モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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ライトボウガンは鈍器。


ケルビの角と幻の獣

 きっとそれは幻だったんだと思う。

 

 

「……雷?」

 一瞬空が光った。

 雪が降っている地域だから空が真っ白で分かりにくかったけれど、多分雷だと思う。

 

「どうした? ミズキ」

「え? あ、ううん。何でもないよ」

「そうか。……今回はケルビの角の納品依頼だ。まずはケルビを見つける所から始めるぞ」

 ベースキャンプに辿り着き、竜車から降りて荷物を整理しながらアランはそう言った。

 

 今回のクエストは彼の言う通りケルビの角の納品です。

 場所は雪山───フラヒヤ山脈という山で、近くにはポッケ村という村もあります。温泉が素敵でした。

 

 

 クエスト内容はケルビの角三つの納品。

 簡単なようだけど、最近この地域では山の麓でケルビを見かけなくなったらしい。

 その事の調査と、可能ならば解決もクエストの内容に入っています。出来るなら問題も解決したいかな。

 

 

「うーん……」

「ケルビを倒すのが嫌だって顔だな」

「ぇ、ぁ、ぃゃ、あ、あはは……。でも必要なのは分かってるよ、うん。ケルビの角は大切な資源だしね」

 このクエストはアランが受けたクエストなんだけど、素材を剥ぎ取るという事はそのモンスターの命を貰うという事だ。

 ケルビは大人しくて人間に害のないモンスターだし、やっぱり気が引けてしまう。

 

 

「大丈夫だ、ケルビは殺さない」

「え? どういう事?」

 それじゃクエストは達成出来ないんじゃないかな?

 

「ケルビの角はケルビを殺さなくても手に入れる事が出来る。……これは、覚えておいても損はない」

「え、そんな事出来るの? 生きたまま捥ぎ取るの?」

「そんな訳がにゃい」

「そうだが?」

「ぇ」

「にゃに」

 そんな恐ろしい事をするくらいなら、殺した方がケルビも楽なんじゃ……。

 

 

「今日はそのやり方を教えるからしっかり覚えろ」

「ぇ、ぁ、ぇと、はい!」

 こうやってアランに色々な事を教えてもらって、私も彼みたいなハンターになりたいな。

 

 

 ただ、最近は少し前に受けたキャラバン隊の護衛クエストの時の事を考えるんだよね。

 あの時のアランはハンターというよりはまるで───

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 二本の角を持った四足歩行の草食種。

 雌は耳が垂れていて、雄は角が細長いのが特徴的だ。

 

 

 小柄で毛に覆われた身体は愛らしいけれど、小型といっても私の胸元くらいの大きさだから油断は禁物です。

 大人しいモンスターではあるけど、雌を守るために戦う事もあるらしい。それを聞くとやっぱり微笑ましいよね。

 

 

「あ、居た。ケルビ居たよアラン」

 ベースキャンプから湖のあるエリアに降りて行くと、そんなケルビの雄と雌を見付けました。

 夫婦なのかな? 一緒に仲良く水を飲む姿を見ると和みます。

 

 

 降りて来る間に、アランにはケルビを殺さずに角を手に入れる方法を聞きました。

 

 なんと気絶させたりして動きを止めている間に、剥ぎ取りナイフで身体を傷付けずに切り取る事が出来るんだとか。

 そんなに難しくないらしいから、アランの手本を見て一回やってみる事になったんだけど───本当に痛くないのかな? そんな事を考えると気が引けます。

 

 アランが言うんだから、間違いないとは思うんだけどね。

 

 

「それじゃ、二匹とも気絶させるか」

「そういや鈍器がミズキの盾くらいしかないけど、どうする気ニャ?」

「ん? あぁ……これで殴る」

 そう言ってアランは自分のライトボウガンを持ち上げた。

 

 

 ぇ、ライトボウガンで殴るの?

 

 

 え?

