モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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物語がだいぶ進んで来たところで申し訳ないのですが、今回閑話になりまして。時系列的には三章の中盤辺りのお話となります。
よって、ここ最近のミズキの成長前のお話となりますので違和感にご注意下さい。

それでは、本編をお楽しみ下さい。


爆鱗と新大陸からの外来種

「ふーっ。ご覧くださいハンターさん、今日は最高のクエスト日和ですね!」

 綺麗な金髪を後ろで二つ、三つ編みにした女性が私達に話し掛けてくる。

 

 

 碧眼も相まって私と姉妹みたいな彼女は、タンジアギルドの受付嬢───キャシーさんだ。

 

 彼女は言うや否やアランと私の前で両手を集会所の出口へと向ける。

 快晴という訳でもなく、かと言って雨が降っている訳でもないけれど。

 

 そもそも普段キャシーさんから話し掛けてくるなんて事がなかったから、私はとても不自然だなって思った。

 

 

「……何が目的だ」

「あ、あはは〜っ。目的だなんてそんな〜っ」

 目を逸らしながら、その目を泳がせるキャシーさん。かなり動揺している気がする。

 

 モガの村を離れて二年。ここタンジアに来て一年以上が経ちました。

 アランはモガの村に来る前タンジアに住んでいて、キャシーさんとは昔馴染みらしいです。

 

 

「……はぁ。お前が名指しで誰かにクエストを受けさせる時は、大概ろくでもない事になってる時だ」

「……そ、そんな事は〜っ、ないですよ〜? ただただ、アランさんなら全く知らないモンスターでも無事に捕獲出来るかな、なんて?」

 相変わらず目を逸らしながら、キャシーさんはそんな事を言った。

 

 溜め息を吐くアラン。私は「何かあったんですか?」とキャシーさんに尋ねる。

 

 

「よくぞ聞いてくれました!」

「俺は聞いてないぞ」

「実は、ですね───」

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「このモンスターのフンみたいな奴が、件のバゼルギウス(・・・・・・)ってモンスターの痕跡かニャ?」

 渓流の外れ。地面に落ちている甲殻の破片みたいな物を指差しながら、ムツキはそう言った。

 

 

 キャシーさんからアランが受けたクエストは、とあるモンスターの捕獲です。

 

 ただ、対象のモンスターが普通じゃないというか。

 本来渓流どころかこの大陸には存在しないモンスターという、珍しいクエストだ。

 

 

 

 なんでもそのモンスターは遠く離れた地方で捕獲されて、研究の為に船で輸送中、事故が起きて逃げ出してしまったらしい。

 名前はバゼルギウス。海の上からこんな所まで来てしまっているという事は、飛竜種なのかな。

 

 出来る限りは生きたまま捕獲する事が条件で、モンスターの事を色々知っているアランだからこそ、このクエストに抜擢されたんだと思う。

 私も色々と覚えるチャンスだし、ギルドの為にも頑張らないとね。

 

 

「そうだろうな。少なくとも俺が知っているモンスターにこんな痕跡を残すモンスターは居ない」

「きったねー痕跡だニャ。糞みたいニャ」

 自分の鼻を穿ってハナクソを出してから、それを指で弾いてそう言うムツキ。

 それ見て「ムツキも汚いよー」って注意しようとしたんだけど、次の瞬間目の前で炎が上がって私は驚いた。

 

 

「うわぁ?!」

「ニャぁぁ?! 爆発したニャ!! ボクのハナクソが爆発したニャ?!」

 そんなバカな。

 

 ただ、実際に複数の痕跡が粉々に砕けている。ムツキのハナクソが爆発した訳じゃないと思うから、この痕跡が爆発したみたいだ。

 

 

「ど、どうなってるの?」

「爆発物を周りに飛ばすモンスターは珍しくないがな……。しかしこれはモンスターの鱗のようだが」

 私を遠ざけながら、アランは離れて地面に散らばる鱗を観察する。

 

