モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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朧隠と電の反逆者

 ベルナ村に来てから、それなりの時間が経ちました。

 

 

 この村に住む為の家を貸してくれた少女───アザミちゃんとパーティを組んで、私達は交代交代で狩場に出向く生活を送っています。

 基本的にはアザミちゃんとの狩場での連携の確認。初めのうちは、ちょっと特殊な個体だったとはいえアオアシラにも勝てなかったけれど、少しずつ連携を確認してクエストの成功度も上がって来た。

 

 モンスターを討伐するクエストも多目に受けるようになったけれど、私とアランとムツキだけでクエストに行く時は私達の進みたい道に進んでいる。

 

 

 いのちと向き合う為に。

 

 奪う時も奪わない時も、そのいのちにしっかりと向き合って。

 私達はまた一歩───大切な事に向き合うんだ。

 

 

「……どうして僕なんだ」

 表情を引き攣らせて、赤いコートを着た金髪の青年がそう呟く。

 アランの幼馴染であり、ギルドナイトでもある彼はカルラさん。

 

 ギルドナイトでもあるけれど、密猟者を指揮したりイビルジョーを使って生態系を崩そうとしていた人でもあった。

 

 

 ベルナ村に来たのは元々彼を止める為なんだけど、この村で彼を見ている限りはそんな悪い事をしている人には見えないんだよね。

 ちゃんとギルドナイトとしてのお仕事もしていたし、アザミちゃんの事を心配して私達に任せてくれたし。

 

 

「俺達四人での動きを確認したいから、セージの事を頼む」

 そんな彼だからこそ、アランは頼んでいるんだと思う。

 

「いや、だからどうして僕なんだ?! 人の話を聞け?!」

 声を荒げてアランに反抗するカルラさんは、怯えて私の後ろに隠れてしまったセージ君を見て表情を落ち着かせてから咳払いをした。

 

 

「……私は忙しい」

「基本集会所で事務仕事だろう。子供一人の面倒を見る暇くらいある筈だ。……それとも、ギルドナイトの仕事以外に何か誰にも言えないような仕事があるのか?」

 詰め寄るようにアランがそう言うと、カルラさんは表情を引き攣らせて黙り込んでしまう。

 

 誰にも言えないような仕事っていうと、密猟関係……かな?

 

 

「ないよ。ないない。言っとくが二年前の失敗から立て直すのに苦労してるんだ、君達が邪魔してきたって今はどうせ動けない」

 隠す気もないように、溜息を吐きながら彼はそう答えた。

 

 きっと、彼はギルドナイトだから私達がギルドに何を言っても信じてもらえないんだと思う。

 証拠もないし、ウェインさんも下手に動かないだろうから。

 

 それに、アランもきっとそうだけど───私も、争わずに彼を止めたい。難しいかもしれないけど。

 

 

「決まりだな」

「……覚えていろよアラン」

「あまり怖い顔をするな。セージが怖がる」

 アランの言葉にカルラさんは眉間に皺を寄せて、それでも無理矢理笑顔を作ってセージ君に手を伸ばした。

 

 

「コイツらが帰ってくるまで……お、お兄さんが一緒に居てあげよう」

「おじさん怖い」

「おじ───」

「くっふふ……ふ」

 セージ君のおじさん発言に固まってしまうカルラさんと、それを見て笑うアラン。

 彼がこんな風に笑うのは初めて見たかもしれない。

 

 もしかしたら彼がライダーだった時は、こうやって笑っていたのかなって微笑ましく思う。

 

 それと同時に、少しだけ寂しい気持ちになった。

 

 

「セージ、私は前に進まないといけないの。大人しくお兄さんと居てね」

「んー、おねーちゃんが言うならそーする!」

 セージ君は偉いなぁ。

 

「ボクも残った方が良いんじゃにゃいかニャ?」

「いや、お前も必要だ」

 ムツキも私達の大切なパーティの一員だから、今回は来て欲しい。

 私達の連携を確かめる大切なクエストだからね。

 