 

 

「ライトボウガンは鈍器かニャ……」

「モンスターの素材で作られてるんだから強度はそれなりにあるからな」

 そのボウガン大切な物って言ってた気がするんだけど……。

 

 

「とにかく殴って気絶させ───待て、静かに」

 突然アランは私の口を塞いで小さく言葉を落とす。

 どうかしたのかな? そう思ってアランの視線を追うと、その先から向かって来る二匹の鳥竜種が見えた。

 

 

 鋭い牙の生えた嘴、鶏冠、そして白い鱗が特徴的な鳥竜種───ギアノス。

 ランポスの亜種で雪山の奥に群れを作っている筈のモンスターなのだけど。……なんでこんな山の麓に?

 

 

 

「あ、ケルビが!」

 考えている間に、二匹のギアノスがケルビの正面でその足を止める。

 そしてギアノス達は鋭い爪で地面を削りながら、品定めするようにケルビを睨み付けた。

 

 怯えさせて、隙を突いて攻撃するつもりなんだと思う。

 

 雄のケルビが角を振って威嚇するけれど、ギアノスはまるで気にしていない。

 

 

 

「ミズキ、時間はないがここで一つ質問だ。弱肉強食がこの世界の理だが、アレを見てお前はどう思う? どう行動する? お前の答えを見せてくれ」

 私は───

 

 

「ニャ、ミズキ?!」

 言われた瞬間、私は武器に手を伸ばしながら地面を蹴った。

 

 

 ───私の答えは。

 

 

 

「やぁ……っ!」

 疾走し、ケルビに夢中になっているギアノスの肉薄。

 二匹の胸元に剣を叩き付ける。

 

 

「ギャゥア?!」

 突然攻撃されたギアノスは後ろに跳んで、私とケルビから距離を取った。

 姿勢を低くして臨戦態勢。新しい()に牙を向ける。

 

 

「───ここはあなた達の縄張りじゃない筈だよ。きっと何かの理由で降りてきたんだろうけど、あなた達にも私達にも譲れない物がある」

 この世界はモンスターの世界だ。

 

 

 それでも私達はこの世界に生きている。

 

 

 だからモンスター達と均衡を保ちながら生きて行くしかない。

 その役割を担うのが私達───ハンターだ。それが私の答え。

 

 

 

 この山の麓から少し進んだからポッケ村があるから、ギアノス達にここで縄張りを広げてもらう訳にはいかない。

 

 だからぶつかり合う。

 

 

 もしかしたらこれは、縄張り争いみたいな物なのかもしれない。

 

 

「グァゥゥ……グォゥッ、グォゥッ」

 一匹のギアノスが姿勢をそのままに威嚇の鳴き声を上げた。その内にも一匹が地面を蹴って疾る。

 その先にはケルビ。ここは通せない。

 

「……させない!」

 横を通り抜けようとするギアノスに、私は盾を叩き付けた。

 ただ、きっとそれはギアノス達の思い通り。このモンスター達は賢いから───

 

 

「───グォゥァッ!」

 私を威嚇していたギアノスが地面を蹴る。軽々と私の上を取ったギアノスは、その鋭い爪を向けて降下してきた。

 

 

「───やぁ……っ!」

 ギアノスを叩いた盾をその爪に向けて、私は剣を横に傾ける。

 盾に爪が当たると同時に左足を軸に身体を回転させ、攻撃を受け流しながら回転斬り。

 

 薙ぎ払われた二匹は一度地面に倒れてから起き上がって、山の方に逃げていった。

 

 

 ……撃退出来たみたいです。

 

 

「……良かったぁ」

 なんとか諦めてくれたみたい。

 

 

 ただ、これで良かったのか正直に言うと分からない。

 ケルビが少ない理由がギアノスの大量発生だったりしたら、ギアノスの数を減らすのが正解だろうし。

 違うにしても、多分その理由を私は分からないから問題を後回しにしてるだけ。そう思うと私はまだまだダメだね……。

 

 

「ギアノスだと思うか?」

 事を見届けてから、逃げて行くケルビを横目で見ながらアランがそう聞いてきた。

 

「うーん、なんとなくだけど違う気がする。ケルビの減ってる理由がギアノスだったら、この辺りにもっとギアノスが居るような気がするし……でも、うーん、じゃあなんだろう? ってなるんだよね」

