モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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始まりと終わりの場所

 懐かしい景色。海を越えて、平原が見えてくる。

 いつかこの景色を見た時は、その景色から別れる時だった。

 

 今はその逆だというのが何故か面白くて、私は意味もなく笑う。

 

 

 遺跡平原。

 沢山の出会いと別れを経験させてくれた場所。

 

 怒隻慧がそこに現れたという情報を元に、私達はとあるキャラバン隊の飛行船に乗ってユクモ村からこの場所にやってきていた。

 

 

「ここに、怒隻慧が居るんだね」

 初めてあった時の事を思い出しながら、他にも色んな事を思い出す。

 

 いつかこうやって飛行船から外を見ていた時に見た景色は私の中で強く根付いていて、今でも鮮明に思い出す事が出来た。

 

 

「ジャギィさん、会えたりしないかなぁ」

 なんて、夢みたいな言葉が漏れる。会っても分からないだろうし、そもそも───

 

「こっちに来るのは久し振りか? 娘っ子」

 ニッと笑いながらそう話しかけてくれたのは、私達を乗せてくれたキャラバン隊───我らの団の団長さん。

 

 

 相変わらずウェスタンハットが似合う渋い顔で景色を眺めながら、彼は「ハッハッ。にしてもいい景色だ」と快活に笑った。

 

 

「そうですね、久し振り……というかあの日が最後だったから」

 四年くらい前、私達はバルバレという移動する街で少しの間活動していた。

 団長さんの船でそこを離れてから、この辺りに来る事は一度もなかったから本当に久し振りです。

 

 そういえばバルバレは移動する街で、あの時はたまたま遺跡平原の近くにあったんだけど今はどうなっているのかな?

 そんな疑問を話してみたら、団長さんは「今丁度バルバレも遺跡平原の近くにある所だ! 何か運命みたいなものを感じるなぁ」としみじみした感じで教えてくれた。

 

 

「しかし団長さん達が迎えにきてくれるとは思わなかったニャ。どういう手回しなんだニャ?」

 ムツキが猟団の看板娘(ソフィア)さんにモフられながらそう聞くと、ウェインさんは帽子を深く被りながら「企業秘密です」と言葉を濁す。

 

 隣にいたシノアさんは呆れ顔で視線を逸らした。何か変な事でもあるのかな?

 

 

「タンジアに居る時に坊主が必死に頼み込んできてな」

 ただ、ウェインさんの企業秘密は一瞬で破られる。

 

 口を開けて固まってしまうウェインさん。それを見てシノアさんとアランは笑っていた。

 

 

「あんた達に気を使ってたのよ。旅路くらい楽しいものにしたいだろうからってね」

「ちょ、このオカマ!! 余計な事を!!」

「ウェインさん……。素直じゃないんですから。でも、ありが───」

「誰がオカマですって?!」

「アーーーッ!! 辞めて!! 死ぬ!! 死ぬ!!」

 私がお礼を言おうとすると、ウェインさんの言葉に怒ったアキラさんが彼の首根っこを掴んで船の外に吊るす。

 落ちたら本当に危ないから、私は急いでアキラさんを止めました。アランやシノアさんは笑ってるけど、笑い事じゃないよね?!

 

 

「……死ぬかと思いました」

「あ、あはは……。あの、ありがとうございます。ウェインさん」

 私がそう伝えると、彼は目を逸らして帽子で顔を隠してしまう。

 

 ウェインさんってやっぱり良い人なんだなって思った。

 

「それと、多分もうバルバレに着いてると思うんですけど。ミズキちゃん的には喜びそうな人も呼んでおきました」

 そのまま小さな声でそう言うウェインさん。その言葉や意味は分からずに、それから少しして船はバルバレへとたどり着く。

 

 

 

 

「うっはー……なつか───しい? いや、こんな感じだったっけ?」

 船から降りた私が漏らした感想は、そんな微妙な感じだった。

 

 いや、いくら四年前だといえバルバレで過ごした大切な時間の事を忘れる訳がない。

 でもなんでだろう。懐かしいという感情よりも、ここはこんな場所だったっけ? という感情の方が大きかった。

 

