モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

51 / 102
書士隊と彼等の是非

「怒隻慧が現れた……?」

「砂漠に、ね。この私が見たんだから間違いないわ」

 タンジアの集会所の脇で、それでも注目を集める桃色の服を着た男───男が、男? 男だ。

 

 

 タンジアの集会所の脇、酒瓶で囲まれた席だがそれでも注目を集める桃色の服を着た男性と俺は小声で会話を交わす。

 

 

 魔改造されフリフリが着いたギルドナイトスーツを着るのは、赤の入った紺色の髪をサイドテールに結んだ体格の良い()だ。

 ギルドナイトというだけでも視線を集めるのだが、この女装紛いの格好のおかげで更に注目を集めている。

 

 

 

 ただ、俺に文句を言う資格はない。

 

 彼がこうなったのは俺の所為なのだから。

 

 

 

「詳しく教えて下さい」

「その為に呼んだようなものよ」

 今朝方に俺の家にやって来たギルドナイトの彼──アキラさん──に、話したい事があると呼ばれたのだが。まさか怒隻慧の件だったとはな。

 

 ミズキ達は置いて来て正解だったかもしれない。

 

 

「少し前にアランちゃんが受けた砂漠での護衛クエスト、覚えてるかしら?」

「……キャラバン隊の?」

 ミズキの知り合いであるハンター二人と共に受けた砂漠での護衛クエスト。

 

 護衛対象のキャラバン隊は態とモンスターの縄張りに入り込んだり、力尽きたアプトノスを置いていこうとしたりとロクな連中ではなかった。

 結局キャラバン隊の目的は産まれる前のディアブロスの卵で、実際に殆どの卵を割っている。密猟となんら変わらない行為だ。

 

 

 あの後は助けられる幼体を助け、ディアブロスの怒りが向かない内に立ち去ったのだが。

 密猟者達の事はリーゲルさんに任せて俺達はタンジアに帰っている。ギルドへの報告もあったからだ。

 

 その件に関してはアキラさんに話をして、彼とウェインがリーゲルさんの元に向かった筈だが……。

 

 

「アランちゃんは知ってるかもしれないけれど、彼───リーゲルさんは良くタンジアでハンターの治療をしてるお医者様なのだけど」

「いや待て、知らない」

 初耳だぞ。

 

「あら、そうなの? まぁ、アランちゃんコミュ障だものね。タンジアでも知り合いは指で数えられる程だったかしら。弟子を取ったなんて知った時は心底驚いたわ」

「……話の続きを」

 好きで弟子にした訳じゃない。……あの頃は。

 

 

「だから、リーゲルさんと私は顔見知りな訳よ。アランちゃん達がバルバレに居た時に彼から手紙を受け取ったのも私よ。忙しかったから荷物はウェインちゃんに任せたのだけど」

「リーゲルさんは普段からタンジアに暮らしているんですか?」

「あの船を作るまではそうだったみたいね。それ以降は色んな場所に出向いてるらしいけど」

 怒隻慧を探す為に船を作ったのだろうか?

 

 

 今度会った時にまた聞いてみるか。

 

 

「話を戻すけど、気球船で向かった砂漠で待っていたのは地獄絵図だったのよ……。……リーゲルさんの船を襲う、怒隻慧というね」

「な───」

 怒隻慧に襲われた……?

 

 

「───リーゲルさんは?!」

 彼は無事なのか?

 

 もし俺達が先に帰った所為で彼を見殺しにしたなら、俺はミズキにどんな顔で接すれば良いか分からない。

 

 

「……リーゲルさんは無事よ。流石ライダーだって事はあるわね」

 しかし俺の心配は杞憂に終わる。安堵の溜息を吐くが、そんな俺を横目で見ながらアキラさんはこう続けた。

 

「ただ、件のキャラバン隊───密猟者は一人を除いて全員喰われたわ」

「……な、ぁ…………そ、そうですか」

「リーゲルさんも悔しがってたわね。結局私達が着いた時には怒隻慧は逃げてしまったのよ」

 

 