「なら、気がするを確信に持っていくだけだ。何の理由もなしに無闇にギアノスを殺すよりは正しい選択だ。間違ってはいない」

 間違ってはいない……。

 

 

「アランだったらどうしたの?」

「……そうだな。一匹は殺して、一匹を弱らせて逃げるそいつを追う。そうすればギアノスの群れを見付ける事が出来るし、そこからケルビが減った原因を掴めるかもしれない」

「殺しちゃうの?」

「二匹共が一緒に群れに戻るとは限らないからな。もし二手に別れられて片方を追いかけている間に村に近付かれないようにする為だ」

 そっか、二匹同時には追えないかもしれないもんね。

 

 

 でも、なんだかちょっと寂しいです。

 アランがモンスターを殺すって言うのを聞くと、胸が少し痛くなるんだよね。

 ディアブロスの幼体を見る優しい顔を見てから、これまで以上にそう感じるんだ。

 

 ───アランにはモンスターを殺して欲しくないって。

 

 

 間違いだって分かってるんだけどなぁ……。

 

 

「まぁ、俺の答えも数ある答えの中の一つだ。間違いでなくてもこれ以外にだって答えはある。お前が納得行くような答えを探せばいい」

「……。……うん、そうだね」

 私の答え、か。

 

 

「とりあえずあのケルビ追い掛けるニャ?」

「そうだな、問題の理由を調べるにしてもとりあえずクエストをクリアする為にケルビの角は取っておくか。剥ぎ取り方も教えたいしな」

「あ、そうだったね。とりあえずケルビを気絶させるんだっけ?」

 とりあえず今はこのクエストに集中しなきゃ。アランより未熟な私が、アランの事を考えるなんて余計なお世話かもしれないし。

 

 

 二匹のケルビは遠くの岩陰に身を隠している。

 

 

 近付くと雄が雌の前に出て私達を威嚇してきた。

 

 

 

 ……凄くやりにくい。

 

 

 

 こ、殺してしまう事はしないんだけど。

 

 

 

 というか雄のケルビさんからの殺気が怖くて私が殺されそう。

 

 

 

「なんな変な匂いするニャ」

「え、えーとアラン……」

「まぁ、俺がやるからお前は見て───?!」

 アランは突然驚いた表情をしたかと思うと、私を突き飛ばした。

 

 何が何だか分からないままに、身体が宙に浮く。

 視界に移ったのは青白い光で、それは目の前で大きく弾けた。

 

 

 短い悲鳴はアランと雄のケルビの物で、私がお尻から地面に倒れると同時にアランとケルビが倒れる。

 

 

 何が起きて───

 

 

 

「……っぐぅ───離れ、ろ! ミズキ!」

 苦しそうな表情でそう言うアラン。その背後の岩陰から、白くて太い何かが姿を現した。

 

 

 横に倒れた円柱状のそれは、白くてブヨブヨしていて、先端には大きく横に裂けた───口?

 その口が開いて、倒れている雄のケルビを飲み込むのを私は黙って見ている事しか出来ない。

 

 

 ───怖い。

 

 それが今感じてる感情の全て。

 

 

 岩陰に隠れていた大きな白い巨体が、アランと雌のケルビの前に現れる。

 一対の翼。眼球がなくて裂けた口だけの頭。身体は太くて、鱗はなく全体的に姿は丸い。

 

 

 フルフル。

 それは寒冷地に生息する飛竜種で、体内の電気袋から発電して放電する能力を持ったモンスターだ。

 頭を上げてケルビを胃袋に流し込んだフルフルは、次の獲物を探すように左右に首を振る。

 

 

 

「アラン!」

「───来るな!」

 フルフルの電撃から私を助けるために、アランが攻撃を受けてしまった。

 そんな彼を助ける為に立ち上がろうとするけど、アランは大声を上げて私を止める。

 

 どういう事……?

