モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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人と竜の物語

 彼の為なら、良いかなって。

 

 

 あなたのおかげで私は、とても素敵な答えを見つける事が出来た。

 だから、私はあなたにも答えを見つけて欲しい。

 

 

 前を向いて。

 

 

 きっとあなたなら、見つけられるよ。

 

 

 

 だから、あなたの為なら良いかなって。

 

 

 

「もう、離さない」

 だけど、彼は私を片手で抱き締めてそう言う。

 

 

 信じられなくて、逆に動けなくて。

 

 

 

「俺の答えは見つかったよ、ヨゾラ───」

「グルァァァァアアアアアッ!!!」

 ───鮮血が散った。

 

 

 何が起きたか分からない。

 

 

 苦痛の表情を浮かべるアランは、それでも真っ直ぐに私を見ている。

 

 

 

「……あ、アラン!!!」

 どうして……?

 

 

「───ぐぅ……ぁっ!」

 アランの右腕は怒隻慧の顎に挟まれていて、今にも食い千切られる寸前だった。

 血飛沫と悲痛の声が私の頭を真っ白にする。

 

 

 どうして。

 

 

「……もう、失わない。右腕くらいくれてやる。大切なものを抱き寄せる分の腕があれば十分だ」

 アランはそう言って、怒隻慧を睨み付けた。

 

 なんで……私なんかの為に。

 

 

 大切なものって何……?

 

 

 アランにとって大切なもの……?

 

 

 

「ミズキ……好きだ」

「え───」

「グギゥァォァァアアアッ?!」

 突然、怒隻慧は口を広げて悲鳴をあげる。

 

 垂れ下がる彼の右腕。食い千切られてはいないけれど、とてもじゃないけど直視出来ない。

 一方で怒隻慧は口の中から血を吹き出しながら仰け反っていた。

 

 地面に粉々になって砕けた何かが落ちる。

 

 

 アレは、アランが使っていた剣?

 

 

 

「……っ、逃げるぞ!」

 右腕を抑えながら、アランはそう口を開いた。

 

 激痛に歪む表情が見ていられない。私のせいで、私のせいでアランの腕が……。

 

 

 

「ちょ、嘘でしょ?!」

 シノアさんが悲鳴をあげる。

 

 彼女の視線の先には、怒隻慧ではなく───もう一匹のイビルジョー。

 この森林には何匹もイビルジョーが居るんだ。こうなってもおかしくないけれど、なんでこんな時に。

 

 

「な、何これ……」

「さ、流石にこれはもう無理ニャ」

 しかし、今度はアーシェさんとムツキが声を落とす。

 二人の視線の先には───さらに二匹目のイビルジョー。

 

 

 

「何これ……」

 こんな事って。

 

 

 アランには生きて欲しかった。

 

 それなのに、アランは私を庇って大怪我して。

 周りにはイビルジョーが集まって来て、結局誰も生きて帰れないかもしれない。

 

 

 答えを見付けたのに。

 

 命と向き合うって決めたのに。

 

 

 アランの答えを探す手伝いがしたかったのに。

 

 

 

 

「大丈夫だ」

 ただ、アランは小さくそう呟く。

 

「閃光玉を使え! 怒隻慧以外の二匹に当たれば良い!」

 私を左腕で抱きしめたまま、彼はムツキに向かって声を上げた。

 イビルジョー達の視力を潰せば、怒隻慧だけに集中する事が出来る。

 

 その間に逃げるんだって、アランはそう言った。

 

 

 逃げて良いの……?

 

 

 

 アランはそれで良いの……?