 

 私の拳よりも大きなソレは、鱗というよりは卵のように丸かった。

 ムツキが言ったみたいにモンスターのフンみたいでもあるかな。

 

 ただ、アラン曰くモンスターの痕跡だとしたらコレは鱗なんだとか。

 

 

「あんな爆発する糞をばら撒くモンスターは早く何とかした方が良いニャ」

「そんなに言う事かなぁ?」

「そんなに言う事だ。アレを見てみろ」

 他の痕跡を探して歩き回る事数分、アランが指差す木々の間に巨体が映る。

 

「アレって……ドボルベルク?!」

 ドボルベルク。

 背中にある大きな二つの瘤と、ハンマーみたいな尾先が特直的な獣竜種のモンスターだ。

 

 

 温和な性格だけれど、同じ獣竜種でもイビルジョー以上の巨躯を持っていて怒らせたらとても危険なモンスターです。

 ただ、そんな強力なモンスターの筈のドボルベルクが、私達の前で横倒しになっていた。

 

 

「死んでるニャ……」

 近付いても起きて来なくて、ムツキが確認するとドボルベルクは息をしていない。

 

 身体には何かに焼かれた後や、肉が抉られた後があちこちに刻まれている。

 それはまるで身体中を爆撃によって攻撃されたみたいな傷だった。

 

 

「もしかして……」

「もしかするな。アレを見てみろ」

 そう言うアランの指差す先には、ブルファンゴの群れの死体や薙ぎ倒された木々が悲惨な光景を作り出している。

 

 ドボルベルクもブルファンゴ達も、何かの爆発に巻き込まれたような傷が残っていた。

 ブルファンゴ達に限ってはそれ以外に外傷もない。あの鱗の爆発で死んでしまったんだと思う。周りにはそれらしい破片が転がっているし。

 

 渓流に縄張りを持っているモンスターの中に、こんな攻撃をするモンスターはいない筈だ。

 

 

 これ全部がバゼルギウスっていうモンスターの仕業なのかな?

 

 

「これを見てどう思う」

「うーん……ドボルベルクやファンゴ達は可哀想だけど。バゼルギウスも補食する為にしてる訳だから悪い事をしてる訳じゃない……と、思うかな」

「悪くはないな」

 つまり、良くもないという事。

 

 

 何か問題でもあるのかな?

 

 

 

「このクエストの本質を忘れてるぞ。確かに、バゼルギウスはただ補食行動の為にこの惨状を作り出したんだろう。……それでも流石にコレは生態系的には悪影響だが」

 目を細めてそう言ってから、アランは「ただ───」と付け加える。

 

 

「───ただ、バゼルギウスは本来この狩場どころか大陸にも居ない筈のモンスターだ。バゼルギウスが元居た場所ではどうなのか知らないが、この狩場ではこんな状況は異常だろう。これが続けば、渓流の生態系がどうなるか分かったものじゃない」

「出来上がってる生態系に外から別の生き物が混ざると、生態系は簡単にバランスを失うって訳だニャ?」

「そういう事だ。……モガの森にイビルジョーが現れた時の生態系の異常、アレと同じだな」

「そっか、元々渓流にはバゼルギウスは居なかったんだもんね……」

 二年前のモガの森と同じ事が起きているなら、それはとても大変な事だ。

 

 

 このまま放っておいたら、渓流の生態系は壊れてしまうかもしれない。それを阻止する為にはバゼルギウスを何とかするしかないって事で。

 そしてギルドとしては捕獲という形を取りたいというのが、今回のクエストの内容です。

 

 

「でも、生態系が壊れるって決まった訳じゃないよね? 渓流にはドボルベルクみたいな強いモンスターもいっぱい居るし、一匹しか居ないなら繁殖は出来ない筈だもん」

「確かに放っておいてもバゼルギウスはいつか居なくなるかもしれない。生物というのはある程度の数が居ないと種を保てないからな。フルフルやギギネブラのような単為生殖でもしない限りは大丈夫だろう」

