モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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少女と泥棒ネコのお話

「あの娘は引っ越したのかニャ? いや、でもハンターの人……あいつのお兄さんはハンター辞めて漁師になったって言ってたニャ」

 ハンターを辞めたって事は、そんなに無理して稼がなくてもよくなったという事。

 それはつまりあの少女の病気は治ったという事になる……筈。

 

 

「……確かめるかニャ」

 ボクはそれを確かめる為に、少女の行く末を知る為に漁師達の集まる港に向かう。

 

 

 行かなければ良かったと、後悔するだろうか?

 

 

 ずっと心の中に引っかかっていた事の真相を知った時。僕はどう思うだろうか。

 

 

 

 行動としては、至極単純だった。

 

 

 

「ん? メラルー……?」

 船で魚の掛かった網を引き上げる男の首には、身に覚えのあるモンスターの羽が着いた首飾りが掛けられていた。

 記憶と少し違うのは、二本の羽の間にモンスターの牙のような物が付け加えられているという事だろう。

 

 でも、それがあの時の首飾りだとボクは疑わなかった。

 

 

 

 数日間、ずっと着けていたんだ。

 

 最後の日、必死に守ったんだ。

 

 少女に返す時、何回も酷い傷を付けてないか見直したんだ。

 

 

 間違える訳がない。

 

 

「この泥棒めニャ!!」

「な?! え?!」

 その男から首飾りを強引に盗み取る。

 ボクにしては無理矢理な犯行に、昔の自分が見たらどう思うだろうかと内心溜息を吐きながら、ボクは全速力でその場から走り去った。

 

 

「泥棒って、え?!」

「どうしたあんちゃん!」

「首飾りを……なんかメラルーに持って行かれた」

「そいつぁ大変だ! 直ぐに取っ捕まえよう。だってあんちゃんの首飾りは───どうした? あんちゃん」

「いや、なんでもない。捕まえるの手伝ってください。話したい事があるんです」

 

 

   ◾️ ◾️ ◾️

 

「いやぁ、この世界は本当に……何が起こるか分からねぇよなぁ?」

「……ほ、本当ニャ。いや、ボクもどうしてこんな事になったか自分で聞きたいくらいニャ」

 数時間後、ボクは懐かしの場所───ギルドの留置所の檻の中に閉じ込められていた。

 

 

 あの後あっさり捕まり、そのままギルドに連行。首飾りも取り上げられて、今に至る。

 あー、この硬さ。この殺風景な空間。懐かしい───じゃねーよ。何してるんだボクは。もう二度とこんな目に遭いたくないと思っていたのに!!

 

 

「ぼ、ボクはどうなるニャ」

「流されるんじゃねーの?」

 あの時と同じ。赤色のギルドナイトスーツを着た男に聞くと、帰って来た返事も同じ内容。

 いや……ヤバい。ヤバ過ぎる。二度目は無い。絶対に無い!!

 

 

「嫌だぁぁぁああああ!!!」

「落ち着けー、語尾が抜けてるぞー」

 しまったニャ。

 

 じゃない。

 

「しまったニャ」

 いや、そういう問題じゃない。

 

 

「出来心だったんだニャ!! 許してくれニャ!!」

「出来心だったら全部許されるなら俺はお前を出来心で……島に流す」

「嫌だぁぁぁああああ!!!」

 どうする?! どうするボク?!

 

 

「無実ニャ! それでもボクはやってないニャ!」

「いや諦めろタコ。捕まった時点で有罪だ。冤罪だろうが有罪だ」

「それは問題だと思うニャ!」

 あー、なんでこんな事に。こんな事ならあんな小娘の事忘れておくんだった。

 きっと今は何処かでハンターをやってるんだろう。それで良いじゃないか。

 

 

「まー、でも、あれだ。お前が盗んだ物の持ち主が、お前と話してみたいって言ってたんだよ。……そいつの言葉次第では、島流しはなしかも知れねぇぜ?」

「なん……だと?」

「語尾」

「ニャ」

 とは言っても、物を取られて結果的にそれが帰って来たからといって許してくれる人がそうそう居るとは思えない。

 ここは上手く誘導して……。どうにか機嫌を取って、無罪にしてもらうしかない!!