「そういう訳だ。頼んだぞ」

「……この借りは返すぞ」

 既に準備を整えていた私達は、セージ君に挨拶をしてから気球船に向かいます。

 

 

 目指す狩場は遺群嶺という場所。少し遠いから、やっぱりセージ君を待たせてしまう狩場だ。

 それでも、私達は前に進まないといけない。

 

 今回の相手は飛竜。

 黒炎王と紫毒姫に挑む前に、どうしても通らないといけない道です。

 

 

 最近古代林で件の二匹の目撃情報が増えてきたから、立ち止まっている暇はないんだ。

 

 

 

「……君、一つ良いかな?」

 船に乗る前に、カルラさんがアザミちゃんに話し掛ける。

 

 アランはそんな彼を訝しげな目で見ていた。

 

 

「……モンスターが憎いか?」

「おいカルラ」

「アランには聞いていない。……彼女に聞いているんだ」

 カルラさんはそう言うと、アザミちゃんの目を真っ直ぐに見る。

 

 その表情は真剣そのもので、赤い瞳はなんだか切なく見えた。

 

 

「……憎いわよ。当たり前じゃない。パパとママの仇なんだから」

「そうかい。……その気持ちは、正しい」

 アザミちゃんの返事に、カルラさんは満足気に口角を吊り上げる。

 

「君は見込みがあるから、いつか迎えに行くよ。だから頑張りたまえ」

 そして彼はアランが睨むのも無視して、アザミちゃんにそう告げた。

 

 

 アザミちゃんを仲間にしようとしているのかな。

 

 そんな事は許せないし、させる訳にもいかない。

 

 

「だ、ダメだからねアザミちゃん!」

「なんの話よ……」

 呆れたような顔をするアザミちゃんの隣で、アランはカルラさんをただ睨む。

 

 それでもカルラさんは平然と、不敵に笑っていた。

 やっぱり彼はまだ、モンスターをこの世界から消そうと思っているんだと思う。

 

 

「どうした? クエストに行くんだろう?」

「……俺はお前を必ず止める」

 アランはそうとだけ言って、気球船に上がった。

 

「……無理さ」

 そして小さく呟くカルラさんを尻目に、私達も船に乗り込みます。

 

 

 甲板からセージ君に手を振りながら、アザミちゃんは「あの人に任せて大丈夫なんでしょうね」とセージ君を心配していた。

 登り始める気球船から見る限りは、カルラさんはセージ君の手を繋いでいて安心出来るけれど……。

 

 

「アイツの敵はモンスターと邪魔者だけだ。……根は優しい奴だから」

 寂しそうにそう言うアランは、ベルナ村が見えなくなるまで村を見続ける。

 

 

 まるでどこか違う所を見ているようなその目は、やっぱりなんだか寂しそうだった。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 遺群嶺。

 その名の通り大昔の遺跡が並ぶ場所で、とても高い山の山頂にある狩場です。

 

 

 なんでこんなにも高い山の上に遺跡があるんだろうって疑問に思うけど、難しい事は考えても分からないから仕方がない。

 それよりも、そんな特殊な環境に出来上がった生態系っていうのがとても興味深かった。アランも始めて来る場所だって言っていたし、何か珍しいモンスターも見れるかもしれない。

 

 

「しっかし凄い場所ね……」

 周りに並ぶ遺跡を見ながら、アザミちゃんは感心したように声を漏らす。

 

 大昔に作られたと思われる遺跡は自然と一体化していて、そこには確かに生態系が作られていた。

 

 

「水辺もあるし、モンスターが生きやすい環境ではあるな。それ故にどんな奴が居るか分からない。標的以外の存在にも気を付けるぞ」

「もう既に近くに何か居る気がするニャ……。なんか、変な匂い」

 見渡しは良いから、モンスターが近くにいたら直ぐに分かりそうだけど。

 

 だからといって狩場で気を緩めて居るのもいけないから、ちゃんと集中です。

 

 

