャぁ……」
「ダメだよ」
今にも閃光玉を使おうとしているムツキを制す。
私は彼等に、信用して貰いたい。
あなた達がどうしてここに居るのか、聞きたい。
「クックルルァ……ウォゥッ」
一口。
お魚をその口で飲み込むジャギィさん。
すると、さっきお魚を取れたのに他のジャギィに取られてしまったジャギィさんも私に近付いて来ます。
しまった……もうお魚が無い。
「クックルルァ……」
「あ、わ、ぇ、ぇと……うぁ」
ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう?!
「ニャ」
焦っていると、後ろから私の足に生温い感覚がぶつかる。
真下を見てみれば、そこには生焼けになったお魚が落ちていた。
「僕のお昼、あげるニャ」
ムツキぃ……っ!
「ありがとうっ。……え、と、はい。どうぞ、ジャギィさん……」
「クックルル? ウォァウォゥッ」
何回か首を横に振ってから、私の手が掴む生焼け魚を咥えるジャギィさん。
「お、美味しいかな?」
「僕の失敗作だけどニャ……」
生焼け魚を食べたジャギィって珍しいと思う……。
「クックルルゥ……ウォゥッ! ウォゥッ!」
「……っ」
身構える私達の前で、一匹のジャギィが吠える。
ここは彼等の縄張りではない。でも、ここは彼等の世界だ。
人と竜は相容れない。
私の想いは届———
「ウォァウォゥッ」
「ウォゥッ」
「……んぇ?」
突然、目の前の二匹が私に背を向けて鳴き声を上げる。
何か……会話をしてるの……?
「ウォゥッ」
小さく鳴く一匹が、振り向いて私に視線を合わせる。
「ウォゥッ」
そして向き直って、彼等の縄張りがある方角に向かって歩いたの。
他の二匹もそれに続いて歩いて、ある程度進んでから一匹がまた私を見た。
「ジャギィさん……?」
「どっか行っちゃったニャ?」
ううん、違う。
付いて来て。
そう言ってるような気がした。
「ミズキ」
私の武器を持って歩いて来るアランは、優しく私の頭を撫でる。
むぅ、なんだか子供扱いされている気が……。
「……行くか」
「うん!」
ただ、何かの一歩を踏み出せた気がして。
私は気持ちが良かった。
◇ ◇ ◇
うっそうとツタの茂る薄暗いエリア。
切り立った岩壁に生い繁るツタは集まってしっかりと束なり、ツタ製の床を作っている。
人が踏んでも崩れそうにないこのツタの地面の下は日の光が届きにくくて薄暗く、涼しげな雰囲気は休むのに丁度良いかもしれない。
ただ、ここはモンスターの世界。
それはモンスター達の特権なんだけどね。
そんなエリアで、ジャギィさん達はツタの床の上から下を覗き込むように立っていたの。
うーん、どうしたのかな? その下はあなた達の縄張りなんじゃないの?
「どうしたの?」
三匹の横に立って、一緒に下を覗き込む。
薄暗くて良く見えないから、眼を細めてじっと彼等の見詰める所を眺めた。
チラッとキノコが見えて、そういえばまだ特産キノコが一つ足りない事を思い返す。あの中にないかなぁ?
「何してるニャ……危ない」
「……ピンク?」
「ニャ?」
下を見ながら、付いて来たムツキを手招きします。
良く見えないんだけど、なんだかピンクが見えたんだよね。
それを確かめてもらう為に、今度はムツキにも見てもらおう。
「ウォゥッ」
小さく鳴くジャギィは、なんだか怯えているみたい。
「……ババコンガ?」
ババコンガ?