 確かにあの密猟者達は裁かれるべきだったかもしれない。それでも人の手で、人のやり方で罪を償ってもらいたかったのだが。

 

 

 しかし遺跡平原に怒隻慧が現れてから二年、また姿を現したかと思えば……。

 なぜこのタイミングで。

 

 

 

「……観測は?」

「半日も持たなかったわ。本当、なんでこうも簡単に姿を消すのやら」

 怒隻慧はこれまで何度も現れては姿を眩ませている。

 

 別個体という考え方も出来るが、あんな化け物が何匹もいるなんて考えたくもない。

 なにより遺跡平原に現れた怒隻慧は間違いなく同一個体だった。俺が間違える訳がない、間違えられる訳がない。

 

「生き残った密猟者は?」

「ダメね。恐怖で取り調べも出来ないくらい怯えてるわ。どう処分したものか」

 密猟の咎か。

 だが実際、俺はあの密猟者達となんら変わりはしないのだろう。

 

 

 俺はアイツを殺したい。

 こんな気持ちを、きっとミズキはよく思ってない。

 

 

 それでも、俺はアイツが許せないんだ。

 

 

 アイツを殺せなかった───自分も。

 

 

「アイツはシャガルマガラと交戦しても生きていた……」

「狂竜ウイルスには感染しなかったとみるのが妥当かしらね?」

「……恐らくは」

 どちらにせよアイツは生きている。なら、俺が殺すだけだ。

 

 

 

「あぁ、それとこれはついでなのだけど」

 話は終わったと、アキラさんは立ち上がりながら一枚の紙を机に置く。

 なんだ? 身に覚えのないその紙は、一つのクエスト依頼書だった。

 

 

「あんた達に名指しの依頼よ。……知らない間に知り合いが増えたのね」

「俺()?」

 名指しの依頼……?

 

 

 依頼主やギルドがハンターを指名してクエストを依頼する事は出来るが、俺はともかく下位ハンターであるミズキも含めて名指しなんてのは珍しい。

 

 だから多分、依頼人はミズキと仲が良くなった奴だろう。ミズキは俺と違って誰とでも仲良くなるからな。

 

 

 

「とある書士隊の若い子達だったわよ。可愛い男の子が二人」

「書士隊の男……二人」

 アキラさんの発言だけで相手の特定は容易だった。その一人は男ではなくてミズキと同い年の少女なのだが。

 

 

 竜と共に絆を結ぶ存在───ライダーの実在を信じて調べている王立古生物書士隊所属。

 アルディス・ラウナーと、その妹でハンターのエルディア・ラウナーである。

 

 

 ライダーを知ったばかりのミズキに彼等を会わせて良いのだろうか?

 

 

 背中を見せながら手を振るアキラさんを見ながら、俺は小さく溜め息を吐いた。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「むぅ……」

「ちょっとご機嫌斜めですね、ミズキちゃん」

 森を抜ける竜車の上、私はアランを細目で見ながら小さく唸ります。

 それを見たアランは苦笑いしながら、私に「ダメだぞ?」と目で諭してきた。

 

 むぅ……。

 

 

 ムツキが居たら全力でモフモフしてこのモヤモヤを晴らすんだけど、ムツキは今回お留守番です。

 猫の集会があるとかなんとか。ムツキもアイルーの友達が出来たのかな?

 

 

「め、迷惑でしたかね……指名とか」

「いや、そうじゃないよ! 私はエル君達にまた会えて嬉しい……けど」

 彼───エルディア君は私と同い年のハンターさんで、彼のお兄さんのアルディスさんは書士隊っていうモンスターの事を調べるお仕事をしている人だ。

 

 

 アルディスさんは他にも個人的に、モンスターと絆を結ぶ事が出来る存在───ライダーという人達の事を調べている。

 

 そんな素敵な人達がいるのだろうか?