「たんいせいしょくって何?」

「簡単に言えば、雄と雌が居なくても一匹で子孫を増やせる生き物の事だな」

 生命の神秘。

 

 

「もしバゼルギウスがそうだったら、渓流にバゼルギウスがどんどん増えていくって事?」

「そういう事になる。もしそうなれば、それこそ生態系が崩れていく事になるな」

 それは大変だ……。

 

 

「勿論その可能性は低いが。そうでなくても、一匹が一度補食行動をするだけでこのありさまだ。生態系がどうこうの以前の話で、バゼルギウスに触発されて他のモンスターまで暴れ出す自体になる前に───それこそ二年前のモガの森の二の舞になる前に問題を解決する必要がある」

「そうだね、渓流の生態系を守らないと!」

「……そうだな」

 どこか遠くを見ながら返事をするアラン。渓流の奥に向けられる視線の先には何があるんだろう。

 

 

「問題はそのバゼルギウスをどう見付けるか、だがな。そしてドボルベルクをも倒す狂暴性を見るに、見付けてもまともに戦うのは危険かもしれない」

 アランが知らない姿を見たらそのモンスターがバゼルギウスだって分かるけど、確かに戦うのは危ないかもしれない。

 

「うーん、どうしたら良いんだろう」

「まずはバゼルギウスを見付けて、どんなモンスターか調べる。方法はその後で考えても遅くないだろう」

 つまり、バゼルギウスを観察するって事だね。

 

 

「さて、生態も知らないモンスターをどう見付けるかだが。……この痕跡を辿って行くのが地味だが正解だろうな」

「この爆発する糞かニャ?」

 鱗だよ……?

 

 

「見た所コレはバゼルギウスの鱗で、コイツは攻撃に使う為に簡単に身体から剥がれるようになってるんだろう。空を飛んでるだけでもしかしたら鱗が落ちるかもしれない」

「バゼルギウスが飛んで行く先にこの鱗が落ちてるかもしれないって事?」

「少なくともこの鱗がある場所はバゼルギウスが移動したあとだという事になるからな。これしか手掛かりがないという事もあるが」

「こんな爆発する糞を空を飛ぶだけでばら撒くってとんでもなく迷惑な奴だニャ……」

 確かにとても危ないかもね。

 

 

 だからこそ、私達がなんとかしないと。

 

 

 そんな訳で周りに落ちている爆発する鱗を探しながら、渓流を歩く事数時間。

 川辺の木々の間で急に止まったかと思えば、アランは無言で私を手招きした。

 

 見た事もない大きな飛竜が、川の水を飲んでいる姿が視界に映る。

 

 

 灰色の外殻に、胸の辺りから尻尾までを黒くて大きな鱗が沢山並んでいるのが特徴的だ。

 アレが渓流の至る所に落ちていた爆発する鱗なのだろうか。水を飲み終わった飛竜の首元からその鱗が抜け落ちて、地面に転がる。

 

 

「ゴッツイモンスターだニャ」

 ムツキの言う通り、見た目はガッツリした感じ。身体に比べて小さな頭も少し印象的だった。

 グラビモスっていうモンスターに少し似てるかもしれない。

 

 

「水を飲む時にあまり警戒していないのは、それだけ強力なモンスターという事だろうな」

 私がそんな事を考えている間に、アランは冷静にバゼルギウス(・・・・・・)を観察している。

 そうなると、あまり正面から戦うのは危険だよね。どうしたものか。

 

 

 そう思っていたら、今度は突然アランが私の頭を押さえつけた。

 同時に風圧が木の葉や砂を巻き上げて髪が揺れる。

 

 顔を上げて視界に入ったのは、緑色の体色をした飛竜だった。

 

 

