モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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ポポと雪山の女王

「ポポが人を襲った……?」

「そうなのさ。物凄い大きなポポが雪山に現れて、雪山草を取りに行った村人が襲われたらしくてね」

 そんな曖昧な証言を話すのは、ここ──ポッケ村──の村長さん。

 

 

 雪山に現れた凶暴なポポの調査───または討伐というクエストでポッケ村に来たんだけど、本当にポポが人を襲ったのかな?

 

 

 

 ポポといえば長い茶色の体毛に覆われた身体の大きな草食種で、二本の反り返った長い牙が特徴的なモンスターだ。

 基本的には臆病なモンスターで、自分から他の動物を襲う事はあまりない筈。でも、村人の人は雪山草を取っていただけらしい。

 

 

 

「大きいというと?」

「通常のポポの四倍と言っていたねぇ」

 四倍って。

 

「それは流石に見間違いじゃにゃいか? イタズラとか」

「ポポって結構大きいし、そのポポの四倍って凄い大きさですよね?」

「うむ。しかし、嘘を言っておるようには見えんかったよ。それは、このオババが保証しよう」

 村長がそこまで言うのなら、嘘じゃないんだろうけど。

 

 

「それに気になる話では、ポポの数が減っていたらしいね。最近雪山の生態系は荒れていたし、これは仕方がないと思うけども。……どうもこのままでは村は食糧難さ」

 ポッケ村ではポポのお肉をよく食べるらしくて、そんな面でも困っているみたい。

 

「食料は大丈夫なんですか?」

「少し前から肉を持ってきてくれるキャラバン隊が村に度々来てくれてね、助かってるよ」

 うーん、一体どうなってるんだろうね?

 

 

 

「……ポポ、か」

「アランは何か分かったの?」

 考え込んでいるアランに私はそう聞いてみる。アランならもう何か分かってるかもしれないし。

 

「確証はないが可能性の範囲ならな。一度ポポ達を見ない事には、なんとも言えない」

 そんな事で今回は雪山の調査です。

 

 

 前に来た時はフルフルが現れた影響でケルビが減って、今度は一体どんな理由なんだろうか。

 そういえば、あの綺麗なツノの生えた生き物はなんだったんだろうね。

 

 私達は準備を終えてから、狩り場へと向かいました。

 変な事が起きてなければいいけれど。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 吐いた白い息が空に昇っていく。

 

 

 雪の積もる山を登る事数時間。私達はポポの群れを見付ける事が出来た。

 五頭のポポが集まって歩いているんだけど、特段変わった様子は見当たらない。

 

 

「ポポが五匹。どこも変じゃないよね?」

「見た目はアレでも凶暴になってるのかもしれないニャ。近付いたら襲ってくるかもニャ」

 うーん、どうもポポが人を襲ったって話は信じられないなぁ。

 

 村長を疑う訳じゃないけど。

 

 

「まぁ、ポポは襲ってないだろうな。よく見てみろ、六匹居るだろ?」

「え? 六匹?」

 さっき数えた時は五頭だったような気がする。

 

「一、二、三、四、五……んぇ、あれ? 何あれ?」

 アランに言われて数え直してみると、群れの中に一匹だけ真っ白なポポが居る事に気が付いた。

 いや、アレはポポなのかな? まず体毛が真っ白だし、よく見るとちょっと変というか。

 

 

 ───ポポってあんなに鼻が長かったっけ?

 

 

 二本の牙や体格は大人のポポに似ているんだけど、白い体毛や私の身体と同じくらい長い鼻がどうにも目立つ。

 考えれば考えるほどそれはポポじゃなかった。それじゃ、何なんだろうって話なんだけども。

 

 

「アレはな、ガムートの幼体だ」

「ガムート……?」

 知らないモンスターです。

 

 

「あー、巨獣って呼ばれてるモンスターだニャ。大人になったら大人のポポの四倍くらい大きくなる牙獣種だニャ」

「アレで大人じゃないの?!」

 四倍って、どのくらい大きくなるのか想像出来ない……。

 

 

 ……ん? 四倍?