 つい最近まで、私は半信半疑でそんな事を思っていたのだけど。

 

 

 砂漠でキャラバン隊の人達を護衛するクエストの途中、ディアブロスの攻撃から私を守ってくれたのは───竜の背中に乗り共に戦う一人の男性だった。

 

 

 

 その男性、リーゲルさんこそが竜と絆を結ぶ存在───ライダーだという事を聞いた時はとても驚いたけれど、もっと驚いた事が一つ。

 

 アランも、ハンターになる前はライダーだったらしいのです。

 だからあんなにモンスターの事に詳しかったのかな? なんて色々納得したりしたけれど、やっぱりとても驚きました。

 

 

 

 ───そう、つまりライダーという人達は実在していたんです。

 

 しかもこんなにも身近に。

 その事をアルディスさんに伝えたかったのだけど、アランはそれを許してくれなかった。

 

 

 ライダーの人達の掟で、自分達の存在は知られてはいけないんだって。

 理由は教えてもらったけど納得出来ないし、私はただ頬を膨らませて拗ねる事しか出来ません。

 

 

 むぅ……。

 

 

「けど……? まぁ、嫌じゃなかったのなら良かったです。今回のクエストは是非二人のお力をお借りしたくて」

「クエストは確かティガレックスの捕獲……だよね?」

 二人から指名でクエストが来た時は驚いたんだけど、ティガレックスの捕獲でなんで私達なのかな?

 私はティガレックスの狩猟経験はないし、むしろ嫌な思い出があるくらいで戦うのは苦手です。

 

 アランもティガレックスを特別多く狩猟した訳じゃないって言ってたし。理由がよく分からない。

 

 

「そこのアンタならティガレックスをなるべく傷付けずに捕獲出来ると思っただけだ。特に深い考えはないぜ」

「なるべく傷付けずに……ですか?」

 アルディスさんはそう言うけれど、モンスターを捕獲するには弱らせて体力を削らないといけない。

 ライダーの事を信じるアルディスさんはそれが嫌なのかな? でも、傷付けないで捕獲するのはアランでも難しいと思うなぁ……。

 

 

「……どのみち捕獲するにはモンスターを弱らせる必要がある。傷付けない事は叶わないぞ」

「流石にんな事は分かってるっての。問題はティガレックスの方にあって、間違っても死んだりしないようにして欲しいんだ。それを見越してあんたらに依頼したんだからな」

 どういう意味だろう?

 

 捕獲クエストで対象を殺してしまうのは失敗と同じだから、気を付けるのは当たり前だけれども。

 

 

「幼体の捕獲とかじゃないだろうな」

「狂竜化したティガレックスだ」

 アランの質問に、アルディスさんは淡々とそう答えた。

 

 

 え、狂竜化?

 

 

「……狂竜化したモンスターは何もしなくても自分で自分を殺す。体力が切れるまで暴れ続けるからな。……それを捕獲してどうする気だ?」

 アルディスさんの言葉を聞いて、怪訝な表情でそう聞き返すアラン。

 私もアランと同じ疑問を頭に浮かべます。

 

 狂竜化。

 ゴア・マガラというモンスターが発生させる狂竜ウイルスに感染したモンスターが、苦しんで狂ったように暴れまわる───言うならば病気のような症状。

 

 

 二年前に原因である龍は討伐された筈だけど、まだその爪痕は世界中に残っていた。

 

 

 

「狂竜化を解く方法の研究がひと段落ついたから、それを試すために狂竜化した個体が必要なんだと。……言っとくが俺の提案じゃねーぞ。そんな実験動物にするために捕獲なんて、本当は認めたくなかったくらいだ」

「もしお前の独断だったら俺はこのクエストを降りてただろうな……。まぁ、ギルドにも目的は話してのクエストだろうから否定するつもりはない」

「そりゃどーも」

 そう言いながらもアランは少しイライラした様子でアルディスさんに返事をする。

 

 

 狂竜化を解く方法があるなら、これまで救えなかったモンスター達を救う事が出来るかもしれない。

 

 でもその為に狂竜化したモンスターを実験台にして苦しめても良いのかな?

 私達人間の勝手で彼等の命を弄んでるんじゃないだろうか?

 

 そんな風に思ってしまった。

 

 

 

「だから……アンタの力を貸して欲しい。出来るだけティガレックスに負担を与えないように捕まえてやりてぇんだ」

 アランならそんな事も出来るんじゃないだろうか?