「どうした?」
続くアランも、片膝を落としてツタの下に視線を送る。
私が見たピンクが視界に入った瞬間、彼はなんだか怪訝そうな表情になった。
「なぜ……ババコンガが遺跡平原に居るんだ?」
「ババコンガ?」
「確り見てみろ。ジャギィの縄張りになってる筈の場所に居る、ここには生息していない筈のモンスターを」
そう言われて、私はもう一度ツタの下に視線を戻します。
「フゴァ……」
大きなピンクが動いた。
トサカのように固まった頭部の毛、桃色の体毛はモガの村のモモナ達を思わせる色。
だけどその毛の持ち主はアイルーは疎か私達人間なんかよりも大きな巨体を誇っている。
牙獣種。
私の知ってるモンスターではアオアシラがそれに該当するんだけど、ジャギィさん達の縄張りに居たこのモンスターもその牙獣種に属するモンスターだった。
桃毛獣ババコンガ。
それが、その場に居たモンスターの名前。
「あのババコンガっていうモンスターに縄張りを取られちゃったの?」
「クックルルゥ……」
ババコンガを睨み付けるジャギィさん。うーん、そうなのかな?
見た感じそこには他のジャギィも居ないし。
うーん、どうしたものか。
「ミズキ、あのババコンガをここから追い出すぞ」
「え、なんで?!」
そんな事出来るのかな?
そもそも、そんな事して良いのかな……?
「普通、遺跡平原にババコンガは生息しないんだ。何処から迷い込んで来たかは知らんが……」
ぇ、そうなの?
「この近くだと原生林か……。とにかく、此処にババコンガが居るのはおかしい。すると、ギルドはどういう反応をするか分かるか?」
「え、えーと……」
「ニャ、今回のジャギィみたく生態系のバランスを取る為に……」
……狩る。
あのババコンガさんは、確かにジャギィさん達にとって縄張りを奪った憎きモンスターなのかも知れないけど。
あのババコンガさんだって、此処に来た理由がある筈。それをまた狩ったりしたら、リオレウスさんとダイミョウサザミさんの時と同じになる。
でも、だから、私にはどうしたら良いか分からない。
「私…………」
「今は考える時だ」
え?
「道が分かれた時は考えて迷え。精一杯考えて、お前が行きたい道を探せ」
「道が……道が無くて、何処に行ったら良いか分からない時は?」
今私の目の前に、道は無い。
どうしたら良いか分からないし、何が正解かなんて分からない。
そんな時は……どうしたら良いの?
「……人に聞け」
「人に?」
「誰でも良い。その先にある筈の道を知ってる奴に聞け。自分だけで最後まで歩ける奴なんて、そうは居ないんだ。誰の力を借りたって良い。……最後にお前が納得出来れば、そこがゴールだ」
私が納得……出来れば、ゴール。
そこに辿り着くには———
「……アラン」
「……なんだ?」
「……教えて欲しい。ジャギィ達の縄張りを取り返してこの子達を狩らずに済ませて。ババコンガの事も救える方法があるなら……教えて欲しい!」
彼の眼を真剣に見て、私はそう言う。
これが正解なんて分からない。
また私のわがままで迷惑を掛けるかもしれない。
ムツキやアランも、呆れるよね。変だと思うよね。
「……俺達は調整者なんかじゃない。人と竜は相容れないし、ジャギィやババコンガの生き死にを俺達人間が決めて良い理由なんてない」
「……っ」
そう……だよね。
「……ただ」
「……?」
「俺達も、モンスターも、自然だ。人間とモンスターに違いなんて無い。生き物は、自分の好きに生きれば良い。それが誰の邪魔にもならなければ、誰にも怒りを売らなければ、自然に流されて生きていける。……要するに、敵を作らなければ良い」
敵を作らなければ……良い?
「お前がもし俺が示した道に進むと言うなら———」
アランはそこまで言うと私の手を握って、胸のペンダントを握らせる。
同時に私に視線を合わせて、こう口を開いたんだ。
「───此処から先は迷うな」
石を、意思を、強く握る。
これはお守りだ。それと同時に、戒めだ。
「……うん!」
私は、その先の答えが見たい。
色々な力が足りず、二話構成に。
ふーむ……もう少し構成力とかが必要ですね……。
所でモンスターハンターの世界地図ってどうなってるんでしょうね、とても気になります。
需要あると思うし、公式が出してくれたら嬉しいんですけどねぇ。
さてさて、なんだかこの作品でのジャギィの登場数って多い気がします。ある意味、原作再現ですね()
また次回もお会い出来たら嬉しいです(`・ω・´)
感想評価お待ちしておりますl壁lω・)