 

 

 

「流石にこれは……私達の負けか。アーシェ、逃げるよ」

「援護する!」

 イビルジョーに囲まれていたシノアさんは、アーシェさんの援護もあってなんとか離脱する。

 途端、閃光玉が視界を焼いた。光を奪われたイビルジョー達は、一心不乱に暴れ回る。

 

 

 怖いんだ、きっと。

 

 

「今の内に!!」

 誰かが叫んで。

 

 

「グォァァッ!!」

 暴れ回るイビルジョーの脇を私達は走った。

 ただ必至に、生きる為に。

 

 

「二人共!!」

 シノアさんの声で振り向くと、視力を奪われた筈のイビルジョーが私達に牙を向けている。

 闇雲な攻撃。それでもその鋭い牙は私達を捉えていて。

 

「……っ、ミズキ!」

 アランが私を押し倒すように倒れこんだ。

 

「アラン?!」

 そんな事したらアランが───

 

 

 

 視界に映る黒。

 アランを噛み砕こうと迫るイビルジョーの頭を、他の黒が連れ去る。

 

 

「グゥァルァァァアアッ!」

 ───怒隻慧?

 

 私達を襲おうとしたイビルジョーを横からその大顎で砕いたのは、怒隻慧だった。

 私達を助けた訳じゃないと思う。ただ、目の前の餌にありついただけ?

 

 

 本当はあなたの事を知りたかった。

 

 

 

「……っ、今だ!!」

 立ち上がって、また走る。

 

 私達はボロボロになりながらも、なんとか狩場を離脱する事が出来た。

 

 

 

 未だに森林を覆い尽くす黒。

 

 そんな中で、禍々しい雄叫びが響く。

 

 

 

「───クックククク、グォゥルァァァアアアッ!!」

 私達は───私は、きっと負けてしまったんだ。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 あの日から二日。

 

 

「食い千切られなかったのが奇跡だろう。まぁ、ちゃんと動くかどうかは保証できないがな」

 腕を組みながら、リーゲルさんは呆れたような口調でそう言う。

 

 二日前。タンジアに戻って直ぐにアランは倒れてしまって、リーゲルさんが丸一日掛けて治療をしてくれました。

 酷い状態だった彼の腕を、動くかは分からないけど切断しなくて良い所まで処置して貰えてホッとする。

 

 それでも、多分もう剣は握れないだろうって。

 リーゲルさんは義手で私の剣を持つと、そんな事を言いながら腕を振った。

 

 

 剣は簡単に抜けて、片方の手に受け止められる。

 

 

「こんな感じで、力は入らないだろうな。もし俺の義手の技術を使っても一緒だ」

 リーゲルさんは私に剣を返しながらそう言った。

 ふとアランの表情を見てみると、それでも彼は何故か笑っている。

 

 

「え、えと……大丈夫?」

 治療が終わって一日は絶対安静で、この二日間会う事が出来なかったから。アランの事がとても心配だった。

 最悪の状態にはならなかったけれど、とても良い状況とは言えない。もう昔みたいには戦えないだろうって、リーゲルさんはそう言う。

 

「あぁ、大丈夫だ」

 それでも彼は微笑んで、私に無事な左手を伸ばして来た。

 私はその手を掴んで彼を真っ直ぐに見る。

 

 

 どうして、笑っていられるのかな。

 

 

「私のせい……だよね」

「違うさ」

 彼は短くそう答えた。

 

 

 

 あなたは優しいもんね。

 

 

 

「俺を助けてくれたのは……お前だ、ミズキ」

「違う、私はアランの邪魔をしただけで───」

「そんな事はない」

 大きな手が伸びて、私の髪を撫でる。暖かい感触が場違いにも嬉しくて。

 

 

「なんで……?」

「俺は、また大切なものを失ったと思ったんだ。でも、お前は生きていてくれた。俺の前に立って、大切なものを思い出させてくれた」

「大切なもの?」

 私がそう聞くと、アランは短く頷いた。

 

 

 大切なものって何だろう。

 私には分からない。

 

 

 

 アランは怒隻慧と決着が付けたかった筈だ。

 

 怒りに呑まれていたとしても、戦いたかった筈。

 そうして怒隻慧のいのちと向き合って欲しいと思っていたのに、私は結局邪魔をしてしまったんだと思う。

 