 アルディスさんはそんな事を思って私達を指名したのかもしれない。

 

 

「もし捕獲して狂竜化が治ったとして、そのティガレックスを書士隊の連中はどうすると思う?」

「は? そりゃ、自然に帰すだろ……」

「元々凶暴なティガレックスをか?」

 狂竜化が治っても、ティガレックスは元々好戦的だからその場で暴れてしまうんじゃないかな?

 そしたら書士隊の人達も困ってしまうと思う。

 

 ───なら、どうするか?

 

 

「結果さえ分かれば処分されたっておかしくない。実験の為に身体が傷付けば、自然に帰ったとしてもその後生き残れる可能性は低いだろう」

「そ、それは……」

 やっぱり、そうなるよね……。

 

 

「人間的には今後の為になるだろうな。その考えを否定するつもりはない。……それはお前達も同じだろう? だからその任務を受けた」

「……そうだな」

 目の前の命を犠牲にしたら、他の命が救えるかもしれない。

 

 

 でもそれは人間の自分勝手だとも思うし、それでもやっぱり必要な事だとは分かってしまった。

 

 ちょっと難しい……。

 

 

「だから負担を掛けるな、なんてのは無理な話だ」

「……俺は間違ってるか?」

 唇を噛むアルディスさんを見て、アランは彼から目を逸らす。

 

「そんなのは自分が決める事だ。……そうだろ?」

 ただ竜車が進んでいる方を真っ直ぐに見て、彼はそう答えた。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 原始的な姿を残した飛竜。その強靭な前足が大地を踏んで、地面を駆ける。

 特徴的な青い縞模様の入った砂色の巨体が大口を開けて迫って来た。

 

 

 轟竜───ティガレックス。

 二年前に戦った事があったけど、私は負けて色んな人に迷惑を掛けたっけ。

 

 

 でも今ならまだ戦える。

 

 

 

「……っぅ!」

 迫り来る巨体を何とか横に飛んで避けて、直ぐに立ち上がった。

 ティガレックスは突進を連続でしてくるから注意、アランに教えて貰った事を何度も頭で復唱する。

 

 

「グォァァアアアッ!!」

 右前足を軸にその場で突進の勢いを殺さずに向き直るティガレックス。

 そのまま地面を削りながら巨体が浮いた。

 

 

「跳んだ……っ?!」

 ジャンプしてくるとは思ってなくて反応が遅れる。

 だけど空中でティガレックスは突然バランスを崩して地面に転がった。

 

 アランが撃った徹甲榴弾が爆発したみたいです。

 

 

 

 地面に横倒しになったティガレックスにアランと一緒に肉薄。

 二人で何度か攻撃してから、アランは私の腕を引っ張ってティガレックスから私を離した。

 

 同時に起き上がり、前足を軸にその場で回転して辺りを薙ぎ払うティガレックス。

 次の瞬間、頭部に何処か遠くから離れた徹甲榴弾が三発順番に突き刺ささる。

 

 

 次の行動に移る前にそれは爆発して、ティガレックスは大きく仰け反った。

 

 

 

「グルゥァォァアアッ!!」

 血走った瞳を左右に向けながら、強靭な前脚をその場で振り抜く。

 だけどその前脚はあらぬ方向に向けられていて、何もない空気を切り裂くだけに終わった。

 

 

 ティガレックスを包み込む黒い靄。

 狂竜ウイルスは文字通り竜を狂わせてしまう。

 蝕まれる感じが怖くて、ただ無闇に暴れ回るその姿は見ている私も苦しかった。

 

 

 本当は早く楽にしてあげたい。でも、今回はあなたを捕まえないといけない。

 

 

 

 これは本当に正しいのかな?

 

 

 私にはまだ、分からない。

 

 

 

「ギィォゥァァァ……ッ!」

 その目が私を捉えているかすら曖昧で。

 だけど、発達した前脚は確実に私に向けて振られる。

 

「っぅわ?!」

 前脚を振り抜いて、ティガレックスは地面を抉った。

 岩盤が捲られ、砕かれたそれが飛んで来る。

 

 

 大き過ぎて避けられない。

 直感でそう感じて、少しでも衝撃を抑えようと私は盾を前に突き出した。

 

 ただ、次の瞬間私の目の前でその大きな岩盤は砕け散る。

 それと同時にティガレックスを何かが貫いて鱗と甲殻を吹き飛ばした。遅れて爆炎がティガレックスを包み込む。

 

 

 エル君かな?

