モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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自然と生態系の理

 大きな(くわ)を振り下ろして、土を掘り起こす。

 

 

 人が三人縦に並べる長さまでその作業を続けて、それをもう三回。

 土を三列耕して、モンスターのフンや籾殻等の肥料を撒いた。

 

 そこに、オニオニオンとレアオニオンの種を蒔いて汗を拭う。ふぅ、良い仕事しました。

 

 

「春には収穫出来るね!」

 オニオンこと、たまねぎは料理には欠かせない一品。用途も多くて、料理人には欠かせない野菜です。

 

「……なぜ俺達が畑の仕事をしてるんだ?」

「ミズキのお人好し加減を舐めていたアランが悪いニャ。あー、モガの村に居た時の事を思い出すニャ」

 モガに住んでいた時は、狩り場より農場に居る時間の方が多かったしね。

 

 

 

「いやぁ……助かったよお嬢ちゃん。ハンターの依頼なのに農業まで手伝って貰っちゃってねぇ。あ、これウチで取れたヤングポテトを蒸して猛牛バターを加えたものさね。どうぞお食べ、疲れたろう」

 私が精一杯背伸びをしていると、後ろから一人の年老いた女性が声を掛けてきた。

 蒸かし芋を手に持った、腰の曲がったおばあちゃんは、私達が今回受注したクエストの依頼主さんです。

 

 

 

 私達が受注したクエストは、畑を荒らす謎のモンスターの撃退又は討伐。

 

 タンジアの近くにある小さな村の農場なんだけど、ここ最近夜の内に畑を荒らされる事が続いているらしい。

 

 被害は様々で、野菜を食べられたり蜜蜂や養殖している雷光虫を食べられたり。

 後は家畜のガーグァの卵が盗まれちゃっているのか、全然取れないみたい。

 

 ガーグァには被害がないんだけど、このままだといつか被害に遭う可能性も捨てられなかった。

 

 

 そんな理由で、ハンターに畑を荒らすモンスターの調査と追い出す事を依頼してくれたのがこの方です。

 彼女はこの村で農業を営んでいる、六十を超えても元気なおばあちゃんだ。私も将来はこんな元気なおばあちゃんになりたいな。

 

 

 

「やった! ありがとうございます、おばあちゃん!」

「良いんだよ良いんだよ。畑も手伝ってくれたしねぇ」

 元々はまず畑の調査をする予定だったんだけど、畑仕事をするおばあちゃんが凄く大変そうだったからお手伝いをしていたんです。

 アランとムツキは休んでて良いよって言ったのに、結局二人も手伝ってくれました。二人はやっぱり優しいね。

 

 

「おかげさまで、今日はゆっくり出来るから。後は畑を荒らしている犯人を懲らしめてくれれば、ちゃんと報酬も払わせてもらうさね」

「うん、頑張るね!」

 こんなに優しいおばあちゃんの頼みだから、頑張らないと。

 畑を荒らしてるモンスターがどんなモンスターなのかは分からないけれど、アランもムツキも居るしきっとなんとかなるよね!

 

 私も頑張らなきゃ。

 

 

「フェレアさん、畑を見て回っても良いですか? あとは、畑の近くに野営設置の許可を下さい」

「勿論だとも。よろしく頼むよ」

 夜になったら、アランと交代で畑を見守る事に。一体どんなモンスターが畑を荒らしてるんだろうね?

 

 この辺りだとアオアシラやブルファンゴ、ジャギィが多く縄張りを持ってるのかな?

 もっと危険なモンスターだとは思わないけど、一応ちゃんと警戒しないとね。

 

 

 

 そんな訳で、アランは畑の周りを観察。

 何かが気になるのか、彼はガーグァの厩舎がある場所で目を細めて考え込んでいた。

 

 

「どうかしたの?」

「いや、妙に大人しいと思ってな」

 ガーグァはジャギィやランポスと同じ鳥竜種のモンスター。羽毛に覆われて、胴体が真ん丸だから丸鳥(がんちょう)とも呼ばれている。

 ただ、大人しめな性格と扱いやすさから家畜として育てられている事が多いモンスターだ。ガーグァが産む卵は、大きいし栄養満点です。

 

 

 アランの目線の先にいるのは三匹のガーグァ。三匹共お昼寝中なのか、胸を地面に付けて頭を伸ばした状態でお休み中。

 す、凄くリラックスしてる。こんな状態で寝てたら、襲われちゃった時にどうするんだろう? そんな事を思ったり。

 

 それだけこの場所が快適って事かな?