「ライゼクス……だったわよね?」

「そうだな。電気を使う飛竜だ。飛行能力はリオレウスにも匹敵する」

 リオレウスという言葉にアザミちゃんは表情を引き締めて、辺りを見渡した。

 

 彼女の目的は二つ名を持つリオレウスとリオレイアを倒す事。

 これまでその為にクエストをこなして連携を確認してきたし、今日飛竜に挑むのだっていつか火竜の番と戦う時の為です。

 

 

 心に深く残る復讐という感情と向き合う為に、アザミちゃんは火竜の生命と向き合うべきだと思うんだ。

 

 

 そして、知って欲しい。リオレウスもリオレイアも生きているんだって事を。───これをキッカケにアランも怒隻慧と向き合えたらなって、そう思う。

 

 

「んニャー、それにしたって何か居る気がするんだけどニャ」

 ムツキは周りを見渡してそう言いながら、髭をピクピクと跳ねさせた。

 

 言われて周りを見るけれど、モンスターの姿も気配も感じない。

 アランもそうみたいで、眉をひそめて何か考え込む。

 

 

「オオナズチ……なんて事はないだろうが。近いのか? ムツキ」

「結構近くに感じるニャ」

「オオナズチ……?」

 モンスターの名前かな?

 

「自分の姿を消すと言われている古龍だ。……俺も見た事すらないから分からないが、目の前にいるのに見えないなんて事になるらしい」

 何その怖いモンスター。

 

「そんなのに襲われたら大変だよ……」

「まぁ……古龍なんてめったに現れるものじゃない。それに、ここに来るまでにコンガが居ただろ? 古龍が現れる時は大概力の弱いモンスターは姿を隠す。これは、覚えておいて損はない」

 困ったように頭を掻きながら、アランはそう言ってから「勿論、警戒しておくに越した事はないがな」と付け足した。

 アランが自信なさげなのは珍しいけど、古龍がそれだけ異例なモンスターだって事だよね。

 

 

「───ホゥルルゥゥ」

 唐突に、何か変な声が聞こえる。

 

 皆で同時に周りを見渡すけれど、それでもやっぱり何かが近くにいるようには見えなかった。

 

 

「だ、誰よ。変な音のオナラしたの」

「ミズキだニャ」

「私そんな変な音のオナラしないもん!」

「なんの話をしてるんだお前ら……」

 オナラの話?

 

「ババコンガじゃあ───」

「ホゥルルァァ」

 やっぱり何か聞こえる。

 

 

 目がチカチカして、。たし転反が界視

 

 !?れこにな

 

 

 。いならか分がろ後と前

 

「!?ンラア」

 。だんこれ倒に面地で場のそてし崩をスンラバは私、て出に前かぜなは足たしとうこ向り振

 

 。でかこど覚感のこ

 

 

「!ャニるべ食をれこ」

 。るくでん込じね理矢理無をか何がキツム、に口の私たれ倒

 

 ───噛をレソてじ閉を口ずらか分も訳

 

 

 ───に が い !!

 

 

「うぇぇ……何これぇ?!」

「聞かない方が良いニャ……」

「お、教えてよぉ!!」

 口の中が苦味でいっぱいだし、嫌な感触が残っていてどうも不愉快だ。

 

 ただ、私はさっきの不思議な感覚に覚えがある。

 あれは確か───モガの森で。

 

 

「ホロロホルル?!」

 鳥竜種のモンスターで、全身を羽毛で覆ったそのモンスターは特殊な鱗粉で相手の感覚を狂わせる能力があるモンスターだ。

 ただ、周りを見渡してもそれらしき姿はどこにも見当たらない。いったいどういう事なんだろう。

 

 

「全員屈め!!」

 唐突なアランの声で、私達は反射的にその場に転がり込んだ。

 

 同時に頭上を風が切る。

 突風の吹いた方向を見ると、その場には地面に降り立つモンスターの姿があった。

 

 藍色の羽毛に短い嘴。赤い瞳は横に並んでいて、真っ直ぐに私達を見ながら威嚇するように姿勢を上げる。

 

 

 夜鳥───ホロロホルル。

 