 

「ハッハッ、それもそうだ。バルバレは動く度にその形も変わるからな」

 船から積荷を下ろしながら、私の素っ頓狂な顔を見て笑う団長さん。

 

 移動する街、バルバレ。

 施設も何もかもが移動するから、その場所に留まって街を構成する度に施設の位置も何もかもがその姿を変える。

 

 

 四年前とは全く違う姿に残念な気持ちはあるけれど、それ以上にその事実が面白くて私は目を輝かせて周りを見渡した。

 

 

「凄いねムツキ」

「んにゃー、でもこれじゃ何処に何があるか思い出しても意味ないニャ」

「うーん、探検だ」

 全く知らない場所に来たみたいで二倍楽しい気もする。やっぱりバルバレは凄いなぁ。

 

 

「……なぁ、アレ」

 私達がそうやって騒いでいると、アランが若干困惑した声で船着場の奥を指差した。

 

「え、嘘ぉ……っ?!」

 釣られて彼が指差す先に視線を向けると信じられない姿が視界に映る。

 

 

 紫色の髪の小さな男の子が周りを見渡しながら笑顔で歩いていて、その男の子の手を繋いでいる女の子が男の子と同じ色の髪の毛を二つに結んで揺らしていた。

 真っ直ぐな緑色の瞳。ここに居る訳がない、私達の大切な友達。

 

 

「アザミちゃん?!」

 ベルナ村で私達に宿を貸してくれた女の子、そして私達と一緒に前に進んだ狩人。

 

 まだベルナ村を出て三ヶ月も立っていないけれど、なんだか懐かしくて、安心する。

 

 

「……ん、あぁ。おーい、こっちよー」

 私達に気が付いたのか、アザミちゃんは手を振りながらしっかりとセージ君の手を握って歩いてきた。

 

「アザミちゃーん!」

 二人が元気でいる事がとても嬉しくて、私も大きく手を振る。

 

 

「喜びそうな人ってのは、そういう事か」

「そういう事です。……まぁ、二つ名モンスターを討伐経験のある狩人ってなると即戦力みたいな物ですから」

 さっきウェインさんが言っていたのはそういう事だったんだ。

 

 だけど、アザミちゃんもセージ君もベルナ村に住んでる筈なのに大丈夫なのかな?

 

 

 

「なーんだ、元気じゃない」

 船着場の奥にある酒場で、アザミちゃんは安心したような表情でそんな言葉を漏らす。

 

 多分、事の経緯は知ってるのかな。

 

 

「あ、あはは……。えーと、どうしてここに?」

 私がそう聞くと彼女は目を半開きにして「言わないと分からない事かしら?」と答えた。

 

 それじゃ、やっぱり。

 

 

「怒隻慧……の、討伐」

「その通りよ。胡散臭いギルドナイトにかなり高額な報酬で依頼を受けたの」

 胡散臭いで誰か分かっちゃうのは置いておいて、一人で弟のセージ君を育てているアザミちゃんにとってその申し出は願ってもいなかった事なんだと思う。

 

 

 だけど、それはとても危険が伴うクエストだ。

 場所や難易度的にもベルナ村を離れる時間が増えてしまうし、セージ君を置いて行く訳にはいかないからここまで連れて来てしまったのだろう。

 

 多分、殆どその胡散臭いギルドナイトと言われてる人の策略で。

 

 

「……ウェインさん」

「あれー、怒ってますー?」

 正直、アザミちゃんにまた会えたのは嬉しかった。

 

 ただそれ以上に、アザミちゃんを巻き込んでしまうのが少し怖い。

 

 

「何よ、あたしの事が信じられない訳?」

 私の心情を知ってか知らずか、彼女は呆れたような声でそう言う。

 

「そ、そういう訳じゃ……」

 ない。けれど、ハッキリとそう言い切ることは出来なかった。

 

 

 目の前でお父さんが殺されたのを思い出す。今でも思い出す度に吐きそうになるし、胸が苦しくなるんだ。

 