 

 

 

「……もしかして?」

「村人を襲ったのはガムートの成体だろうな。ガムートはポポに少し似ているが、見た目によらずれっきとした牙獣種だ。凶暴な一面もある」

 あの幼体でも確かにポポに似てるから、村人さんは成体のガムートをポポと間違えて「ポポに襲われた」と言っていたのかもしれない。

 

「ガムートはひ弱な幼体をポポの群れに紛れ込ませて身を守らせる事がある。……これは、覚えておいて損はない。それで、成体はその間に幼体の天敵を追い払うという習性があるんだ」

「ほぇ〜……。頭が良いんだね!」

 ガムートはとっても子供想いのモンスターだと知る事が出来て、ちょっと嬉しいです。

 

 

「えーと、でもそれじゃ……ガムートを討伐しないといけないのかな?」

 凶暴なモンスターなら、放っておく訳にもいかないよね……。

 

 

「ミズキ、考えが先走ってるぞ。……そもそも、今雪山が抱えている問題はガムートじゃない。そうだろ?」

「あー、そっか。問題はポポが減ってる事で、ガムートが人を襲っていた事はそれと関係ないもんね……」

 うーん、それじゃなんでポポの数が減っているんだろう?

 

 

「全く無関係という事ではない。ガムートがポポの群れに子供を預けているという事は、幼体のガムートにとって天敵となりえる存在がこの雪山にいるという事だ。それはつまり、ポポの天敵でもある」

「雪山に何かが居て、そのせいでポポの数が減っている……?」

「そういう事だな」

 そうなると、そのモンスターをなんとかすれば上手く治るのかな?

 

 

「そのモンスターって?」

「流石にそこまでは分からない。ティガレックスなんかは天敵だが、ここ数日の間に渡りティガレックスが雪山に居続けているとは考えられないからな」

 うーん、それじゃまた雪山を歩き回って探すしかないかな?

 

 

「んにゃ、アレってもしかしてガムートじゃないかニャ?」

 ムツキがそう言ってから数瞬後、ポポ達の群れに近付く大きな影が視界に映った。

 

 全高だけでもポポの二倍近い巨体。幼体と違って所々赤と蒼の混ざった体毛が特徴的で、頭部は被り物のような厚い甲殻に覆われている。

 ポポのような二本の長い牙の間には、幼体と同じでとても長い鼻が伸びていた。

 

 

 巨獣───ガムート。

 その巨体が脚を一歩踏み出す度に、雪の大地が振動を起こす。

 

 

 そんな巨体が、ポポ達の前で姿勢を崩した。

 

 

 

「……え?」

「なんか、倒れたニャ」

 大きな振動が伝わってくる。

 積もった雪が舞い上がって、塞がる視界。

 

 一瞬目に映ったのは、ガムートの身体中に着いた傷だった。

 

 

 

「アラン!」

「行くな。襲われるだけだぞ」

「……っ。そ、そうなの?」

「そうだ」

 凶暴って言ってたもんね……。

 

 

「ティガレックスかニャ?」

 あんなに大きなモンスターに傷を付ける事が出来るモンスターなんて、そう多くはない。

 やっぱり雪山にティガレックスが居るのかな……?

 

 

「……あまり信じたくはなかったがな」

 深刻そうな表情でアランはそういう。

 

「やっぱりティガレックスなの?」

「いや、人間だな」

 え、人間?

 

 

 どういう事?

 

 

 

「ガムートを良く見てみろ。傷は脚や良くて腹下に集中している」

 舞い上がった雪が落ち着いてきて、遠目でもガムートの姿を確認する事が出来た。

 白い小さなガムートが身体を擦りつけている。そんな成体のガムートの身体中に着いているのは切り傷のようにも見えた。

 

 モンスターと戦って、あんなに真っ直ぐの線みたいな傷が沢山着く事があるだろうか?

 

 ───まるで、長い剣を叩き付けられたかのような切り傷に見える。

 

 

 

「……密猟?」

「そういう事だ」

 ふと過ぎった言葉が口から漏れて、アランはそれを肯定した。

 

 そんな……。

 

 

「確かポッケ村で村長が、肉を持って来てくれるキャラバン隊が来てるって言ってたニャ」

「十中八九犯人はそのキャラバン隊だろう。想像はしていたが、これは俺達の手には負えないな」

「止められないの? ディア───」

「状況が違う」

 ディアブロスの時みたいに───そう言おうとしたんだけど、アランが先に口を開いて私の言葉を遮る。

 

 

