モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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竜と絆の───

 お前(・・)の事が大切だった。

 

 

 何かを失う事を知っていたから。

 知っていたのに、俺はそれを見失っていて。

 

 自分の事しか考えていなかったのだろう。

 

 

 気が付いた時には全て失っていた。

 

 お前が何を考えているか、考えていなかったから。───俺は今ここに居る。

 

 

 

「僕はお前が好きだったよ」

 背後には俺の全てを狂わした竜の一匹と、眼前には空を舞う陸の女王。

 リオレイア亜種の背中の上で、いつかの誰かと同じ眼をした男はそんな言葉を漏らした。

 

「奇遇だな。俺もだ」

「最期に聞く。僕と一緒にこの世界を変える気はないか? 僕達の力があれば、この世界の理を変える事だって出来る筈だ」

 カルラは堆黒尾に待ったをかけながらそう言う。

 

 完全に言う事を聞かせるのは難しいが、多少の命令は出来るらしい。そんな事を絆なんて呼べるかは分からないが。

 

 

「俺は、怒隻慧に喰われるなんてごめんだな」

「僕とお前ならアイツだって殺せる!!」

「俺はアイツを殺す気はない」

 しっかりと答えた。

 

 

 

 俺の答えを。

 

 

 俺の進む道を。

 

 

 

「俺はアイツを倒すんだ。狩人としてな。……カルラ、この世界の理を変えるなんて無理なんだよ。……人と竜は相容れない」

「僕はそれでも……ライダーだ!!」

 あぁ、そうだな。お前はそれでいい。

 

 

「俺は、ハンターだ」

「……そうか。じゃあな、アラン。先に逝って、見守っていてくれ」

 カルラが腕を振ると、背後で止まっていた堆黒尾が動き出す。

 

 巨体を揺らし、その大顎を振る姿はどこかあの竜にも似ていた。

 

 

 ───だが、お前に負けるつもりはない。

 

 

「お前を倒せなくて、怒隻慧を倒せる訳がないからな……っ!!」

 ギリギリまで引きつけ、俺はその大顎を踏んで跳び上がる。

 その時点で俺が動けないと思ったのか、堆黒尾は宙を舞う俺に大顎を開いて鮮血に汚れた喉を見せびらかした。

 

 相当喰っているらしい。どれ程ここの生態系を崩したのか。

 

 

 やはりお前は生かしてはおけない。

 

 

「あの時と一緒だな……っ!」

 俺はその喉奥に銃口を向けて引き金を引く。

 

 発砲の反動で後ろに下がった俺の眼前で、堆黒尾はその大顎を勢いよく閉じた。

 次の瞬間、その口内で徹甲榴弾が炸裂する。

 

 

 悲鳴を上げる堆黒尾。

 モガの森でもやった戦法だが、どうも学習能力が甘いらしい。

 

 お前よりも怒隻慧の方が何倍も強い筈だ。

 こんな所で立ち止まっている暇はない。

 

 

「何をやっている!! くそ、やれサクラ!!」

 空中からの火炎ブレスを、俺は堆黒尾の懐に潜り込んで避ける。

 

 御構いなしに放たれたブレスに直撃した堆黒尾は、怒りの咆哮を上げてサクラ達を睨んだ。

 

 

「お前の相手は真下だ。僕の言う事を聞け!!」

 絆石を掲げ、堆黒尾に命令するカルラ。

 

 

 なぁ、それがお前のなりたかったライダーなのか?

 

 

 

「グォゥラァァァァアアアッ!!」

 竜は咆哮を上げ、俺を振り払うために身体を回転させる。

 

 肥大化した尻尾が地面を抉り、俺はそれを避けられずに地面を転がった。

 

 

「……っ」

「終わらせろ、イビルジョー!!」

 堆黒尾は頭を持ち上げ、口から赤黒い光を漏らす。

 

 避けられない───

 

 

 

「うわぁぁぁぁ?!」

 ブレスが直撃するだろうと覚悟を決めて身構えた所で、森の奥からそんな悲鳴が聞こえてきた。

 

 同時に木々の間から火球が飛んで来る。目の前にそれが着弾し、俺は爆風で吹き飛んだ。

 

 

 

 ……死んだかと思ったぞ。

 

 

 

「アラン!!」

「やっと来たかミズ───」

「助けてぇぇえええ!!」

 は?

