モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】 作:皇我リキ
少しだけ強く机を叩いた。
「家族会議をします!!」
少し大きな声でそう言う私に皆が注目する。
ただ一人、この場にいてこの話の中心になる筈の人物だけが俯いているというか───燃え尽きていた。
「ムツキさんの恋路ですかー、なんか青春って感じですね!」
「なんでお前は普通にここに居るんだニャ……」
興味津々といった感じで身を乗り出す村の受付嬢───アイシャさんに、ムツキは辛辣な声を漏らす。
家族会議のお題は勿論、ムツキの恋路の話だ。ムツキは農場を任されているアイルーのミミナが好きだったんだけど、なんとミミナには既に好きな人がいたのです。
言葉にするとなんだか胸が苦しくなった。アランがもし他の人を好きになっていたらと思うと泣きそうになる。というか、アランってヨゾラさんの事は───
「どうかしたか?」
「───あ……な、なんでもないよ?」
私が変な事を考えていると、アランは心配そうに私を見て首を横に傾けた。あまりそういう事を考えるのは良くない。
「ンミャ、ところで会議って何話すんだミャ?」
「ムツキの恋路をどう応援したら良いか、かな!」
手を上げて質問するモモナに、私がそう返すとムツキは「なんでお前まで居るんだニャ……」と目を細めた。
「皆、ムツキの事が心配なんですニャ」
そんなムツキの頭を撫でながらそう言うビストロ・モガ店長───私のもう一人のお父さん。
今家にいるのは私とアランにムツキ、そしてアイシャさんにモモナにお父さんの六人である。
「そうミャそうミャ。皆ムツキの恋を応援してるんだミャ。そんなムツキの為に、ミミナの事を一番知ってる私が助けてやろうって態々来てやったのミャ!」
ムツキの背中をバシバシ叩きながらそう言うモモナ。双子の妹でもあり、ずっとミミナと一緒だったモモナはとても心強い助っ人だ。
「……ボクが振られた時笑ってたくせにニャ」
「……それはー、空気だミャ」
目を逸らすモモナ。とにもかくにも、問題はその事なんだけどね。
「しかし告白して振られたってのは、もう首の皮も繋がってないような気もするな……」
「アランさん、ゲネルセルタスって名前のモンスターは知ってますか?」
「知ってるが……?」
ムツキの現状に渋そうな顔をするアランに対して、アイシャさんは得意げな表情でとあるモンスターの名前を口にする。それは甲虫種の大型モンスターの名前だった。
だけど、アランが知らないモンスターの方が少ない。モンスターの知識だって受付嬢のアイシャさんでもアランに勝てるか分からないくらいである。
それなのに得意げなアイシャさんの次の言葉に、私は少しだけドキドキしていた。今でも私はモンスターの事を知るのが好きだから、思わず身を乗り出す。
「ゲネルセルタスはですね! お腹が減ると番の雄を食べちゃったり、戦う時は雄の身体が木端微塵になる勢いで投げちゃうんですよ!」
「いや知ってるがそれをなんで今話す!?」
「なにそれ怖い!!」
アランは知っていたようだけど、アイシャさんの話すゲネルセルタスの生態は想像だにしない壮絶なものだった。
確かアランに会ってまだ一年も経ってない時に、ゲネルセルタスは特殊なフェロモンを出して雄のアルセルタスを誘い出すって話を聞いた気がする。それって───いや、多分これは考えない方が良い事だ。うん。
「だから、ゲネルセルタス大作戦ですよ!」
続いて自信満々な表情でそう言うアイシャさん。ゲネルセルタス大作戦?