「下手に手を出しても面倒毎に巻き込まれるだけだ」

「そんな……」

 私達人間のせいで雪山の生態系がおかしくなって、それでポッケ村の人達だって困っているのに。

 私達は何も出来ないのかな? そう考えると少し悔しかった。

 

 

「勘違いするな。俺達はハンターだ。……悪党を懲らしめるのがハンターの仕事か?」

「そ、それは違うけど……」

「そうだ。俺達の仕事は自然の理と関わりあう事だ。……だから、俺達は俺達の仕事をする」

「……アラン?」

 何をする気なんだろう。

 

「ミズキ、キャラバン隊の目的はなんだと思う?」

「えーと、やっぱりお肉……かな?」

「そうだろうな。理由までは分からないが、ポポの肉が必要だった。それもポポの個体数が激減する程に」

 うーん、ポッケ村の人達が暮らす分だけなら、ポポが減り過ぎるなんて事はないもんね。

 

「村にキャラバン隊は常駐している訳じゃない。なら、ポポを狩るためにこの雪山に拠点としてキャンプでも貼ってるだろうな。……だが、そこにガムートが現れて拠点が襲われるのを懸念したキャラバン隊は───」

「───ガムートを襲った?」

 私がそう答えると、アランは首を縦に振った。

 

「それに群れに幼体がいるせいで、密猟者からすればポポに近付けない。そんな状態だろう」

 そんな事でガムートを襲うなんて。

 

 

「ところでミズキ、拠点がなくなったらこの極寒の雪山でお前は活動を続けられるか?」

「えーと……それは、無理───あ、そっか!」

 アランってもしかして、素直じゃない?

 

 

「───さて、一狩りするか」

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「見付けて来たニャー、山頂の方のベースキャンプ跡にキャンプが建ってたニャ。四人組のハンターが居て、大きなコンテナが二つ置いてあったニャ」

 ムツキがキャラバン隊の拠点を見付けて、アランにその全貌を連絡する。

 

 

 その大きなコンテナにポポの死体を詰め込んだりしてるのかな?

 なんでそんなにポポを密猟するのか、私には分からない。

 

 そんな事しても、困る人だって居る筈なのに。

 

 

 

「問題はそのハンター達の目的が分からない事だな。単に金儲けの為なら、ポッケ村に肉を提供しているという話はおかしい」

 一体どんな目的なんだろう。

 

 でもきっと、私は何を言われても理解出来ないと思った。

 

 

 

「もう一度作戦を説明する。ガムートを煽れるだけ煽って、ハンター達のキャンプまで連れて行く。拠点さえ無くなれば、ポポの密猟も当分出来なくなるだろう。その間にギルドにこの事を伝えれば、キャラバン隊はお縄だ」

「でもガムート、物凄い傷付いてたけど大丈夫なのかな……?」

 さっきも膝をついて倒れていたし。

 

 今はポポの群れに混じって休んでるみたいだけど、直ぐそばで親を心配する白色のガムートの幼体が身体を寄せている。

 とても疲労しているだろうし、心配だ。

 

 

「大丈夫だ」

 ただ、アランは自信ありげにそう言い切る。

 なんでそんなに信じられるのかな?

 

 

「どうして……?」

「ガムートの親子はとても強い()で結ばれているんだ。子供の為なら、あの程度の傷で倒れる事はない。……ガムートってモンスターはな、とても強いんだ。これも、覚えておいて損はない」

 そっか。

 

「そ、そんな根拠ありかニャ」

 なんだろう、ムツキの言う通り根拠としては曖昧な気がするんだけど。

 

 

「アランがそう言うなら、大丈夫そうだね!」

 なんだか本当にそんな気がするんだ。

 

 

「さて、一狩り行くか。さっきも言ったがガムートは強い。無茶はせずにただ逃げる事だけを考えろ」

「うん!」

 今回私は武器を振るう事はないと思う。

 

 引き付けはアランがやるから、私はそのサポートをすれば良いだけだ。

 それでも何があるかは分からないから、気を引き締めて行かなくちゃ。

 

 

 

「───行くぞ!」

 アランの掛け声と共に私は走る。

 

 アランはポポの群れの中を駆けて、ガムートの眼前でライトボウガンを構えた。

 銃口の先に居るのは───白い体毛を持つガムートの幼体。

 