 

 森の中から全速力で走ってくるミズキ。その直ぐ後に、木々をなぎ倒しながら隻翼リオレウス亜種が走ってくる。

 

 

 連れて来いとは言ったがな……。いや、彼女らしいか。

 それにお前はそれで良い。

 

 

「な、ミカヅキだと?!」

「決着を付けるぞ、カルラ」

 突如現れたリオレウス亜種に再びイビルジョーが意識を向けている間に、俺は息の荒いミズキの背中をさすった。

 

「よく連れて来てくれたな。……絆石を貸してくれ」

「う、うん」

 確かに俺はライダーじゃない。

 

 

 

 だが、一度結んだ絆は切れない。それがカルラの───俺達の父であり師である人に教えて貰った事。

 

 

 思い出させてやる。

 

 

 そして、お前の気持ちを確かめたい。

 

 

 

「ミカヅキ!!」

 俺はミズキから借りた絆石を掲げて声を上げた。

 

 

 ───お前の気持ちを聞かせてくれ。

「───ライドオン」

 

 絆石が光り、周りを光が包み込む。

 

 

 ミカヅキと目が合って、俺の意識は光の中に消えていった。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 気が付けば暗い空間に一人。

 

 

 いや、もう一人いる。誰だ? ミズキか?

 ムツキか? カルラか? 

 

 

 

 なんとなく手を伸ばす。

 

 何かに触れる訳ではなく、しかしハッキリと感じた。

 

 

「ミカヅキ……」

 確かにそこにいる。

 

 

 ずっとお前を憎んでいた。

 

 あの時、なんで一緒に戦ってくれなかったのか。なんで俺を襲ったのか。

 その答えが聞けなくて。いつしか俺はお前の答えを決め付けていたんだと思う。

 

 

 人と竜は相容れない。

 だから、絆なんてないから。お前は俺と戦ってくれなかった。だから、お前は俺を襲ったんだと。

 

 

「なぁ、お前の答えを聞かせてくれ」

 もう聞けないと思っていたから。ずっとそうやって決め付けていた答えがもし違うなら、俺はお前に謝らないといけない。

 

 

 暗かった場所に突然光が入る。

 視界に映ったのは───俺の顔だった。

 

 やけに幼い、まだ子供だった頃の自分。産まれた命と絆を結んで、前を向いていた時の自分。

 そんな俺を、しっかりと真っ直ぐに見る。

 

 

 いつだって一緒だった。

 

 

 

 お前とならどこまででも飛べると、本気で思っていたんだろう。

 

 

 

 だけど眩しい空は───突然暗雲に包み込まれた。

 

 

 

 悪魔のようなその竜の姿を見て感じた事はただ一つ。

 

 

 怖い。

 逃げるだとか、戦うだとか、そういう選択肢の前に全ての感情が飲み込まれていった。

 

 

「お前は、怖かったんだな……」

 憎しみだとか、復讐だとか、それ以前に生き物として当たり前の感情。

 それをミカヅキは感じていたのだろう。

 

 

 

 だけど、それでも視界に映る大切な存在を見て───守らないといけないと思った。

 

 

 

 絆を結んだ大切な存在だから。

 

 

 

 何をしてでも守らないといけないと思った。

 

 

 

 だから───

 

 

「───俺を逃がす為だったんだな」

 一度結んだ絆は切れない。

 

 

 ダリアさんの言っていた通りじゃないか。

 

 

 

「すまなかった、ミカヅキ。俺は……最低なライダーだった」

 なんでこんな大切な事を忘れていたんだろう。俺は手を強く握って謝った。

 

 

 

「それでもお前は、まだ俺のオトモンでいてくれていたんだな。……なぁ、ミカヅキ。俺ともう一度───いや、また心を通わせてくれるか?」

 その手を伸ばす。

 

 

 

 お前がこの手を取ってくれるなら、俺は───

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

「───ライドオン。リオレウス!!」

 俺は堆黒尾を振り払ったミカヅキの背中に飛び乗った。

 

 