 徹甲榴弾じゃなさそうだけど、なんだか凄い弾丸だ。

 

 

 エスピナスの調査の時と同じで、エル君はかなり遠くから遠距離狙撃をしてくれています。

 こうやってピンチを救ってくれたのも何度目か。お陰で危険な所もなく戦う事が出来た。

 

 

 

「ミズキ、倒れた所を狙え!」

 バランスを崩したティガレックスの頭を踏んで、アランがその背中に乗る。

 そして暴れまわるティガレックスの甲殻にしがみ付きながら、背中をナイフで斬り付け始めた。

 

 

 どれだけ暴れてもバランスを保って振り落とされない彼の姿を見て、ライダーってこんな感じなのかな? そんな場違いな考えが頭に浮かぶ。

 竜と絆を結ぶ存在。そんな存在とは真逆に、アランは甲殻が剥げて肉がむき出しになった背中の一部にライトボウガンの銃口を突き付けた。

 

 次の瞬間、発砲音と共にティガレックスは激痛に自らの身体を地面に放り投げる。

 同時に私は踏み込んで、両手の剣を持ち上げて息を止めた。身体を回転させながら足を前に踏み込んで、連続で剣を叩き付ける。

 

 

「───やぁ……っ!」

 そのままティガレックスの後ろ脚を踏んで跳躍。空中で身体を回転させ、背中を何度も切り裂いた。

 

 

「グギャゥォァァッ?!」

 ティガレックスは全身を捻って起き上がり、足を引きずりながらその場を離れようと振り向く。

 だけど、高く跳躍しようと踏み込んだ前脚に徹甲榴弾が三発突き刺さった。

 

 前脚が大地を蹴った瞬間、徹甲榴弾は爆発してティガレックスはまたバランスを崩して倒れる。

 もう大丈夫かな? アランに目を合わせると、彼は首を縦に振ってボウガンの弾を詰め込んだ。

 

 

 私はティガレックスの足元に潜ってシビレ罠を地面に設置する。

 シビレ罠が作動すると、雷光蟲の放つ電気がティガレックスの全身に走ってその動きを止めた。

 

 

「……終わりだな」

 小さく呟きながら、アランはボウガンの弾を二発打ち込む。

 

 捕獲用麻酔薬という、身体の弱ったモンスターの動きを強力な麻痺毒と睡眠作用で封じる事の出来るアイテム。

 それをカラ骨に調合した捕獲用麻酔弾というのが、アランがティガレックスに打ち込んだ弾だ。

 

 

 ティガレックスはその場でもがきながらも、ゆっくりと意識を閉ざしていく。

 なんとか足掻こうと頭を上げるけど、結局その場に倒れて眠ってしまった。

 

 こうなったら、ちょっとやそっとの事では起きないからこれで捕獲完了。

 後はギルドの人にティガレックスを運んでもらうだけです。

 

 

 

「なんとかなったね……」

「……そうだな。後はギルドの仕事だ、俺達は帰るぞ」

 無事に捕獲して終了。……それで良いのかな?

 

 眠っているけれど苦しそうな表情をしているティガレックスを見て、私はそんな事を思った。

 

 

「うーん……ギルドの人がティガレックスを運ぶの、見てたらダメかな?」

「……あまり気の進む話じゃないな。後悔するかもしれないぞ?」

「……それでも、見ていたい。……見なきゃいけないと思うんだ」

 色んな人がいて、色んな考えがある。

 

 

 それが私の進みたい道じゃないとしても───いや、だからこそ見ておかないといけない。そう思うんだ。

 

 

 

「そうか、分かった」

 ありがとう、アラン。

 