 アランや他の誰かをまた失うかもしれない。自分が死んで、アランに同じ思いをさせてしまうかもしれない。

 そんな事は考えたくなくて、だけどいざその事を考えないといけなくなると私は迷ってしまう。

 

 

 

「……恩返し、させてちょうだい」

 ただ、アザミちゃんは強くそう言った。

 

 セージ君を除いてこの中で一番若い筈の彼女は、落ち着いた表情で私の事を見ている。

 

 

「渓流でリオレウス亜種やイビルジョーと戦った時、あたしは結局何も出来なかった」

 そんな事はない。アザミちゃんのおかげで、アランは前に進めたんだから。

 

 私がそう言おうとした矢先、アザミちゃんはこう言葉を続けた。

 

「あたしはコレでも二つ名持ちモンスターを討伐した事のあるハンターよ」

 自信に満ちた、頼り甲斐のある表情で彼女はそう言う。そこに居たのは歳下の女の子じゃなくて、立派な一人の狩人だった。

 

 

「あたし、あんた達が居なかったらきっとダメになってた。……だから、手伝わせて」

 セージ君の頭を撫でながらそう言う彼女は、とても歳下の女の子には見えない程しっかりと真っ直ぐな目をしている。

 

 

 私も負けていられないや。

 

 

「……ありがとう、アザミちゃん」

 とっても頼りになる仲間が一人増えて、内心は少し安心した。恐怖よりも、その気持ちが勝る。

 

 これなら、怒隻慧だって───

 

 

「……あれ?」

 ───そう思った矢先、私は周りを見渡してある事に気が付いてしまった。

 

 

 アザミちゃん、アラン、アキラさん、シノアさん、そしてムツキと最後に自分の足を見て指を折りながら数を数えていく。

 

 

 

「六人いるよ?!」

 狩りは基本四人以下で行うのが、ハンターとしての暗黙の了解だ。

 前回だってムツキやお父さんは待機してて、私とアランとシノアさんにアキラさんで怒隻慧と戦っていたし。

 

 また待機組が居るって事なのかな?

 

 

「もう怒隻慧に関してはしのごの言ってられないので、クエストメンバーの定員を撤廃する事に決まりました。それで、今集められる最高戦力はこんな感じですかね」

 私の疑問にそう答えるウェインさんは「ついでに」と息を切らさずに言葉を繋げる。

 

 

「ついでに、我らの団のハンターさんにも協力を依頼しました。遺跡平原近くのモンスターが寄ってこないように未知の樹海を偵察してもらいます」

 話によれば、今遺跡平原は怒隻慧の出現でモンスターが逃げて少なくなってるんだとか。

 

 そんな場所を新しく縄張りにするために付近からモンスターが来る可能性もあって、我らの団のハンターさんにはその対処をしてもらうらしい。

 一人で大丈夫なのかな。なんて心配にも思ったけれど、あのシャガルマガラと戦って勝った人なんだ。多分心配は要らないと思う。

 

 

「勿論それだけで狩場の環境が絶対に安定するという事はありませんが、かなり条件としては良くなる筈です。……皆さんのクエスト開始は明日の早朝、それまで英気を養って下さい」

 そう言いながらウェインさんは袋に入った大量のお金を私達が座る机の上に置いた。

 

 アザミちゃんが目を丸くする横で、彼は「これは報酬の前金です」と涼しい声を漏らす。

 

 

「随分気前が良いな……」

 アザミちゃんの事といい、我らの団のハンターさんの事といい、今回はウェインさん───というよりギルドからの報酬が手厚いような気がした。

 だからアランも疑問に思ったのか、ウェインさんを見て怪訝な表情でそう言う。彼の事だからウェインさんが何か良からぬ事を企んでいるのかもって疑っているのかもしれない。

 

 

「それだけギルドも状態を重く見ているという事です。なので、どうか宜しくお願いします」

 困ったような表情でそう言ってから、ウェインさんは「それではギルドに報告に行くので」と酒場から集会所の方に歩いていった。

 

 シノアさんにどうしたら良いか聴くと、今日一日は好きに過ごして良いとの事。

 彼女やアキラさんもそのつもりらしくて、だとすると私達のやる事は一つ。

 

 

 

「飲もう!!」

 狩人と言ったらお酒だよね!!