 

 滅茶苦茶可愛くゴロゴロ鳴いて、ネコである事をフルに使ってゴマをすれ!!

 

 

「ほいじゃ、呼んでくるから仲良く話してなぁ」

 ギルドナイトの男はボクに手を振ってその場を離れていく。面会に立ち会いなしなのか……。

 

 

 そうしてから少し経って、一人の男がボクの檻の近くへと歩いて来た。

 ハンターをやっていたからか? 漁師をやっているからか? 筋肉質な男の首には、例の首飾りが掛けられている。

 

 

「……あんた、アイツの兄かニャ?」

 その姿が視界に移った時に、島流しの恐怖よりあの少女への興味が優ったのか。

 ボクはゴマすりも忘れて、その男にそう話しかけた。

 

 

「やっぱり、君は妹が言っていた泥棒さん(・・・・)なんだね」

 男はしゃがみ込んでボクと視線を合わせてそう言う。

 という事はその首飾りはやっぱりあの首飾りなのか? そして彼が、あの娘の兄。

 

「……あの娘はどうしてるんだニャ。ハンターになったんじゃなかったのかニャ?! なんであの家に住んでないんだニャ!!」

 ボクは自分が捕まっているのも忘れて、檻を掴んで男に攻め寄りながら声を上げた。

 

 ボクの言葉を聞いた男は、少し俯いてから口を開く。

 

 

 ボクがそうしたように。単刀直入に。ボクがこの数年間気になっていた事を。

 

 

 

「……ハンターになって、死んだんだ」

「……っ」

 なんの捻りもない。至極単純な答えだった。

 

 

 あの家を訪れて話を聞いた時から───いや、もしかしたらもっと前から、答えは分かっていた筈。

 それでも内心その事を認めたくなくて。だからボクは今ここに居るんだろう。居たんだろう。

 

 

「……お前お兄ちゃんだろ!! なんで妹の命も守れないんだよ……ッ!! 守る力も無いのに、なんでハンターになる事を許したんだ!! 妹を守るのがお兄ちゃんの役目だろ!!」

 ふざけるな。大切な家族だろ。ハンターなんて危険な仕事をしてまで病気を直そうとした大切な家族だろ。

 

 ならなんでその後も守ってあげないんだ。ハンターになる事を許したのなら、ずっと側に居て守るのがお兄ちゃんの役目だろ……ッ!!

 

 

「……妹の病気は治らないんだよ。それでも、妹はハンターになりたいって言って、ハンターになった」

「……は? 病気のまま……? お、お前……バカかニャ?! 目が見えないまま……ハンターをやらせたってのかニャ?!」

「妹の病気は目が見えないなんて病気じゃないんだよ。君には嘘を付いていたんだね。……妹はちゃんと目が見えてたよ」

 ……は?

 

 

 

 ……え?

 

 

 

 ……はぁ?!

 

 

「ちょ、ちょ、ちょちょ、ちょっと待てニャ? え、何? 目は見えていた?! でも、あいつ……ベッドから降りるのもゆっくり手で確認しながらだったし。他の日はベッドに横になったきりで───」

 自分で思い出しながら声を上げると、自然とあの少女の言動を思い出した。

 

 

 あの日、初めて会った日は夜。部屋は真っ暗。

 目が普通に健康でも、人間には暗過ぎる空間だったのだろう。

 よくよく考えてみたら終始しっかりボクの方を見ていたし、目が見えていないにしては不自然な事が多かった。

 

 いや、ということは、つまり、全部見えていた?!