 

 

「ど、どこから現れたのよ?!」

「とりあえず隙を伺って逃げるぞ。こんな厄介な奴の相手をする理由は───」

「残念ながらそうも行かなそうニャ! ライゼクスも来たニャ!」

 アランの言葉を遮ってムツキが指差す先には、一匹の飛竜の姿があった。

 

 

 その竜は空から急降下して、ホロロホルルの頭上に襲い掛かる。

 ホロロホルルはその奇襲をギリギリ交わせなくて、叩き付けられた翼に傷付きながら地面を転がった。

 

 

 

「───ヒュルルルル、ギェェァァァアアア!!」

 綺麗な緑色が混じる黒い甲殻に、薄く透ける若葉色の翼膜。

 獲物を睨みながら頭部に生えるブレード状の鶏冠を揺らし、鋏のような尻尾を振る竜は甲高い咆哮を上げる。

 

 電竜───ライゼクス。

 今回のクエストの討伐対象だ。

 

 

「ギェェァァァアアア!!」

「ホルルァァッ」

 起き上がったホホロホルルは、翼を広げてライゼクスを威嚇する。

 しかしライゼクスは全く動じる事なく、ホロロホルルの隙を伺うように首を揺らした。

 

 

「目的はホロロホルルか……っ。とりあえず隠れるぞ」

 私達の標的がライゼクスだから、逃げる訳にはいかない。

 

 だけど今出て行ってもホロロホルルと両方に狙われる可能性もあって、迂闊に動くのは悪手だという事くらい私でも分かる。

 ホロロホルルの事を助けたい気持ちもあるけれど、今は少し難しそうだ。

 

 

「ヒュルルルル、ギェェァァァアアア!!」

 はじめに動いたのはライゼクスで、飛ぶというよりは飛び跳ねるようにその巨体でホロロホルルに一直線に向かっていく。

 そして翼としての役割を充分に発揮しているソレを、まるでティガレックスのように地面に叩きつけて岩盤を抉った。

 

 しかし、今度はしっかりと見ていたからか。ホロロホルルはその攻撃を飛んで交わす。

 それでもライゼクスは執拗に振り上げた前脚(つばさ)を叩きつけ、その牙をホロロホルルに向けた。

 

 

「すんごい野蛮なモンスターだニャ……」

「ライゼクスは子育てをしないモンスターで、幼体は周りが全て敵の状態で育つからな。生きる為に、あの凶暴さと力を手に入れる」

 ムツキの言葉を聞いてからそう教えてくれるアラン。

 

 少し寂しい話だけど、ライゼクスというモンスターが生きる為に手に入れた力っていうのがなんだか生命の神秘な気がして、素敵だなって思う。

 

 勿論、私達も生きなければならないから。あなたを倒すのと話は別だよ、なんて昔なら考えなかったかもしれない。

 

 

「ギェェァァァッ!」

 一度身を引いたかと思うと、帯電した翼から電気の柱のようなものを二本前方に飛ばすライゼクス。

 ホロロホルルはその間に入ってしまって、左右に動けなくなってしまった。

 

 そこに、ライゼクスは大きく身体ごと振り上げた翼を叩き付ける。

 地面が割れて、羽毛が舞った。

 

 

 ───しかし、ホロロホルルの姿が消える。

 

 

「え?!」

 ライゼクスの攻撃が当たっていたとしても、その姿が消える訳がない。

 

 辺りを見てもホロロホルルの姿はなくて、アランもムツキもアザミちゃんも首を横に振って驚いていた。

 それはライゼクスも同じようで、攻撃に手応えのないのを不思議に思ってか辺りをキョロキョロと見渡す。

 

 

 ───刹那、突風が起きた。

 

 空気を切り裂くような風が、ライゼクスの甲殻を削る。

 

 

 そして地面に降り立つ、藍色の翼。

 消えたと思っていたホロロホルルが、突然またその姿を現した。

 

 

 一体どういう事……?