 

 

「ガーグァの餌はどのくらい与えていますか?」

「毎朝昼晩と、この小タル一杯分入れてるよ。それがどうかしたのかい?」

「……。……しっかりと全部食べてますか?」

 おばあちゃんの言葉を聴くと、アランは少し考え込んでから質問を重ねた。どういう意味だろう?

 

 

「全部食べとるよ。朝来たらいつも餌箱はすっからかんさ」

「そうですか……。申し訳ないんですが、ガーグァを一匹脅かしてやっても良いですか?」

 ガーグァはビックリすると卵を産み落とす性質があります。

 卵を確認したいのかな? でもなんでだろう。

 

「んむ? まぁ、構わないよ」

「すみません」

 そう言うと、アランはガーグァが一匹寝てる厩舎の中に入った。

 

 厩舎は柵で覆われていて、餌が入った樽は厩舎の扉の外側に置いて簡単に交換が出来るようになっている。

 

 アランはその中で一番快適そうに寝ている一匹に狙いを定め、ゆっくり近付いて無言でガーグァのお尻を蹴り飛ばした。

 勿論ガーグァは驚いて突然立ち上がり、前のめりになってパニック状態になる。こうすると本来ならガーグァは卵を落とすんだけど───

 

 

「……フンか」

 ───ガーグァがお尻から出したのは、茶色い物体。

 

 

「くせーニャ」

「あれれ?」

 おかしいな、卵が出て来る筈なんだけど。

 

 

「おや……? おかしいね」

「ガーグァの卵は盗まれているんじゃなくて、ガーグァの方に問題があるのかもしれません。この三匹の体調も調べさせてもらいます」

 アランはそう言いながら、パニックになってその場で暴れているガーグァの顔に手を向けた。

 視界を閉ざされたガーグァは、暴れるのを辞めて大人しくなる。

 

 アランが何気なく凄い事してる気がするんだけど気のせいかな?

 

 

「落ち着け、悪かったな。少し身体を見せてくれ。お前の事が心配なんだ」

「グワゥッ、グワァ」

 そして大人しくなったガーグァの身体を、彼は念入りに調べ始めた。

 何が気になってるのかな? ただアランは、ガーグァの全身を見ても納得出来なさそうな表情で次に移る。

 

 三匹のガーグァの身体を見ても、さらにガーグァのフンを調べても、アランは何かが気にくわないのか不満気な表情をしていた。

 

 

「育て方が悪いんかねぇ? 病気にでもしてしまったかい?」

「いや、身体に異変はないです。少し体温が低いから、餌が足りてないのが産卵しない原因だと」

 え、凄い。卵が取れない理由確かめちゃったの?!

 

 

「ハンターの知識じゃないニャ……」

「なんか凄いね……」

 アランが凄いのは知ってたけど、またなんだか私の知ってる以上にアランは色んな事を知ってるんだと思い知らされてしまう。

 私も、もっと勉強しなきゃね。

 

 

 

「ガーグァは餌の量を少し増やして様子をみて下さい。卵はともかく野菜や虫の被害の犯人は他にいると思うので、予定通り今日は野営を貼ります」

「うむ、ありがたいねぇ。晩御飯は期待しておいておくれ。おばあちゃん奮発するよ」

 ただ、それだけじゃ問題は解決しない。ガーグァが卵を産まない理由と、畑を荒らしてるモンスターは別だと思うし。

 

 

「ここ最近村の近くで変わった事はありますか? モンスター絡みで」

「モンスター絡みかい。うーん、そうさね。一週間程前に、ジンオウガの番が討伐されたってくらいかねぇ」

「討伐の理由は?」

「元々は一匹だったんだけども、二匹になって縄張りが村の近くまで広がってしまったのさ。被害が出る前にって、村長が頼んだんだよ」

「……なるほど。ありがとうございます」

 退治されちゃったなら、畑荒しには関係ないかな?

