明日には消すやもしれません
秋の豊作祭。
幻想郷におけるそれは、ただその年の実りへと感謝して祝うだけの騒がしいだけのお祭り――というわけではない。
幻想色濃いその場所では、はっきりと存在する神への祈り、感謝の念を捧げるための創始としての意味を持つ神事として強い意味合いを持っているのだ。
信仰と信心。
確かな神仏の力となり、先々の自らに降り懸かる幸運と不運、厄と祓い、禊ぎと実り。生活の根本に関わる重要行事としてそれは行われる。勿論、そこには一切の不真面目さなどない。真剣に真摯にそれと向き合い、神に捧げようという強い意志を込める。特に、その加護の有無が直接的な収入に関わる農家、ひいてはそれに連なる商売人などにとっては、決して気の抜くことのできぬ行事だ。
欠かすことのできぬ大催事なのである。
そして、それはその始まり。
四季の最初である春という季節においても、既に、その準備は始まっているのだ。
祭りの準備。捧げるための、種まきとして、豊作祈願を目指す一つの始まりの行事が神々しくも荒々しく――幻想郷式に花を咲かせている。
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「へええ、これがお祭りなの」
「はい、妹……お嬢様」
天辺へとさした陽の光。
青の寄り、少なからずのコントラストと程度に存在する白によって描かれた空。
その明るい昼時の場所に、まっさらな傘があった。
「出店っていうのは……あんまり数がないのね。人も少ないみたいだし」
丸く区切られた影。
その下にあるのは、切り取った分だけの日光を全て閉じこめて、無数の糸へと変えてしまったかのような、滑らかに明るい色。光に当たれば月のような綺麗な輝きを見せるだろう金色の髪。白の帽子と紅白の洋装に身を包む、背丈の小さな少女がそこにいた。
「あのような店はきっと夜が本番なのでしょう――それより、あまり急ぎ足にならないようにお願いします。傘が追いつけなくなってしまったら大変ですので」
隣に付き従う少し高めの背をした少女。
銀色の髪を持つ瀟洒なメイド長は、丁寧な口調で今にも走り出したそうにうずうずと手を握っていた吸血鬼のお嬢様を、やんわりと制した。
むっと眉をひそめて――けれど、自分でもわかっているのだろう少女は、その影からはみ出さぬように少女は歩を緩めた。
「もー咲夜は。あなたは今日、私の従者なんでしょう? なら、ちゃんと私に合わせて動いてくれればいいじゃない」
「……あまりに淑女に見合わない行動をとるようならお引き留めするようにと、お嬢様に申しつけられておりますので」
「むうう」
子供っぽく頬を膨らませて、小さな少女は不満げな顔をする。
それでも従者は、にこりと笑ってそれを受け流した。
正当な主であるあの紅の少女からそう申しつけられているのだから仕方がない。
確かに、今日はその金色の髪の少女の従者として、ここに来ているのだが、けれど、あくまでそれは決まりの範囲内を脱しない間だけ。それ乱せば強制帰宅。よしんば、無理矢理にそれを振り払ったとして逃げたとしても――
「あ、あれは何かしら? 咲夜、ちょっと……」
「はい。かしこまりました」
ペナルティが大きすぎるのだ。
従者の懐から取り出されたのは紅い色をした蝦蟇口。主から預けられた今夜の軍資金であり、彼女に管理が一任されているもの。
まさに財布の紐を握られている状態である。
さからうにもさからえない――さからってしまえばお祭りは楽しめない。
どうにも、もどかしい限りが耐えるしかない状況だ。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
受け取った小銭を少女は出店の主人に渡す。
入れ替わりに受け取ったのは、ふわふわとした雲のようなものような形をしたおもの。まるで、時々空に飛んでいる毛玉のようだなんて思いながら彼女はそれを口に含んで「甘い……」と小さく洩らした。
それを見ていた従者をくすりと微笑む――それを見て、少女はふんっとそっぽを向いて、それが見えないようにする…・・・それでもやはりと少しずつ、それを口に運んでいて、わからないように従者はまた笑んだ。