「リオレイア───」

「ヴァァゥッ!!」

 地面に降り立った一匹の飛竜───雌火竜リオレイアは、私達に背を向けてバゼルギウス向けて咆哮を放つ。

 この辺りを縄張りにしているリオレイアかもしれない。威嚇するような動作に、バゼルギウスはゆっくりと身体を向けた。

 

 

「少し離れるぞ」

 そう言ってアランは私達を下がらせる。

 同時にリオレイアは口を開いて、バゼルギウスの足元に火球を三発放った。

 

「ウォォゥゥ……ッ」

 巨体が揺れるけれど、バゼルギウスは逃げ出さずにリオレイアを睨み付ける。

 リオレイアも引かずに地面を蹴った。接近して、体当たり。

 

 二匹の竜がぶつかり合って、地面が揺れる。

 体格はバゼルギウスの方が大きいんだけど、リオレイアも自慢の脚力で押し合いには負けていなかった。

 

 ただ、突然二匹の足元で爆発が起きてリオレイアはバランスを崩す。

 その瞬間を見逃さずに、バゼルギウスはその場で身体を引いて体当たりを仕掛けた。

 

 さらにリオレイアを爆発が襲う。

 目を凝らすと、バゼルギウスの黒い鱗が剥がれ落ちて地面で爆発しているのが見えた。

 

 

 

「アレが痕跡の正体?」

「そのようだな。アレに近付くのは至難の技だが、あの分だと爆発する鱗を消費しきった時が攻め時になる。……問題はどの程度の速さで鱗を生成されるかだが」

 黒い鱗が取れた場所には管状の器官が見えて、そこから液体のような物が垂れて固まっていくのが見える。

 アレが爆発する鱗になるとしたら、結構な速さで鱗を作ってる事になるんだけど。

 

 

 

「グォゥゥッ……ヴァァアアウッ!」

 そうこう話している間に、リオレイアは地面を蹴って身体を浮かせて一回転。

 毒の棘を持つ尻尾を叩き付ける大技を、再びタックルを仕掛けるバゼルギウスに放った。

 

 離れている私達まで届く程の衝撃が駆け抜ける。

 仰け反るバゼルギウスだけど、リオレイアもまた爆撃を喰らってしまって地面に崩れ落ちた。

 

 

 このままじゃリオレイアまで犠牲になってしまうかもしれない。無意識に足が前に出てしまうけれど、ここで本当に出て行って良いのか考える。

 

 自然の縄張り争いに私が関与して良いのかな?

 

 

 ──ただ、バゼルギウスは本来この狩場どころか大陸にも居ない筈のモンスターだ──

 思い出したのはそんな言葉。そうだ、元々バゼルギウスはこの自然に居るモンスターじゃないんだもんね。

 

 

 ───だったら。

 

 

「アラン、リオレイアを助けよう! バゼルギウスには悪いけど、ここはあの子の世界じゃないから」

「……そうだな。間違っていないが、このままリオレイアにもう少し弱らせて貰う選択肢もある。それでもお前はリオレイアを助けるか?」

「うん……っ!」

 強く頷く。

 

 

 だってそれが、私の進みたい道だから。

 

 

「とりあえず閃光玉使うニャ?」

「いや、それは取っておくから俺に渡してくれ。あと、こやし玉はあるな?」

 ムツキから閃光玉を貰うと、同時にこやし玉を要求するアラン。

 

「今日は糞に縁がある日だニャ……。勿論、用意してあるニャ」

 こやし玉はモンスターのフンを調合して作られた、モンスターが嫌がる匂いを発生させるアイテムだ。

 そんな物で何をするんだろうと思ったけど、アランはこやし玉を受け取ると走ってリオレイアに近付いて行ってしまう。

 

 そして私が手を伸ばすよりも先に、素早くリオレイアの足元を滑り抜けた。

 

 

「うぇ?! アラン?!」

 同時にリオレイアの頭の先にこやし玉を叩き付けるアラン。

 茶色い煙と一緒に私の居る場所まで異臭が放たれる。

 