「……ゲネルセルタスは雄を食ったりして番が居なくなったらまたフェロモンを出して雄を誘い出す」
アランは半目で表情を痙攣らせながらそういう。それってつまり───
「───ミミナの想い人を消せば良いって事かニャ」
「いやダメだよ!?」
満面の笑みでそう言うムツキを私は大声で制した。いくらなんでもそれはダメだよ。
「そんな事したらダメに決まってるし、ミミナだって悲しむよ?」
「……いや、考えようによってはありだぞ」
「アランまで!?」
まさかのアランが賛成してしまって、私はどうしたら良いのか分からなくなる。もしかしておかしいのは私なのだろうか。
「ロアルドロスは雌のルドロスとハーレムを作って群れをなすのは知ってるだろ?」
「え、あ……うん」
「そのロアルドロスだが、別のロアルドロスと縄張りや群れのハーレムを奪い合って戦う事があるんだ。元々の群れのボスが争いに勝てばハーレムを守れるが、負ければ新しい雄にハーレムを奪われる」
「つまり、弱肉強食……」
「そういう事だ。モンスターの世界の話だが、これを俺達に置き換えれば良い」
そしてアランはムツキの肩を叩きながら、目を細めてこう続けた。
「ムツキ、お前がその雄より漢らしいという事をミミナに教えてやれば良い。そういう事だろ、受付嬢」
「そういう事です! 名付けて、ゲネルセルタス大作戦!」
珍しくアイシャさんとアランが息ピッタリな事に私が驚いていると、ムツキは無言で立ち上がって不適に笑い出す。
「……くく、くっふふ、そうだニャ。お前もたまにはやるじゃにゃいか」
物凄い悪い顔でアイシャさんを見ながらそう言うムツキ。本当にこれで良いのだろうか。
「あ、アラン……」
「まぁ、男ってのはそういう生き物なんだ。これは、覚えておいてそんはない」
むしろ知りたくなかった気がしなくもない。
「だ、だけど、そうは言っても相手はタンジアにいるんでしょ?」
「それなら、丁度明日タンジアからの船に乗ってくるってミミナが言ってたミャ」
そんなモモナの話に、アイシャさん曰くタンジアからの連絡船は明日の午前中に来るという話を聞いた。都合が良いのか悪いのか、ムツキとアラン───それに何故かお父さんも加わって作戦会議を始めてしまう。
「男性の方ってこういう時の団結力が凄いですね」
ムツキの話に飽きてしまったのか、ゲネルセルタス大作戦を提案した当人のアイシャさんはハチミツ茶を飲みながら私の隣に座った。
そんなアイシャさんの後ろをモモナも付いてくる。何事もないとは言えないけれど、少しだけ平凡な日常にどこかホッとする自分がいた。
「やっぱり男の人だからこそ分かる事もあるのかも……。そういえばモモナ、ミミナはどうしてるの?」
「ンミャ!? え、えーと……あ、明日大切な人と会うから早く寝るって寝ちゃったミャ!」
ムツキの想いを天秤に掛けても、ミミナのその気持ちを振り払えない気がする。
「うーん、ムツキには幸せになって欲しいけどミミナの邪魔はしたくないなぁ。どうしよう、ねぇ、どうしたら良いと思う?」
「冷静に考えてみるとミミナさんの恋路の邪魔をするのはダメですよね」
それをアイシャさんが言うかな。
「ねぇ、モモナは───モモナ?」
ふとモモナに視線を映すと、彼女は何処か遠い所を見ていて私の言葉に気が付いていないようだった。
私は少しだけ待って、彼女の鼻を突く。
「ンミャ!?」
「……どうかしたの? モモナ」
「……い、いや。なんでもミャい! 私は、ムツキが面白いから笑う為に付き合ってるだけミャ。ま、ミミナは強敵だから難しいだろうけどミャー」
酷い。
「……だから、無理だと思うミャ。……無理な筈、ミャ」
「モモナ……?」
その時のモモナは何故か、何処か不安そうに震えていた。
翌日。
私が朝起きて玄関に出ると、お店の入り口に大タルが沢山並んでいる光景が目に入る。
「お父さん、ナニコレ」
「大タル爆弾らしいですニャ」
「なんで!?」
お店の準備をしていたお父さんに話を聞くと、今朝早くからムツキが一生懸命この大タル爆弾を運んでいたらしい。村ごと消す気なのかな。
「ムツキ、流石にダメだよ!?」
「だってボクにはこれしかないんだニャ! ボクの良い所なんて無駄にアイテムに詳しくて取り扱いが出来るだけニャ!」