 

 

 

「ヴォァォァァ……」

 フルフルが狙ったのは、突然雄が食べられて動けなくなってしまったケルビの雌だった。

 フルフルは姿勢を低くして頭をケルビに向ける。

 

 身体から青白い光が漏れて、今にも電気が放たれるかと思った瞬間───アランは転がってフルフルの背後に。

 次の瞬間、アランは何故か地面に垂れてきた尻尾と地面の間に入り込んでその尻尾を剣で斬り付けた。

 

 

「ヴォァォァァ?!」

「ミズキ!!」

「……っ?!」

 アランに呼ばれて、私は今何をしなければいけないか考える。

 答えが出る前に身体は動いていて、フルフルの脚を蹴って私は跳躍してから眼球のない頭に剣と盾を叩きつけた。

 

 

「ヴォァッ?!」

 あの雄みたいに雌のケルビとフルフルの間に入る。

 踏み込んで両手を上げて息を止めた。───集中。

 

 

 両手の()を低く構えて再び肉薄。怯んだフルフルの頭に連続で剣を叩き付ける。

 

 

「───ぁぁっ!!」

 何度も攻撃してから、身体を回転させ二本の剣で回転斬りをしながら後退。

 怯えて動けなくなってしまっていたケルビを尻目に、私はフルフルの出方を伺った。

 

 その内にアランは脱出していて、ムツキが介抱している。

 

 

 今は私がフルフルの相手をしなきゃ……。でも、出来るかな?

 

 そんな不安は突拍子もなく取り払われた。

 フルフルは突然の奇襲に驚いたのか、翼を羽ばたかせて飛竜種にしてはゆっくりと身体を浮かせていく。

 

 その場に残ったのは雌のケルビが一匹と、私達だけ。

 

 

 ギアノスからは守れたのに、結局ケルビの雄を守る事が出来なかった。

 アランにも守られて、やっぱり私は失敗ばかりです。恥ずかしいな……。

 

 

 俯いて視界に映る湖の水に、青白い光が映った気がした。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「だ、大丈夫?」

「まぁ、なんとかな。フルフルがあんな所に隠れていると思っていなかった俺のミスだ」

 岩に背を預けて回復薬を飲みながらアランはそう言う。

 その近くでは一匹になってしまったケルビが、まるで何かを探すかのように歩き回って周りを見渡していた。

 

 

「うぅ……。……えーと、ケルビが少なくなった原因って」

「十中八九フルフルだろうな。こんな所まで降りてくるくらいだ、この辺りはアイツの縄張りになってるだろう」

 そうなるとフルフルさんには悪いけれど、ポッケ村も近いし討伐するしかないかな……。

 

 

「ケルビさん……」

 ふと残った雌のケルビを見てみると、まだ何かを探すように辺りを見回している。

 もしかしたらフルフルに食べられてしまった雄を探しているのかもしれない。

 

「あのケルビはお腹の中に子供がいるから、雄は必死になって守ってたんだろうな」

「え、そうなの?」

 よく見たら雌のお腹は少し膨らんでいるようにも見えた。

 お腹の中に赤ちゃんが……?

 

 

「私……」

「これも自然の理だ。俺達に出来るのはこの雪山の生態系のバランスを取って、あの親子の未来を守る事くらいしかない」

 たとえ調整者気取りと言われても、人間だって自然に生きる動物の一部だから。

 

 

「……うん、そうだね!」

 ただ、何かが胸に引っ掛かる。

 

 

 

 フルフルを殺さないといけないからか。

 

 

 ケルビを守れなかったからか。

 

 

 それとも───

 

 

 

「さて、行くか」

「もう大丈夫なの?」

「ムツキがウチケシの実をくれたからな」

「そ、そっか」

 ───アランにモンスターと戦って欲しくないからなのかな……?

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 山を登った先にあるのは、ホットドリンクなしでは直ぐに身体が動かなくなってしまう極寒だ。

 

 

 安全と防寒の面から洞窟を抜けて行くと、出口に白い影を見付ける。

 嘴に鋭い牙を持つ鳥竜種が二匹。胸元や横腹に着いた切り傷は、多分さっき私が付けた傷だ。

 

「ギアノスか。ムツキ、フルフルの居場所は分かるか?」

 二匹のギアノスは洞窟の出口で辺りを見張っている。

 

 他の仲間はいないのかな?

