モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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番外編なので本編とは関係ありません。


番外編 ─ストーリーズ、Re:ストーリーズ二周年記念─
改造モスと僕等のナンバーズ


 私達が歩いてる道。

 

 

 真っ直ぐだったり、曲がっていたり、時には行き止まりもあって。

 それだけじゃなくて狭かったり、広かったり、険しかったり、緩やかだったり。

 

 色んな道があって、分かれ道があって。時に交じって、離れて。

 

 

 きっと、歩いてる人の分だけ道があるんだと思う。

 

 

 

 ただ、時々思うんだ。

 

 この道を進む事が本当にあっているのかどうか。この先に目的地があるのかどうか。

 

 

 きっとそれは先に進まないと分からないのだと思う。けれど、一つだけ言える事は───

 

 

 

「ねぇ、ムツキ……。私達もしかして」

「聞くにゃ。ボクも同じ事を思っていた所ニャ」

 ───前略。迷子になりました。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 どうしてこんな事になってしまったのか。時は朝方に巻き戻る。

 

 

 私とムツキは密林という狩場に二人でクエストにやって来ていた。

 たまにはアランに休んで欲しかったし、いつも私の為に頑張ってくれている彼に何かお礼がしたかったのです。

 

 そんな訳で今回のクエストは特産キノコ十個の納品。

 そして私の目的はこの密林の湖に生息するという大物───

 

 

「早く釣れないかなぁ……金剛魚」

 ───金剛魚だ。

 

 

 金剛魚は金色に輝く鱗を持った珍しい魚で、とても硬い鱗には武器としての需要もある。

 そんな硬い鱗に覆われた魚の肉はとても歯応えがあるのだけど、珍し過ぎてシー・タンジニャのメニューに並ぶ事も月に一度あるかないか。

 

 そんな幻の魚をアランに食べさせてあげたくて、密林で釣りをしてるんだけど。

 流石は幻の魚。全然当たらない。

 

 

「またサシミウオニャ……」

 釣り上げたサシミウオを湖に返すムツキ。

 

 特産キノコもだけど、私達は自然から少しずつ貰って生活している。

 人間が自然から沢山のものを奪うと、生態系は簡単に壊れてしまうんだ。

 

 だから私達は少しずつ、必要な分だけ自然から頂くのが大切なんだと思う。

 

 

「早くしないとせっかく追っ払ったランポスがまた戻って来そうだニャ」

 勿論それはモンスターの討伐も同じ事だ。

 

 必要もないのに命を奪う事は、私は出来るだけしたくない。

 

 

 釣りやキノコ採りといってもここはモンスターの世界だから、常に危険と隣り合わせ。

 だからこそ身を守る事が出来るハンターが資源を集めたりするし、これもハンターの大切な仕事です。

 

 ここで釣りを始める前に現れたランポスはなんとか撃退できたんだけど、それも何回もうまく行くとは限らない。

 だから早く金剛魚を釣って帰りたいんだけど、中々上手くいかないようだった。

 

 

 

「……んにゃ、なんかまたモンスターの匂いがするニャ」

「あ、モスだ」

 ムツキの言葉を聞いて振り向くと、背中に苔を生やした草食種のモンスターが視界に入る。

 

 モスはモンスターの中でも温厚な性格で、滅多の事がない限り人を襲う事はない。勿論、こちらから攻撃したら反撃されるんだけど。

 石のように硬い額が特徴で、それと脚力を生かした突進は大人でも侮れないのでやはり注意が必要だ。

 

 だけれど、基本はやっぱり温厚な性格だからそこまで危険視する必要はないと思う。頭を撫でても良いくらい。

 

 

「ブヒィィ……」

 ───だけど、そのモスはなんだか様子が変だった。

 

「……なんか、怒ってるニャ?」

「……わ、私達何かした?」

 目の前のモスは地面を前足で蹴って姿勢を低くし、今にも私達に向かって来そうな体制を取っている。

 