泣きながら大タル爆弾を叩いてそう言うムツキ。危ないから辞めて。
「そんな事ないよ」
「ニャ、ミズキ……?」
「ムツキはとっても優しい、私のお兄さんだから。その優しさをミミナに見せてあげれば良いと思うな」
ムツキをゆっくり抱いて、私はそう言った。
ずっと一緒に居たから分かる。
ムツキは色んな事に気が付けるし、とっても心が優しくて頼り甲斐のあるお兄さんだって。
「優しさ……ニャ?」
「うん、優しさね」
それだけ言って、何故かふと昨日のモモナの表情が頭を過ぎった。それが何故だか、私にも分からない。
「なんだ、大タル爆弾で吹き飛ばす作戦はなしか」
「アランはこれ止めてよ、もぅ」
「……すまん」
何故かムツキより乗り気だったアランを制して、私達は船着場に歩き出す。家の前からも見えていたけど、船は既に水平線にポツンと見えていてもう直ぐ到着する頃だった。
「予定より早いな。……北風か」
指を舐めてから頭上に向けてそう言うアラン。追い風だから船が早く着いたのかな。
「あ、ミミナとモモナはもう居るよ」
船着場で座っている二人を見付けて私は手を上げる。先に気が付いたのはミミナで、モモナと一緒に手を挙げてくれた。
「み、ミミナ……」
「どうしたのムツキ?」
「昨日振られたばかりだからな……。だが、ここで引く奴は立派な群れのボスにはなれない」
ムツキがなりたいのは群れのボスじゃないけどね。ハーレムも作らないからね。
「が、ガッテンニャ。……お、おはようニャ二人共!!」
「おっはよーうミャー!」
「……ムツキ、それに二人も。おはよう、みゃ。こんな朝早くから……どうしたみゃ?」
元気に挨拶しかえしてくれるモモナと、首を横に傾けるミミナ。そういえば、私達がここに来た理由がムツキのゲネルセルタス大作戦を見守るためなんて言えない。どうしよう。
「タンジアに手紙を出したくてな。近況報告って奴だ」
私が困っていると、アランは懐から何やら封筒を取り出してそう言った。手紙の宛先にはウェインさんの名前が書いてある。
「な、ナイスだねアラン」
「なんやかんや言ってまだ甘いなミズキ。……まぁ、これは本当に今朝思い出して書いただけの物なんだが」
「せ、セーフだから良いんだよ」
小声でアランとそう話していると、いつのまにか船は軽く泳げば届くような位置まで近付いていた。
こうして船を待っていると、私が初めてこの島から出て行った時の事を思い出す。もうずっと前の事なのに、なんだか最近の事のようだ。
「ま、立ち話もなんだから座ってミャ!」
ふとモモナがナイスなフォローを入れてくれる。これでムツキが自然にミミナの近くに行けるし、モモナもやっぱりなんやかんや言って応援してくれてるんだね。
ただやっぱり、昨日のモモナの表情が頭の片隅から離れなかった。
「お、おはようニャ! ミミナ。……えーと、今日も良い天気だ……ニャ?」
「……おはようみゃ。うん、良い天気」
昨日の事もあったからか、ムツキはガクブル震えた状態でミミナに話し掛ける。
一方のミミナといえば平常運転。どこかボーッとしてるようで、しっかり者のミミナはムツキが座りやすいように船着場の椅子を少し開けた。
「……昨日は、ごめんみゃ」
「ミミナ……?」
「ムツキの気持ちは嬉しかった、みゃ。……ありがとう」
そんなミミナの言葉に、ムツキは顔を真っ赤にして仰反る。ムツキがミミナを好きなのは良く分かった。
けど───
「……でも、ごめんなさいみゃ」
「にゃ……」
「私は、えーと……今日来る、あの船に乗ってる……えーと、アダムって名前のアイルーが、好き。……ムツキの気持ちには答えられない、みゃ」
───けど、ミミナの気持ちは固いみたい。
それでも、ムツキは諦めるつもりはないようだけど。
「……分かってるニャ。だから、ボクはそのアイルーと勝負するんだニャ」
「勝負……?」
「ま、ムツキじゃ勝てなさそうだけどミャー」
「お前はどっちの味方なんだニャ!!」
モモナがムツキを揶揄っている間に、船が到着する。アランは船長にお手紙を渡して、私は彼に着いて少しこの場を離れる事にした。
勿論、少し離れた所から観察はするんだけどね。
「それ、双眼鏡か」
「うん。ムツキがこれで見ながらいざとなったら助けてくれって」
「俺達は何をしてるんだろうな」