 懐かしい感覚が全身に伝わってくる。

 俺もお前も大きくなったな、なんて事を思った。

 

 

 

「アラン……お前!!」

「確かに俺はハンターだ。……だがな、ミカヅキとの絆だけは消えない。それでも人と竜は相容れない。だけどな、お互いを尊重して、この世界を共に生きる事は出来る。ライダーなんてその延長線だ。俺達は特別でもなんでもない。この世界の理を変える力なんて俺達にはない!!」

 心が通う。お前の気持ちが伝わってきた。

 

 

 だけどこの力は別に特別なものじゃない。

 

 

 ただ少しだけ、他の生き物の気持ちが分かるだけ。

 

 

 ただそれだけの力なんだよ。

 

 

 

 

「カルラ。モンスターはな、怖いんだよ。いや───生き物っていうのは、自分以外の生き物が怖いんだ。だから自分を守って、相手を襲って、そしてこの世界は回っていく。それを壊す事なんて、出来る訳がない」

「黙れ!! お前にライダーの何が分かる。何もかもから逃げて、絆を捨てたお前に!!」

「だから俺はここにいる!!」

「……っ」

「俺はお前を止めるぞ。……カルラ!」

 絆石を掲げる。

 

 

 

 ミカヅキ、俺とお前ならどこまでも高く飛べると───飛ぼうと約束したよな。

 

 

 

「ヴォゥァァァッ」

「大丈夫だ。お前は飛べる。俺となら飛べる」

 俺を逃がすために失って、そしてより強くなったその翼じゃバランスを取るのが難しくて空を飛ぶのが難しかった。

 

「大丈夫だ」

「グォゥラァァァァアアアッ!!」

 大口を開けながら突進してくる堆黒尾。

 ミカヅキは不安なのか、小さく唸り声を上げる。

 

 

「アラン!!」

「───大丈夫だ。お前は飛べる。お前なら飛べる。……俺とお前なら、どこまでだって高い所にいける。約束しただろ? ミカヅキ!!」

 バランスだとか、そういう難しい事を教えてやるのがライダーの勤めだ。

 

 俺達は竜と絆を結んで、一緒に進みたい道に進む為にその手綱を握る。

 

 

 己が進みたい道に無理矢理連れて行くんじゃない。

 

 

「お前も飛びたいだろ」

 その気持ちが伝わってきた。だから、俺もお前と飛びたい。

 

 

 

 だから───

 

 

「飛べ!! ミカヅキ!!」

「ヴォゥァァァァアアアアッ!!!」

 翼を羽ばたかせ、地面を脚で蹴る。

 

 宙に浮いたミカヅキの真下を、堆黒尾が唸り声を上げて通っていった。

 

 

 

「何?!」

 カルラと視線が合う。

 

 

「お前を止める。……まずはコイツからだ。ミカヅキ!!」

「ヴォゥァァァァゥ!!」

 上手く右翼の力を抑えながら咆哮を上げるミカヅキは、さらに翼を羽ばたかせて高度を上げていった。

 

 

 

「凄いニャ……」

「これが……ライダー」

 こんな道もあるんだと、ちゃんと教えた事はなかったな。

 

 怖かったんだろう。

 お前がこの道を歩くのが。でも多分、お前はそのままの道を歩くんだろうな。

 

 

 だけど今は見ていてくれ。

 

 

 

 これが俺達が歩いていた道だ。

 

 

 

 

 

 

 雲を抜ける。

 

 

 

 

 

 あぁ、本当にどこまでも高く飛べるな。

 

 

 

 

「あの時の約束、叶ったな……」

「ヴァァゥ……」

「あぁ、綺麗な三日月だ。あの日みたいな」

 一度結んだ絆は消えない。

 

 

 だから俺達は───

 

 

 

「───行くぞ、ミカヅキ!」

 ───今ここに居るんだ。

 

 

 ──ミカヅキ。お前の名前は、ミカヅキだ──

 

 

 

 急降下。

 どこまでも高い場所から、俺達は一気に地上の堆黒尾に迫っていく。

 

 

 

「来るぞイビルジョー!! ブレスで叩き落とせ!!」

 遅い。

 

 