 

 

 ただ、ライゼクスにそんな疑問は生まれなかったのか、再び現れた標的に牙を向ける。

 しかしホロロホルルは翼を翻し、一瞬で姿を消して今度はライゼクスの頭上に現れた。

 

 まるで幻覚でも見ているみたい。

 

 

 思い出すのは、ホロロホルルが襲ってくる前にアランが言っていた姿を消す事が出来るモンスターの話。

 もしかしたらあのホロロホルルも、そんな力があるのかもしれない。私が知ってる限りでは、ホロロホルルにそんな力はない筈だけど。

 

「ホルルァァ……ッ」

 空中で身を翻して、ホロロホルルはその場から立ち去ろうとする。

 それを追いかけようと姿勢を低くしたライゼクスの頭を、ボウガンから放たれた火炎が襲った。

 

 

「……ここから何処かに行かれても困るからな。ホロロホルルを助けた訳じゃないぞ」

 アランらしい事を言いながら、彼は前に出て構える。

 

 新たな外敵に、ライゼクスは鶏冠を揺らしながらその赤い瞳を私達に向けて来た。

 

 

 少しアクシデントはあったけど、狩猟開始です。

 

 

 

「まずはゆっくりだよ……っ!」

「分かってるわよ!」

 ホロロホルルと戦ってくれたおかげで、少しだけ動きを見る事は出来たけれどまだ慎重に。

 まずは私とアザミちゃんが牽制しながらゆっくりと間を縮めるように歩いた。

 

 ある程度近付くと、ライゼクスは甲高い鳴き声をあげて翼を広げる。

 さっきも見せた跳躍。私達は左右に分かれてそれを避けた。

 

 

 前脚(つばさ)が地面を抉る。

 同時に放たれたブーメランと銃弾がライゼクスの甲殻を削った。

 

 今私達はライゼクスを囲むように立っているから、誰かが狙われた時に直ぐにカバー出来ない状態です。

 だから、私とアザミちゃんが合流しながらライゼクスに後ろから奇襲を仕掛けた。

 

 狩りの時は如何に標的をバラけさせるかが重要だから、ライゼクスの気をアラン達から私達に向けるように全力で攻撃をする。

 足元に潜り込んで私は片手剣を、アザミちゃんは太刀を片脚に叩き付けた。

 

 ライゼクスは鬱陶しそうに唸ってから、身体を回転させて辺りを全身で薙ぎ払う。

 

 

 背後に跳んで回避。無理に踏み込まずに、ライゼクスの出方を伺った。

 

 

「ヒュルルルル、グェェァッ」

 首を振って私達を見比べるライゼクスは、翼を広げながら身体から電気を漏らす。

 青白いような若葉色のような、綺麗な光がその身体を包み込んでいた。

 

「くる?!」

 唐突に、ライゼクスは翼を持ち上げる。

 

 身体を捻りながら、アザミちゃんに向けてそれを振り下ろした。

 

 

「───舐めるな……っ!」

 構えられた太刀。ライゼクスの前脚(つばさ)が彼女を捉えると同時に、細い刃でそれをいなした彼女は迅速の太刀筋で翼膜を切り裂く。

 

 

「やった?!」

「まだ!」

 それでもライゼクスは怯まずに、身体を引いてアザミちゃんをもう一度視界に入れた。

 再び持ち上げられる翼。アザミちゃんは攻撃の反動なのか、動かない。

 

 

「アザミちゃん……っ!」

 間に入って盾を構える。当然攻撃を防ぎきれる訳がなくて、私とアザミちゃんは勢いよく地面を転がった。

 

「何してるニャ……っ!」

「ミズキ!!」

 二人がライゼクスの注意を引くために攻撃している間に、私はなんとか立ち上がってポーチから取り出した回復薬を喉に流し込む。

 少しだけ鈍痛が引いて、辺りを見渡した。座り込んでいるアザミちゃんが視界に映る。

 

 

 アザミちゃん……?