「お疲れ様です、二人共。ありがとうございました」

「助かったぜ。報酬はギルドに渡してあるからタンジアで受け取───」

「おい、少し頼みがあるんだが」

 ティガレックスの元に歩いて来た二人に、アランは一つ提案をしてくれる。

 狂竜化したモンスターの搬送では何が起こるか分からないから、その間も自主的に護衛をしたいっていう提案。

 

 アルディスさんはそれを許可してくれて、私達は捕獲したティガレックスの搬送の護衛をする事になった。

 

 

 

 何もなければそれで良い。

 

 

 

 私はただ、ギルドの人達や書士隊の人達がティガレックスにどう接するのか見てみたい。

 

 それだけです。

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 眠っていても、身体から漏れる黒い靄は消えない。

 

 

 そんなティガレックスを縄で縛り、大きな竜車に乗せる作業は初めて見たので少し驚きました。

 ここまでされても起きないって、捕獲用麻酔薬って凄い。色が似てるし、ホットドリンクと間違えて飲んだらどうなっちゃうんだろう。

 

「これでも起きないんだね」

「起きたら困るだろ」

 それはそうだけど。

 

 

「苦しそう……」

 それは麻酔薬のせいなのか、狂竜ウイルスのせいなのか。

 ギルドの人達は縛った縄の強度を確かめてから、竜車を引くアプトノスに進むように命令した。

 

「ティガレックスはこのまま近くの森林に建てられた施設に連れて行くらしいです。あまり距離もないので、多分大丈夫かと」

「そこなら暴れられても被害は抑えられるな」

 アランは「流石に考えてはいるか」と他所を見ながら呟く。

 獣道を抜けて進む竜車は、ティガレックスを乗せたままゆっくりと進んでいた。

 

 

 

「エル君達はその……実験には立ち会うの?」

「僕達は下っ端ですから、残念ながらここまでがお仕事ですね。危険な仕事だという理由もありますけど」

 うーん、やっぱり書士隊の人達もそれなりの覚悟を持って研究をしているのかな。

 だからやっぱり、その人達が間違っているとは思えない。

 

 難しい。

 

 

 

「よーし、そのままゆっくり進め。そこ! 木の枝がティガレックスに当たるだろ、切ってこい」

 書士隊の人が声を上げて指示を飛ばす。あの人がこの場の責任者さんなのかな?

 ギルドの人も書士隊の人も、指示を聞いてティガレックスの移送に邪魔になる障害を排除していく。

 

 早い指示のおかげで、アプトノスは止まる事なく進んでいった。

 

 

 

「アルディスさん、あの人は?」

「ん? あー、俺達の先輩だ。今回の任務の責任者。別に気難しい人じゃないし、邪魔しない範囲なら話しても良いと思うぜ?」

 それならお話を聞いてみよう。

 

 

 色んな人の意見が知りたいんだ。

 

 

 

「僕が紹介しますね」

「うん、ありがとうエル君!」

 紹介してくれるって言うエル君に続いて私も竜車に向かう。

 

「勉強熱心なのか?」

「色んな奴の答えが知りたいんだろう。自分の答えを知るために」

 うん、私はまだ未熟だから。

 

 

 

「先輩、お疲れ様です」

「む、エルか。捕獲の件ご苦労だったな。彼女は?」

 エル君の言葉に反応して振り向いてくれたのは、ハンターさんではない筈なのに筋肉質な長身の男性だ。

 書士隊の人……だよね?

 

 

「今回クエストを受けてくれたミズキちゃんです。実力も高いですよ」

「わ、私なんてそんな……」

 助けられてばかりだったし。

 

「なるほどそうか、アルの奴が推薦してたハンターだな。私はバルツ、アルディスの同僚だ。宜しく」

 そう自己紹介してくれて、手を出してくれるバルツさん。手も大きい。

 

「ミズキって言います。宜しくお願いします」

 私はその手を取って、失礼のないように挨拶をする。

 

 しかし次の瞬間、彼は振り向いて「今石ころを竜車が踏んだぞ! 何見てやがる!!」と怒号を飛ばした。

 き、気難しい人じゃない……んだよね?