 

 

 やっぱりその場で調べただけじゃ、畑を荒らしているモンスターの正体は分からない。私達は予定通り野営をして畑を見る事に。

 アランと交代で見張りをするんだけど、まだ眠くないしアランと晩御飯を食べながら話をする事にした。

 

「アランはなんで、ガーグァが卵を産めないって思ったの?」

 おばあちゃんが作ってくれた料理を食べながら、私はアランにそんな質問をする。

 こういう時に教えてもらって、私もいつか同じような事が出来るようになりたいなって。

 

 

「ガーグァは充分な栄養があれば毎日卵を産み落とすモンスターだ。逆に、そうでなければ昼間から寝て体力を温存する」

「あ、だからお昼から三匹共寝てたのかな?」

「そうかもしれないから、調べてみただけだ。可能性があるなら、確かめれば良い。間違っていても、損はしない」

 アランはそう言うと、お茶を飲んで畑の方に視線を向けた。

 彼の視線の先には何が写っているんだろう。私とは全然違う物が見えてるんだなって、ちょっと羨ましかったり。

 

 

 うーん、しかし、犯人はどんなモンスターなんだろう。ガーグァの卵は関係ないのかな?

 

 

「……まぁ、俺は畑を荒らしている犯人の目星は付いているがな」

「え、そうなの?!」

 私が考え込んでいると、アランは突然そんな言葉を落とす。

 まだなんの手掛かりも出てない筈なのに、本当に分かっちゃったのかな?

 

 

「ミズキはどう思う?」

「どうって……。うーん、ジンオウガは退治されちゃってるんだし関係ないよね。ジンオウガが居なくなって生態系が変わったなら、新しくこの辺りに住みだしたモンスター?」

 でも、それが分かったら悩む必要がない。アランは分かってるんだろうけど、私には分かりません。

 

「ムツキは」

「ニャ? あー、えーっと、ジンオウガの幼体とかだと思ってたニャ。さっきおばあちゃん、ジンオウガの番って言ってたしニャ」

 そういえば一週間程前に討伐されたジンオウガは番だったって、おばあちゃんが言ってたね。

 そうなると、ムツキが正解なのかな? うーん、やっぱり私は頭が回りません。

 

 

「関係ない事はないが、ハズレだな。ジンオウガなら虫はともかく畑の野菜に被害は出ない筈だ。アレは肉食だからな」

 だけど、アランは静かに向き直ってそう言った。

 

 虫と野菜が被害にあってるという事は、犯人は雑食なのかな?

 でもここまで来るともうヒントも何もない気がして来た。

 

 

 ブルファンゴとか、アプトノスみたいなこの辺りに生息する草食のモンスターは何種類か居るから一種類に絞るのは難しいと思う。

 

 

「ミズキは雷光虫がどんな虫か知ってるか?」

「え? えーと、身体から電気を出して身を守ってる虫だよね?」

 唐突なアランの質問に、私はそう返した。

 

 小さいのにとても強い電気を発生させる雷光虫は、ハンターの間でもシビレ罠の素材として重宝されているから畑で養殖する人も多いんです。

 この畑の雷光虫は被害にあっちゃってるんだけど、畑を荒らしているモンスターは電気に強いのかな? ゲリョスとか。

 

 

「ところで、ガーグァの嘴は絶縁性───つまり電気を通さない。電気で身体を守っている雷光虫でもガーグァは餌にしてしまう。……これは覚えておいても損はない」

 そして、アランはそんな言葉を落とした。

 

 え、それって、つまり?!

 

 

「もしかしてあのガーグァが犯人って事?!」

 おばあちゃんが家畜として飼っている三匹のガーグァ。犯人はあの三匹だったという事なのだろうか?