 私はこのモスを怒らせるような事をした覚えはないけれど……。

 

 

「やっぱり怒ってるニャ」

「う、うん。怒ってるね」

 でも、理由は分からないけどモスは完全に私達を狙っていた。

 

 

「ケッ、モスごときが一丁前に盾突きやがってニャ。蹴散らしてやるニャ」

「ムツキー、そんな事言ったらダメだよー」

 私は、腕や首を鳴らしながらモスに向かっていくムツキにそう言う。モスだって必死に生きてるんだから、ごときなんて言っちゃうのは悲しい。

 

「分かってるニャ分かってるニャ。ちょっと怖がらせて逃げるように仕向けてやるだけニャ」

 両手を上げてそう言うムツキは小タル爆弾を手に持って、ゆっくりとモスに近付いていった。

 

 

「ほらほら、逃げないと吹っ飛ぶニャ」

 そして火を付けた小タル爆弾をモスの近くに投げる。小タル爆弾は少しの間を置いて破裂し、木片を散らばせた。

 

 しかし、モスはそんなの気にせずにムツキを睨む。

 

 

「なんニャお前! 痛い目見ないと分からないみたいだニャ。ふっと───」

 もう一度小タル爆弾に火を付けるムツキ。しかし、次の瞬間───

 

「ぎにゃぁぁぁ?!」

 ───ムツキが吹っ飛んだ。

 

 

「ムツキぃぃぃいいい?!」

 え、何が起きたの?! なんでムツキが吹っ飛んでるの?!

 間もなくして彼の手から零れ落ちた小タル爆弾が爆発する。手に持った小タル爆弾が誤爆した訳ではないようだ。

 

 ふとモスの居た所を見ると、その姿が消えている。

 モスも吹っ飛んだ?

 

 

「ミズキ後ろニャ!」

 ───いや、違う。

 

「後ろ?!」

 振り向くと、砂埃を起こしながらモスが私を睨んでいた。

 

 さっきまで私の正面でこっちを向いていたのに、方向転換までして私の後ろを取ったという事になる。

 しかも私の目に見えないスピードで。だから、ムツキが突然吹っ飛んだように見えたんだ。

 

 

 背筋が凍るような感覚がする。

 

 

 モスが怖い。

 

 

「く、来るならこーい!」

 私は盾を構えて姿勢を落とした。もう大型モンスターと対峙する気持ちで。

 

 このモスは只者じゃない。そんな気迫を感じてしまう。

 

 

「ブヒィィッ」

 鼻息と共に、前足が地面を蹴った。砂埃が上がる。

 

 来る───そう思った時には、私の身体は空中に浮かんでいた。

 

 

「───え?!」

 背中から地面に落ちて、鈍痛を我慢しながら起き上がる。モスは既に振り向いていて、砂埃を上げていた。

 

 

 ……ダメだ、勝てない。

 

 

 このモスには勝てないと、本能が告げる。

 同時にモスは地面を蹴った。

 

 

「止めてぇぇえええ!!」

「に、逃げろニャぁぁあああ!!」

 私達はモスから逃げて、必死に密林の木々を抜ける。

 

 

 

 

 そして気が付いたら───

 

 

 

「完全に迷子だニャ」

「やってしまったよ」

「まさかモスから逃げる時が来るなんてニャ」

「あんなのモスじゃないよ……」

 私達は何か幻覚でも見ていたんじゃないだろうか。

 

 何かモスとは違うモンスターと戦っていたような気がするんだ。少なくとも私の知っているモスはあんなに早く動かない。

 

「もう追ってこないニャ?」

「多分……」

 息を整えながら周りを見渡しても、モスの姿は見当たらない。

 なんとか撒けたみたいだけど、未だに緊張が抜けずに心臓は強く脈打っている。

 

 