 どうしたら良いか分からなかったけれど、きっと私は間違えてしまったんだ。

 何か他に方法があった筈。私のせいで、アランは怒隻慧と向き合えなくなってしまった───それなのに。

 

 

 

「アランはこれで良かったの……?」

「……あぁ。もう良いんだ」

 気の抜けたような笑顔で、彼はそう言う。

 そんな筈ないのに。それでも彼は、満足そうな表情をしていた。

 

 

「怒隻慧。……極限化していたらしいな」

「攻撃が全部弾かれてたニャ。あんなに身体が硬くなる事があるのかニャ?」

 リーゲルさんの言葉にムツキが返す。

 

 私はティガレックスと戦って経験してるけど、ムツキにとっては初めての経験だった。

 怒隻慧はいつから狂竜ウイルスに感染していたんだろう。今となっては確認する事も出来ない。

 

 

「モンスターの生きる力ってのは恐ろしいもんだ」

「あの、怒隻慧の行方は?」

「───それは僕がお答えしましょーう」

 リーゲルさんに質問すると、突然部屋に入って来たウェインさんが口を開いた。

 その隣にはアキラさんも居る。アランのお見舞いに来てくれたのかな。

 

 

「おいおい、怪我人の部屋にわんさかと」

「俺は大丈夫ですよ」

 リーゲルの言葉にアランはそう返した。

 

 アランが大丈夫なら、私も良いけど……。

 

 

「あんやー、しかしこっ酷くやられましたねぇ。生きてるのが不思議ですよ本当に。というか、腕の一本くらいなくなってる物だと思ってました」

「残念だったな。この通りまだ繋がってる」

 どうなるか分からないが、と付け加えて。アランは皮肉そうに笑う。

 

 ウェインさんはそんな彼を見て目を細めると、ため息を吐いてから話を続けた。

 

 

「怒隻慧ですが、また姿を眩ましました。報告を受けてアッキーが探したんですが、見付からず」

 また見失ってしまったという事は、もう怒隻慧には会えないかもしれないという事で。

 本当にこれで良かったのかなって気持ちが、私の中で大きくなる。

 

 アランは本当はどう思ってるのかな。

 

 

「まったく、厄介な奴よね。……リーゲルさん、アランちゃんを治療してくれた事、礼を言うわ」

「食い千切られなかったのは運が良かっただけだ。怒隻慧が手加減したか……なんて、思ったな」

 怒隻慧が手加減……。

 

 

「……それで、イビルジョーは?」

 まるで怒隻慧には興味がないというように、アランは森林に出現したイビルジョーの話しに切り替えた。

 ウェインさんは一瞬目を見開いたけど、頭を少し掻いてから口を開く。

 

「ギルドの報告では全滅ですね。タンジアのハンターは優秀だ。……特にあのシノア・ネグレスタって娘。アランさんを運んで来た後も相棒の娘とイビルジョーを二頭も討伐して計三頭連続狩猟とか化け物かよー、ハッハッ。ラージャンの生まれ変わりかな? そんな彼女がギルドナイトに推薦されたのはまた別の話として」

 シノアさんが聞いたらとても怒りそうだ。

 

 

「怒隻慧が他のイビルジョーを積極的に殺していた、なんて報告が上がってるんですよね。お陰でイビルジョーの掃討が容易だったなんて、ギルドは口が裂けても言えませんが事実です」

 初めに現れた時や、私達が逃げる時も怒隻慧はイビルジョーを攻撃している。

 きっと怒隻慧が生きる為にそうしただけで、私達を助けようとした訳じゃない筈だけど。

 

 それでも、私達は怒隻慧に助けられてしまったのかもしれない。

 

 

「さて、ここからが裏話。……イビルジョー達を影で使役していた大馬鹿を何人か捉えました。供述によれば、全員同じ目的を持った同じ組織です」

「……カルラか」

「誰が仕切ってるかはさておき、そういう組織がある事は確定しました。勿論、ギルド的には重罪なのでそれなり(・・・・)の処罰が降る訳ですけども。……仕切ってる人間は捕まえられませんでしたね。犯人共も口を割りませんし」