「───スカイハイフォール!!!」

 イビルジョーが大顎を開いた瞬間、急降下するミカヅキは着地寸前、地面にブレス叩き付けた。

 爆炎が広がり、堆黒尾を脚で蹴り飛ばして俺達は地面を滑るようにその場から離脱する。

 

 

 

「な、何ニャ今の?!」

「凄い威力……」

 カルラから教わったんだったな。

 

 

 

「絆技……だと」

 それを見て目を見開くカルラ。

 

 堆黒尾は爆炎の中で脚をもつれさせ、悲鳴のような悲痛の鳴き声をあげながらその場に倒れた。

 

 

 お前との決着も、やっと付けられたか……。

 

 

 

「観念しろ、カルラ。お前の負けだ」

「───けるな。ふざけるな!! 絆を捨てたお前なんかに僕が負けるか!! 復讐から逃げたお前なんかに、ライダーから逃げたお前なんかに、僕は負ける訳にはいかないんだ!!」

 返す言葉もない。

 

 

 実際その通りなんだろう。

 

 

 俺は逃げていた。

 何もかもを失って。何もかも嫌になって。

 

 独りで。

 もし、あのまま独りだったらいつかお前と一緒になっていたかもしれない。

 

 

「お前は……独りだな」

「何……?」

「やれ───」

 

 

 ───でも俺はもう独りじゃない。逃げる理由はない。

「───ムツキ」

「ガッテンニャ」

 刹那、視界を閃光が白く焼く。

 

 

 準備していた俺達はしっかりと目を逸らしたが、眼前で閃光に眼を焼かれたカルラとサクラはバランスを崩して地面に叩きつけられた。

 

 

「ミヅキ、ムツキ、ミカヅキはサクラを頼む。出来るなら、殺さないでやってくれ」

「分かった!」

「え、このリオレウスと共闘するのかニャ……」

「ヴォゥァァ……」

「あわにゃにゃにゃにゃ……」

 閃光玉はもう耐性が付いたのか、首を振りながら立ち上がるサクラ。

 その正面にミヅキ達が立ち塞がる。

 

 

 

「あなたの相手は私達だよ!」

「ヴォゥァァァ!!」

 カルラの事を気にしているようだが、こちらには来れない筈だ。

 

 

 だから、俺達はやっと二人きりになれる。

 

 

 

「……っ、くっそ。二度も卑怯な真似を」

「卑怯だろうがなんだろうが、何をしてでも勝つのがハンターだ。知恵と勇気を振り絞って、仲間と一緒に戦う。ライダーもハンターも変わらない。……立て、カルラ。立てないなら俺が立たせてやる」

 ギルドナイトスーツの襟を掴んでカルラを立たせ、俺はその顔面を殴り飛ばした。

 

 後ろで「ちょ、アラン?!」と声が聞こえるが気にしない。お前達はサクラの相手をしていてくれれば良い。

 

 

「……完全に男の喧嘩ニャ」

「い、良いのアレ」

 そうだな、喧嘩だなコレは。

 

 

 

「立てよカルラ。負ける訳がないんだろう?」

「バカに……するな」

 フラフラしながら立ち上がって、拳を振るうカルラ。

 俺はそれを受け流して、溝内に蹴りを入れる。

 

「ぐぅっふ」

「どうした。その程度で怒隻慧を倒そうとしてたのか?」

「こ……の───がはぁっ」

 足を払って、殴り飛ばした。地面を転がるカルラの元に歩いて見下ろす。

 

 

「……お前はバカだ。バカみたいに真っ直ぐで、素直で良い奴だ。だから色々なものが許せなくて、取り返しのつかない場所まで来てしまった」

「……だったら───だったらどうすれば良かったんだよ!!」

 立ち上がって揺れる身体で拳を振るうカルラ。当たる訳がない。

 

 全部交わしてまた地面を転がしてやろうと思った刹那、カルラは地面を蹴って俺を押し倒した。

 

 

「……っ?!」

「僕にはそれしかなかったんだ!! この道しかなかったんだ!! この憎しみを晴らすために、前に進むしかなかった僕に!! 他にどうしろって言うんだよお前は!!」

 押し倒した俺の顔を何度も殴る。

 

 案外痛い。拳が重い。

 

 

 