「……次はあれね」
「はい。あちらですね」
指さして、あちらへ向こうへと気になる方へ。
半分は楽しさで……もう半分は照れ隠しにむすっとしながら、まだ数の少ない屋台を回っていく。知らない味と知らないものと、それぞれを少しずつ眺めながらゆっくりと歩いていく。
そんな平和な姿を、誰かは見ていた。
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「あれは……?」
そうやってしばらくしたところ。
広場を通り抜け、その端の方までやってきたところで、少女が声を上げた。
人だかり……たくさんの人間が、広場の端に集まって何かが行われているのだ。皆々、大きかったり小さかったりといった妙な包みや箱を持ち寄っていて……時々はみ出しているのは、木の棒か何かだろうか。
それらを積み上げて、広場の端に固めているようである。
「私もあまりこちらの行事に詳しいわけではありませんので……何でしょうか?」
従者にもそれはわからず。
なんだろうと首を傾げていたところ。
「おや」
そこに一つの声がかかった。
若いような年を食っているような、古惚けた声だった。
「何かお困りですかね。そこのお嬢さん方」
気軽い様子で、一人の男が声をかけてきた。
こちらが不思議そうにそちらを眺めているのを見て、何か困り事なのかと察したのだろう。
「――あなたは?」
「ただの老人……通りすがりのお節介者ですよ」
見知らぬ人間に、多少警戒した様子を見せながらも――普段見ている姉を同じように、優雅さを忘れてはいけないと――しっかりとそちらを見返して、少女はそれに対峙する。
いつものような血気盛んな弾幕の場ではなく、見知らぬ者との社交の場。慣れぬその状況でも、しっかりとした矜持をもって恥とならぬようにと気を張って。
隣に並んだ従者はそれに少しだけ微笑んで――その向こうで、同じように誰かも。
「あれは何か……教えてもらってもいいかしら」
「ああ、あれですか」
男は微笑んで、他の人間と同じように背負っていた包み少女の前に差し出した。
ぷっくりを膨らんだその包みの結びを解いて、その中身を曝す。
中から現れたのは――一本の案山子だった。
作物を鳥害から守り、田畑を守る存在として置かれる人を模した一本足の形をしたもの。
それを――
「放り投げてください」
「……え?」
少女に渡して、男は唐突に言った。
受け取ってしまってから、少女はきょとんと惑った顔をした。
「あの山の中に積むように――ほら、そろそろですから」
「あ、ええ……と?」
首を傾げながらも、少女はそれを放り投げた。
ひゅんと音を立てて飛んだそれは、とてもその少女の腕から投げられたようには思えない速度で鋭く風を切り……その山の天辺へと突き刺さった。
どしゅんっという派手な音に、辺りの人間は驚いて誰が投げたかもわからないまま、やんややんやと騒いで手を打っている。
誰だ誰だ。あれ凄いこりゃ凄いと。
口々に歓声を上げて。
「……これでいいの?」
「はい。上々以上の出来で」
それが少し照れくさったのだろう。ぎゅっと帽子を引き下ろして顔を隠すようにしながら少女がいった。男はにこりと笑って答えて同じように「素晴らしい」と手を打った。
そこに激しい太鼓の音が加わった。
「え……?」
「そら、始まりです」
どーんと何かの大きな音がして――その案山子の山が、ごうと燃え上がった。
「え、あれ……?」
案山子かかし案山子。
積み上げられたその案山子たちが真っ赤と色づいて、ぱちぱちと火の粉を散らして燃え上がる。全てが木組みで作られたそれらは、一気呵成にと炎を纏い、次々にと灰と散っていく。
沸き上がる歓声。広がっていく熱情。狂おしい雰囲気。
「――ああやって、一年通して田畑を守ってきた案山子たちを供養するんです」
「供養?」
男の言葉が、その勢いに魅せられていた少女の耳に届く。
「年次の行事……木々が葉を散らし、その落ち葉が再び土に巡って実りとなるように。同じように、あの案山子たちの灰と枯らして土に返す――そうして、また次の実りを祈るんです」
「土に返して――また次に」
赤々と揺れる炎。
それを眺めながら少女は呟いた。