 

 

 ボクが首飾りを持っていたのも、落し物なんてしてなくて、ただ話をしていたのも。

 あいつは全部見えていたと言う事?!

 

 

「あ、あの野郎ぉぉおおお!!」

 騙された……。

 

 

 ただ、その怒りをぶつけるべき少女はもうこの世には居ない。その事実だけは変わらない。

 

 

 

「妹の病気は身体の機能が段々と使えなくなっていく病気でね。進行を遅らせる事は出来ても治す事は出来なかった。……君が盗んできたアイテムと首飾りを家に置いて行ったのは、妹がいつ死んでもおかしくないって状態の時だったんだよ」

 その首飾りを触りながら男は口を開く。

 その時の事を思い出したのか、首飾りに着いた竜の牙を強く握りしめていた。

 

 

「素材は持ち主に返した。でも、妹は君に勇気を貰ったのかな。……最期に、ハンターになりたいって。無理だって何度も断ったけど、それでも絶対にハンターになるんだって聞かなかった。……妹が言うには、奪う事が生きる事なんだって。このまま死んだままでいたくない。生きた証を残したい。……そう言って、本当に無理を押してジャギィの討伐クエストを受けたんだよ」

 ボクがあいつに言った言葉。それを素直に受け止めたあいつは、本当にハンターになったらしい。

 

 生き物の命を奪い、自分も生きているんだと、そう思えたのだろうか?

 

 

 

 あの娘はそれで、救われたのだろうか?

 

 

 

「俺がジャギィを弱らせて、妹がトドメを刺したんだ。その後、妹は満足そうに息を引き取ったよ。……この牙はその時殺したジャギィの物なんだ」

 そうか……。あいつ、ハンターになれたんだ。

 

 

「……あいつは、救われたのかニャ?」

 いつかのギルドナイトの言葉を思い出す。

 

 

 

 あいつはボクの馬鹿みたいな自論で、自分の生に満足出来たのだろうか?

 

 

 

「うん。……妹は満足そうだった。それと、その時に言われたんだ。この首飾りはあの泥棒さんにあげたものだから返しておいて欲しいって。……ずっと会えなかったけど、今日会えて良かったよ」

 そう言いながら、男はボクに首飾りを檻越しに手渡した。

 あの時と同じ感触。軽い羽と、重い牙。この牙を、あいつはジャギィから───その命から奪ったんだろう。

 

 

 

「……バカだニャ」

「俺もそう思ったけどさ……。君には感謝してるんだよ。俺も、きっと……妹も」

 だからって……。

 

 

 だからってさ……。

 

 

 今更こんな物渡されたってさ……。

 

 

 

「ボク、お礼も何も言えてないニャ……。ボクだって、あいつに救われたんだニャ。ずっと一人だったボクに、誰かと居る幸せを教えてくれたのはあいつなんだニャ。あいつに正直に話したかった事がいっぱいあるんだニャ。謝りたい事もある。名前すら、ボクは一度も呼んであげてないんだニャ……っ!」

 届かない気持ちと言葉を吐きながら、ボクは貰った首飾りを握りしめる。

 

 

 ボクも……お前のおかげで救われたんだ。

 

 

 

「君が捕まってるって知ったのは、妹が死んだ後だったんだよ。素材は返したけど、許される事はないから島流しになるって、ギルドナイトさんが言っていた。……ただ、妹の水葬の時にギルドナイトさんが裏で色々手回しして君の事は助けてくれるって言っていたんだよ」

 え? あのギルドナイトが……?

 

 

「でも、ずっと探してたけど。見付からなかった。……見つかって良かった。……本当に、生きていてくれてありがとう」

「ま、待て……ニャ。水葬って……水葬? じゃぁ、あの時の棺桶は……」

 

 

 ──……お前、幽霊って信じるか?──

 

 あのギルドナイトの言葉を思い出す。

 

 

 

 あの棺桶は、あいつの棺桶だったのか?