「だからお前は───」

 いい加減我慢出来なくて、俺はカルラごと身体を持ち上げて腹を殴った。

 

 

「───独りだって言っているんだ!!」

 そのまま怯んだカルラの顔面を殴り飛ばす。

 

 バランスを崩さずに再び腕を振るカルラ。俺にも避ける体力は残っていなくて、拳を拳で返した。

 

 

 

 そこからは泥試合。

 

 お互いに避ける事もなく、ただただ言葉にならない声を出して殴り合う。

 

 

 いつしかサクラもミカヅキ達も争うのをやめて、ただ俺達の泥臭い殴り合いを見届けていた。

 

 

 

「分からない……」

 やっと倒れたカルラは、何もない空を見上げてそう言う。

 気が付けば日は完全に落ちていた。

 

「そうだろうな」

「何で僕は負けたんだ。人も揃えた。強力なオトモンも沢山揃えた。モンスターなんかに負ける訳がない……。なんで僕はここに転がっている」

 倒れた堆黒尾とカルラを見比べる。

 

 

 お前に足りなかったものなんて簡単だ。

 

 

 それに気が付かない程にお前は追い詰められていたんだな……。

 

 

 

「何度も言わせるな。お前は独りだったからだ」

「僕にはサクラも仲間達もいた……。イビルジョーだって何匹も揃えた。一人なんかじゃ───」

「その誰かにお前は支えて貰おうとしたか? 全部独りで抱え込んで、結局最後まで独りだったんじゃないのか? お前はサクラさえ視界に入れないで、独りでいたから前しか向かなかったんだ」

 俺もそうだったから分かる。

 

 

 俺にはウェインやアキラさんが居た。ヨゾラも居た。

 それなのに誰にも心を開かず、ずっと独りで居たから大切なものを失ったんだろう。

 

 

 もう戻る事はないと。

 

 このままずっと独りだと。

 

 

 そんな俺を支えてくれたのが、ミズキ達だった。

 そして多分、俺を独りから連れ出してくれたのは───

 

 

 

「ヨゾラが死んで、独りでいる方が良いと本気で思った。俺が殺したと同じだ。独りで居れば、もう誰も失う事はないって。……でもな、何度も言われただろ? 一度結んだ絆は切れない。これはモンスターとの事だけじゃない。人と人でも同じだ。独りにはなれても、一人にはなれない。お前にはサクラだって仲間達だっていた。あのイビルジョー達だっていた。……なぁ、カルラ。なんでライダーのお前が独りになるんだよ。お前の周りにだって、俺に負けないくらい大切な仲間が───家族が居た筈だろう?」

 カルラの隣に倒れこんで、俺も空を見上げながらそう言う。

 

 

 

 断ち切って一人になれてしまうなら、本当に楽だったかもしれない。

 

 だけど、一度結んだ絆は絶対に切れないから。独りになっても、どこかで誰かと一緒にいる事になるんだ。

 その時独りになるんじゃなくて、誰かと支え合う事が出来たのなら───カルラだってこんな所まで来る必要はなかっただろう。

 

 

 

「確かにお前は一人じゃない。ただ、孤独の中に居ただけだ。早く出てこい。お前にはサクラも、俺達もいる」

 カルラに拳を向けて、俺はそう言った。

 当の本人は顔を背けて、拳を強く握る。

 

 

「僕は……間違っていたのかな」

「……そうかもな」

 一概にそうとは言い切れなかった。

 

 

 怒隻慧を倒す事自体は何も間違っていない。それが俺達人間がモンスターの命に向き合うという事だから。

 俺がその事から逃げていたのは確かだし、前までの俺ならカルラと同じ道を歩いていたとしてもおかしくはないだろう。

 

 そんな俺にカルラをどうこう言う資格はなかった。

 

 

 だけど、俺の道を正してくれた奴がいる。

 

 

 彼女のように、俺にも誰かが歩くべき道を支える事が出来るだろうか?