「秋の神――秋の豊作と終焉を司る神々の御技をなぞっての、一種の験担ぎといった具合に耕作の無事を祈る」
そう蘊蓄を語る男の隣で。
「……」
炎に照らされ、じっと少女はそれを見つめていた。
知らぬ光景。知らない風習。見知らぬ人々。
その熱気と活気。
「……」
傾く陽に合わせ、静かに傘を傾けていた従者はなにも言わずにそれを見ていた。
知りたいことを知ろうとする。
未知を既知へと近づける様を――外へ出られなかった少女の今を。
同じように。
そして――
「さあ、お次だ!」
「こっからが本番だぜー!」
「待ちに待った時だ!」
それは怒号で塗りつぶされる。
「……!」
驚きに肩を震わせる少女。
「おや、始まりましたか」
「……今度はいったい何?」
祭り。
騒がしいながらも厳かさを保っていたその行程――それを過ぎて、祭りは加速する。祭りの醍醐味、やんややんやの馬鹿騒ぎ――幻想郷らしい、乱暴乱雑なんでもありの激しさを含んで
「今度は新しい案山子を狩りにいくんですよ」
「狩り? 作るんじゃなくて?」
意味が分からないという視線の先で――里人の中でも一際屈強そうな人間たちが駆けていくのが見えた。それぞれに物騒な武器構え、荒々しい笑みを浮かべながら広場を抜けてその先へ向かっている。
「――あれが?」
「ええ、案山子狩り――ここからが、本番ですよ」
そちらは小耳に挟んだことがあった従者が確かめるようにいった言葉に、男が頷いた。
どうやら、ここらで畏まった時間は終わり。残りは、血沸き肉踊る羽目を外した宴の始まりであると――そう告げるように、銅鑼の音が鳴る。警鐘のように鳴り響く。
「さて、どうします?」
少女は、しばらく目を丸くしてから――うんと何かを決したように頷いて、それを追いかけた。何も言わないまま、合図もなしに日傘は少女を追いかけていく。
男は、笑ってそれを見送った。
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「あれは……」
里から少し離れた場所。
田畑を過ぎて、少し森に入ったあたり。
少女がそこにたどり着いた時、すでにそれは始まっていった。
「そっちだ、やれ!」
「大物がいたぞー! それは俺がとるぜ!」
「遅い遅い。こっちでもらうよ!」
里人たち――持っているのは鍬や鋤。たぶんの農家の者だろう――それが暴れ周り、とあるものたちを相手に激しい戦いを繰り広げる姿。
その相手とは――
「案山子、ですね」
従者は、それを見たままに答えた。
そうそれは、先ほど見た形とまったく同じ。
「案山子、ね」
案山子。
粉う事なき、案山子である。
しかも、それが無数と存在して、辺り一帯を覆っている。
「なんで、あれ、動いて……かみ」
「動いて、噛みついてますね。あんなに大きく口を開けて……」
驚きに声をなくす少女。
その眼前で、さらにと争いは激しさを増していく。
案山子は、その身体から伸びる一本足ともいうべき木製の棒をぎちぎちとしならせて――ばちんっと弾けるように跳ぶ。空を舞い、白くて丸い、そのてるてる坊主のような頭のその口の辺りがぱかりとジグザグに開き、まるで獣の咢のような形を曝しながら目の前の人間へと飛びかかる――それに対して、里人も一歩も引いてはいない。
鍬を突きだし、鋤でぶっ叩き、飛びかかってくるそれらの力ずくで弾き返す。
一度倒された案山子は起きあがってこない。どうやら、それ以上の抵抗するような力は持っていないようだ――しかし、それらはそこら中に無数に存在し、里人たちを脅かしていく。
それでも、誰一人逃げようとはしない。いや、むしろ昂ぶっている。
「……あれも、次の豊作のための大事な行事ということですよ」
「あれが?」
祭りの行事――その言葉に少女が首を傾げている間に、また里人と案山子がぶつかった。
かなりの数の一団で、案山子が里人たちに襲いかかろうとしている。
それを前に――狐の面をした一人が一歩踏み出して、ふっと手を揺らした。
手にあるのは真白い紙の札。何やら文字が描かれたそれらがその指先から離れ迫ろうとする案山子の群れにぴたり張り付いた――その瞬間に、爆発が起きた。小さく、けれどピンポイントで弾けた衝撃が案山子の胸の部分を叩いたのだ。倒れこんだ案山子たちの胸にクリーターが残り、まるで何かを掘り出した痕のように綺麗な丸い形に削り取られている。