 イビルジョー達を操っている組織。

 

 いつか雪山で、彼等は革命を起こすと言っていた。

 イビルジョーを森林に放って生態系を壊す事が革命と言われても、私は理解出来ない。

 

 

「モンスターをこの世から消したい、か」

 リーゲルさんがそう呟く。

 

「現実的じゃないわよね」

「そうでもないかもしれないがな」

 否定するアキラさんに、リーゲルさんは他所を見ながらそんな事を口にした。

 

 

 モンスターをこの世界から居なくする事が出来るって、リーゲルさんはそう言うのかな?

 

 

「生態系ってのは、本当に絶妙なバランスの上で出来上がってるんだ。モンスターを世界から全て消すなんてのは無茶な話だが、俺達人間の身勝手である種の動物が絶滅するなんてのは無くはない話だろう」

 そうかもしれないけど……。

 

 

「やろうと思えば、本当に簡単に生態系のバランスは崩れる。肉食のモンスターが消えた地域では草食のモンスターが増えて植物が消えていく、そうすると草食のモンスターも数を減らしていく。……なに、よくある話さ」

 リーゲルさんはそう言うと立ち上がって、扉のまで歩いていく。

 

 難しい話かもしれないけれど、ちゃんと考えないといけない話だなって。そんな事を思った。

 

 

「俺はまた怒隻慧の居場所を探す旅に出る。会えたらまた会おうか。……アラン、お前が怒隻慧に今後どう接するのかはお前の勝手だ。また奴を追うのも良い、もう関わらないのも良い。……お前の道を歩け」

 そうとだけ言って、リーゲルさんは部屋を後にする。

 

 静けさが残った部屋で口を開いたのは、アキラさんだった。

 

 

「……アランちゃんは怒隻慧を諦める訳?」

「アキラさんには、申し訳ないと思ってます」

 真っ直ぐにアキラさんを見て、アランは口を開く。

 

 アキラさんの妹さん──ヨゾラさん──は、アランと一緒に怒隻慧と戦って殺されてしまった。

 アランはその事にとても責任を感じていた筈で、だからこそ怒隻慧を追っていたのに。

 

 

 どうして……?

 

 

 

「何度も大切なものを失って。また失いそうになって、やっと何が大切か分かったんです。……自分が最低な奴だという事くらい分かってます。アキラさんに殺されても文句は言えません」

「……なら殺してやろうか」

 低い声でアキラさんはそう言う。

 

 アランに近付くアキラさんを見て、驚いて止めようとする私をウェインさんが止めてきた。

 このままじゃアランが酷い目に遭いそうなのに。

 

 

「……俺は、彼女に手を伸ばせなかった」

「今は?」

「もう、離さない」

 短いやり取りをして、アキラさんは何もせずに彼に背を向ける。

 そして満足そうな表情で天井を見ると、虚ろげに口を開いた。

 

 

「きっと、ヨゾラが守ってくれたのよ。……大切にしなさい、あの子もきっとそう願ってるわ」

「……アキラさんは?」

「私はまだ奴を追うわよ。それしかやる事がないもの」

 それだけ告げると、アキラさんは部屋を出ていく。

 ウェインさんも「また何かあったら来ますね」と続いて、部屋は私とムツキとアランだけになった。

 

 

 

 とても静かになってしまって。

 

 

「……。……ジルソンさん達が心配してたよ」

 何を話したら良いか分からなくて。

 

 私はそんな事をポツリと呟く。

 

 

「そうか。それは、悪い事をしたかもな」

 彼は優しくそう答えてくれた。

 

 

 私は何をしてるんだろう。私のせいでこんな事になったのに。本当に、何をしてるんだ。

 

 

「アランは優しいね」

「そうかもな」

 短く笑う彼は何を見てるんだろう。

 

 本当に、これで良かったの?