 

 

「なぁ、カルラ。ライダーになれよ」

「アラン……」

 いや、出来る筈だ。

 

 

「お前はひとりじゃない。だから、ライダーになれ。サクラと一緒に、最強のライダーに。それがお前が本来進むべき道だっただろう?」

「僕が……最強のライダーに?」

 心を入れ替えて竜と共に生きる存在になる。元々ライダーは森の中でひっそりと生きてきたんだ。

 

 お前がバカな事をやめれば、後は逃げるなりなんなり好きにしてくれればいい。

 

 

 ずっとライダーで居たお前なら、それが出来る筈だろう。

 

 

「だから、お前にミカヅキの事も頼みたいんだ」

「僕に……?」

「あぁ、人と竜は相入れない。俺達は一緒には居られないから。……だから、頼むよカル───」

 空気が揺れた。

 

 

 

 その場に居た誰もが固まって、動けなくなる。

 

 

 

 

 怖い。

 ただその感情だけに全てが支配された。

 

 

 

「───なん……だ?」

「嘘だろ……」

 吐くと言うよりは、漏れたというようなそんな声。

 

 カルラの視線の先に悪魔(・・)が映る。

 

 

 

「───クックククククク、グォゥラァァァァアアアアッ!!!!」

 生き物の形をした悪魔が。

 

 

 漆黒の身体。

 無数に刻まれた傷跡に、その半身だけを包み込む赤黒い光。

 

 半身の悪魔。

 堆黒尾が立ち上がったのかとも思ったが、アイツはすぐ近くに倒れているままだ。

 それに俺がコイツを見間違える訳がない。脳裏にコイツに奪われたものが何度も映る。

 

 

「どうして……ここに」

 ───怒隻慧イビルジョー。

 

「お前がいるんだ……」

 俺達から全てを奪ったその竜が、そこに立っていた。

 

 

「アラン!!」

「逃げるニャ!!」

 閃光玉を投げようとして、その手を止めるムツキの姿が視界に映る。

 怒隻慧には閃光玉が効かない。逃げようにも、どうすればいい。

 

 そもそも俺とカルラは今動ける状態じゃない。

 

 

 そんな事は関係なく、怒隻慧は唸り声を上げながら迫ってきた。

 

 

 殺される。

 それ以外何も思えない程、俺達は固まってしまった。

 

 

 ───ミカヅキはあの時こんな気持ちだったんだな。

 

 

 

「逃げろ、ミズ───」

 何もかも諦めて、大切な存在に声を掛けようとしたその時───

 

 

 

「グォゥゥアォォァアアアアアッ!!!」

 怒隻慧ではないイビルジョー(・・・・・・)の咆哮が空気を揺らす。

 

 刹那、俺達に牙を向け大顎を開けていた怒隻慧は吹き飛んで地面を転がった。

 

 

 

「な───」

 俺達を守ったのは紛れもない、カルラのオトモン。

 

 俺達の始まりと終わりにいた竜。

 

 

 

「ギ、ガ、カ、ギ、グ、グォゥ───グォゥゥアォォァアアアアアッ!!!」

 大気を吹き飛ばすような咆哮が渓流に響き渡る。

 

 堆黒尾は吹き飛ばした怒隻慧に突進して、その喉に食らいついた。

 

 

 

「どうして……僕達を助けるんだ。僕は……お前をあんなにも、こんなにも利用して……お前をそこまで傷付けたのに……」

 俺もカルラと同じ事を思う。

 

 このイビルジョーと絆を結べる訳がないと思っていた。

 カルラはただコイツを操っている(・・・・・)だけだと思っていた。

 

 

 なら堆黒尾が俺達を助ける理由があるのか?

 

 

 違う。

 

 

 俺は何度も言ったじゃないか───

 

 

 

「き、絆石が……」

「お前まさか……」

 俺とカルラの絆石が光った。

 

 赤と青の光が周りを包み込む。

 ふと堆黒尾と目が合った。

 

 

 ───そう、一度結んだ絆は絶対に切れない。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 視界に移ったのは、二人の少年の顔。

 一人は期待の表情をしていて、もう一人は真っ黒で暗い表情をしている。

 

 

 鳴いた。

 絆を結んだ相手に自分の存在を知らせる為に。

 

 

 

 蹴られて。

 何度も蹴られて。

 

 小さな身体には痛くて、辛くて。

 

 

 それでも、その少年と絆を結んだから。

 

 

 

 鳴いた。

 

 

 