 

「いや、違う。柵は丈夫でガーグァが夜中に逃げ出す事は出来ないからな」

「えぇ……。もぅ、じゃあ犯人はどんなモンスターなの? 勿体ぶらずに教えてよ。ぶーぶー」

 今日のアランは意地悪です。あんまり意地悪ばかりするから、私は拗ねて口を尖らせた。

 

 

 そんなに意地悪しなくても良いのに。

 

 

「お、怒るな怒るな、教えてやる。……畑を荒らしてるのはガーグァだ」

「違うって言ったのに?!」

 もぅ! アランの意地悪!

 

「家畜のガーグァじゃないからな」

「え?」

 それって、どういう事?

 

 

「農場の被害は雷光虫や野菜、そしてガーグァ達の餌だ」

「ガーグァの餌……?」

 おばあちゃんがガーグァに与えている餌も、取られちゃっていたという事かな?

 そういえば、アランはガーグァの餌が足りてないって言ってたよね。でも、おばあちゃんはちゃんと餌を与えていたみたいだし。

 

 それが取られているっていう事は───あ?!

 

 

「野生の、村の外のガーグァって事?!」

「そういう事だ。ガーグァの餌まで奪うモンスターはガーグァくらいだからな。……大方ジンオウガが討伐されて外敵のいなくなった野生のガーグァが縄張りを広げて、餌を求めて農場を見つけてしまったという事だろう」

 アランが村の周りのモンスターの事を聞いたのはその為だったんだね……。

 うーん、やっぱりアランは凄いなぁ。でも羨ましがったり落ち込んだりする前に、色んな事を覚えてアランについて行かなくちゃね!

 

 

「でも、犯人が野生のガーグァだったら私達はどうしたら良いんだろう? 追い払っても次の日には来ちゃうだろうし。ガーグァを討伐しないといけないのかな?」

「このクエストで一番の問題は、生態系の乱れが原因だという事だ。ジンオウガを狩猟したのは村の安全の為だろうが、人間の都合で自然のあり方を変えてしまっているからな」

 私達人間は自然への影響力が普通より少し高い。私達の勝手な行動が生態系を乱してしまう事だって沢山あるんだ。

 それは、意図していてもいなくても同じ事で。少しの乱れだったものが、自分達に振り返って来る程大きな乱れにもなったりする。

 

 アランが昔教えてくれた事だけど、今日程それを痛感した事はこれまでなかった。

 

 

 

「ミズキ、昔リーゲルさんの船の上で話した事を覚えてるか?」

「うん、覚えてるよ」

 リーゲルさんは怒隻慧(どせきけい)というイビルジョーを探している、アランと同じ目的を持った人です。

 モガの村からタンジアまで私達を船に乗せてくれた彼とは、突然船をモンスターに襲われてそれきりになってしまっていた。

 

 ──自然に生きる生き物を、己が勝手に狩りと称して殺す事を……お前はどう思う?──

 そんな彼の言葉を思い出す。

 

 

 私はあの時、全く答えが分からなかった。

 

 

「あの時は答えられなかったけど。今なら私、答えられると思う」

 でも、今は違う。

 

 

 ──人間は勝手に世界の生き物を自分の物だと思ってる。なぁ、そんなのはおかしいと思わないか?──

 リーゲルさんはそう言っていた。

 

 確かに、私達は調整者気取りでモンスターを殺しているのかもしれない。

 私達の都合でモンスターを殺して、生かして、それが正しい事なのかなんて私は分からない。

 

 

 ただ、一つだけ分かる事。

 

 いや、私がそうありたい事。

 

 

 

「私は、ただのハンターとして、自然の一部としてモンスターと触れ合いたい。私だって、自然の一部なんだから」

 私達人間も自然の一部だ。モンスターと何も変わらない。

 

 狩って、狩られて、その生態系の一部に私たちがいる。

 生態系が乱れるのも、それが正されるのだって、自然の一環なんだ。

 

 

 私はそう思う。

 

 

 

「……そうか。なら、この問題は俺達が解決する」

「で、でもどうするの? やっぱり、ガーグァの数を減らせば良いのかな?」

 増え過ぎてしまったモンスターを間引くのも、私達ハンターの仕事だ。

 それが正しい事なのか、間違ってる事なのかは私には分からない。でも、私は自分が信じる道を歩くだけ。

 

 

「方法はいくらかある。……まず一つは放置する、だ」

「放置する?」

 それは放っておいても問題は解決するって事かな?