 

 

「た、立って……っ!」

 思えばベルナ村に来てからアザミちゃんと狩りに行くようになって、偶に彼女は動けなくなる事があったような気がした。

 アランは「アイツが抱えている問題を克服しない限り、火竜には挑めない」なんて言っていたけれど私にはアザミちゃんが何を抱えているのか分からない。

 

 モンスターへの復讐心。

 ただモンスターを憎んでしまっているだけなら、動けなくなるなんて事はないと思う。

 

 

 

 ───あなたは、何を抱えているの?

 

 

「ミズキ、そっち行くニャ!!」

「───っ?!」

 振り向くと、隙だらけの私達に狙いを定めたライゼクスがアラン達の攻撃を無視してゆっくりと近付いてきていた。

 

 このまま私がここにいたら、アザミちゃんも纏めて攻撃されてしまう。

 だからといって逃げる訳にもいかない。なら、前に出るしかない。

 

「ま、待って───っ」

 アザミちゃんが手を伸ばすのが見えたけれど、私は地面を蹴ってライゼクスに肉薄した。

 振り上げられた前脚(つばさ)に合わせて盾を持ち上げて、右足を軸に地面に蹴る。

 

 回転しながら盾で攻撃をいなして、私は片手剣をライゼクスの頭に叩き付けた。

 

 

 同時にライゼクスの後ろ足を蹴ったアランが頭上から銃弾を叩き付ける。

 一度横に並んだ私達は一瞬のアイコンタクトで左右に別れながらライゼクスに攻撃した。

 

 ライゼクスがどちらに攻撃するか悩んでいる間に、ムツキが閃光玉を投げる。

 

 

 

「ギュルェェァァアア?!」

 閃光がライゼクスの視界を焼いて、私達はその間にアザミちゃんの手を引いて近くの岩陰に隠れた。

 アザミちゃんの状態だけ確認してからクエスト続行かリタイアかを考えよう。

 

 

 

「アザミちゃん……?」

「やっぱり、ダメか」

 俯くアザミちゃんに視線を合わせて表情を伺う私の後ろで、アランは何か知っているような言葉を漏らした。

 

 彼女が抱えてるものってなんなんだろう。

 

 

「……怖いんだな。モンスターが。モンスターの攻撃が」

「ぇ……」

 驚いた顔を上げたのはアザミちゃんで、まるで「どうして分かったの」と言っているような表情だ。

 

 アランはそんな彼女を見下ろしながら、横目で暴れまわるライゼクスを見る。

 

 

「今日までお前と何回か狩りに出掛けて、何回か動きが止まる事があった。しかも、モンスターに攻撃されてる時にな」

 言われてみればアオアシラの時や今回も、アザミちゃんが急に止まったのはモンスターに攻撃されてる時だった。

 

「目の前で家族を失った憎しみは大きいだろう。その気持ちは分かる。……だが、恐怖がそれ以上に上回っているんだ。お前はその日まで、両親の元で負けた事がなかっただろうからな」

「ちが───私は!」

 身体を持ち上げるアザミちゃんだけど、開いた口はただ空気を吸って吐く。言葉は繋がらない。

 

 

 モンスターが怖い。

 

 それは、当たり前の事。

 

 

 モンスターは怖いんだ。

 

 自然に生きるとても強くて、狡猾で、凶暴な生き物達。

 私達がどれだけ力を付けても埋める事の出来ない圧倒的な力を持つ彼等は、簡単に人を殺す事が出来る。

 

 

 それは自然の理だ。

 

 

 モンスターは怖い。当たり前の事。

 

 

 

 アザミちゃんが固まってしまうのは、簡単には避けられなくてどうしても被弾を覚悟しなければいけない時だったと思う。

 それでも私達ハンターはなんとかして攻撃を避けないといけない。でも彼女は、それが出来なくなってしまっていた。

 

 

「復讐なんて、やめるんだな。……次に死ぬのはお前だ」

「私はアイツを殺すのよ! 怖がってなんていられない。パパとママの仇をとるの! じゃないと……じゃないと前に進めない!!」

 立ち上がって、手でアランを払いながらそう言うアザミちゃん。

 