 あの場所に居るアランやバゼルギウスは言わずもがな、鼻の辺りに臭いの源が直撃したリオレイアがどんな心境かは考えるだけで察する事が出来た。

 

 

 

「なんか嫌な事思い出したニャ」

 ババコンガの屁やフンはとても臭かったなぁ……。

 

 

 いつかの事を思い出している間に、こやし玉を受けたリオレイアはたまらなくなってその場から飛び去ってしまう。

 視界に映るのは、戦いに横槍を入れてきたアランを睨み付けるバゼルギウスと武器を構えるアラン。

 

 私達も急いで武器を構えながら前に出て、アランに「どうしたら良いの?」と聞いた。

 

 

「さぁな、何せ観察が不十分だ」

 対するアランの返事はこうで、冷や汗を流す私の前でバゼルギウスが咆哮を上げる。

 

 そんな中でもバゼルギウスの胸元や尻尾から爆発する鱗が地面に落としていた。

 踏んだり蹴ってしまったりしたら爆発してしまうだろうから、鱗が落ちている所には立たない方が良いかもしれない。

 

 

 でも殆ど身体の下部分を覆うように鱗があるから、懐に潜り込むと真上から鱗が降ってくる訳で。

 これじゃまともに攻撃出来ない気がする。

 

 

「ヴォゥォォ……ッ!!」

 考えている間に、バゼルギウスは翼を広げて突進してきた。

 あまり動きは早くなくて私達は難なく攻撃を避けるんだけど、通った道に鱗が落ちていて足場が突然半分になる。

 

 

「どんだけ撒き散らかすんだニャ?!」

「ミズキ、あの速さなら逃げられるな?」

「え? あーと、うん。大丈夫だと思うけど」

 ちょっと嫌な予感がするなぁ……。

 

 

「囮になれ。俺とムツキが攻撃する」

「ですよねー」

 アランはボウガンで、ムツキもブーメランや爆弾があるけど私は遠くから攻撃出来ないからこうなるのは必然だった。

 

「来るぞ」

「もう自棄だぁ!」

 バゼルギウスの目の前を横切るように走る。当然のように私に狙いを定めたバゼルギウスは、さっきみたいに翼を広げて突進してきた。

 

 

 早くないとは言っても、流石に全力で走っても同じ速度にはならないから私はアラン達と逆方向に逃げる。

 その間に二人が横からバゼルギウスに攻撃して、私から意識が反れたらまた囮になる為にバゼルギウスの前に。

 

 それを何度か続けると、痺れを切らしたのかバゼルギウスは一度頭を持ち上げてさっきとは別の行動をしだした。

 何をして来るか分からないから、直ぐに動けるように姿勢を低くする。

 

 

「ブレスだ、避けろ!」

 アランが言ったと同時に、バゼルギウスは口元から火炎を吐き出した。

 リオレイアみたいな火球じゃなくて、口から炎を漏らす感じのブレス。アランの忠告もあって、私は難なくそれを交わす。

 

 

「ブレスもなんか鱗の爆発みたい……っ」

 鱗を作ってる液体と何か関係があるのかな?

 

 

 そんな事を思っていると、ふとバゼルギウスの異変に気が着いた。

 喉元や尻尾の下にあった黒い鱗が殆どなくなっている。攻撃のチャンス。

 

「……やぁっ!」

 私はブレスを吐き終わったバゼルギウスに剣を叩き付けた。目の前で管から出て来た液体が固まってあの爆発する鱗を形作っていく。

 

 

 その速度は思ったより速くて、この攻撃のチャンスもあまり長くは続かなそうだった。

 

 

 それでもアランとなんとか攻撃している内に、バゼルギウスは咆哮を上げる。

 私達が耳を塞いでいる内に翼を羽ばたかせると、そのまま上空へと飛んでしまった。

 

 