 

 

 

 モガの村に流れ着いたのは奇跡なんだと思っていた。いや、きっと……奇跡だったんだろう。

 

 

 それはきっと、奇跡だったんだ。

 

 

 

 

「……そんなもん、居る訳ないのニャ」

 ただ、それでも。

 

 

「ボクはただ、救われたんだニャ……」

 届かない想いを首飾りに込めて、ボクは眼を瞑る。

 

 

 もうこの世界には居ない少女に届くように。

 

 

 

 あの世があるとは思ってないけれど。

 

 

 でも、信じる者は救われるようだから。

 

 

 

 ボクはあいつに聞こえるように───

 

 

「……ありがとう、シズミ」

 ───小さく声を落とした。

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「ムツキ……何したの?」

「……若気の至りニャ」

 ギルドナイトに捕まったって聞いたムツキを迎えに、私は集会所の裏方までムツキを迎えに来ました。

 見覚えのない首飾りをしたムツキは、余所見をしながらそう答える。

 

 むぅ、私に隠し事してるな?!

 

 

「……俺の仲間のネコが迷惑を掛けました」

「いえいえ。俺は彼に会えて嬉しかったですから」

 ムツキが盗んだ何かの持ち主さんは、何も気にしていないように答えてくれた。

 一体どういう状態なんだろう? 話に着いて行けない。

 

 

「んじゃ、釈放だ。二度と来るんじゃねーぞネコ」

「わ、分かってるニャ……。勿論分かってるニャ……」

 本当何をしたんだか。

 

「次来たら……たらいに乗せて流す」

「もう絶対に来ませんニャ!!」

 本当に何をしたんだか……。ところで今なんかムツキ、鍵みたいなの手に持ってなかった?

 

 

 

 その日の夜、私はムツキに呼び出されて家の外に出る。

 見慣れた夜空だけど、それが安心した。

 

 

 

「話って何? ムツキ」

「ボク、ミズキに黙ってた事があるんだニャ」

 そんな空を見上げながら、ムツキはゆっくりと言葉を落とす。

 今日ギルドナイトの人に捕まっていた事と関係あるのかな?

 

 私はそんなムツキの隣に座って、彼の話をちゃんと聞く事にした。

 ムツキは私が座ったのを確認してから話しだす。

 

 

「ミズキはボクがモガに来る前、どこに居たか知ってるかニャ?」

「ううん。知らないかな……。大切なお兄ちゃんの事なのに、ごめんね」

 ムツキがモガに漂流してから私と彼はずっと一緒に過ごしてきたけれど、そういう話をする事はなかった。

 お互いに元々モガに住んでいた訳じゃないって事だけは知っていたけれど、出会ったのは物心付いて直ぐだし、ずっと昔から一緒にいたように思っていたからだと思う。

 

 

「んにゃ、ボクも言わなかったしニャ。実はボク、タンジアで暮らしてたんだニャ」

「ここで……?」

 それじゃ、タンジアに知り合いとか……昔の家族も居たりするのかな?

 

 ちょっと複雑な気分だ。

 

 

「暮らしていたと言っても、一人で……ちょっと悪さをしながら生き延びていただけにゃんだけど」

 ただ、ムツキから返って来たのはそんな言葉。

 

 複雑な気分だったけど、もっと複雑な気分。

 

 

 悪さ……?