 

 

 

「私、アランと会えて良かった。自分の中でとても大切な答えを見つける事が出来たから。……でもアランは、私のせいで自分の答えに向き合えなくなっちゃったよね。私のせいで───」

「何度も言わせるな」

 彼の手が私の口を塞いだ。唇に当てられた人差し指が、そっと離される。

 

「アラン……?」

「俺も、ミズキと会えて良かった」

 そして、アランはゆっくりと口を開いた。

 

 

 なんだかちゃんと聞かないといけない気がして、私は彼の言葉に耳を傾ける。

 

 

「俺の中で忘れていた答えを思い出させてくれたのはお前だ。あの時には戻れなくても、また別の形で俺の答えを探せるようになったのは、ミズキのおかげなんだ」

「私の……?」

 私はアランに何が出来ただろうか。思い起こす限りでは、私がアランに出来た事は何もなかった。

 

 

 

 モンスターが可哀想だってわがままを言って、助けてあげてなんて身勝手な事を言って。

 挙句最低な事をした私を救ってくれたのはアランで、そんな彼に無断で付いて行ったり。

 

 一人で勝手に行動して迷惑を掛けた。狩りの時もいっぱい迷惑を掛けた。私はアランに貰ってばかりだ。

 

 

 アランはとっても素敵な人だよ。私なんかが隣にいて、色んな事を教えてもらえてるのはきっとアランがとても優しいからだと思う。

 

 

 本当はもっとアランと一緒に居たい。

 だけど、きっと私は彼にとって邪魔なんだ。

 

 

 私はアランの側に居たらダメなんだよ。

 それを言おうとしたら、とても胸が苦しくなる。

 

 ダメだって分かってるのに、それでも私はアランと居たかった。

 彼の隣はとても心地良い。彼の隣で寝た時、とても怖い夢を見た私を抱きしめてくれた事知ってる。

 

 モンスターの事だけじゃない。私はアランに沢山貰ってるんだ。

 

 

 でもきっとそんなの許されない。だって、私は───

 

 

「ミズキ」

「───っ?!」

 突然、私の唇がまた塞がれる。

 

 

 ただ、今度は人差し指じゃなくて───アランの唇で。

 

 

 片手で私の頭を寄せた彼の唇が、私の唇をゆっくりと包み込んだ。

 

 彼の顔がとても近い。あたまが熱くなる。

 理解が追い付かなくて、どうしてか直ぐに離れてしまう彼の唇が恋しくて。

 

 

「こうでもしないと多分気持ちは伝わらないだろうな」

「ぇ、あ、え、え、ア……ラン?」

 顔が熱い。

 

 顔だけじゃなくて全身熱い。

 

 

 アランの顔が直視出来なくて、私は彼から眼を背けた。

 少し間を置いてから、彼の手が私の顔に触れてゆっくりと正面に向けられる。

 

 

 

 待って、そんなに真っ直ぐ見れないよ。

 

 

 

 だって、だって、そんなの信じられない。

 

 

 

 冗談だったら悲しいよ。だって、そんな事思いもしなかったもん。

 

 

 

 アランが素敵な人だってくらい知ってるよ。私なんかが釣り合わないなんて事もっと知ってるよ。

 

 だからそんな事考えもしなかった。思いもしなかった。

 

 

「好きだ。異性として、お前がとても大切なんだ」

 そんな言葉が彼の口から漏れて。

 

 

 力が抜けて、その場に座り込む。

 

 

 

 あぁ……そっか。そうなんだ。

 

 

 

 

 私、アランと一緒に居ても良いんだ。

 

 

 

「み、ミズキ?!」

「あ、あはは……えへへ。……っぅ、あれ?」

 瞳から大粒の涙が流れて床を濡らす。どうして涙が出てくるのか、分からない。

 

「い、嫌だったのか……? すまない……お前の気持ちも考えずに……」

「違う……よ。そ、そうじゃなくて。なんか、実感、沸かなくて」

 想い人だとか、好きな人だとか、私には関係ないんだと思ってた。

 

 

 いつか私の事を好きって言ってくれる人が現れるのかな?