 

 

「匂いが近いから、多分この先だとは思うニャ」

「フルフルと戦うのは良いが、ギアノスに邪魔されるのは問題だな。……ミズキ、仕事を二つに分けるぞ」

「二つ?」

 アランはギアノスから目を離さずに、私の質問にこう続けた。

 

 

「俺がこの先にいるフルフルと戦っている間、ギアノスを近付けさせないように相手をしていてくれ。……討伐するでも、ちょっかいだけ掛け続けるだけでも、作戦はお前に任せる」

「ぇ、いや、待って……それじゃアランは一人でフルフルと戦うの?」

「……まぁ、そうだが?」

 なんなんだろう、このモヤモヤは。なんでこんなに胸が痛いんだろう。

 

 

 ──大丈夫だ、産まれてこい。お前の親が顔を見たがってる──

 

 

「まぁ、お前がギアノス達を殺したくないのは分かってる。そこを考えて上手くやれ。フルフルの事は俺に任せれば良い」

 違うんだよアラン。……そうじゃなくて、私は───

 

 ──殺す──

 

 ───私はなんで、この気持ちを伝えられないの?

 

 

「フルフルが一体だけとは限らないし、他の大型モンスターがいるかもしれない。俺がフルフルと戦ってる間に他のモンスターが出て来たら、ギアノスの命より自分を優先しろ。……それだけは約束してくれ」

「ぇ、ぁ、う、うん。アランに迷惑はかけないよ……」

 違う、私はアランに───

 

 

「ムツキ、ミズキの事は頼んだぞ。他のモンスターの匂いを感じたら直ぐに俺の所にミズキを連れてこい」

「ガッテンニャ。引きずってでも連れて行くニャ」

 ムツキの返事を聞いてから、アランは直ぐに飛び出した。

 

 いつのまにか辺りを包み込む白い煙。匂いを薄めて視界を奪う煙玉というアイテムを使ったアランは、ギアノス達に気付かれないように洞窟の脇を通って出口に向かって行く。

 

 

 呼び止める訳にもいかないし、私はこれから先ギアノスが洞窟から出ないようにしなきゃいけない。

 何もしなかったらギアノスが突然動き出した時に対処出来ないから、私はギアノスの事を考えないといけないのだけど……。

 

 

「アラン……」

「心配なのかニャ? フルフルは動きも遅いから、アランの敵じゃないと思うニャ」

「そ、そうだけど……」

「ニャ?」

 間違ってはいない。これが普通なんだ。

 

 

 そんな事はわかってるのに、なんでこんな気持ちを感じるんだろう。

 

 

 分からない───

 

 

 

「……ムツキ、生肉持って来てたよね?」

「うにゃ。雪山は寒いし、こんがり焼いて食べる為に持って来たニャ」

「えーと、ねむり生肉って作れる?」

 ───だけど、やっぱりアランにはモンスターを殺して欲しくない。

 

 

「ねむり生肉かニャ? さっきネムリ草見つけたし、作れるニャ」

「それじゃ、お願い。あと、普通の生肉も少し貰って良い?」

「あー、どこかに誘き寄せてそこで眠らせるって作戦かニャ。なるほど、だったらこの先を左に行った所に良い場所があるニャ」

 流石ムツキ、察しが良い。

 

 

「ありがとうムツキ、お願い出来る?」

「ガッテンニャ」

 ムツキが手際良くねむり生肉を調合してから、私達は生肉の破片を少しずつ落としながら洞窟の奥に向かった。

 

 

 フルフルが一帯の生態系を乱していた影響でご飯を食べれてなかったのか、ギアノス達は何の迷いもなく生肉を辿って洞窟の奥に。

 二つ用意されたねむり生肉も同時に食べて、二匹は糸が切れたように崩れ落ちる。

 

 

「ごめんね、アランが心配なんだ」

 よし、これでアランの所に行───

 

 

「あれ? 今、光った?」

「ん? 何の話ニャ?」

 今、目の前で青白い光が見えたような。……気のせいかな?