 

 

「パゥゥォォォオ───」

「───遅い」

 引き金が引かれて銃口から飛び出した銃弾が幼体の足元に着弾する。

 

「パゥゥッ?!」

 雪を溶かす火炎弾は幼体を傷付ける事はなかったけれど、とても怯えさせる事には成功した。

 

 

「───パゥゥォォォオオオオオッ!!」

 立ち上がるガムート。思わず耳を塞いでしまうような大きな咆哮を上げて、幼体の親であるガムートは前脚を一歩踏み出す。

 

 アランはそれを見届けると武器をしまって、ガムートに背中を見せた。

 

 

 ポポ達は騒ぎを聞いて一斉に逃げて行く。

 それに混じるように走っていく幼体を見るガムートの表情は、なんだか優しい表情に見えた。

 

 

 

「───さぁ、こっちだ」

 アランの走る先を私も走る。振り向けば巨体を生かした歩幅で、見た目からは想像も出来ないような速さでガムートが追いかけて来ていた。

 

 

「全然元気じゃにゃいかぁ!」

「言ったろ、ガムートは強いと。走れ!」

 驚いているムツキの背中を叩いてアランはそう言う。

 

 少しでも気を抜いたら追い付かれそうだ。思っていたより逃げるの大変かも……。

 

 

「アラン後ろ!」

 ふと振り向くと、ガムートが私達に鼻の先を伸ばしているのが視界に映る。

 長い鼻が私達に届く訳ではないけど、なんだか嫌な予感がした。

 

「……っ、横に飛べ!」

 アランがそう言うが早いか。

 

 

 ガムートの鼻先から雪の塊が飛んでくる。それは私の直ぐ真横で弾けた。

 

 

「───うわ?!」

 私はバランスを崩して、言われた通りに横に飛ぶ。飛ばされたんだけどね。

 地面を少し転がってから私が見たのは、鼻先をまた私達に向けているガムートの姿だった。

 

 また雪玉を飛ばしてくるのだろうか?

 体勢を立て直しながら、ガムートを観察する。

 

 

 そして私の横をムツキが通り抜けたその瞬間───

 

 

「んにゃ?!」

 ムツキの身体が浮いた。

 

 同時に私の身体も、まるでガムートに吸い寄せられるように地面を滑る。

 飛んでいきそうになるムツキの手を握りながら、私はもう一度ガムートを観察した。

 

 伸ばされた鼻の穴に雪が吸い込まれているのが見える。

 もしかして、これってガムートが息を吸い込んでるだけなの?!

 

 

「なんにゃこれぇぇ! 嫌ニャぁぁ!」

「む、ムツキ! 手を放しちゃダメだよ!」

「言われなくてもニャぁ!」

 そう言う私も、ムツキと一緒に吸い寄せられてる訳だけど。凄い肺活量……。

 

「ミズキ!」

 遂に私まで地面から浮きそうになった所で、アランが私の手を握りながらボウガンを構えた。

 直ぐに引き金が引かれて、弾丸は文字通りガムートの鼻に吸い込まれる。

 

 着弾した弾丸は炎を上げて、それに怯んだガムートは空気を吸い込むのを止めた。

 

 

 

「た、助かったニャ……」

 地面に落ちたムツキが蒼ざめた表情でそう呟く。

 そのまま吸い込まれていたらどうなっていたか、想像してみると恐ろしかった。

 

 

「まだ終わってない、走るぞ」

 アランにそう言われて、私達は思い出したように地面を蹴る。

 

 

 少し走ると大きなコンテナとキャンプが見えてきた。

 あの場所にキャラバン隊の人達が居るなら、避難させないとね。

 

 

 アランの作戦では、私達はガムートの討伐をしているという設定です。

 ガムートと戦っている中で偶然(・・)キャラバン隊のキャンプに辿り着いてしまって、私達は彼等に避難を促した後キャンプはガムートに破壊されるというシナリオだ。

 

 アランってなんか……凄い狡いよね。そんな所も好きなんだけど。

 

 

 

「ミズキ、キャラバン隊の連中に作戦通りに伝えてこい。ガムートは抑える!」

 振り向きながらそう言うアランに、私は首を縦に振って答える。

 