「し、死ぬかと思った……」

「モスに殺されるなんて不名誉にも程があるニャ……。だけど、さっきのはガチでヤバかったニャ」

 ムツキは考えるような仕草をしてから「ニャー、腰が痛いニャ。腰が曲がったニャ」と腰に手を当てた。

 元からだと思うけど。

 

 

「やーやー、そこの狩人よ。何かお困りかねぇ〜?」

 私達が休んでいると、突然木陰から声が聞こえて来る。

 

 狩場で人の声が聞こえて来るなんてビックリして、私は飛び上がって武器を構えた。

 そんなに警戒するような事じゃないかもしれないけど、モスの件があったから何か敏感になっているんだと思う。

 

 

「だ、誰?!」

「むむ、そう警戒しなくても。武器を下ろしたまえお嬢さん」

 そう言って両手を上げながら木陰から出て来たのは、背の低い少し小太りした老人だった。

 

 右手は義手になっていて、紫色のローブとゴーグルという不思議な姿をしている。

 なんというか、怪しいお爺さんだ。

 

 

「この不審者の擬人化みたいなおっさん誰ニャ」

「ムツキ、そういう事言わない」

 私も思っちゃったけど、そういう事言われたらやっぱり傷付いちゃうと思う。

 

 

「開幕辛辣で泣きそうだ……」

 ほらー。

 

「す、すみません! そんなつもりじゃ!」

「良いのだよ、私は人々の味方だ。ところでチミ達、何やらお困りではないかね? そう、例えば───凶暴なモスに追われていたりはしないか?」

 お爺さんのその言葉に私とムツキは顔を見合わせた。

 

 どう考えてもさっきのモスの事だと思う。どうしてこのお爺さんがその事を?

 

 

「ますます怪しいニャ」

「どうしてその事を? そう思っているのだろう。なーに、簡単な答えだよ。アレは、私の造ったモノだからだ」

 お爺さんは何やら自慢気に、不敵に笑いながらそう言った。

 

 

「造った……?」

 どういう事か分からない。

 

「そう。科学の力でちょちょいと改造して、ティガレックスのように強靭な、ナルガクルガのように素早いモスを作り上げたのである!」

「ど、どういう事ニャ……? モンスターを改造って、そんな事出来るのかニャ」

「出来るとも」

 前のめりになってそう語るお爺さんは鼻息荒く私達に詰め寄って「興味はあるかね?」と聞いてくる。

 

 

 興味があるとは少し違うけど、そんな事が出来るのかは気になるし───

 

 

「───それって、改造されたモンスターはどうなっちゃうんですか?」

 ───なによりそれはモンスターとの正しい付き合い方なのか、私には分からなかった。

 

 

 でも多分、それは私の進みたい道じゃない。それだけは分かる。

 

 

「どうなる? 勿論、強靭な力を手に入れるのだよ」

「そうじゃなくて、モンスターは苦しんだりしないんですか?」

 私達を襲ってきたモスは何もしていないのに私達に攻撃してきた。

 普段温厚でマイペースなモスが何の理由もなくそんな事をする訳がない。

 

 

「───そんな事を気にしてどうするのだね?」

 お爺さんは表情一つ変えずにそう言う。

 

 

 色んな考えがあるから、この人が悪いとは言えない。

 だけどきっと───

 

 

「───私はモンスターの命を蔑ろにしたくない。ただ、それだけです」

 ───私はこの人と相容れない。

 

 

「あの子供と同じような事を言う。……実に興味深いが、私は少し忙しいのだよ。イチビッツくーん!」

 お爺さんは数歩下がって、森の中に向けて何かを呼ぶような声を出した。

 

 

「……。……イチビッツくーん!」

 だけど、誰も現れない。

 

 

「イチビッツくーん?!」

「あ、呼びましたか博士」

 少し経って、木陰の奥から出て来たのは鳥竜種の頭のような帽子を被った素朴な少年。

 そして彼は出て来るなりお爺さんに「遅いわ!」と頭を殴られてしまう。

 