「あはは、たまには良いんじゃない? こういうのなんて言うんだっけ、すとーかー?」
「少し違う」
言いながら双眼鏡に目を移す。この双眼鏡は、なんかよく分からないけど遠くの物が大きく見える不思議なアイテムだ。
本当は狩場で遠くのモンスターを観察する時とかに使うんだけどね。
「降りて来たぞ、アレじゃないのか?」
そうして船を観察していると、何やら防具に身を包んだアイルーが船から降りて来る。彼がミミナの言っていたアダムさんかな。
金色の毛並みを蒼い装備で覆ったそのアイルー、アダムさんは眩しくなるような爽やかな笑顔で「やあ」と手を上げた。
「久し振りミャー、アダム!」
「ハハッ、モモナは今日も元気だね」
眩しい。ニカッと笑った時に日の光に当たった歯が眩しい。そんな、爽やかなアイルー。それがミミナの想い他人らしいです。
「久し振り、ミミナ」
「……みゃ、久し振り」
船の近くまで歩いて挨拶をするミミナ見ながら、ムツキは「ギギギ……」と甲虫種みたいな声を出してアダムさんを睨んでいた。
対するアダムさんはムツキに気が付くと、これまた爽やかな笑顔で手を挙げて挨拶をしてくる。ムツキの眉間に皺が寄っているのが想像出来た。
「君は?」
「ボクはムツキ。この村のハンターのオトモアイルーだニャ」
「そうか、なるほど。ここのハンターは良いオトモアイルーを連れているね。……アダムだ、よろしく」
ぶっきらぼうなムツキの挨拶に、アダムさんは丁寧に返事をする。ムツキの表情が引き攣っているのが想像出来た。
「ムツキ、頑張れー」
「引いてるだけじゃ勝てないぞ。押せ押せ」
遠くから小声で応援する私達。そんな言葉は聞こえているのか聞こえていないのか、ムツキはビシッとアダムさんを指差してこう口にする。
「勝負だニャ!」
それはまた唐突だった。
「……勝負?」
これには流石のアダムさんも目を丸くして固まってしまう。多分ムツキの気持ちには気が付いていないだろうから、突然そんな事言われても分からないよね。
「……なる程、勝負か。分かったよ」
しかし、アダムさんは少しだけ考えた後目を閉じてそう言った。え、今ので何が分かったの?
「受けた事を後悔させてやるニャ! クッハッハッハッハッ!!」
完全に悪役だよムツキ。
「───と、その前に」
構えるムツキを片手で制して、アダムさんはゆっくりとミミナとモモナの手を取って椅子のある所まで歩いて行く。
そして彼は椅子にハンカチを弾いてから、ミミナとモモナに「立ちっぱなしにするのも悪いから、少し座っていてくれないかな?」と爽やかな笑みで語り掛けた。
なんて紳士なんだろう。
「……は、はにゃぁぁぁ!?」
その行動だけで、ムツキは負けを認めたのか泣きながら私達の元に走って来た。悔しいけどこれは惨敗だね。とりあえず出直そう。
首を横に傾けるミミナとアダムさん。その横で、モモナは泣くほど爆笑していた。
「モモナー、笑い過ぎだよ」
「だってミャ……だって───プークスクス」
作戦を仕切り直す為に一度家に戻って少し、モモナが笑いながら家にやってくる。
彼女曰くミミナはアダムさんと農場を散歩しに行ったらしい。その事を教えに来てくれたのは良いんだけど、モモナはずっと笑っているからムツキがとても不機嫌だ。
「もうお前帰れニャ……」
「そんな事言わないでミャー。せっかく手伝いに来てあげてるのにミャー」
「そうだよムツキ。でも、モモナも笑い過ぎ」
「ムミャー」
モモナの鼻を摘みながら、私はどうしたら良いのか考える。
ミミナはアダムさんとデート中。邪魔するのは悪いけど、ムツキの恋路を応援しないと。
「やはり倒すしかないな」
「た、倒すって……」
「ミズキも見ただろう。あのアイルーはムツキと違って腹黒くもないし、紳士で誰にでも優しく気遣いも出来る。謂わば完璧な男だ」
確かに、さっきの一悶着を見ただけでもアダムさんが良い人だって事は変えようのない事実だった。
ムツキが良い人なら、アダムさんは物凄く良い人。正直な所、そういう面で勝つのは難しいと思う。
「ムツキがあのアイルーに勝っているところなんて多分狡賢い所位だろう」
「お前もボクの敵かニャ!?」
「いや、俺はお前の仲間だ。
アランはそう言うと、小さな木刀を二本持って来た。それで決闘でもさせるつもりなのかな?