 きっと恐怖と復讐の間で、彼女の心は揺れてるんだと思う。

 

 

 目の前で両親の命が奪われて、恨まない訳がない。それ以上に、恐怖を感じない訳がないんだ。

 

 

「なら止まるな。前に進め。それが出来ないなら、今すぐにやめろ。……モンスターはお前なんて簡単に殺す。逃げたって誰も責めやしない」

 きっと、いつかの誰かも同じ事を考えてたんじゃないかな。

 

 だけどその人は、復讐という気持ちで前に進む事が出来たんだと思う。それが正しくても間違っていても、彼を前に進めたのはその気持ちだったんだ。

 

 

「このままじゃお前は前には進めない」

「残念だけどニャ、時間切れニャ」

 ムツキがそう言うと、視力を取り戻したライゼクスが私達を見付けて甲高い咆哮を上げる。

 

 それを見たアザミちゃんは身体を震わせて、手を強く握った。

 

 

 

「復讐に逃げたって……何も───」

「私が居るよ」

 アランの言葉を遮る。

 

 きっとそれは正しい事だ。

 だけど、そのこころから逃げて欲しくない。

 辛いままで生きて欲しくない。自分のいのちと向き合ってほしい。

 

 

 だから、私は両手の剣を持ち上げる。

 

 

「ミズキ……?」

「私がアザミちゃんを守るから。アランの事もムツキの事も守るから。そしてアランが私もムツキもアザミちゃんも守ってくれるから……っ!」

 息を止めた。力を込める。

 

 

「アザミちゃんも私達を守って欲しい。これからずっとなんて言わない。今だけでも良いから!」

 雷のブレスを横に飛んで交わして、私は持ち上げられた翼から懐に潜り込んで二本の剣を叩き付けた。

 身を引いて私を捉えようとするライゼクスに張り付くように前に出る。その頭を踏んで、回転しながら背中の甲殻を切り裂いた。

 

 

「わ、私は……」

「お前は両親を守ろうとしたか?」

「……守られてばかりだった」

「……俺もだ」

 ボウガンを持ち上げて、アランは引き金を引く。

 私に向いていたライゼクスの視線がアラン達に向いて、その間に着地した私は次の攻撃に備えた。

 

 

「え?」

「俺も、大切なものに守られてばかりで。誰かを守ろうとした時にはもう遅くて……。お前は俺に似てるんだ。だから、お前は前に進め。俺みたいに何度も失うな」

 守るものって、本当に大切で。私達が前に進む為の原動力なんだと思う。

 

 

 それがあるとないとで、どれだけ動けるか変わってしまうんだ。

 

 

 アザミちゃんにもある筈だよ。守らないといけないもの。前に進まないと行けない理由。

 

 

「そうね……」

 だから、戦おう。

 

 

「あたしが戦うのをやめたら、誰がセージを育てるのよ……っ!」

 確かな闘志がその瞳に宿った。

 

 きっと、大丈夫。

 

 

 モンスターが怖い事なんてみんな知っている。

 それでも、だからこそ、私達は戦うんだ。

 

 

「───ギェェァァァ……ッ!!」

 ───それが、ハンターだから。

 

 

 

 

 

「前に進めたかな……あたし」

「飛竜を倒せたんだ。……連携も特に問題ない」

 私達は進むよ。

 

 

 目標は二つ名モンスター。

 

 

 黒炎王リオレウス、紫毒姫リオレイア───そして怒隻慧イビルジョー。

 

 

 いのちと向き合う為に。




全力で戦闘シーンから逃げていくスタイル。
文字数がね!(言い訳)

そんな訳でライゼクス回でした。お話も少し進みましたね。
X系統の四天王。一話別の話を挟んで全部出せて良かったです。ガムートは四章で一回出したんですけどね。せっかくベルナ村が舞台という事で再登場して貰いました。


お礼のイラストです。

【挿絵表示】

七十話突破。お気に入り二百人超えありがとうございます!残り二十数話おつきあいくださいませ!!


読了ありがとうございました!

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