 

「酷いですよ博士ー」

「そんな事はどうでも良い。改造モスは見つかったのかね?」

「はい! 湖の方で見かけました」

「でーかした。それでは、私達は急ぐのでさらばだアイルーと少女よ」

 少年とお爺さんはそう言うと、そそくさと木陰の中を歩いて行ってしまった。

 

 ムツキが「ボクはアイルーじゃないニャ」と愚痴を漏らす横で、私は彼等を追いかけようとムツキに提案する。

 

 

「絶対関わらない方がいい奴だニャ」

「でも、あのモスを放っておけないよ!」

 そう言って、私はお爺さん達の後ろまで走った。なんやかんや言うけど、やっぱりムツキはついて来てくれる。

 

 

「お爺さん、今から何を?」

「勿論、実験───むむ、いや、そうだな。……あのモスを回収して改造を治してやるのだ」

 振り向いたお爺さんは、口角を釣り上げてそう言った。

 

「実験も終わったし、これ以上モスを苦しめる必要もない」

 ちょっと嫌な人かと思ったけど、そんな事はないのかもしれない。

 

 

「なら、私手伝います!」

「マジかニャ」

「博士、コイツちょろ───」

「だまらっしゃい!」

 突然殴られた少年が涙目で蹲っている間に、お爺さんは私に詰め寄ってくる。

 

 

「ありがとう、若き狩人よ。申し遅れたが私の名はマネルガー。サイエ───」

「───ンスをこよなく愛するマッドな科学者なんです! 博士は凄いんです、絆遺伝子の応用でモスに他のモンスターの力を付け加える事に成功したんですよ!」

「それは私の台詞だ!!」

 何故か殴られる少年は、それでもお爺さん───マネルガー博士に怒ることなく手を挙げて振っていた。

 

「彼はイチビッツ。私の助手をしてもらっているのだよ」

「イチビッツと申します!」

「よ、よろしくおねがいします」

 ちょっと不思議な二人だし、言っている事もよく分からないけど。とりあえずモスを救うという共通の目的があるし、それを目指していこう。

 

 

「騙されるなミズキー!」

 そう思った矢先、突然何処かで聞いた事のあるような気がする声が聞こえた。

 

 この声は───

 

 

「とうっ! ヒーローは遅れてやって来る!」

 現れたのは、以前渓流で一緒に絆原石という大きな石を一緒に探した時に知り合った、なんだか不思議な姿をしたアイルーさんです。

 名前はナビルーだから、ナビちゃん。

 

 

「ぬぁ、もう来たのかコイツら。懲ら───」

「しめてご退散してもらいましょう博士!」

「だからそれは私の台詞だ!!」

「お前の悪事だけはオレ達が許さないゼ! やっちまえ皆ー!」

 マネルガー博士が助手さんを殴っているうちにそう言うナビちゃんの背後から、突然火炎が二人を襲った。

 

 博士達がワタワタとしている間に、彼等の足元が突然凍り始める。ナニコレ異常現象?!

 

 

「ミズキ、今の内に逃げるんだ!」

「え?! ドユコト?!」

「ぬぁぁ、逃がさんぞぉ!」

 氷の上で滑りながら私達に手を伸ばしてくるマネルガー博士。私はムツキと一緒に、ナビちゃんに言われるがまま彼から逃げた。

 

 

「キラキラニャ〜ン」

「ほんぎゃぁぁ!」

 そして背後を見ていても分かるような閃光が私の後ろで弾ける。振り向くと、博士達は「目がぁぁ」とのたうちまわっていた。

 

 

「座標確認。この角度ですゴロニャ! チャモ、発進」

 そしてナビちゃんの隣に現れたゴーグルを付けた緑色のアイルーが、小さなピンク色のアイルーを氷の上で押す。

 そのアイルーは氷の上でのたうちまわっている二人の間に入って、口から何やらピンク色の煙を吐き出した。

 