 

 

「何をしてたの?」

「……泥棒ニャ」

 ムツキはハンターのアイテムをハンターより上手く使うし、上手く作ってしまう。

 それはきっと、ムツキがハンターさんから泥棒して覚えていった知識だったんだ。

 

 勘付いていなかった訳じゃないけれど、それが本当だとはちょっと思ってなかったかな。

 

 

「……そっか」

「……幻滅したかニャ?」

「そんな訳ないよ。……それに、ちょっと安心した」

「……安心?」

 私は心配気な表情のムツキの顔をしっかりと見て口を開く。

 大丈夫、私はムツキに幻滅するなんて事はきっとないよ。

 

 ───だって、大切なお兄ちゃんなんだから。

 

 

「ムツキが他の誰かの家族だったのに、捨てられて海に流された……とかじゃなくて良かった。そんなの寂しいもん」

「ニャ、ミズキ……」

 驚いた表情のムツキは、手を握りしめて何かを溜め込むように俯いていた。

 そして決心したように顔を上げて、ムツキは口を開く。

 

 

「……ボクは、悪い奴だったニャ。生きる為なら、人間から何を奪っても良いって思ってたニャ。……だって人間も、ボク達他の生き物から何かを奪って行く。それがこの世界の理なんだと、それがこの世界のルールだと思っていたから───いや、言い訳だニャ。……ボクはただ、ただ悪い奴だったんだニャ」

「……そっか」

 ムツキはきっと、辛い過去があったんだよね。

 

 

 私なんかじゃきっと、彼を癒す事は出来ないと思う。

 ただ一緒に居る事は出来るから、私はムツキと一緒に居たい。

 

 

「ムツキ」

「ニャ?!」

 私は再び俯いてしまったムツキを抱きしめた。驚いたムツキは声を上げて暴れるけど、逃がしません。ぎゅー。

 

 

「でもムツキは、今は悪いネコさんじゃないでしょ?」

「ニャ……」

 今日捕まったのだって、何か許されてたし。きっと悪い事をした訳じゃなかったんだと思う。

 ムツキは悪い事なんてしないもん。それは私が一番知ってるんだ。

 

 

 

「幻滅なんてしないよ。ムツキは大切なお兄ちゃんだもん。その考え方だって、きっと間違ってない。私達もモンスターから色々なものを貰って───奪ってる。モンスターだって、メラルーだって、きっと同じ。私達だけが特別で、それが正しいなんてありえないもん」

 色々な考え方がある。

 

 数日前に教えてもらったそんな考え方が、私の中で木霊した。

 

 

 

 私はモンスターから奪いたくない。

 

 

 でも奪う事も間違いじゃない。

 

 

 

 殺す事も、殺さない事も間違いじゃない。

 

 

 

 それぞれの道を探せば良い。

 

 

 

 自分なりの、この世界の理との接し方を───答えを探せば良い。

 

 

 

 このタンジアに来てから、私は色んな人に出会って、色んな人の考え方を知った。

 ムツキのその考え方だって、その中の一つなんだと思う。だから絶対に、間違いなんかじゃないんだ。

 

 

 

「ミズキ……」

「ムツキは私の自慢のお兄ちゃんだから、胸張って! えーとね、うーん……大好きだよ」

「───バ……ッ! そういうのは大切な人に言う物ニャ!!」

 私の腕の中から飛び出して声を上げるムツキ。

 

 良かった、いつものムツキだ。

 

 

「ムツキは大切な人だよ?」

「アホぉぉ!! そういう意味じゃないニャ!! アランもなんとか言ってやれニャ!!」

「……代われ」

「どうしたニャ、アラン!!」

 ムツキがアランを呼ぶから、後ろに居るのかなと振り向いたら凄いジト目のアランが後ろで立っている。

 え、どうしたのアラン……。なんか怖いよ……?

 

 

 

「……はぁ。……お前らは本当に仲が良いな」

「勿論! 大切で大好きなお兄ちゃんだから!」

「ミズキ、止めろニャ。色んな意味で止めろニャ」

 恥ずかしがり屋さんだなぁ、ムツキは。

 

 

「……あ! 私はアランの考え方も大好きだよ!」

「ブフッ」

 何故かアランが息を吹いた。どうして?!

 

 

「盛大に笑ってやりたいけどぶっ殺されそうだから止めておくニャ……」

「え、何? 私何か変な事言った?」

「……いや何も」

 なんなんだろう……。

 

 

「プッ……プフッ、だ、ダメニャ……堪えられるニャ」

「……」

 なんでそんなに笑ってるの……っ?!