 キャラバン隊の人達はきっと、善意でポポの密猟をしている筈だ。それが間違った事だとしても、ポッケ村の人達を助けようとしてるのは間違いないから。

 だから、これ以上悪い事をして欲しくない。それにガムートの攻撃で怪我もして欲しくない。

 

 

「逃げてください! ガムートが直ぐそばまで来てるんです! 逃げてください!」

 だから私はキャンプまで走って、キャラバン隊の人達に注意を呼びかける。

 

 

 

「ガムートだと?! 奴か」

 キャンプから出て来たのは、武具を装備した一人のハンターさんだった。

 その後ろから同じく三人のハンターさんが出て来る。ムツキの言っていた通り、四人のハンターさんだ。

 

「私達、雪山の調査でガムートを討伐する事になって。ここは危ないのでポッケ村に避難して下さい! ……それと、なんでこんな所にテントを張ってるんですか?」

 アランに言われた通り伝えてから、私は自分の疑問を彼等にぶつけてみる。

 

 ポポの密猟の為だとは分かっているけど、ただなんとなく彼等の真意が聞きたかった。

 

 

「ほぉ、感心だなお嬢ちゃん。だが安心したまえ!」

「……ぇ?」

 何を言ってるんだろう、この人は。

 

 

「我々もあのガムートには手を焼いていたのだよ。ポポを狩猟する時に直ぐに邪魔をしてくる。だが、奴が自分からここまで来てくれたのなら丁度いい」

「ど、どういう事ですか……?」

 何かがおかしい。

 

 この人達はいったい何を言っているんだろう。

 

 

 

「餌が自分から来てくれた、そういう事さ。……コンテナを開ける準備をしろ!」

 ハンターさんの一人がそう言うと、残りの三人のハンターさんが二つある内の一つのコンテナに向かっていった。

 

 

 その中には何が入っているの?

 

 

 密猟したポポの死体が入ってるんじゃないの……?

 

 

 

 何かがおかしい。

 

 

 

「君、あっちでガムートと戦ってるお兄さんを連れ戻してきたまえ。……危ないからね」

「ど、どうい───」

「グォォォァァアアアッ!!」

 私の声を遮る聞き覚えのある鳴き声。

 

 全身の毛が逆立って、嫌な感じが身体を貫く。

 

 

 

 モガの森で聞いた時と同じ。

 

 

 

 ───まさか?

 

 

「───嘘?!」

「───ニャ?!」

「あいつも喰って良いぜ、イビルジョー!」

「グォォォァァアアア……ッ!!」

 コンテナから現れる暗緑色の巨体。

 

 鋭い牙の並んだ口は大きく横に裂けていて、鈍く光る瞳がガムートを睨み付けていた。

 

 

 恐暴竜───イビルジョー。

 

 それが、どうしてキャラバン隊のコンテナから出てきたの……?

 この人達の目的は一体……何?

 

 

 

「あ、アラン!!」

「───な?! ……っ!!」

 急いでガムートから離れるアラン。そんな彼の横をイビルジョーが通り過ぎて、ガムートに体当たりを仕掛ける。

 

 

 巨体が揺れて、地面が震えた。

 突然の奇襲にガムートは膝を落とし、姿勢の落ちたガムートの背中にイビルジョーはその牙を突き付ける。

 

 

「パゥォォォォオオッ?!」

「ガムートさん!」

 ど、どうして……?

 

 

 なんで、イビルジョーが?

 

 

 

「おいこれはどういう事だ!!」

 ハンターさんの防具を掴んでアランは声を大にして叫んだ。

 その目には怒りが籠っていて、私もそんな彼を止める事が出来ない。

 

 

「見ての通り、イビルジョーにガムートを倒してもらうのさ」

 ただ、ハンターさんはそうやって淡々と答える。

 

 それが正しい事かのように。自分は何も間違っていないという表情でそう答えた。

 

 

「……ポポの密猟は飼ってるイビルジョーの餌か?! お前達、自分が何をしているのか分かってるんだろうな?!」

 この人達はイビルジョーを飼っていたの……?

 

 だとしても、なんでイビルジョーを……?