 そんな事は考えたりしていたけれど。

 

 きっとそれはアランじゃないし、アランはもっと素敵な人と一緒になるんだと思っていて。

 

 

 

 とても大切なこの時間。

 

 

 

 アランと歩いてきたこの道は、いつかどこかで消えてしまうんだって。

 

 

 

 そんな事を思っていたから。

 

 

 

「私、アランと一緒に居てもいいの?」

「俺は、ミズキと一緒に居たい」

 彼は笑顔でそう答えてくれる。

 そんな彼の顔がしっかりと見たくて、私は流れ落ちる涙を拭った。

 

 

「お前の答えを聞かせてくれないか?」

 あなたとずっと、私の答えを探していて。

 

 何度かアランにそんな質問をされたと思う。

 その時私はちゃんと自分の答えを彼に告げていた。

 

 

 ちゃんと彼に私の答えを聞いて欲しかったから。

 

 そしたら彼は、しっかりと私の答えを聞いて頷いてくれる。

 意見も行ってくれるし、その先の道も示してくれた。

 

 

 

 だから、私は今回も自分の答えを伝えよう。

 

 

 

 

「わ、私も……っ。……私も───」

 一度手を握った。眼を瞑る。

 

 

 一緒に居ても良いんだよね?

 

 

 一緒の道を歩いても良いんだよね?

 

 

「───あなたの事が、好きです」

 今度は自分から身体を持ち上げて、彼の顔に近寄った。

 ゆっくりと瞼を閉じると、彼の手が首元に回ってくる。

 

 暖かい感触が唇に広がって、瞳を開けると当たり前だけど彼の顔がとても近かった。

 

 

 

 そんな事がとても嬉しくて。

 

 

 

「えへへ」

 ついつい声が漏れる。アランも、見たこともないくらい笑顔で私の事を見てくれた。

 

 

 今私は、とても幸せです。

 

 

 

 

 

 

「……ボクが居る事忘れてるんじゃないだろうニャ」

 あ。

 

「わ、わ、わ、わ、忘れてないよぉ?!」

「顔真っ赤にしやがって!! お兄ちゃんは……お兄ちゃんは……それでも祝福してやるニャぁぁ!!」

 肉球連続パンチが優しい。あはは、ありがとうムツキ。

 

 

「正直の所、ミズキの事だからまたスルーするんじゃないかと思ってたニャ……」

「スルー……? そ、そんな酷い事する訳ないよ! だってアランは真剣に私にその、こ、告白……してくれたんだよ? ね!」

「いつかお前に告白した時スルーされたけどな」

 ……ぁ。

 

 

 

「心当たりはあるようだな……」

「な、何のことかなぁ……」

 色んな意味でアランの顔が見れない。

 

 

 ──ミズキ、俺はお前の事が好きだよ──

 

 だってその好きだって思わないじゃん!!

 

 

「気持ちを伝えてもお前は変わらないな」

「あ、あはは……」

 ちょっと意識しちゃうかもしれないけど、私はこれまで通りが良いなって思うんだよね。

 

 だって、これまで通りの道を歩いて行きたいから。

 少しだけ広くなった道を、間違わないように歩いて行きたいから。

 

 

 

「あ、あ、アラン!」

「な、なんだ?」

「嫌な予感がするニャ」

 でも、せっかくだからもう少しだけ進みたい。

 

 キスまでしちゃったのに、まだ好きって言葉しか聞いてないもん。

 

 

「愛してるって……言って?」

「ぶふっ」

 アランが吹いた。

 

 

「予想の斜め下だったニャ」

 私が何を言うと思ってたの?!