 

 

「仕事のミスには厳しいんです。普段は温厚なんですよ?」

「あ、あはは……」

 私が仕事してたら常に怒られそう……。

 

 

「……まったく。それで、何か用事だったかな?」

「あ、えと、お話を聞きたくて」

「話……?」

「どうして狂竜化したモンスターの……その、実験をするのかなって」

 首を傾けるバルツさんに、私はゆっくりと言葉を落とした。

 

 文句を言っているようで、怒られてしまうかな?

 それでも、彼の答えが知りたい。だから、勇気を出して聞きます。

 

 

「……なるほど。アルも最初は反対してきたし、君の気持ちが分からない訳でもない」

「あ、いや、私は反対という訳じゃなくて!」

「遠慮しなくていいさ。私もこの行為が正しい事なんて思ってはいないからね」

 あれ? そうなの?

 

「私達人間がこの世界の支配者ではない事くらい分かっているつもりだ。では、何故我々は自然を学び、研究し、手を出すのか? 飽くなき探究心のまま自然に干渉するのはなぜか? ……それは、私達が生きてるからだ」

「私達が……生きてるから?」

「あぁ、彼等モンスターのように。我々も、生きている」

 バルツさんはティガレックスを見ながらそんな言葉を落とした。

 

 

「この世界は人間にとって広大だ。広大過ぎる。自然は強大で、我々人間はとても小さな生き物だ。それを自覚するのも難しい程にな」

 この世界の主役は私達じゃない。そういう事かな?

 

「我々は弱い、自然の理が牙を向けば簡単に折れてしまう程に。だからこの世界を調べるんだ。自然の牙に折られないように。学び、研究し、干渉する。私達の唯一の武器、知能を駆使して自然を生きていく。……それが、私達人間だ。少なくとも私はそう思ってるよ」

「生きているから、生きる為に、私達の出来る事をする……?」

「そういう事だな」

 そうしないと生きる事が出来ないかもしれないから。

 

 

 私達には器用な腕と知能がある。それを駆使して生きるのは、生き物が自分の特技を駆使して生きているのと同じなのかもしれない。

 

 

 

「とても素敵な考え方ですね」

「……そうでもないさ」

 ただ、バルツさんは小さくそう呟いた。

 

 自分の考えに納得出来てないのかな……?

 

 

「確かに私達は生きる為にこの道を進んでいる。……だが知恵と力でその道幅を広げ過ぎて、道が道として機能しなくなり、どこに進めば良いのか分からなくなるかもしれない。自然の理から外れ、道を踏み外す可能性だってある。……人はどこまで自然に干渉して良いのだろうかと、私も偶に疑問に思うよ」

「バルツさん……」

 その答えは見付かるのだろうか?

 

 

 人がどれだけ道を探しても、その答えを見付けるのは難しい気がして。

 そしてその間に道を踏み外してしまうんじゃないかって、そう思ってしまう。

 

 だから、バルツさんも悩んでいるって事が分かってしまった。

 

 

 

 これが正しい事なのか分からない。

 

 

 

 それでも、生きる為に前に進むしかない。

 

 

 

「さて、そろそろ着くな。依頼でもないのに護衛してくれてありがとう。……少ないが、お礼だ」

「お、お礼なんて良いですよ! 好きで付いてきたんですし!」

 森林の中に少し大きな建物が見える。

 ここが書士隊の人達が作った施設かな?

 

 簡単に言ってしまえば、実験場。

 

 でも、少しだけ嫌な気分は晴れた気がする。書士隊の人達の考えが少しは分かったからかな?

 でもやっぱりそれが正しい事なのかは分からない。それでも、前に進むしかないんだと思う。

 

 

 

「君は面白い娘だな。少しエルに似ている」

「僕なんかより優しい娘ですよ、ミズキちゃんは」

「い、いやいや、私なんてそんな……」

「謙遜するな。君もモンスターの事を気にして私に話しかけて来たのだろう? アルやエルと同じで、そうやって自然に興味を持って接する若者を見るのは嬉しい。……どうだ、書士隊に入らないか? 私から推薦するぞ?」