 

「確かに、自然は俺達が干渉しなくても勝手に廻っていく。きっと何もしなくても、ガーグァの数は自然の理が減らすだろう。……だが、今回これはなしだ」

 それは私達が何もしないって事だもんね。

 

 

 きっと、それは間違っていないんだろうけど。でも私達はハンターだから、このまま放っておく事はしたくない。

 

 

「もう一つ、ガーグァの数を俺達が減らす。これが一番簡単だ。夜に畑を荒らしにきたガーグァを狩れば良いだけだからな」

 ハンターとしてはこれが正解なんだと思う。私達のクエストは、畑を荒らすモンスターの退治か討伐だからね。

 

 

「最後に一つ、一番面倒な方法がある」

 アランはそう言うと、私にどうしたいか尋ねるように顔を覗き込んできた。

 

 それはきっと、私が進みたい道に行くために通らないと行けない道なんだと思う。

 

 

「その方法は?」

「……まずは、雷光虫をとにかく大量に集める」

「……えーと?」

 ドユコト?

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 日付は変わって次の日。

 

 

 結局昨日、私達は本当に畑を荒らしにきたガーグァを追い払ったんだけど、それだけじゃ問題は解決しない。

 そんな訳で私達はおばあちゃんに許可を貰って、農場で養殖している雷光虫を少し分けてもらいました。

 

 それでも、アラン曰くまだ雷光虫が足りないらしいです。うーん、アランは何をしようとしてるんだろうね?

 

 

 ついでに、ガーグァはしっかりと卵を産んでくれました。

 今日は近くの狩場に出向くんだけど、帰って来たらおばあちゃんがスフレをご馳走してくれるそう。頑張らなきゃね!

 

 何を頑張るか分からないんだけども。

 

 

 

「さて、この辺りか」

 場所は変わって、木々や草花が生い茂る狩場に到着。村からはかなり離れた場所です。

 

 ここが一週間程前にジンオウガが討伐された場所らしい。所々焼けている木々が、激しい戦いだったんだと思い知らせてくれた。

 

 

「どうするの? アラン」

 雷光虫はガーグァの餌になるらしいけど、その為に集めたとは考えられないんだよね。

 

「さて、もう少し雷光虫を集めるか」

「ま、まだ集めるのかニャ?」

 本当にガーグァの餌にでもする気なんだろうか? 農場でも結構集めたのに、これ以上集めてどうするんだろう。

 

 でも、私はアランを信じて虫網を振った。

 ただやっぱり、ガーグァが食べちゃってるのかこの辺りには雷光虫が全然いない。

 

 

 それでも、やっとアランが納得してくれる程雷光虫が集まる頃にはお日様は沈みかけていて、綺麗な赤色が空を包み込む。

 まさか一日中虫捕りをする事になるとは思わなかった。モガに居た頃でもこんなに頑張って虫を集めた事はないです。

 

 

「さて、休んでる暇はないぞ。次はアイツを探す」

「……アイツ?」

 アイツって誰だろう? モンスターなのかな?

 

 

「ジンオウガだ」

「ぇ、ジンオウガって……討伐されたんじゃ?」

「番はな。……番がいて、縄張りを広げていたって事は子供が産まれてその餌を探す必要があったという事だ」

 なるほど、討伐されちゃったジンオウガには家族が居たんだね。

 それが分かってしまうと、少し寂しい気持ちになった。私達ハンターが、その親子を引き裂いたと思うとなんだか悲しい。

 

 

「……こればかりは、そういうものだと割り切るしかない。人と竜は相容れない。もしジンオウガの番を放っておいたら、あの村で被害が出ていたかもしれないからな」

「うん、分かってるよ……。……そうだよね」

「正解はない。番の片方だけを討伐するやり方だってある。ただそれが正解か、何が正解かなんて、そんな答えはありはしないんだ」

「そっか……。うん、私は私の答えを探す!」

 正解はない。きっとアランの指し示す道以外にだって答えは沢山あるんだと思う。

 

