敵国中央部、タイラント大佐とその仲間が敵国の主力と激戦を繰り広げていた。
「タイラント大佐!大丈夫ですか!」
俺の声を聞いたタイラントは俺に怒鳴る。
「てめぇ!てめぇらの任務は敵を引き付けることだろうが!何してんだ!」
「すみません。どうやら俺たちの方にこの国のトップクラスのサイコパスが来ていたようです。彼一人に何人もの仲間がやられるのを見ました」
「お前は見ていただけか!?てめぇ仲間を何だと思ってやがる!」
そうか、タイラントは俺が過去に戻れることを知らないのか。
「未来で、です。過去に戻り仲間を守ることに成功しました」
「……あとで詳しく教えてもらうからな!今はこいつらをやることに集中せねば!てめぇは邪魔だからさっさと逃げていろ!」
俺はムッとした。
「俺だって……俺だってやれる!スパークのサイコパスを俺一人でやったんだ!」
突然の俺の怒鳴り声にタイラントは怯んだ。
「っ!たった一人をやっただけでなにを言ってんだ!っておい!」
タイラントを無視し、敵の方に走る。
(遅い!遅すぎる!)
時間を止めていない俺は周りの速度が速く、自分が恐ろしく遅く感じる。足の速さには自信があった。学校での体力測定で行う100m走で6秒代。間違いなく俺は速いはずだ。だが、遅い。飛び交う炎や風の弾、銃弾や大砲が俺の遅さを際立てていた。
(遅い!遅い!遅い!遅い!)
自分に、自分の脚に、自分の速度に苛立ちながら俺は走る。俺の正面に敵兵士がいた。敵兵士の武器は俺を捕らえようとする。当たれば確実に死ぬ。だが、俺は能力を発動させる。途端に周りの速度は止まったように遅くなる。俺の速度はここでは圧倒的に速い。俺を殺そうとする敵兵士の首を跳ね飛ばす。赤い液体が今にもあふれだしそうなくらいに切られた首に集まる。時間をもとに戻す。切られた首は空高くにあがり、自由落下。赤い液体が雨のように降り注ぐ。俺は止まらない。
(遅いんだよ!くそが!)
敵は無数にいた。まだあの一人しかやっていないが、彼は最前線にいただけだ。俺の前方にはまだまだ敵がいる。時間を止める。時間が止まっている5秒間。俺は敵を30人殺した。これで俺は時間停止の能力をしばらく使えない。この能力がなければただの兵士。サイコパスでなければタイラントのように能力使わなくても強いわけでもない。だが、俺は止まらない。俺は敵を薙ぎ倒す。
「っ!?」
右を見た俺の視界に突然現れた。それはブレイズのサイコパスが放つ特大の炎の球。躱しきれない。俺は焼かれ死ぬ。死ぬはずだった。そして時間を戻し、また戦闘前に戻るはずだった。視界が物凄い速さで流れていく。正面にいた敵の懐に入る。距離はおそらく100mは優にあっただろう。それを一瞬にして走り抜けたのだ。素早く俺は飛び、敵の頭に剣を刺す。敵が倒れるのと同時に俺は地面に着地、間髪入れずに横に飛ぶ。ブレイズのサイコパス。おそらくここの主力の一人だろう。相当のレベルでなければあれだけ大きい炎の球を出せるわけがない。一気に距離を詰め、ブレイズのサイコパスを殺した。視界に入る敵を葬り去り、敵の攻撃を躱し、無数にいた敵が消え去った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
だんだんと視界が晴れる。
「俺は……何を……」
顔をあげ、周りを見る。敵がすべて殺されていた。自分がやったという自覚はある。だが、俺がやったという感覚はない。まるで何者かに操られていたかのようだ。
「お前は……いったい……なんなんだ!」
タイラントがそう俺に聞く。タイラントは俺に向かってタイラントの武器である斧を構えていた。タイラントとその部下も同様、俺に向かって武器を構えていた。
「俺は……」
俺は走った。逃げるように。それは彼らに殺されるという恐怖からではない。自分自身からだ。自分でない自分。彼は一体なんなんだ。
任務完了の煙弾が上がる。作戦は成功。ここは俺たちの領地となるだろう。彼が死ぬことはない。未来で見た。彼と再開する未来を。
「カルマ大佐。どこを探しても彼は見つかりません」
「そうか」
タイラント大佐からの報告で彼はたった一人で敵主力兵士及び敵兵士をすべて殺したそうだ。だが、彼はその後行方が分からない。タイラント大佐は「敵をほぼ一瞬で殺していった」と言った。これ以上は何も言わなかった。ただ一言、「人間では……なかったな」。そう発言したタイラント大佐の顔に怯えが見えたのは忘れよう。彼はこの国の英雄となる。彼がこの作戦でもっとも活躍した。目撃者も多い、情報も多い。早く見つけなければ。
俺は作戦が終わったこの国のいたるところを探し回っている。部下にも手伝ってもらっている。
「冬樹!どこだ!」
大声を上げても何も聞こえない。
ザーザーと水が流れる音が聞こえる。そこは川だった。川はコンクリートの塀に沿って流れている。植木鉢のように下に向かうごとに細くなったコンクリートの壁の底は人工的に作られた芝生になっている。俺は上から川をみる。
「冬樹?」
下に降りるための階段に腰を掛ける一人の少年。我が国の兵士服を着ている。自国の兵士は部下を除けば中央から南に集まっている。ここは東だ。俺の部下がサボって座っているなんてことはないだろう。
「冬樹!」
ビクッと肩を震わせて俺の方を見る。
「カルマ大佐……」
「探したんだぞ。何してるんだ」
俺は彼の隣に座る。
「俺は……俺ですか?」
「何を言っているんだ。お前は冬樹だ。間違いない」
俺はその質問の意味が分からなかった。どう見ても冬樹。間違いない。脳裏にタイラント大佐の一言が浮かぶ。「人間では……なかったな」
「俺の心の中に何かがいたんです。俺じゃない誰か……敵兵士をやったのは間違いなく俺。でも俺はどうやって倒したのか全く覚えていないんです」
「お前じゃない誰か?」
俺は思い当たることがあった。昔の友に同じような症状のやつがいた。自分でない誰かに自分が乗っ取られるような感覚。そして自分の記憶にない行い。これは……
「多重人格か」
「多重人格?」
「自分以外に何かがいる感覚はあり、自分の行動に記憶がない。記憶がない間は別の人格が動いている時だという。そういう障害だ」
多重人格はごく稀に見る障害だ。一度二つの能力を持つ者がいた。それはエクスプロージョンとブレイズでそれぞれの能力を使う時、その者は別人のようだったという目撃者の発言から発覚した。最後はもう一人の自分に嫌になり、自分を焼き殺し自殺した。人格一つに一つの能力。二つの人格を持っていた彼は二つの異なる能力を使っていた。人格は自分の意のままに操ることができず作戦時に問題が生じていた。自殺した理由がそれである。
「とりあえず国に帰ろう。皆が待ってる」
「……はい」
俺たちは国に帰った。やることはあったが、それは部下に頼むことにしよう。