「……えーと、ごめんなさい。私は、ハンターとして生きていたいんです。……私なりの答えを出したいから」

 せっかく招待してくれたのにごめんなさい。

 

 

 私はハンターとしてモンスターと関わっていく。

 

 

 ライダーでも、書士隊でもなく、ハンターとして。

 

 

 

「……そう答えてくると思ったよ。さて、着いたな。出来たらまた会おう、君みたいな娘とはまた話したい」

 そう言ってバルツさんは手を向けてくれて、私もそれに答えました。

 

「実験、成功すると良いですね」

「あぁ、人は前に進むさ。間違えないように、前にと」

 またお話したいです。

 

 

 ティガレックスが無事に実験場に降ろされるのを確認してから、私達はクエストを終えてタンジアに戻りました。

 初めは少し嫌なクエストだったけど、素敵なお話が聞けて嬉しかったです。

 

 

 

 

 ───そんなお話だと、思っていた。

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「バルツさんが……亡くなった?」

 あの日の事を懐かしく思うくらいに時間が経ってから。

 

 

 突然家に来たアルディスさんは、重々しい声でその事実を話す。

 手に持っていた花瓶を落としてしまって、それでもアランに謝る事が出来ないくらいに動揺してしまった。

 

 

 なんで……。

 

 

 

「狂竜化を解く実験は失敗して、実験場は暴れ回ったティガレックスに無茶苦茶にされた。勿論お付きのハンターも居たが、誰一人生き残る事なく全員殺されてたらしい」

 有事の際に被害を抑える為に、実験場に居たのは数人の書士隊の人とハンターさんが一人だったとか。

 拘束が解かれ暴れ回るティガレックスから逃げられずに、実験場に居た人は皆殺されてしまったと、アルディスさんはそう言葉を繋ぐ。

 

 

 

「ティガレックスは逃亡。まぁ……狂竜ウイルスに感染してるんだから、今頃どこかで死んでるとは思うがな」

 なんで……。

 

 

「死体は原型留めてなかったけど、明日葬式やるから……。……その、な」

 どうして……。

 

 

「先輩、ミズキちゃんの事気に入ってたんです……。また会いたいって。……あの、だから、先輩のお葬式……出てくれませんか?」

 涙を堪えているのだろうか。小さな声でエル君がそう言った。

 私でもこんなに苦しいんだから、エル君も辛いよね。

 

 

「ま、まぁ、無理にとは言わねぇよ。でも報告だけはしときたかったんだ。忙しい所わりぃな」

「……葬式、行かせてください。アラン、良いよね?」

「……あぁ。行くか」

 そう言いながら、アランは支度をしてくれる。

 

 

 

 なんで、バルツさんが死ななければならなかったのかな?

 

 

 

 なんで……。

 

 

 

 

「ありがとうございます、ミズキちゃん」

「ううん。……私も、もう一度会ってお話したいって思ってたから」

 なんで、こうなっちゃったのかな?

 

 

 

「間違えたのかもな、彼は」

「そんな……っ!」

 小さくアランが呟いた言葉に私は声を上げた。

 

 

 そんなの、寂しいよ。

 

 

 

「誰だって答えは分からない。それが正しい事なのか、間違った事なのかすら、答えが出るまでは分からない。……それは本人が正しいと思っていても、思っていなくても最後まで分からないんだ」

 

 

 

 ──人はどこまで自然に干渉して良いんだろうかと、私も偶に疑問に思うよ──

 そんなバルツさんの言葉を思い出す。

 

 

 それが間違ってない事だと分かっていても、それが自然だと分かっていても。

 

 

「……アラン、私……凄く辛い」

「……俺もだ」

 私は間違えてしまうだろうか?

 

 

 私も誤ってしまうだろうか?

 

 

 

 道を踏み外したくない、それでも前に進むしかない。

 

 

 

 私達は生きているから。

 

 

 

 だから私は、自分の道をしっかりと見付けないといけない。

 

 

 

 私はこの世界に生きているから。




モンスターハンターワールドをやっていると、私達はどこまで踏み込んでいいのだろう? そんな事を考える事があります。

間違えたくはないですね。


それでは、次回もお会い出来る事を願っております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。