 

 というのは、もう少し大人になってからだけど。

 せっかくアザミちゃんにも会えたんだから、美味しいものを食べたり飲んだりしたい。

 

 この場にいる皆は了解してくれて、なんならと私は我らの団の皆も誘う事にした。

 

 

 夕暮れになる頃には人が集まって私達はジョッキ片手に乾杯をする。

 アザミちゃんや私はジュースだけど、お酒の匂いが酒場に充満して雰囲気的には私もお酒を飲んでる気分だった。

 

 

「ハンターさんはもう行っちゃったんですか?」

「おうよ、アイツもまー、熱心な奴でなぁ」

 ウェインさんもなんだけど、我らの団のハンターさんも残念ながらこの飲み会には不参加です。

 お話ししてみたかったし一緒にご飯を食べられないのは残念だけど、流石だなぁ……と感心させられてしまった。

 

 

 ウェインさんはこういうのが苦手らしいです。シノアさん曰く、人見知りなんだとか。

 

 そうは見えないけど。

 

 

「お嬢には飲ませるなよ!」

「なんでですかーーー!!」

 賑やかな我らの団の喧騒に囲まれながら、私はジュースを持ってアザミちゃんを探した。

 

 彼女の事を信じていないなんて事はないんだけど、やっぱり少しだけ心配だから話しておきたい。怒隻慧がどれだけ危ないモンスターなのかって事を。

 

 

「それで、どうしてハンターを続けてる訳?」

 視界にアザミちゃんが入って話しかけようとすると、シノアさんの声が聞こえてくる。

 

 どうやらアザミちゃんとお話ししてるようで、セージ君はなんの話なのか分からずに唇に人差し指を向けて頭を横に傾けていた。

 私も、そんな二人の話に耳を傾ける。

 

 

「これ以外に生き方を知らないっていうのもあるんだけど……いや、言い訳ね。……ハンターを辞めたくないのよ」

「……さっき言ってた、復習って奴?」

 怪訝そうな表情でそう聴くシノアさん。さっきまでアザミちゃんの過去の事を話していたのかな。

 

 だとしたら、ハンターを辞めたくないという言葉が少しだけ怖く感じた。

 

 もしかしてアザミちゃんは───

 

 

「違うわよ」

 ただ、彼女は私の不安とは裏腹にきっぱりとそう言う。セージ君の頭を撫でるその表情はとても優しい表情だった。

 

 

「生命と向き合うって……なんていうの、気持ちの悪い事じゃないって分かったから。確かに嫌な思いもするかもしれないけど、それ以上に自分が……生きてるって痛感できるのよね」

 そして彼女はシノアさんの眼を真っ直ぐに見てそう言う。

 

 

 それが彼女の答え。

 

 

「要するにまぁ、天職っていうか……その?」

「キミもミズキちゃんと同じで可愛いなぁ……」

 そんなアザミちゃんの頭を撫でるシノアさん。アザミちゃんは「な、なんでよ?!」と顔を真っ赤にして逃げようとするけどシノアさんは強引に彼女を撫で続けた。

 

「憧れたんでしょ、ミズキちゃん達に」

 優しい表情でシノアさんはそう続ける。

 

 

 憧れた……?

 

 

「ち、違……別に、そう言う訳じゃ」

 更に顔を赤くしたアザミちゃんは、俯いて小さな声でそう言う。

 ただ、彼女は何故か申し訳なさそうに視線を横にズラしていた。

 

 

「あの二人見たいなハンターになりたい。……なんて、思ったんじゃない?」

 そんな言葉に、アザミちゃんは眼を見開いてから口を尖らせる。

 

 否定はしなかった。

 少しだけ悔しそうな表情で、彼女は「……そうよ」と短く言葉を漏らす。

 

 

 

 アザミちゃんは私達に憧れていた。

 