「ムツキ、どんなに卑怯な事をしても良い。勝て」
「えぇ……」
「本来俺達生き物の生存戦略は適者生存だが、こと自分の遺伝子を残す戦いにおいて求められるのは強者生存だ。勝った方が勝者で、負けた奴が敗者、これは揺るがない」
アランが難しい事を言ってる。よく分からないけど、多分とりあえず勝った人が勝ちだって当たり前の事を言ってるんだよね。
「相手をなんでも良いから負かして恥を掻かせてこい」
なんかこう、考えてみると男の子って怖いと思った。
場所は映って農場の中心。
お昼寝しているアプトノスのジェニーにもたれて、私達はムツキの戦いを観戦する。
ハチミツを採取する為の蜂の巣の隣に円を書いて、その上で並ぶムツキとアダムさん。
ルールは簡単。お互いにギブアップするか、この円から出てしまったら負けだ。
「……みゃ、どうしてこんな事に」
「ご、ごめんねミミナ。せっかくのデート中だったのに」
「いや、別にどうでも───んみゃ、気にしなくて良い。暇だったから、丁度良いみゃ」
「ミミナ? えーと、やっぱりミミナはアダムさんの応援する?」
「みゃ……別に、どうでも良いみゃ」
よく分からない反応に私は首を傾げる。デート、面白くなかったのかな? ミミナはいつも通り、どこか素っ気無い。
「アラン、ムツキは勝てるかな?」
「アイツの狡賢さはお前も知ってるだろ」
「実力を認めてあげようよ……」
「でも、アダムさんは一人でラギアクルスを倒せるくらい強いニャンターさんって聞いたミャ」
「へー、そうなんだ。それは凄───え!?」
一人でラギアクルスを!? それって、本当に凄いよね!?
「く、詳しく……」
「彼はタンジアで船の護衛を任されてるニャンターで、これまで守って来た船は数えられず。彼が乗った船は絶対に沈まないって言われてるミャ」
アランの質問にそう答えるモモナ。それはもう狡賢いで勝てるような相手ではなかった。
というか、もう少し早くそれを教えて欲しかったかな。
「やってやるニャー!」
「良い太刀筋だ。きっと腕の良いハンターと共に成長して来たんだね。だけど───」
試合が始まって───というか誰もスタートを切っていないのに突然斬りかかったムツキの斬撃を、アダムさんは軽々と避ける。いきなり狡い。
でも、相手のアダムさんは一人でラギアクルスを倒したニャンター。その動きには一切の無駄がなかった。
「こんにゃろ! こんにゃろ! こんにゃろ!」
「───この僕には届かない!」
木刀を一心不乱に振り回すムツキ。しかし、アダムさんのたった一度の振り払いで、ムツキの木刀は弾き飛ばされてしまう。
「ニャ!?」
「僕の勝ちで良いかな? 良い勝負だったよ」
爽やかな笑顔で汗一つ見せずムツキに手を伸ばすアダムさん。ムツキは俯いたまま固まってしまっていた。
そうだよね、悔しいよね。
「ムツ───」
「あ!!! あんな所にマタタビがあるニャ!!!」
しかし突然、ムツキはそう言ってあらぬ方角を指差す。マタタビは全アイルー族が無条件で反射してしまう物。それは流石のアダムさんも例外ではなかったらしい。
アダムさんはムツキの指差す先に視線を向けた。その隙に、ムツキはアダムさんに飛び付いて彼を円から押し出そうとした。
「流石ムツキだな」
「さ、流石……で、良いんだよね?」
「みゃー」
「ミャ……」
それでも勝てば次のアルセルタスになれる。きっとムツキはそう信じて戦っている。やっている事は凄い最低だったけど、その表情はとても真剣だった。
そう、ムツキはいつも真剣で。私達をしっかりと支えてくれた大切なお兄さん。頑張れ、頑張れムツキ。