「逃げられちゃった?」

「いや、攻撃してくるな。……また少し囮になれ」

 近くの岩場に向かいながらそんな事を言うアラン。

 

 空を飛んで攻撃してくるって、あのブレスを上から吐いて来たりするのだろうか。

 アランが何を考えてるか分からないけれど、とりあえずバゼルギウスの攻撃を見極める為に頭を上げる。

 

 視界に映ったのは、空中で体を揺らながら飛んで───あの爆発する黒い鱗を上から落としながら私を追いかけて来るバゼルギウスだった。

 

 

 

「嘘ぉぉおおお?!」

 まさかの空中からの爆撃に冷や汗を流しながら走る。

 後ろから爆発音が聞こえるのがとても心臓に悪い。

 

「ミズキ、こっちに走れ!」

 唐突にそんな声が聞こえて、アランが声を上げる方向を見た。

 大きな岩を背に立っている彼の元へ、理由は分からないけど走っていく。

 

 ふと後ろを確認すると、バゼルギウスの飛行高度がどんどん低くなって私に近付いて来るのが見えた。

 

 

「うわぁぁ?!」

「しゃがめ!!」

 突然の衝撃。アランに押し倒されたかと思えば、視界の端で閃光が放たれる。

 さっき使わなかった閃光玉を投げたのはアランで───空中で視界を奪われたバゼルギウスはバランスを保てずにそのまま直進して、アランが背にしていた大きな岩に自分から突っ込んでしまった。

 

 

 轟音。

 頑丈そうな岩を半壊させて、バゼルギウスはなんとか止まる。

 

 流石の巨体でも空から岩に突っ込んだダメージは相当なものだったのか、よろけながら振り向くバゼルギウスは突然───身体を痙攣させて動きを止めた。

 

 

「シビレ罠なんていつの間に……」

「ミズキが囮になってる間にな」

 酷い。

 

 そう言いながらアランは捕獲用麻酔弾を放って、バゼルギウスはゆっくりと地面に倒れ込む。

 これで捕獲完了。後はギルドの人が回収してくれれば事件は解決だ。

 

 

 

「でもシビレ罠を仕掛けた所が大きな岩で、バゼルギウスが丁度よく空から突撃してくるなんて……ちょっと偶然に助けられちゃったかも?」

「いや、勿論狙ってシビレ罠を置いたぞ」

 頭を掻きながら私がそう言うと、アランは当然のようにそんな言葉を落とす。

 

 ……ドユコト?

 

 

「あの鱗を攻撃に使うモンスターなら、空を飛んで上から鱗を降らせる事くらいはするだろうと思ってな。ブルファンゴの死体を覚えているか?」

「うん。見た感じ爆撃以外の外傷はなかったよね」

「そうだ。つまり直接攻撃以外に鱗だけを相手にぶつける攻撃手段を持っていると仮定出来る」

 そこまで考えるなんて、なんか凄いなぁ……。

 

 

「全く無知のモンスターと戦う時はどれだけ相手を観察して、どんな攻撃を仕掛けてくるかを考える事が重要だ。勿論、それはモンスターだけじゃなくて痕跡からも推測する事が出来る。……これは、覚えておいて損はない」

「うん、そうだね。ちゃんとそこまで考えられるか分からないけど、次からは色々考えてみる!」

 知らないモンスターだけじゃなくて、知ってるモンスターでもちゃんと観察すると何か見えるかもしれないしね。

 

 

「それに、さっきみたいに自然を利用するのも良い手だな。あの岩に直撃させられたお陰で良いダメージが入った」

 今日は良い事を学べたなって、そんな事を思った。

 

 

 

「んー……ねぇ、アラン」

「なんだ?」

 ただ、私は一つだけ気になってアランに話しかける。

 

 気にしたらいけない事なのかもしれないけれど、気になってしまったし。

 それに、これは二年前モガの森で感じた事と同じ感情だったから。

 