 なんだか恥ずかしくて、声を掛けにくくなってしまう。

 

 

 

「なんかそういうの……格好良いなって思ったのよ。私が紫毒姫を殺した時、ちゃんとそのいのちを見てた二人は凄いなって。これが、本物の狩人なんだって……ね」

「良いんじゃない? アザミちゃんならなれると思う。頑張れ若いの!」

 笑顔でアザミちゃんの背中を叩くシノアさん。二人は初めて会った筈だけど、なんだかんだで打ち解けているようで良かった。

 

 

 二人の関係に安心した───本音を言うと気恥ずかしかったから、私はその場を後にしてアランの元に戻る。

 

 やっぱり楽しい時間はアランと過ごしたいなって。こんな時でもそう思ってしまうんだ。

 

 

 お父さんは見てくれてるかな……。

 

 

 

「アラーン、飲んでるの?」

「ん? まぁ、な」

 席に座っているアランを見つけて隣に座ると、少しだけ顔を赤くした彼は短く返事をして辺りを見渡す。

 

 なんだか懐かしい物を見るような、そんな表情だった。

 

 

「……どうかしたの?」

「賑やかだなと思ってな」

 お酒を一口飲んで、彼はそう答える。

 

 どこか遠くを見てるようで、なんだか少し寂しかった。

 

 

「ライダーの村でも、たまにこうやって盛り上がったんだ。人も竜も、一緒にな」

「竜も……」

 なんだか不思議な話で、でも信じられない訳じゃなくて。私はお守り(絆石)を握って彼の話を黙って聴く。

 

「いつか怒隻慧を殺したら、そんな日常が返ってくるんじゃないかと思っていた時もあった。……そんな訳がないのにな」

「アラン……」

 寂しそうな表情でそう言ったアランは、少しだけ笑って私の頭を撫でた。私は「心配してるのに」と頬を膨らませる。

 

 

「過去には戻れない。……だから、前に進むしかないんだ。お前と一緒に」

 何か込み上げていた物を飲み込むように、ジョッキに入ったお酒を一気に飲み込むアラン。

 普段あまりに飲んでる所を見ないから、ちょっと珍しい彼が見れてなんだか得した気分になった。

 

 お酒飲む人ってやっぱり格好良いし、アランだからもっと格好良い。

 

 

「私も飲みたいなー」

「明日に影響するからダメだ」

「えー」

「お前が居ないと困る」

 本当に困ったような表情でそう言うものだから、私は何も言えなくなる。ちょっと狡い。

 

「終わったら、一緒に飲もう」

「……う、うん!」

 そんな約束をして、アランが新しく注文したお酒が届いてから私達は二人で乾杯した。

 私はジュースだけど、次は二人でお酒を飲みたい。

 

 

「助けてくれニャーーー!」

 そんな感じで二人で飲み物を飲んでいると、遠くからムツキの声が聞こえて振り返る。

 

 どうして酒場で助けを呼ぶ声が聞こえるのか疑問だったけど、振り向いた瞬間その理由が分かって私とアランは飲み物を吹いた。

 

 

「待ちなさいネコ、せっかく私が着飾ってあげるっていうのに……っ!」

「変な絡みするんじゃないニャーーー!」

 何故か。アキラさんが小さなピンク色の服を持ってムツキを追い掛けている。

 

 

 フリフリの付いたピンクの服をどうしてムツキに着せようとしているのかは分からないけど、さっきまでムツキが居なかった理由がようやく分かった。

 

 ムツキ、真っ白なドレスみたいな服を着てる。多分アキラさんに玩具にされてたんだ。

 

 

「助けろニャ!!」

 私達の間に入って声を上げるムツキ。そんなムツキを追いかけて来たアキラさんは不敵な笑みで「その子を渡しなさい」と笑う。

 

「お酒飲んでる訳じゃないのに酔っ払いのテンションなのはなんなんだニャ!!」

 真っ白なドレスを着たムツキはそうやって悪態を吐くけど、確かアキラさんってお酒飲むと素に戻るんだっけ。いつかのタンジアの酒場での事を思い出した。

 

 