 

 とりあえず、今はとにかくアランの所に行かなきゃ。

 

 

「うわ、本当に二匹目。……ミズキ、フルフルニャ!」

「え?」

 そう思って振り向くと、ムツキがそんな言葉を落とした。

 その視線の先は洞窟の奥。ゆっくりと洞窟の天井を這いながら近付いてくる、白い巨体。

 

 

 ───フルフル?!

 

 

「来るニャ!!」

「……っわぁ?!」

 突然伸ばしてきた首を交わして、私は剣を抜く。

 

 ムツキが二匹目って言ってるという事は、アランが戦っている個体とは違うフルフルの筈。

 二匹目が居るって全然考えていなかった。アランは忠告してくれたのに。

 

 

「ヴォァゥォァァ……」

 目が無いのに攻撃を外した事は分かるのか、フルフルは私から少し離れた所に飛び降りて地面を揺らした。

 そして首を左右に振って、まるで匂いでも嗅ぐような仕草を見せる。

 

 

「に、逃げるが勝ちニャ。幸い動きはそんなに早くないモンスターだからニャ」

「で、でもギアノスさん達が……っ!」

 眠り生肉で寝てしまったギアノス達はフルフルから逃げられない。

 私のわがままで眠らせてしまったのに、そんなギアノスさん達を見殺しになんて出来ない。

 

 

「んな事言ってる場合かニャ! フルフルは閃光玉が効かな───げ、来るニャぁ?!」

「え、何?!」

 フルフルは突然尻尾を地面に付けて、姿勢を落とした。

 

 放電する気なのかな?

 でもこれだけ距離が離れていたら攻撃なんて届かな───

 

 

「ブレスが来るニャ!!!」

 ───ブレス?!

 

 

 次の瞬間地面が光る。

 その光は一瞬で足元を駆け抜けて、私は訳も分からないまま身体が動かなくなった。

 

 その場に崩れ落ちて、少し立ってからやっと自分の身体が痙攣している事が分かる。

 

 

 さっきの光は……電気?

 電気のブレス?

 

 

 

「……っ…………ぁ、ぁぅ……ぅ」

 立ち上がろうとしても身体が言う事を聞かない。ただ震える身体。

 やっとの事で持ち上げた頭の先にあったのは、大きな口を開けた白い巨体だった。

 

 

「───ひ、嫌?!」

「辞めろニャぁ!!」

 間にムツキが入って来てブーメランを投げる。

 フルフルは一瞬だけ怯んで、少しだけ後退した。

 

 

「ミズキ、立てるかニャ?! 待ってろニャ、ボクが絶対助け───あわわわわ……」

 振り向いたムツキは口を大きく開けてその場に固まる。

 ムツキの大きな瞳に反射して映っているのは、立ち上がった二匹のギアノスの姿だった。

 

 

「にゃ、にぁ?! とりあえず閃光───ぎゃ?!」

 慌ててポーチに手を突っ込むムツキをフルフルの頭が突き飛ばす。

 何回か地面を転がって、そのまま気絶してしまったのかムツキはぐったりと倒れた。

 

「ム…………ツキ……っ!」

 私はバカだって、そんな事知ってたのに。

 それなのにわがままを通そうとして、こうやって失敗する。

 

 

 ごめんね……アラン。

 

 

 でも、せめてムツキだけでも……っ!

 

 

 

「……ぅ、ぐ…………ぁ、っ───」

 なんとか手で身体を持ち上げようとするけれど、力は入らないし腕は痙攣して何も出来ない。

 ギアノスの威嚇する声だけが聞こえて、フルフルがゆっくりと近付いてくる姿だけが視界に映った。

 

 

 

「……ヴォァゥォァァ」

「───ひ?!」

 開かれる大きな口。思い出すのは湖の岩陰からケルビを飲み込んだフルフルの姿。

 

 私もあんな風に生きたまま飲み込まれる?