そうやって前列を払った後、その後ろから素早い影が駆けていった。小さな犬だ。里人の一人が連れてきたのだろうその犬は案山子を相手にするには明らかに小さすぎる。いや、ちょうどいい大きさの、とても美味しそうな餌に見えるくらいだろうか。
案山子の一つがそれを見つけ、まさに想像した通りの様子で大口を開けた。それを食らおうとしている。しかし、それが迫りくる前にその犬はにこりと微笑んだように見えた。いや、大きく口を開けたからそう見えたのか――するりとその首に巻きつくように身を返した犬は、案山子の細首を狼のような鋭き牙で噛み砕き、そのままの速度で走り抜けてさらに二体と数を削る。
そして、そうやって気を取られ、攪乱された案山子たちの中に何かが投げ込まれた。先のものは丸く、後のものは棘に包まれた毬栗のような形をしていて――一つが弾けて、寒風が舞った。冬の寒さをぎゅっと凝縮したような冷たさが一瞬と溢れて……二つ目の突風が脆くなったそれらを一網打尽に吹き飛ばした。寒風と暴風。動きを止め、凍りついた案山子たちはなすすべはなくかき回されて、付近の木々や地面の硬さに砕かれる。
固められ、動けなくされ、叩きつけられ、そしてばらばら。
あれだけ無数に犇いていた案山子の一団に、ぽっかりと大きな穴が空いてしまった。そこには、何事もなかったかのように戻ってきた犬。先ほどの兵器を投げた里人はそれに片手を上げて合図を送って笑んだ。
『計算どおり』、だと。
「……」
それは、異様な光景だ。異常な存在であるはずの自らさえも異常に感じてしまう奇想天外の状景だ。けれど、これもまた、幻想郷における祭りに一部なのだと――その従者は極めて平静にいってのけた。
「ああやって、放っておくと際限なく増える案山子たちの数を減らしておく――そして、綺麗に残ったものをいくつかもって帰るそうです。化けた案山子は、獣除けには最適ということで」
「――人間っていうのも、たくましいのね」
無限に湧く案山子。恐ろしき怪異。
けれど、その地異に対して、人はそのままに対応している。
幻想郷という世界。そこでは、里に暮らすただの人間ですら、こんなにもおかしな存在ばかりなのかと、少女の胸に驚きが刻まれる。
こんなにもおかしいのなら、そんなことなんて、なんてことはないのではないかなんて想いを募らせながら――まだまだ、それは続いていて。
「ああ」
案山子のぱかりと空いた口に、里人の一人が投げた何かが突き刺さった。長方形をした石の弾幕――それは、煉瓦。同時に飛び掛かる三つの口に全くの同時に突き刺さり、さらにと追撃に放たれたのは、その煉瓦目掛けての掌底。常人なら顎が砕かれるだろうというそれは案山子が銜え込んだ煉瓦ごと、その顔面を粉々に砕ききる。やりすぎといってもいい。案山子の頭を完全に吹き飛ばしてしまった。あれを再利用することは不可能だろう。その細い手――もしかすると女性なのか――では考えられないほどの威力である。
そして、その後ろでゆらりと揺れる影。何やらぶつぶつと経のようなものを唱えてじっと座り込んでいた里人が立ち上がっていた。手には錫杖、黒い袈裟に身を包んだその姿――それがずるりとずれて、何やら
牙が向き、蛇が這い、淋しげな声がして――案山子が薙ぎ払われていく。
「おかしいな」
それはどうにも、過剰な光景だ。
明らかにやりすぎで、皆々真剣にやりすぎていて――どうしようもなく、ふざけていて、幻想郷らしい危なさ加減。加減知らずの限り無し。
術者に法師に、技術者、獣。皆馬鹿になって大騒ぎ。祭りの拍子に。
「ふ、ふふふっ」
その熱気に当てられて、少女の手が疼いた。その拍子に、ついついとつられてしまいそうになった。どうしようもなく愉しくて――けれど、壊すことには向かっていない。激しいけれど――けれど、何とか矛先は決められる。暴れてもいい場所で、向けてもいい方向に。
祭りに加わり、一緒に遊べるような気になって。
「――妹様」
「大丈夫……これもお祭りの行事なんでしょう?」