「明日の朝から大切なクエストなのよ。飲んでる場合じゃないわ」

 この前は飲んでましたよね、というツッコミは喉元で止まってしまう。

 

 それ程までにアキラさんにとって明日は大切な日なんだ。

 

 

 アランは申し訳なさそうにジョッキを置きながら視線を逸らす。飲み過ぎなければ良いとは思うけども。

 

 

「……でもお酒を飲まないとやってられないって気持ちは分かるわ。本当は私も飲んじゃいたいもの」

「飲めば良いんじゃないですかね……」

「ふ、勝利の美酒に取っておくのよ」

 短く笑ったアキラさんは「だから暇になって、ネコで遊んでたのよ」とムツキにとっては冗談じゃない言葉を漏らした。

 

 ムツキ、ドンマイ。

 

 

「ボクも明日は同じクエストなんだけどニャ」

「あら、格好良い系の服を着る時はノリノリだったじゃない」

「え、そうなのムツキ。ていうか、格好良い系の服着てるムツキ見て見たい!」

 アキラさんの言葉に私がそう言うと、ムツキは顔を真っ赤にして「言うにゃよバカーーー!」と猛ダッシュでこの場から離れていってしまう。

 

 そんなに恥ずかしい事かな……。

 

 

「ムツキって防具とか服とかあまり着ないから、そういうの興味ないんだと思ってた」

「元ノラメラルーでもね、オシャレに気を使うものなのよ。それは人もモンスターも男も女も同じ。居るでしょ? モンスターでもオシャレする奴」

 アキラさんのそんな言葉に私は感心して「おー」と言葉を漏らした。

 

「えーと、ウラガンキンとか?」

「そうそう。それよ」

 モンスターっていうのはムツキ達獣人族だけじゃなくて、例えばウラガンキンというモンスターは雄が雌にアピールするために自分の身体を着飾ったりする。

 オシャレとは違うけれど、ゲリョスは自分の巣にキラキラ光る物を集めて雌にアピールする習性があるんだよね。

 

 

 私の言葉を聞いたアランは無言で満足そうに頷いた。私が教えて貰った事をちゃんと覚えていて喜んでくれてるんだと思う。

 

 

 人もモンスターも同じ。

 アキラさんのその言葉は、アランと同じ物を感じてなんだか嬉しかった。

 

 

「……昔は、そんな話は下らない。知っていても仕方ないと思ってたのよ」

 ただ、アキラさんはそうやって言葉を続ける。昔は、という言葉が気になった。

 

「ヨゾラ……えーと、私の妹が言っていたのよね。……覚えておいても損はない、って」

 ヨゾラ・ホシズキ。アキラさんの妹さんで、アランの師匠でもあり大切な人。

 

 

 その人の言葉に私は聞き覚えがある。いや、これまで何度も聞いてきた。

 

 

 ───彼の口癖。

 

 

「……よく、アランが言う言葉だね」

「ん? そうか? あぁ……そうかもな」

 少し気まずそうに視線を逸らすアランを見て、私は少し口を尖らせる。別に拗ねてるわけじゃないけどねー!

 

 

「……確かに、その通りだと。私もそう思うわ」

 どこか遠くを見ながら、アキラさんは溜息を吐いてそう言った。

 

 

「狩人をやっていれば、っていうのは勿論だけど。人が生きていく上で、自分とは違う存在の事を知っていれば知っているだけソレを生かす事が出来る。……例えばネルスキュラってモンスターは自分の弱点の電気を、まるで防具のようにゲリョスの皮を着る事で防いでいる。私達狩人も同じような事をしてるわね」

 珍しく饒舌に、アキラさんは色々なモンスターと私達ハンターの共通点を挙げていく。

 

 その中には本当に人がモンスターの真似をしている物もあって、その中でもガンランスという武器の竜撃砲は飛竜のブレスを元に作られたんだという話はとても興味深かった。

 

 

「───私達はモンスターを知る事で生きている。無駄な事なんてなにもない。怒隻慧を知る事も、また私達が生きて行く事に繋がるのかもしれないわね。あの怒隻慧のライダーっぽい奴の事も気になるし。……それがなんになるのかは、まだ分からないけれど」