 何故かアイルーがその場で寝ちゃったかと思えば、博士達も一緒にその場で眠ってしまう。

 何が起きたのか、一瞬の事で訳が分からなかった。

 

 

「な、ナビちゃん……? これは一体」

 ふと彼の元に歩いていくと、赤と黒色のアイルーと青と白色のアイルー、そしてとても膨よかな黄色いフサフサな毛並みのアイルーさんがナビちゃんの隣に立っている。

 さっきの緑のアイルーと、ピンクのアイルーと合わせて合計六匹。沢山のアイルーが居て、モフモフだ。

 

 

「何者だニャコイツら」

「何者だと言われれば、答えてあげるが世の情けだゼ!」

 それ別作品だよナビちゃん。

 

 

「輝く炎は情熱の証! 一号! ビーツ!」

「心はホット、吐息はクール。二号! クーリオです!」

「キラキラニャ〜ン。まばゆい閃光は美の証。三号! ティティよ」

「眼鏡に目がない? ナンバーズの頭脳。四号! ピントゴロニャ!」

「明るい明日へのナビならお任せ! 五号! ナビルー!」

「寝る子は育つ。六号〜。チャモでしゅニャ」

「「「「「「六人揃って───」」」」」」

 六人は固まって、順番に自己紹介してから同時に声を上げる。

 

 

「「「「「「───ナンバーズ!!!」」」」」」

 ビーツさんが口から炎を、クーリオさんは冷たい息を吐きながら、六人は一斉に名乗りを上げた。

 

 

 

「いや余計分からんニャ」

「格好良い!!」

「格好良いのかニャ?!」

 格好良くない? なんか、ヒーローみたいで!

 

 

「お、なんだ分かる奴じゃねーか」

 一号───ビーツさんはニヤリと笑いながらそう言う。

 その横で三号───ティティさんと四号───ピントゴロさんは、寝てしまっている博士達を縄で縛っていた。

 

 

「一体この人は……」

「科学の為ならなんでもして良いと思っている悪い奴なのです。近付かないのが正解ですよ」

 と、二号───クーリオさんが肩をすくめた。

 その横で六号───チャモちゃんはスヤスヤと寝ている。さっき起きたのに。

 

 

「まぁ、今回の件は本人から聞くのが一番だな」

 五号───ナビちゃんは、縄で縛られた二人を横目で見ながらそう言った。

 

 

 改造されたモス。一体なんでそんな事になってしまったんだろう。

 

 

 

 

 目を覚ました博士は、皆に囲まれて観念したように全てを話してくれた。

 

 

「つまり、最強のモスを作って全ての特産キノコを我が物にしようとしていた。そういう事だな?」

「そう! 誰にも特産キノコを邪魔されず回収できるよう、私は最強のモスを造り上げたのだ。しかし暴走して手のつけられない状態になってしまってな、更なる改造が必要だ。なーに、科学には失敗が付き物なのだよ!」

「燃やせ」

「分かった」

「待って下さい!! 燃やすなら───」

 ビーツさんが口を開けると、助手さんが突然声を上げる。もしかして博士を庇おうと───

 

「───博士だけにしてください!」

「この裏切り者ぉ!」

 酷い。

 

 

「とりあえず、暴走モスを捕まえてくるからちゃんと元に戻すんだぞ」

「えー、めんどくちゃい」

「燃やせ」

「分かった」

「待った待った。分かった。戻そう。戻すとも」

 冷や汗をかきながら博士はなんとか約束してくれる。

 

 それじゃ、後はモスを捕まえるだけだね。

 

 

「───まぁ、捕まえられたらの話だがね」

 と、博士は不敵に笑いながらそう言った。

 

 そんな博士達を近くのベースキャンプまで運ぶ。ナビちゃん達に会えたおかげで、迷子からは脱出出来ました。

 