 

「なんなのもぅ……」

 ちょっと拗ねますよ、もぅ。

 

 

 

 でも、ムツキが元気になって良かったかな。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 ミズキが早めに寝てから、俺はムツキと二人きりになってしまった。

 

 

 ……なんというか、アレだ。気不味い。

 

 

 

「……その首飾りは?」

「ボクの命の恩人の形見らしいニャ」

「そうか」

 こいつも色々あったんだな……。

 

 

「……好きならとっとと告れば良いのにニャ」

「ブフッ」

「え、分かりやすい」

 うるさい。

 

 

「べ、別にそんなんじゃない……」

「お前もボクも大概だニャ……」

 なんの事だ。

 

 

「……ただ、俺はもう何も失いたくないだけだ。お前も、ミズキも」

「ミズキに告るよりそれ恥ずかしい言葉だって気付いてるかニャ?」

 うるさいなこのネコ。海に流すぞ。

 

 

 

「……ミズキはこの数年で色々成長したと思うニャ。これもアランのおかげだと思ってるニャ」

 ムツキはミズキが寝ている家を横目で見ながらそう言う。

 確かにここ数年でミズキは急激に成長した。

 

 きっと上位ハンターにも遅れを取らないだろう。

 

 

 だからこそ、今が一番危ない時期だ。

 

 

 

「アラン……。お前はミズキを守れるかニャ?」

「……必ず守る」

 ムツキもそれは分かっていたのだろう。俺は彼の眼を見て、しっかりとそう答えた。

 

 

 

「なら、良いんだニャ」

 首飾りを握るムツキはふと立ち上がり、部屋の方に振り向く。

 そろそろ俺達も寝るか。明日も何かクエストを見付けにいかなければいけないしな。

 

 

 

「……必ず守る」

「……当たり前だニャ。じゃなきゃ、ミズキは任せられないニャ」

 それもそうか。

 

 

 

 これからもきっと、ミズキは色んな奴や色んなモンスターと出会っていくだろう。

 人と竜の数だけ色々な考えや生き方がある。

 

 

 その中でミズキはどんな答えを出すのだろうか。

 

 

 

 俺は……その答えの先が見たい。

 

 

 

 

 

「……なぁ、ムツキ」

「なんだニャ?」

 ところで、だ。

 

 

 

 俺の気持ちはともかく。

 

 

 

「ミズキは俺の事を……どう思っていると思う?」

 あいつの気持ちが少し気になる。いや、少しだけだ。本当に少しだけ気になるだけだ。

 

 

「……。……師匠?」

「……そうか」

「まぁ、人生長いし頑張れニャ」

 いちいちうるさいネコだな……。

 

 

 

「そう……だな」

 それよりも。

 

 

 

 

 今は、誰も失わない事を。

 

 

 

 

 そして───アイツを殺す事を考える。

 

 

 

 

 ただ、それだけだ。




あけましておめでとうございます。

という事で久しぶりのイラストです。

【挿絵表示】


戌年なのにミツネ(キツネ)装備。ほ、ほら、着物イメージで、ね?

そして───

───モンスターハンターRe:ストーリーズ第三章『人と竜の物語 —Devil of a half the body—』無事終了致しました。
これでついにこの作品も折り返し地点となりまして、次回からは四章が始まっていきます。そうです、この作品六章構成なんですね。相当長いです。飽きられないように頑張りたいと思います。

三章と四章の区切りはちょっと曖昧ですが、こんなお話にしてみました。四章から少しずつお話も動いていくと思います。
近々三章のあとがたりも活動報告で紹介すると思うので、遊びに行ったりしてやって下さい。


それでは、長くなりましたが第三章までの読了ありがとうございます。これからもお付き合い頂くと嬉しいです。
感想評価の程お待ちしております。

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