 

「このバゼルギウスはどうなっちゃうのかな? 本当にこの渓流に住んでいたら行けなかったのかな?」

 確かに、本来バゼルギウスは渓流どころかこの大陸にすら居ない筈のモンスターだ。

 だけれどそれを私達人間が理由で連れて来てしまって、バゼルギウス自身はただ生きていたいだけだったんじゃないかなって思ってしまう。

 

 

 あの時のイビルジョーだって、ただ生きたかっただけだったのかもしれないし。

 

 

 あの時から、本当にこれで良かったのかなって。ずっと思っていたんだ。

 

 

 

「コイツは多分、ギルドの研究所に連れてかれて散々な目に合うだろうな。……きっと、命だって奪われる」

「そんな……」

 なんだかそれは、寂しいなって。

 

 きっと、嫌だろうから。だからこんな所まで逃げて来た筈。

 ただ生きていたかったっていう、単純な事なんだと思う。

 

 

「それをどう考えるかはお前次第だ。どの道ここでコイツを逃しても、状況は悪い方向にしか行かない。……勿論、例えばコイツを元居た場所に返す事が出来たとしてもだ」

 渓流の生態系がおかしくなってしまうだけで、このバゼルギウスを生かそうとする事はただのエゴなのかもしれない。

 種として生態系に入り込む事も出来なければ、存在するだけでその生態系を破壊してしまうかもしれないんだ。

 

 もし繁殖しようものなら、本当に大変な事になってしまう。

 

 

 モガの森のイビルジョーもだけど、生態系の外から来たモンスターは簡単にその生態系を壊してしまうんだ。

 

 本来は少しずつ変わっていく生態系を、私達人間は簡単に変えてしまう力があるのかもしれない。

 そんな事を考えると、なんだか少し怖く思う。

 

 

「どう捉えるかは、お前次第だ。勿論コイツの命だって無駄に奪う訳じゃない。この命を糧にするちゃんとした理由がある。……勿論、この渓流の生態系を守るという理由もな」

「……そうだね」

「難しいか?」

「うーん、ちょっと納得出来ないかも」

 それでも、私には今答えがないから。

 

 

「いつかお前の答えを出せば良い。今は、この命を糧に前に進め」

「……うん。そうだね」

 いつか、ちゃんと私の答えが出たら良いなって。そう思った。

 

 

 

 あなたの命を糧に、私達は前に進みます。

 

 

 

 きっと、あのイビルジョーだって───

 

 

 

「……私の答え、かぁ」

 ───生きていたかっただけなのになって。




ワールド要素を一話だけでも良いから詰め込んでみたかっただけですね。
地形利用や、痕跡を集めながら対象を探すってのはあの自然に生きる狩人として重要だって思います。

そういえばワールドに出て来た筆頭ルーキーに似ている青年、マジで筆頭ルーキーだという事らしいですね。
となるとあのゴア・マガラの時間からワールドまでの時間がだいぶ絞られて来ます。するとどうでしょう、このお話多分矛盾してくるというか、この時期にバゼルギウスを旧大陸に持っていくのは不可能なんじゃないかって話。……まぁ、言い訳くらい考えた方が良さそうですね。


ところで、とってもステキなファンアートを頂いたので紹介させて頂きますり

【挿絵表示】


とってもかっこかわいいミズキちゃんをかにかまさんに描いて頂きました。感謝です。とてもありがとうございます。


さてさて、四章も残すところ三話となりました。もう少しだけお付き合い頂けると幸いです。
そして、五章も楽しんで頂けるように誠意制作中ですあります。公開は九月とかになるんですけどね。

それでは、また次回もお会いできると幸いです。読了ありがとうございました!!




※2021年4月28日
 モンスターハンターライズにてバゼルギウスが旧大陸に上陸していました。公式設定と矛盾が生じていますが現状解決策が見つからないので目を瞑って頂けるとありがたいです。

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