 

 後はモスを捕まえるだけ。

 

 

 ───だけど、私達は忘れていたんです。

 

 

 

「居たぞ、モスだ!」

「一斉にかかれぇ!!」

「「「「「「「「うわぁぁぁ?!」」」」」」」」

 ───あのモスは博士曰く最強のモスだという事を。

 

 

    ☆ ☆ ☆

 

 ベースキャンプにて、作戦会議。

 

 

「なんなのだあのモスは!」

「だから、最強のモスだよ。私の最高傑作だ」

 曰くティガレックスのように強靭な、ナルガクルガのように素早いモス。

 

 そんなモスを捕まえるのは容易じゃなくて、私達は全員モスに倒されてしまった。

 

 

「だから言ったではないか。捕まえられたらの話だがね、と」

「ぐぬぬー、お前も手伝えー!」

「やなこったー」

 モスを改造した本人である博士なら何かいい作戦を思いつきそうだけど、そこは協力してもらえないみたい。

 

「ピント、何か作戦は!」

「多分ティガとナルガの力を持ってるなら、電気が弱点ゴロニャ。感電させて動きを止めてるところでチャモに眠らせるのが一番だけど、攻撃を当てる事も困難で、お手上げですゴロニャ」

 そもそもモスが速過ぎて普通に攻撃する事も難しい気がする。

 

 

「そもそもそこのピンクはどうして相手を眠らせれるんだニャ? 炎とか吐いてたりしてたし」

「オレ達もコイツに改造されてるからな」

 ナビちゃんはマネルガー博士を横目で見ながらそう言った。

 

 

 それで前会った時にナビちゃんは放電していたのかな。

 

 

 

「炎と氷と閃光と電気と睡眠ガス。が、使える能力って事かニャ。で、そこの緑は?」

「ロックオンですゴロニャ」

「よく分からんけどとりあえず洞察力はあるみたいだニャ」

 そう言ってから、ムツキはフムフムと頷いて何か考え出す。

 

 こういう時のムツキはとても頼りになるんだよね。

 

 

「よし、しょうがないからこのボクがなんとかしてやるニャ」

 不敵な笑みでムツキはそう口を開いた。その視線の先には、何故か博士達がいる。

 

「お前らにも協力してもらうニャ」

 そして彼は、凄い悪い顔でそう言った。

 

「い、嫌だといったら?」

「ガノトトスの餌になるかモスに殺されるか選ばせてやるニャ」

「博士、コイツの方が悪役っぽいですよ! 僕達キャラ負けしてますよ!」

「私のメンツが丸潰れだ」

 ムツキは一体どんな作戦を考えたんだろう。

 

 

「博士はなんで、その……モンスターを改造する研究をしてるんですか?」

 ナンバーズの六人とムツキが円になって作戦会議を始める中、何故か私はハブられたのでふと博士にそんな質問をした。

 

「勿論、世のため人のためだ。ひと昔はモンスターを思うがままに操って、モンスターはモンスターの力で倒そうとも考えた。……全ては科学の力で人々の未来を明るくするためなのだよ。信じられないとは思うがね」

 博士は少し怪訝な顔をしたけれど、そう答えてくれる。

 

 

 きっと、本当に悪い人なんかじゃないんだと思うなって。

 

 

「そんな事ないですよ。それも、私達が生きる為の一つの方法なのかもしれない。……けれど、私はやっぱりそれは違うと思うから」

 博士の目をしっかりと見て、私はそう言った。

 

「私はあなたの邪魔をします」

 私達が生きる為にモンスターを利用する。それは大昔から私達がしてきた事でもあるし、きっと博士の研究もその延長線なんだ。

 

 

 それでも、私は───私が生きる為にそれを否定する。

 

 

 

「だから、モスの事は直してくださいね!」

「……まぁ、そうせんと燃やされるからな」

「博士観念してます?」

「だまらっしゃい!」

「ふふ。よーし、頑張るぞー!」

 目的はモスの捕獲。さて、どんな作戦なのかな?