 鳴いた。

 

 

 

 俺は、あの時(・・・)お前が鳴いていたのは怒隻慧を呼ぶ為だと思っていた。

 そうじゃなかったんだな。

 

「お前は……俺達を呼んでいたんだな」

 絆を結んで、その気持ちを伝える為に。

 

 

 必死に鳴いていたんだな。

 

 

 

 それを俺は、怒隻慧を呼んでいたと勘違いして。

 

 

 

 ───本当に、人と竜は相容れない。

 

 

 

 どうして俺はあの時お前の声に耳を傾けなかったんだろう。

 

 

 どうして───

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 ───どうしてお前は、それでも俺達のオトモンで居てくれるんだ。

 

 

 

「グォゥァァッ!!」

 振り解かれ、地面に倒れる堆黒尾。

 

 怒隻慧がトドメを刺そうと近寄るが、堆黒尾はその尻尾を振って怒隻慧を殴り飛ばす。

 

 

 

「……一度結んだ絆は切れない、か。本当に、そうなんだな。常に飢餓に苦しんで獲物を求めるイビルジョーが、僕達を守ってる。……これが、ライダーか」

 立ち上がり、カルラはそう言った。

 

 伸ばしてきた手を取って、俺も立ち上がる。

 

 

 

 逃げるなら今だ。

 どう考えても、披露しきった俺達が怒隻慧に勝てる見込みはない。

 

 

 堆黒尾を囮にしてでも───

 

 

 

「出来ないよ。お前が考えてる事は、お前に道を正された僕には出来ない」

 ───分かっているかのように、カルラはそう言う。

 

 

「アラン!」

「今の内に逃げるが勝ちニャ。どういう訳かあのイビルジョーが戦ってる今がチャンスニャ!」

 駆け寄ってくるミズキ達も、俺と同じ意見だ。

 

 

 なのに、カルラは前を見ている。

 

 

 

 

 カルラはバカだ。

 バカみたいに真っ直ぐで、素直で。

 

 コイツがそうと決めたら、もう一度殴り飛ばして地面に転がらせるしか止める事は出来ないだろう。

 

 

 そんな暇も体力も何処にも残っていない。

 

 

 

「グォゥラァァァァアアアアッ!!」

 怒隻慧が堆黒尾を地面に転がして、その喉に食らいついた。

 

 堆黒尾は振り払おうと身体を捻りながらも、俺達に視線を向ける。

 

 

 

 逃げろ、と。

 そう言っているようで。

 

 

 

 俺はまた繰り返すのか?

 

 

 

 なぁ、どうしたら良いんだ。

 

 

 

 突然身体が浮いた。

 

 地面を転がる。

 

 

 頬が痛い。

 

 

 

「何してる。……早く逃げろよ」

 そう言ったのは、カルラだった。

 

 

 

「お前……何を」

「カルラさん、もう喧嘩してる場合じゃないですよ!」

 そう言うミズキを振り払って、カルラは絆石を掲げる。

 

 

 それに反応したサクラは、何やらミカヅキの前で唸り声を上げてからカルラの隣に立った。

 

 

 

「勘違いするなよ、アラン。僕は最強のライダーになるんだ。怒隻慧くらい、僕の(・・)イビルジョーとサクラで倒してみせる。……お前達は邪魔なんだよ、いつもいつもさ。……早く視界から消えろ、鬱陶しい」

「カルラお前!!」

「なんだよ、まだ殴られたりないか? 今僕の大切なオトモンが攻撃されてるんだ。邪魔するなら、お前から倒すぞ」

 そんなカルラの言葉に合わせて、サクラが唸り声を上げる。

 

 

 口から炎を漏らすその姿と、いつかのミカヅキの姿が重なった。

 

 

 

「……罪を償わせてくれ、アラン。僕がやってきた事は、絆を───ライダーを侮辱する行為だった。世界の理にライダーを否定されたのかと思った。……でも違う。僕達はイビルジョーとだって絆を結べたんだ」

 強い意志でそう言うカルラ。

 

 

「僕をライダーにさせてくれよ。……もう邪魔をしないでくれよ」

 笑顔でそう言ったカルラは、絆石を掲げて声を上げる。

 

 