 そう考えると途端に怖くなって、違う震えが止まらなくて、身体の全身から情けない液体が漏れた。

 

 

 嫌だ。辞めて。来ないで。

 

 

 モンスターがそんな言葉を聞いてくれる訳がない。そもそも、そんな言葉は音にすらなっていない。

 

 

 視界を黒が覆い尽くす。

 

 

 ───目を閉じた途端、黒を青白い光が塗り潰した。

 

 

 

「───クィゥィィ……ッ!!」

 きっとそれは幻だったんだと思う。

 

 

 それは光そのもののような存在で。

 神々しい程にまで輝く身体を持った四足歩行の何か。

 

 海みたいな綺麗な青色の角が光ったかと思えば、フルフルは悲鳴をあげて後退した。

 

 

 

 

 ───何?

 

 

 そこに何か居るの?

 

 

 上手く身体が起き上がらなくて、何が起きているかは分からない。

 ただ分かる事は、ギアノス達が一斉に逃げていった事と───何かがフルフルと戦っている事だけ。

 

 

 

「クィゥィィァィ……ッ!!」

「ヴォァゥォァァ……ッ!!」

 閃光が走る。聞こえるのはフルフルの悲鳴。

 

 なんとか起き上がろうとするけど、やっぱり私の身体は動かなくて。

 その間も電気の走るような音とフルフルの悲鳴だけが洞窟内にこだました。

 

 

 遂に巨体が崩れ落ちる音と振動が響いて、その時になって私はやっと身体を持ち上げる。

 

 

 

「───綺麗」

 そこに居たのはまるで光のような、獣のような、曖昧な存在。

 

 白く光る四足歩行の身体と、透き通った青色の角。

 赤い瞳は何を見ているのか。目が合ったと思ったと同時に、それは姿を消した。

 

 

「あれ……?」

 幻でも見てたのかな……?

 

 

 

「……って、そんな訳。いや、ムツキ!」

 頭を振って、とりあえず今しなきゃいけない事をする。

 ムツキを抱き上げてフルフルの元に。怪我はなさそうで、安心。

 

 

「……さっきの光がやったのかな?」

 フルフルは全身傷だらけになって横倒しに倒れていた。

 

 あれはなんだったんだろう? モンスターなのかな?

 でも、周りにそれらしい姿はないし……。

 

 

 

「ミズキ!! ……って、これは───お前がやったのか?」

 洞窟の奥からアランが走ってくる。う、怒られそうだ……。

 

「ううん。なんか、光ってるモンスターがいきなり現れて……こう、ピカッてなって、気が付いたら?」

「ん? ……ん?」

 自分でも何いってるか分からないし、これはダメかもしれない。

 

 

 怖すぎて幻でも見てたのかな……。

 

 

 

「……と、とりあえず大丈夫なのか?」

「う、うん。ちょっとまだビリビリするけど」

「無理はするなとアレほど言っただろ」

 うぅ……。

 

 

「ごめんなさい……。アランが心配で」

「……俺が?」

 私はアランにモンスターを殺して欲しくない。

 その気持ちがとても強くなっていくのが分かるんだ。

 

 理由は分からないし、それが正しい事なのかも分からない。

 

 

 ただ、嫌なだけ。おかしいのは分かってるんだけどな……。

 

 

 ───本当におかしいのかな?

 

 

 

「アランは……フルフル、倒したの?」

「あぁ。元々弱ってたから、二匹目が居ると思って急いで戻って来たんだ。まぁ、その二匹目も討伐してるから雪山の生態もある程度回復に向かうだろう」

 そっか、なら良かったのかな。

 

 

 やっぱりモヤモヤするんだけども。

 

 

「……ムツキが心配だな。とりあえずケルビの角は諦めて、事の原因になったフルフルの討伐をクエストとして報告───」

「あぁぁあああ!!!」

 アランが話している中悪いんだけど、視界にまたあの生き物が映って私は大声を上げながらアランの背後を指差す。

 

 

 その先で、さっきの光の正体が真っ直ぐに赤い瞳を私達に向けていた。

 青白い光を放ちながら佇む姿はまるで、おとぎ話に登場しそうな神々しさを放っている。

 

 

 あの生き物は何?

 

 アランなら知ってるのかな?