 

 

「とりあえずこの二人を生贄にするニャ」

 開幕酷い作戦内容だった。

 

「後生です! 博士だけにして下さい!」

「この裏切り者ー!」

 生贄ってどういう事かな……?

 

 

「どうしても囮が必要なんだニャ。あのモスは闇雲に暴れてる訳じゃなくて、何か生き物を狙ってるみたいだからニャ」

「それじゃ、囮役は私がやるよ!」

「ニャ……? なんでミズキが?」

「だって私は───」

 周りを見渡す。

 

 

 ここにいるのはお爺さんと少年と、アイルーやメラルーだけ。

 

 

 この仕事が出来るのは私だけ。

 

 

 だって私は───

 

「───私は、ハンターだから!」

 

 

    ☆ ☆ ☆

 

「やっぱ無理ぃぃいいい!!!」

 全速力で逃げる私の背後で木が吹き飛んだ。

 

 

 信じられないような音を立てて折れる木を見て目を丸くしていると、風切り音が聴こえて私は反射的に横に跳ぶ。

 次の瞬間私がいた場所で砂埃が上がって、背後の木が折れた。このままだとここが更地になりそう。

 

「まだなのぉ?!」

 涙目で訴えるけれど、合図はまだ来ないしモスは待ってくれない。

 

 身を翻したモスが地面を蹴った。間に合わないと思って、私は盾を構えて足を踏ん張る。

 

 

「ブヒィィッ!」

「つぅ?!」

 強い衝撃が走って私の足は地面を滑った。

 

 それでもなんとか受け止めて、初めてモスとちゃんと対峙する。

 

 

「苦しいんだよね。だから暴れてるんだよね」

 絶対に助けてあげるから。もう少しだけ待っててね。

 

 

「準備完了ですゴロニャ! そのまま背後に真っ直ぐ逃げて下さいゴロニャ!」

 ピント君から合図があって、私はモスを一旦振り払って振り向いて走った。

 

 視界に映るのは地面を覆い尽くすような氷。とても広い空間が凍っていて、その作業の時間稼ぎとここにモスをおびき寄せるのが私の仕事です。

 

 

 そこから先は知らないんだけど。

 

 

「目を瞑りなさーい、ミズキ」

 ふとティティさんの声が聞こえて、私は言われるがままに目を閉じた。

 同時に白い光が瞼の裏まで届く。

 

「ブヒィ?!」

 視界を焼かれたモスはその勢いのまま氷の上を滑って転がってしまった。

 だけど、そのままじゃモスは直ぐに起き上がってまた全速力で走ってしまうかもしれない。あの速度だとこれだけ氷が広くても一瞬で脱出されそうだし。

 

 そんな心配をしていると、ビーツさんが突然氷を炎で溶かし出してしまう。

 それこそモスの思うままに動けてしまうのだけど、どうするつもりなのかな……?

 

 

「やれニャ」

「言われなくても!」

 悪い顔で指を鳴らすムツキの隣で、ナビちゃんは発光して身体から電気を放った。

 

 彼から放たれた電気は氷が溶けて濡れた地面を伝い、逃げようとするモスに直撃する。

 

 

「ブヒィィッ?!」

 広く濡れた水場から逃げきる事が出来ずに、モスは感電してその場に倒れてしまった。

 それでも立ち上がって攻撃しようとしてくるモスの前に立ったチャモちゃんが吐いたピンク色の煙を吸って、モスは眠る。作戦成功だ。

 

 

 これで後はモスを博士に直してもらえれば、解決だね!

 

 

 

「電気攻撃なんてよく考えたね、ムツキ」

「ティガレックスもナルガクルガも電気はそこそこ効くからニャ。その二匹を相手するならって事で考えてみただけニャ」

「中々やるじゃないかムツえもん!」

「ムツキだニャ」

「それじゃ、景気付けにアレやっとくかー!」

 アレ?