 

 

「分かっているとも。……我々はあの方の崇高な願いに感化されて、イビルジョーを使役しているのだ。この世からモンスターを滅ぼす為にね。それに村も食糧不足で困っている。我々は人間の為に働いているのだ!!」

「何を言って───」

「パゥォォォォオオオオオッ!!!」

 咆哮が山を震えさせる。

 

 イビルジョーに取り付かれたガムートは何度も背中を噛み砕かれて遂に四肢は地面に着いていた。

 どうしよう……このままじゃ。

 

 

「……っ。とにかく今直ぐここを離れろ。ガムートが殺されたら次に狙われるのはお前達だぞ!」

 イビルジョーは常に何かを食べて生きている。

 

 それじゃ、ポポが減っていたのはイビルジョーの仕業?

 でも、なんでキャラバン隊のコンテナにイビルジョーがいたの……?

 

 

 分からない事ばかりだ。

 

 

「心配ご無用。あのイビルジョーは我々の所有物だ。しっかりと足枷も嵌めてあるからな」

 そう言われて見てみると、イビルジョーの脚にはとても長い鎖がコンテナから伸びているのが見える。

 イビルジョーが仲間……? 少しだけそう思ったんだけど、きっとそんな関係じゃない。

 

 

 この人達はイビルジョーと絆を結んでなんかいない。

 

 

「……ポポの密猟はアレの餌の為か」

「そうさ。まぁ、見ているが良いよ。我々は近々革命を起こす。これはその一歩に過ぎないんだ」

 そんな話を聞きながらアランは唇を噛む。

 

 こんなのおかしい。私でもそんな事は分かった。

 

 

 

 でも、何も出来ない。

 

 

 

「……お前達が誰と何をしようとしてるか知らないが、モンスターはお前達の思い通りになったりはしない!」

「君のような正義感のある若者は嫌いじゃない。だがな、世の中綺麗事だけでは済まないんだ。……それに、モンスターは操る事が出来る。あの方は、桜火竜を自由自在に操る存在なのだからな!」

「桜火竜……だと?」

 リオレイアの亜種だよね……?

 アランは何かを思い出したように目を見開く。

 

 

 

 リオレイアの亜種を操る事が出来るって、どこかで───

 

 

 

「パゥォォォ……」

 段々とガムートの鳴き声が弱くなっていくのが分かった。

 このままじゃガムートは殺されてしまう。でも、何も出来ない。

 

 

 

「これ、ギルドにチクったらお前ら怒られるニャ」

「残念だが、我々は龍歴院の許可を得ている。邪魔は出来んよ」

 許可……?

 

 

 こんな事を許可する人がいるの……?

 

 

「ギルドナイトの後ろ盾か……」

 アランは小さくそう呟く。どういう意味かは分からない。

 

 

「……ミズキ、帰るぞ」

「え、で、でも!」

「こんな下らない事に付き合う必要はない。……お前は見なくていい道だ」

 そうだけど。

 

 

 だけど、ガムートを放って帰るなんて……。

 

 

 

「……それにな」

 ……それに?

 

 

 

「……言った筈だ、ガムートは強いと」

 アランがそう言うと同時に、視界の先に映る白色の何か。

 

 

 ───あれって、ガムートの幼体?!

 

 

「パゥゥッ!」

 親の鳴き声で心配になってしまったのか、ガムートの子供が一匹でやって来ていた。

 イビルジョーよりも遥かに小さくてひ弱な身体だけど、親を助ける為に必死な声を出しているのが分かる。

 

 

 助けたい……けど、アランはただ口角を釣り上げていた。

 

 

 ──ガムートは強い──

 

 そんなアランの言葉が脳裏で何度も繰り返される。

 

 

 

「グォォォァァアアアッ!!」

 幼体に気が付いたイビルジョーは、直ぐにでも倒せそうな小さな身体に狙いを定めた。

 大人のガムートはもう瀕死で動けない。きっとイビルジョーはそう思っていたんだと思う。

 

 きっと誰もがそう思っていた。

 

 

 ───だけど。

 

 

「パゥゥォォァァァァアアアアアッ!!」

 空気が震える。

 

 離れた位置からでも耳を塞ぎたくなるような咆哮を上げたのは、紛れもなく大人のガムートだった。

 

 

 

 ガムートはその長い鼻で、子供を襲おうとするイビルジョーの頭を掴み地面に叩き付ける。

 一瞬目を逸らした瞬間に地に伏せる事になったイビルジョーは、訳も分からないままにガムートに蹴られて地面転がった。

 