 

 

 だから私はアランの肩を何度も叩いて、彼に振り向いてもらうように諭した。

 

 

「な、なんだなんだ?」

「後ろ! 後ろぉ!!」

 やっとアランは振り向いてくれるんだけど、私が瞬きをした瞬間その生き物は視界からいなくなる。

 

 あれ?

 

 

 あれ?

 

 

 あれれ???

 

 

「……なんだ?」

「居たんだよ、白くて光っててピカピカしてて、青い角が生えた素敵な生き物!!」

「なんだそれは……。ミズキ、頭は打ってないか?」

「打ってませんんん!!!」

 もー、なんでそんな心配そうな表情で見るの?!

 

 いや、私が悪いんだけど!

 

 心配させるような事した私が悪いんだけど!

 

 

 でも、アランが心配だったんだ。何が正しいか分からないけど、それだけは確か。

 

 

 

「……とりあえず帰るぞ。雪山の夜は寒いからな」

「あ、う、うん」

「う、うるせぇニャ……」

 あ、ごめんねムツキ……。お医者さんに診てもらわなきゃ。

 

 

 

「行くぞ」

 それにしても───

 

 

「う、うん」

 ───あの生き物は本当になんだったんだろう?

 

 

 

 

 とっても素敵な姿だった。

 

 

 

 まるで幻想のような、そんな姿。

 

 

 

 

 

 

「───クィゥィィィ……ッ!!」

 ───きっとそれは幻だったんだと思う。




一体 何 ンだったんでしょうねぇ……?

はい、キリン回でした。
個人的にキリンはこのくらい曖昧な存在でいて欲しい。欲望です。
なので今回キリンに関しては解釈を読者さんに任せる感じがありますね。個人的な答えは用意しているのですが、やはりそこは固定概念を作りたくない。私はキリンというモンスターをそんな風に思ってます。

ゲームでは乱獲するけどね!!←
ワールドのキリンは物凄く強くなってましたね……。


さて、今回の更新で実はモンスターハンターRe:ストーリーズは五十話を迎えました。ざっというと完結まで半分ですね(ぇ)。
ここまで続けられたのも読者様型のおかげでございます。


そんな訳で、記念イラスト描いてきましたよ!

【挿絵表示】

キリン装備でした。色気が足りない()



さらにさらに、最近頂いたファンアートを一気に紹介したいと思います。五十話記念という事で描いてくださった方々もいてビックリですよ……。嬉しいです。

それでは順番に。



まずはしばりんぐ様から、二枚。

【挿絵表示】


【挿絵表示】

我等がアッキーことアキラさん。それとアラン幼少期ですね、絶望顔があの時の彼の心境に見事に……。とても素敵なイラストありがとうございました!アッキーがヤバい()。


続いて超ギーノ人様から。

【挿絵表示】

ポニテミズキちゃん。かわいい(かわいい)。とても素敵なイラストをありがとうございます!ポニテ似合うなミズキ(親バカ)。


続いて小鴉丸様から。

【挿絵表示】

ウルク装備ミズキちゃん。ポージングが凄い。私こういうの描けないので感激です……。素敵なイラストをありがとうございます!!


続いて指ホチキス様から。

【挿絵表示】

履いt(よせ)。武器の描き方とか凄いんですよね……。尊敬。こちら五十話記念ということです描いて頂きました。素敵なイラストをありがとうございます!!


最後にグランツ様から。

【挿絵表示】

ミズキとアラン!アランさんの防具描けるのは本当に凄いですよ……。ミズキちゃんも可愛い。こちらも五十話記念ということで描いて頂きました。文字も添えてあって、ありがたい。素敵なイラストをありがとうございます!!



はい、という事で皆様からの心温まるファンアートでした。とても嬉しいです。ありがとうございます。これからも頑張ります。

という事で、折り返し地点に来てしまったモンスターハンターRe:ストーリーズですが、これからも楽しんで頂けるよう精一杯頑張りますので。どうか宜しくお願いします!


いつもより評価や感想、お待ちしております。
それでは、またお会い出来ると嬉しいです。

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