 

 

「輝く炎は情熱の証! 一号! ビーツ!」

「心はホット、吐息はクール。二号! クーリオです!」

「キラキラニャ〜ン。まばゆい閃光は美の証。三号! ティティよ」

「眼鏡に目がない? ナンバーズの頭脳。四号! ピントゴロニャ!」

「明るい明日へのナビならお任せ! 五号! ナビルー!」

「寝る子は育つ。六号〜。チャモでしゅニャ」

 おー、格好良い奴!

 

 

「ほらほら、二人も混じるんだゾ!」

「良いの?」

「勿論!」

「いや混ざりたくないんだけどニャ?!」

「やるー!」

「なんでニャー?!」

 だって格好良いじゃん!

 

 

「目指せ立派なハンター! 七号! ミズキ!」

「……秘密道具ならお任せ。……八号。……ムツキ」

「「「「「「「「皆合わせて───」」」」」」」」

 皆でポーズをとって私達は声を合わせる。こういうのって楽しいよね!

 

 

 

「「「「「「「「───ナンバーズ!!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 モスを博士に届けると、博士は一瞬でモスを元に戻してしまいました。科学の力ってすっげー。

 

「もう変な奴に捕まったらダメだゾー」

「変な奴とは失礼な」

 面白い人ではあるけどね。でも、モンスターを苦しめるのはダメです。

 

 

「それでは、私達はこれで……」

 ナビちゃん達がモスを見送っている間に、博士はのそのそと隠れるように歩き出した。

 どうしたんだろう?

 

 

「あ、逃げる気だなマネルガー!」

「もう悪さはさせねーぞ!」

「大人しくお縄に付くことですね」

「これ以上被害を増やす訳にはいかないわ」

「追い掛けるゴロニャ!」

「眠いでしゅニャ」

「逃げるぞイチビッツ君!」

「了解です博士!」

「「「「待てー!」」」」

 突然逃げる博士達と、それを追い掛けるナンバーズの皆───あれ? チャモちゃん寝てるよ。チャモちゃん起きて! 置いてかれてるよ! チャモちゃーん!

 

 

「待てでしゅニャー」

 可愛い。

 

 

 

「あ、ミズキ」

「どうしたの? ナビちゃん」

「その……なんだ。オレ達の事、忘れないでくれよな! それじゃ、また会う日まで!!」

 そうとだけ言って、ナビちゃん達はマネルガー博士を追い掛けていった。

 

 

「あ、ミズキ。なんか置いてあるニャ」

「何これ……。あ、金剛魚!」

 彼等は彼等で、また違う道を進んでいくんだと思う。

 

 

「手紙も置いてあるニャ。えーと『お詫びの品でーす。byイチビッツ』だってニャ」

「あっはは。やったね、ムツキ」

 そんな中でたまに道が混ざり合ったりして───

 

 

 

 

 

「また会えたら良いなぁ」

 ───そんな事を思うんだ。




モンスターハンターストーリーズ二周年おめでとうございます。もう二年になるんですね。アニメも終わって、アプリもサービス終了して……。アレ? 名実共にオワコンなのでは……。ストーリーズGや2はまだですか……?

気を取り直して、今作も二周年です。このまま行くと三周年を迎える前に完結するので、なんだか感慨深いですね。
ここまで続けてこれたのも読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

そんな訳でお礼のイラスト。

【挿絵表示】

アユリアコスミズキちゃん。いや目も髪の色も同じなのでほぼただのアユリアになってますが、ミズキちゃんです!(ほら一応髪型とかね。何とは言わないけど大きさとかね)

五章も始まって残り二章で完結。最後までお付き合い下さると幸いです。完結まで突き進みます!


読了共に感想ありがとうございました!感想評価お待ちしております!

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