 

 そのどれを進むか。いつか私自身の力で決められる時が来ると良いなって、私はそう思います。

 

 

「さて、ならジンオウガの幼体を探すぞ。あまり時間はない。夜になったらまた畑を荒らしていたガーグァが動き出すかもしれないからな」

 アランがそう言ってから私達がジンオウガの幼体を見付けるまで、そんなに時間はかかりませんでした。

 ガーグァが群れている場所を見付けて、その中心に一匹だけガーグァじゃないモンスターが視界に映る。

 

 

 大きさはアオアシラやウルクススと同じくらい、青い鱗に覆われた身体を包み込むのは白い体毛。

 頭部や背中、脚や尾に黄色い甲殻を並べたそのモンスターは私が見た事もない独特な姿をしていた。

 

 牙獣種に似ているけど、なんだか違う。まるで竜のような姿。

 

 

 背中から小さな光を発するそのモンスターは、周りを囲むガーグァに強靭な前脚を振り下ろす。

 

 だけどもガーグァ達は一斉に散らばってその攻撃を避けた。

 けれど完全に逃げはせずに、むしろそのモンスターの背中を狙っているかのように姿勢を高くして周りを囲む。

 

 

 

「アレがジンオウガの……幼体?」

 凄く大きいけど……。アオアシラと同じくらい大きいけど。

 

「成体になればアレの二倍か三倍の大きさになるんだ、まだ小さい方さ」

 それだけでジンオウガがとても危険なモンスターなんだと分かってしまう。

 だったら、討伐依頼も出るよね。

 

 

「あのジンオウガ、ガーグァに遊ばれてるようだけどニャ。ガーグァってそんなに生意気なモンスターだったかニャ?」

 ムツキの言う通りガーグァは、まだ子供だから狩りが上手く出来ないジンオウガを囲ってまるで遊んでるよう。

 それでもあの大きさなら攻撃を受けてしまえば、ガーグァはひとたまりもない筈だけど。それでもジンオウガにちょっかいを出す理由はなんなんだろう?

 

 

「雷光虫が狙いだろうな」

「雷光虫……?」

 それとジンオウガに関係があるのかな?

 

 

「ジンオウガは電気を扱うモンスターなんだが、自身の発電能力はそこまで高くない。それを補う為に、周囲を飛ぶ雷光虫に電気を与えその電気で活性化した雷光虫がジンオウガの武器になるんだ。ジンオウガの好物はガーグァで、雷光虫の天敵は昨日言った通りガーグァだからな、雷光虫は身を守りジンオウガはさらに力を手に入れる。……共生関係って事だ」

「え、なにそれ凄い!」

 全く別の生き物の筈なのにお互いの理に適った共生関係。ブラキディオスもだけど、生き物同士の関係はとても素敵だと思った。

 

 

「そして今言った通り、ジンオウガは雷光虫を集めれば集める程強くなる。逆にまだ子供で、さらにガーグァがこの辺りの雷光虫を減らしているせいで、あの幼体はジンオウガとしての力を全く出せていないだろう」

 つまりさっきからガーグァがジンオウガにちょっかいを出しているのは、周りに居る雷光虫が狙いだったんだね。

 

「ぁ……。……も、もしジンオウガが雷光虫を集めて、その、強くなったらどうなるの?!」

「あんな風に遊ばれる事もなく、しっかりとガーグァを狩猟出来るだろう。だがこの辺りから一匹で縄張りを広げようが村に近づく事はない。むしろ、ガーグァと村を隔てる見えない壁になってくれる筈だ。……番が出来る前までと同じようにな」

 そう言いながら、アランは捕まえてきた雷光虫を全部手放してしまう。

 

 

 日が沈んで暗くなってきた空に、黄色く光る虫が沢山飛んだ。

 

 ガーグァ達はその雷光虫に夢中になって動きを止めてしまう。

 大好物の大きな群れ。さそがし彼等には都合の良いご馳走に見えたに違いない。

 

 

 

 だけど、雷光虫達は知っていた。

 