 

「何というか、そういうの憧れるっていうか」

「女の子になったにゃぁ……」

 私をなんだと思ってたの……。

 

 

「はぁ……お前は可愛いな」

 か、可愛いって……。

 

「もう無理ニャ、この空気に耐えられんニャ。終わったら呼べニャ」

 なんかごめんなさい……。

 

 

 

「ミズキ」

 ムツキが部屋から出て言ってから、アランは私の名前を呼ぶ。

 

 私は短く頷いて、彼の言葉を待った。

 そんな時間すら恋しくて、それでも前に進むのが嬉しくて。

 

 

「愛してる」

「私も、愛してる」

 唇を重ねる事が幸せで。

 

 

 

 こんな時間がずっと続いたらって、そう思う。

 

 

 

 

 

 一つだけ気掛かりなのは───

 

 

 

「アランは……良かったの?」

「……良いんだ、もう。お前が居たら、それで良いんだ」

 ───そうやって言ってくれるアランの表情が少し寂しそうで。

 

 

 

 本当にこの道の先に進んでも良いのかなって。

 

 

 

 

 少しだけそう思った。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 あなたの答えを聞かせて欲しい。

 

 

 例えば、家に虫が入って来たらあなたはどうしますか?

 捕まえて逃す人はあまり居ないと思う。殺虫剤を使ったり、その手で殺してしまう人が殆どなんじゃないかなって。

 

 でもそれは悪い事じゃなくて。

 私達は生きてるから、彼等も生きているから、きっと立場が逆転する事もある筈だ。

 

 

 だから、目の前のいのちを見た時に少しだけ考えて欲しい。彼等も必死に生きている生き物なんだって事を。

 

 

 

 そして、あなたの答えを聞かせて欲しい。

 

 

 

 

「───ヴゥァゥゥッ!!」

 空の王者が、翼を広げて口から火球を吐き出す。

 

 私とアランはそれを左右に分かれて避けて、同時に地面を蹴って身体を浮かせた竜の眼前で、閃光が放たれた。

 

 

「今ニャ!」

「良くやったムツキ!」

 アランは両手(・・)でライトボウガンを構えて、引き金を引く。

 

 片手に剣を握る事は出来なくなってしまったけれど、しっかりと添えられた右手はちゃんとボウガンの反動を支えていた。

 放たれた弾丸が翼を削る。私は両手の剣を頭に叩き付けた。

 

 

 殺す事は間違いじゃない。

 

 

 きっと、殺さない事も間違いじゃない。

 

 

 色々な答えがあると思う。

 

 

 

 あなたの答えを教えて欲しい。

 

 

 

 私は私の答えの先を歩くから。

 

 

 

 彼と一緒に。

 

 

 

「今日も一狩り行こう!」

「あぁ、そうだな」

「ガッテンニャ」

 きっと、この道の先に素敵な答えが待ってる筈だ。

 

 

 

 だから、その先にある物を見る為に。

 

 

 

 

 ───これは、竜と人の物語。

 

 

 

 私達は、その答えの先に歩いて行く。




と、いうわけで。モンスターハンターRe:ストーリーズ第4章完結でございます。不安に思っていた方申し訳ない。全然悪い方向には行かなかったよ!鬱展開なんてなかった!

平和が一番だと思うんだ。
物語的には六割といった感じで、これからまた物語が進んで行く感じとなっております。もう終わりで良いみたいな事思われてそう。まだ!書きたい事があるんです!!

そんな訳であと少しだけお付き合い下さいませ。

つきましては、今回やっとくっ付いた二人のイラストを描いてきましたので紹介します。

【挿絵表示】

夏なんで浴衣です。良かったね、アラン!!


あと、しばりんぐさんよりとても素敵な漫画を頂いたので紹介させて頂きます。

【挿絵表示】

とても素敵です。可愛い!(アランも)

ここまで来るのにかなり時間が掛かりました。ここまで来れたのも、皆様の応援のお陰です。
数日後に4章のあとがたりも更新する予定ですので、マイページものぞいて頂くと面白いものが見れる……かも?


それでは、次回より第5章が始まります。


章タイトルにて予告を。


次章───竜と絆の物語─Dragon of the blue fire─

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