少女は、にこりと笑った。
姉の姿を想いだし、精一杯と優雅に微笑んで――興に乗ってましょうか、と。
「パチュリーの魔法はそう簡単に解けないし、羽根さえ出さないように気をつければ、多分、ばれないわよ」
「いえ、ですが」
辺りは森。
傾き始めた日光のほとんどは木々によって遮られている。よほど派手に動かない限りは、それに当たってしまう可能性も低いだろう。それくらいの判断はこの聡い少女にとっては容易いことだ。
そのために、従者は迷ってしまった。
その一瞬の逡巡の間に。
「大丈夫。ちゃんと手加減するから」
少女は、武器を持っていた。
倒れて落ちていた、他のものよりも少し小さめの案山子。
その身体から伸びた一本足を柄のように見立てて両手で握りしめ――ぶんと、確かめるように空を切る。
「これなら、やりすぎないでしょう?」
そういって、従者に笑んだ――瞬間、飛び出していた。
案山子の群の、その中でも一際大きいものめがけてそれを振り下ろし――吹き飛ばす。
「うおおお!?」
「なんだ、あの嬢ちゃん?」
さらにさらにと打ち上げ、ぶん回し、叩き潰して――その度に歓声が上がる。
自分たちの半分程度の背丈の少女が跳びかかる案山子の群れたちを塵芥と吹き飛ばしていくその光景に――幻想郷ではよくあることと、頼もしい味方が現れたと、里人たちの士気が跳ね上がる。
皆々
「いけいけ!」
「今日は最高討伐記録だー!」
「ひゃっはー!」
熱気あがる。奇声が上がる。
空気に呑まれて、皆々一つ。祭りに浮かされ酔っぱらう。
それでも、少女はちゃんと敵味方と見分けをつけて、上手に酔いと付き合って――。
「あれなら、大丈夫かし――」
安心仕掛けた従者の前で、少女の持った案山子が炎を纏った。
ごうごうと真っ赤に染まって、その興奮度を表すように燃え上がった苛烈な炎――それを纏った案山子が線を引いて空を飛ぶ。
「あははは!」
笑い声が響く。
火の粉と熱気が飛ぶ。
ここが祭りの最高潮。見せ場に修羅場の大活劇。
空気に呑まれて皆が笑う。けたたましい喧嘩祭りの場。
「……はあ」
従者は、ふっと諦めたように息を吐いた。
そして、懐から一つの球体を取り出し、それを何度か手を触れて。
「パチュリーさま。すいませんが事後処理のお手伝いをお願いできますか?」
『……わかったわ。水の魔法を込めた水晶でも美鈴に届けさせっ――ごほっけほっ。レミィ。あんまり暴れないで、ほこりが飛ぶでしょう? 小悪魔、ちょっと水を持ってきて』
『はいはい、ただいま』
「――お願いしますね」
そういって、また懐へと戻した。
また、「はあ」と一息。
瀟洒な従者は憂鬱を吐き出してから――しゅるりと指をずらした。
そこには、ずらりと並ぶ銀色の光。
「はやく終わらせて、後片づけをしないと」
そう呟いて、地を蹴って――誰も彼も、この幻想の住人で。
その夜、まだ、外で遊び慣れていない少女は、はしゃぎ過ぎてしまっていたのだろう。夜店や出店が立ち並ぶ祭りの本番の様相を見られる前に、彼女はぐっすりと眠り込んでしまい、屋敷の門番の背に乗せられて家へと帰ってしまうことになってしまった。
姉に約束していたお土産もなく、自分用の記念品も一つも買えていない。勿論、一緒にいた従者も門番も何も買ってはいない。けれど、すやすやと眠る少女のその手には、確かな戦利品が一つあった。
少女の姉はそれを見てふっと笑って――愛おしそうに、眠る少女の頬を撫でた。
その映像をずっと繋いでいろと命令されていたその親友は、やれやれと首を振り、繋ぎっぱなしだった通信球の回線をぷつりと切って――また、手元の新聞へと目を戻した。
号外と書かれたその冊子には、薙ぎ払われた森の様子と捧げられた案山子の残骸がうず高く積まれて燃されている様――受けすぎた信仰に、テンションの上がり過ぎた秋の神々によって、今年も豊作になるだろうという記事が載っている。
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翌日。
屋敷の花畑には一本の鳥除けが立てられていた。
その持ち主となった少女が選んだ正装に身を包む、少々焦げた人の形の一本足が。
まっすぐと、そこに立っていた。