───でも、それでも届かない物がある。
「負けないよ、僕はね」
飛び付いて来たムツキを、アダムさんはその勢いも使って背中から投げ飛ばした。
「ぎにゃぁぁぁぁ!?」
そのまま蜂の巣にぶつかって、ミツバチ達の怒りを買って追い掛けられるムツキ。
ただ、アダムさんが勝ったのにミミナは別に嬉しそうじゃなかったしモモナは何故か安心したように胸を撫で下ろしている。二人は何を考えているのか。
「もう諦めても良いんじゃないかな? 僕はその辺の男に負けるアイルーではない。……諦めるなら、助けてあげよう」
ミツバチに追い掛けられるムツキにそう語りかけるアダムさん。どうやら、これまでなんの経緯も話されてない筈の彼だけどムツキの気持ちは分かったらしい。
彼だって譲る気はない筈だ。
「諦めない……ニャ!!」
煙玉を地面に投げ付けながらそう言うムツキ。辺りが白い煙に覆われて、ビックリしたミツバチ達はムツキから離れていく。
「どうし───」
「どうしてミャ!!」
そのアダムさんの言葉を遮ったのは、モモナだった。
「モモナ……?」
「どうして諦めないのミャ!! こんなコテンパンにされて、格好悪い所ばっか見せてるのに!! どうして諦めないんだミャ!!」
大声を出して、何故か泣きながらそう言うモモナ。
そんなモモナを見て、ミミナはバツが悪そうに視線を逸らす。
「そんなの、好きだから決まってるニャ!」
「でもムツキなんかじゃアダムさんには勝てないミャ! 諦めが悪いミャ。諦めちゃった方が楽なのに!! おかしいミャ、ムツキ!!」
モモナはムツキに詰め寄って、その身体を揺さ振りながら必死に声を荒げた。
もしかして、もしかしてモモナは───
「お前にボクの何が分かるんだニャ! 自分の好きな人が他の人を好きになっちゃう気持ちが!! 諦めたくないニャ!! お前には分からないだろうけどニャ!!」
「分かるミャ!!!」
声が響く。
「ニャ……モモナ?」
「ムツキの……ムツキのバカ!!! 私だって……私だって好きなのに!!!」
そう言って、モモナは充満する煙の中に消えていった。煙玉が収まるまでの間、沈黙が続く。
───モモナは、ムツキの事が好きだった。
「悪い事をしたかな」
「……みゃ、反省」
ミミナとアダムさんは私達に頭を下げる。
二人の話では、事の発端はムツキの告白だったらしい。
モモナは昔からムツキの事が好きで、ミミナはそれを知っているから告白を断る口実が欲しくて嘘をついた。
それが、既に付き合っている人がいるという嘘。
「え、じゃあアダムさんは別にミミナとは……?」
「あぁ、ボクはミミナとはただの知り合いだよ。船から降りた時はよく分からなかったけど、農場で話を聞いてモモナの恋路を応援しようと決めたんだ」
つまり、モモナはモモナで私達がムツキの恋路を応援しようとしていた裏で応援されていたという事だったんだね。
「ボクのミミナへの気持ちを諦めさせようとしたって訳かニャ……」
「……ごめん、みゃ。ムツキ。別に私、ムツキの事……友達として嫌いじゃない。むしろ、好き。アダムの方がどうでも良い。……でも、それ以上にモモナの事が大切」
「ミミナ……」
彼女の言葉にムツキは俯いてしまう。辛い言葉だと思うけど、ミミナがモモナの事を本当に大切にしてるのは私達も知っているから。
「……だから、あの子を怒らないで欲しいみゃ。三人が島を出て行く時だって、ずっと……ずっとモモナは我慢してた、みゃ」
思えば二人がタンジアに遊びに来た時も、ムツキはミミナばっかりでモモナには少し当たりが酷かった。
それなのにモモナはずっとムツキが好きで、ずっとその気持ちを我慢していたなんて聞かされたら胸が痛い。