 そう言って、アキラさんはアランの正面で移動する。彼の目を真っ直ぐに見ながら、アキラさんは「アランちゃんはどう思う?」と質問を投げかけた。

 

 

「……分かりません。それを、確かめる為に俺はアイツを殺す」

「良い答えよ」

 続いて、私に「あんたは?」と問い掛けるアキラさん。

 

「私は、怒隻慧がどういう存在なのか知りたい」

 そう答えると、アキラさんは満足気に笑う。

 

 

 多分、一人一人の答えは違うけれど。それでも、その答えを見つける為にする事は一つだけだった。

 

 

 

 ───怒隻慧の討伐。

 

 

 私達は今度こそ決着を付けないといけない。

 

 

 

 空を見上げると、満点の星空を見せてくれる夜空に小さな点が映る。それと同時に、お守りが少し光った気がした。

 まるで鳥のような小さな点。どこか優しい光。

 

 

「アレは……」

「アラン?」

「いや。なんでもない」

 ただ、今はこの世界に生きる生き物の一つとして。

 

 

 怒隻慧に関わろう。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 翌日。

 日が昇り、空に薄く色が塗り始められる時間。

 

 

 私達は竜車に乗ってバルバレから遺跡平原に向かった。

 どこか懐かしい、竜車の揺れ。それはいつものようにゆっくりと、体を揺らしながら前に進んでいく。

 

 だんだん周りに遺跡が並び始めると、四年前の事を色々と思い出した。

 

 

 アランと始めて来たこの場所で、色んな出会いをしたよね。

 

 ジャギィと仲良くなったり、距離を置いたり。ババコンガの屁で臭くなったり。ティガレックスと戦ったり、ケチャワチャさんと過ごしたり。

 セルレギオス、ゴア・マガラ、そして怒隻慧に始めて逢った場所。アランが私に色々な事を教えてくれるようになった場所。

 

 

 私達の旅の、物語の始まりの場所。

 

 

 この場所で怒隻慧と戦うという事がなんだか運命みたいなものを感じて、私は一人でクスリと笑う。

 

 

 

「どーしたニャ?」

「ムツキ、あの大タルで作った花火の事を覚えてる?」

 私の誕生日にムツキが大切にしていた大タルで打ち上げタル爆弾花火を作ってくれた事を思い出した。

 

 本当に色々な事があった場所だから、四年前の事なのに鮮明に覚えている。

 

 

「まぁ、あのタルには思い入れしかないからニャ」

「あっはは。命の恩人───恩樽だったもんねー。懐かしいねぇ」

「そうだニャー」

 だから───

 

 

「勝とうね」

 ───きっと、決着を付けるにはもってこいの場所だ。

 

 

 

 勝とう。

 

 

 そして、前に進むんだ。




久し振りにイラストの紹介です。
Twitterの方でひょんな事から『ネコミミズキちゃん』なんて言葉が流行った時期がありまして。その時に頂いたイラストと自分で描いたイラストになります。
ここ数話暗い話が続いていたので紹介しずらかったのですが……もうこのタイミングしかないので紹介していきます!



【挿絵表示】

こちらは四十三さんから頂きました。コメントが面白い。困ってるミズキちゃんが可愛いですね……っ!!


【挿絵表示】

こちらは小鴉丸さんに頂きました。短髪も可愛い。髪が短かった頃の幼さというか、表情が可愛らしいです!!


【挿絵表示】

こちらはかにかまさんに頂きました。ポーズがあざとい。狡い!!猫の手シャツも良きですね……っ!!


【挿絵表示】

こちらはしばりんぐさんに頂きました。ちょっと!!えっちじゃない(小声)。可愛い。右下の小さなイラストもめっちゃ可愛い。可愛い。


【挿絵表示】

最後は自分のになります。ネコミミズキちゃんは良いぞ……。


そんな訳で、イラストの紹介でした。


さて、それでは物語もラストスパートです。一狩りいこうぜ!

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