 

「───ライドオン、イビルジョー!!」

 堆黒尾を襲う怒隻慧をサクラが突進で吹き飛ばし、すかさずカルラは堆黒尾───イビルジョーの背中に乗り移った。

 

 

 

「僕はライダー。モンスターライダー。竜と絆を結びし者だ。……怒隻慧、この世界の理、この僕が断ち切る!! 行くぞ、サクラ!! イビルジョー!!」

「ヴォゥァァァゥ!!」

「グォゥァァァッ!!」

 二匹の竜の咆哮が渓流に轟く。

 

 対する怒隻慧は不気味な鳴き声を上げて、カルラ達の前に立ち塞がった。

 

 

 

「カルラさん……」

「な、何してるニャアイツ……」

 どうして、お前は俺から何もかも奪う。

 

 

 なぁ、どうしてだ。

 

 

 

 お前はなんなんだ。

 

 

 

 

「前に進め、アラン。僕達が進めなかった場所に───」

「カルラぁ!!」

 突然俺の背中から、何かが身体を掴む。

 

 

 振り向けば蒼い身体が、空に向かってその身体を浮かしていた。

 

 

「ニャァァ?! 巣まで連れてかれるニャァァ?!」

「ちょ、ミカヅキ?! 待って、カルラさんが!! ねぇ、アラン……っ!!」

 何も言えない。

 

 

 ミカヅキの気持ちが分かるから。

 

 お前はあの時、こんな気分だったんだな。

 

 

 カルラの気持ちが分かるから。

 

 お前も今、こんな気分なのか?

 

 

 何も言えない。

 

 

 

「アラン!!」

「カルラ───」

 だから───

 

 

 

「───カルラ!! 生きろ!! 死ぬな!! カルラぁ!!」

 遠のいていく地面。

 

 不敵に笑う大切な家族の姿が脳裏に焼き付いていく。

 

 

 

 頼むから、もう居なくならないでくれ。

 

 

 

 もうこれ以上何も失いたくない。

 

 

 

「アラン……」

「……っ。ぅ、ぁ、あぁ……あぁぁぁあああああっ!!」

 俺は結局、失うのか。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 俺は絆石をミズキに返して、三日月の登る空を見上げた。

 

 

 一匹の竜が、どこか遠くに飛んでいくのが見える。

 あの先でカルラが戦っている筈だ。いや、もしかしたらもう───

 

 

「本当に良かったの……?」

 受け取った絆石を握りながら、ミズキはそう聞いてきた。

 

 

「……人と竜は相容れない。俺はハンターだから、ミカヅキとは一緒に居られない。アイツもそれは分かってる。……だから、前にここに来た時俺達を追い払ったんだ」

 あの時ミカヅキは俺達を殺そうとはせずに、ただ追い払おうとしていたんだろう。

 

 今思えば、どうして気が付かなかったのか。

 

 

「……縁があればいつかまた会える。一度結んだ絆は絶対に切れないからな」

 そうとだけ言って、俺はベッドで寝ているアザミを背負った。

 

 

「ユクモに戻るぞ。ここも安全かどうかは分からない」

「カルラさんは……?」

 ミズキは心配そうな表情でそう言う。

 

 

 優しいからな、お前は。

 

 

「今の俺達が向かっても、食われるだけだ。あいつを助けたいなら、早くユクモ村に戻って救援を呼ぶ事が先決だろう」

 建前だった。

 

 

 多分ミズキもその事は分かっていただろう。

 

 

 だけど、俺達は前に進むしかない。

 

 

 

 アイツが開いてくれた道を無駄にしない為に。この道を歩くしかないんだ。

 

 

 

 怒隻慧はいつか必ず倒す。

 

 

 俺達が、色々ないのちに向き合う為に。

 

 

 必ずだ。

 

 

 

「カルラ……」

 ベルナ村に戻って、ベッドに蹲る。

 

 

 

 ただ、今だけは───

 

 

 

「カルラ……カルラ……ぁ。っ、ぁぁぁあああ」

 ───ひとりになりたかった。




第五章、次回のエピローグで完結です。その後は最終章第六章が始まっていきます。どうか、最後までお付き合い下さい。

読了ありがとうございました。
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