「ニャ……ミミナ」
だけど、ムツキの気持ちを考えるともっと心苦しい。妥協点みたいなのはなくて、誰かが幸せになったら誰かが不幸になってしまうのかもしれない。
もし、ヨゾラさんが生きていたら私は───
「怒る怒らない以前の問題かもしれないぞ」
私達が話していると、さっきまで傍観していたアランが蜂の巣の近くてしゃがんでモガの森の方を見ながらそう言う。
どういう事なのか。私はゆっくりと彼に近付いてアランの立っている場所を覗き見た。
「もしかしてモモナ……」
「モガの森の方に走っていったかもしれないぞ、アイツ」
「にゃに!?」
煙玉の煙でよく見えなかったけど、モモナは確かに森の方に走っていった気がする。
戻って来ていないなら、もしかしたらモガの森に───
「みゃ、モモナ……!」
「いけない」
咄嗟に走り出そうとしたミミナをアダムさんが止めた。そんな彼にミミナは必死な顔で「離して!」と叫ぶ。
「その先は狩場だ。君では危険だよ」
そう言いながら、アダムさんは自分の防具のズレを直した。
彼のいう通りモガの森はモンスターの世界。ミミナが行って無事に帰ってこられる保証はない。
それは、モモナも同じなのだけど。
「僕が探してこよう。アイルーだからね、鼻は効く」
「俺も付いていく。道案内は必要だろう」
アダムさんに着いて歩くアラン。まだ彼も万全と言える状態じゃないけど、アダムさんの実力なら安心して任せられる。
それよりも今はモモナを助けにいかないと。
「ムツキ、私達も手分けして探そう」
「ニャ……」
「ムツキ……?」
私がそう言うと、ムツキは顔を伏せて固まってしまった。気持ちは分かる。けれど、今はそれどころじゃない。
「ムツキ……!」
叫んだのはミミナだった。
「ニャ、ミミナ!?」
「モモナを……お願い、みゃ」
ムツキに抱き付いてそう言うミミナ。ムツキは彼女の言葉に、手を強く握ってからゆっくりと首を縦に振る。
「……ったく、しょうがない奴だニャ」
アランとアダムさんは先に森に入って、私達は急いで最低限の装備とアイテムを整えてから出発した。
ミミナには村に残って、もしモモナが帰ってきたらの事とアイシャさんへの報告をしてもらう。
今モガの森はミカヅキが関係しているのか分からないけど、微妙に不安定な状態だ。もし森に入ってしまったなら、モモナが危ない。
「ムツキ、匂いは?」
「分からないニャ。近くに大型モンスターの匂いはないから、とりあえずは大丈夫だと思うけどニャ……」
「モモナ……どこに行っちゃったのかな」
「ニャ……」
ムツキの気持ちもモモナの気持ちも、とても大切な事だという事は私が一番知っている。
だから、こんな事で終わらせちゃいけない。絶対に、モモナもムツキもそんな別れ方だけはしちゃいけない。
「そうだよね、ヨゾラさん」
森の中を歩く私達の上空で強い風が吹いた。
そしてその風は───
「危ないニャ、ミズキ!!」
「え……」
───劫火を放つ。
爆炎が森を包み込んだ。
大変お待たせしました?後日談三話目です。あまりにも昔の伏線を回収している。
一応後日談は八話構成で残り5話となっています。が、プロットは立ってるけどちゃんと5話で収まるか心配です……。
さてさて、夏ですねという事で今回のイラストは水着のミズキちゃんです柄がいいね。
【挿絵表示】
略してスクミズキちゃん(何を言っているんだ俺は)。
モンスターハンターアイスボーンの最後のアップデートが発表されましたね。次回作とかも気になりますが、今は映画が気になります()
それでは読了ありがとうございました!