 

 

「ば、バカな?! イビルジョーが負けるだと?!」

「……絆のないお前達がガムートの親子の強い絆に勝てる訳がない。龍歴院の許可だかなんだか知らないが、この事はギルドに報告する。怖いギルドナイトに殺されたくなかったらとっとと消えろ」

 そう言うアランは、倒れるイビルジョーを睨み付ける。

 

 もう一度ガムートを襲うイビルジョーだけど、その牙に突き飛ばされて地面を転がった。

 その衝撃でコンテナは壊れて鎖が千切れる。

 

 青ざめるハンターさん達。鎖がなかったら彼らだってイビルジョーの捕食対象だ。

 

 

 

「帰るぞミズキ、ムツキ。……ここに居ても危ないだけだ」

「ガッテンニャ。煙玉とか使うニャ」

「あ、アラン……」

「ガムートなら大丈夫だ、信じろ」

 う、うん。きっとそれはそうなんだろうけど……。

 

 ここに居たら危ない事も分かってるんだけど……。

 

 

 

 

「グォォォァァアアア……ッ!!」

 あのイビルジョーはどうなってしまうのかなって、そんな事を思ってしまう。

 

 

 

 

 ───そんな私は、おかしいのかな?

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「前アランさんに頼まれていた件なんですけど、ポポの減少はひとまず治ったらしいです。時期に回復するという見解も出ました」

 あの日から数日後、家にウェインさんがやって来てそんな報告をしてくれた。

 

 

 どうやらあの雪山の出来事について、アランに言われて調べてくれたらしいです。ウェインさんは優しいなぁ。

 それにしても、ポポ達は大丈夫みたいでホッとしました。きっと、あのガムートが子供を守る為にポポ達も守ってくれてるんだと思う。

 

 素敵な共存関係だ。

 

 

 

「……さて、アランさんの言っていた通り。山の奥で無残に殺されたイビルジョーの死体が見つかりましたよ。脚に鎖のついたね」

 ただ、続いてウェインさんが告げた事実に私は少し俯く。

 

 アランはなんともない表情をしているけど、あのイビルジョーだってハンターさん達に利用されていて私は可哀想だと思ってしまった。

 

 いつかモガの森でイビルジョーを倒した時、これで良かったのかな? そんな事を思ったけど、あの時に感じた気持ちと似ている。

 

 

 

 本当にあれで良かったのかな……?

 

 

 

「龍歴院ってのは?」

「ベルナ村にある研究機関ですよ。ドンドルマやタンジアからも独立した機関なので、内部状勢はちょっと不明ですが。問い合わせた所、そんな許可は出していないとの事ですけど」

 あのハンターさん達は龍歴院で許可を得て行動してると言っていた。

 

 それじゃ、一体あの人達はなんだったんだろう。

 

 

 

「……捕まえておくべきだったか」

「イビルジョーとガムートが暴れまわってる中で悪党を捕まえるなんてのはハンターの仕事じゃないですよ。この事は僕達も調べますので、あまり気にしないで下さい。ミズキちゃんも、もう危ない事はしちゃダメだよ」

 ギルドに帰る前に、ウェインさんは笑顔でそう言ってくれた。

 

 うーん、危ない事かぁ。

 

 

「ねぇ、アラン」

「……どうした?」

「あのイビルジョーは……助けられなかったのかな?」

 私がそう言うと、アランは表情を曇らせる。

 

 

 嫌な事言っちゃってるのかな……私。

 

 

 

「……無理だ」

 ただ、アランは小さく端的に呟いた。

 

 

 少し寂しそうな表情をしていたのが、私の目に焼き付く。

 

 

 

 ……やっぱりアランは───

 

 

 

「……難しいね」

「……そうだな」

 ───イビルジョーという存在が憎いのかな?

 

 

 そんな事を思ってしまった。




さて、四章も半分切って大詰めなのです。物語が少しずつ動いていきますよ。


前回の更新で評価を頂き、総合二十七人の方に評価を頂いている事になりました。沢山の方によんで貰い、とても嬉しく思います。期待に応えられるようにしたいです。
三十人まであと三人。頑張りますよー!

感想評価お待ちしております!それではまた、次回お会い出来ると嬉しいです。次回はなんと……ムツキのお話!
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