 この天敵(ガーグァ )達から自分を守ってくれる存在を。

 

 お互いに利益のある共生関係。とっても素敵なお話だと思う。

 

 

 

「ウォゥゥゥッ!! ウォゥゥゥッ!!」

 小さな一匹の未熟な竜は、天高く吠えながら身体を発光させる。集まってくるのは雷光虫達。

 

「ウォゥァァァアアアアッ!!!」

 その力を手に入れた竜は全身から青白い光を放ちながら咆哮を上げた。

 一斉に散らばるガーグァ達。だけど、立派な狩人となったジンオウガからしたらその動きは止まって見えていたのかもしれない。

 

 

 

 ここまでしたら、私達がする事はありません。

 

 後は自然の理が元に戻してくれる。

 

 

 きっと私達が何もしなくても、あのジンオウガはいつか立派な狩人になっていたと思う。

 だけど、私達も自然だから。自然の理に自分達が干渉しても良い。

 

 

 

 私はそう思います。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「例えばさ、アラン。あのジンオウガが大きくなったり、家族が出来たり、何かがあってまた縄張りが村に近付いちゃったら……どうなるの?」

 帰りの道で、私はアランにそんな事を聞きました。

 

 

 今回の畑荒しの原因はこれできっと解決すると思う。

 ジンオウガが立派になって、ガーグァの縄張りが狭くなれば態々ジンオウガの縄張りを横切ってまで村に近付くガーグァも居なくなるだろうし。

 

 だけどジンオウガが村の近くにいる限りは、また同じような事が起きてしまうんじゃないかなって。そう思っちゃったんだよね。

 

 

 

「その時は、また同じ事が起こるだけだろうな」

「それじゃ……私達がした事って意味がなかったのかな?」

 また同じ事が繰り返されるなら、これは間違いじゃなくても正解じゃない気がするんだ。

 根本的な解決にはなってない。問題を先延ばしにしただけ。

 

「そんな事はない。現に村の畑は当面安泰で、依頼主も喜ぶだろう」

「でも、またきっと同じ事が起きるよ……?」

「それで良いんだ」

 それで良い……?

 

 

「リーゲルさんの言う通り、自然は誰かが弄らなくても勝手に廻っている。俺達が何もしなくても問題はいつか解決したようにな。……だから俺達は、その自然の理に向き合う必要があるんだ」

「自然の理に……向き合う?」

 首を横に傾ける私の頭に手を置きながら、アランはゆっくり口を開く。

 

 

 それが、彼の答えだと言うように。ゆっくりと口を開く。

 

 

「モンスターが縄張りを広げるのも、そのモンスターが居なくなって他のモンスターか縄張りを広げるのも、色々な生き物が干渉しあって起きる自然の現象だ。それは俺達が何をしようが変わらない、廻っていく。……だから俺達はその自然の移り変わりと、常に向き合って生きるんだ。……ハンターの仕事はなくならない。その一つ一つが自然と向き合うという事だからな。無駄なんて事はないさ。……少なくとも、俺はそう思っている」

「……そっか」

 私達も自然の一部。

 

 

 アランがリーゲルさんに船の上で言った事の真意が、やっと分かった気がする。

 

 

 それがアランの答えなんだね。

 

 

 

 とっても、素敵だと思った。

 

 

「さて、村に着くぞ」

「スフレだニャ!」

「いっぱい食べよー!」

 今日はそんなお話です。




ジンオウガが超帯電状態に移行する瞬間を描きたかっただけです(半分本当)

リーゲルの質問へのミズキの解答を書いたお話でした。関係無いけどジンオウガの幼体って凄く可愛いよね()
今回のお話のジンオウガは幼体というには少し成長した姿でしたが。実際ジンオウガは子育てするんですかね……? そこら辺久し振りに独自解釈に任せることになりました。

所でアランが始めにガーグァを大人しくさせた方法ですが、ダチョウの生態を参考にしております。他にも寝方だとか、卵に関する事だとかもダチョウが参考です。


それでは、次回もお会い出来る事を楽しみにしております。
感想評価も待ってるよ(`・ω・´)

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