怠惰
カルマとともに自国に帰ってきた俺は、精神身体ともに疲労していた。部屋に戻るとすぐに眠りについた。そして、夢を見ていた。
真っ暗な世界。俺にのみ光が差す。周りを見渡すもそこ以外に光はない。突然俺の目の前に光が差した。その中央に黒い粒子が集まり、人の形を作っていく。ほんの数秒で黒い粒子は人の形となり、色を付けた。それは俺自身だった。
「お前は誰だ?」
俺がそう問いかける。
「俺はお前。お前自身の大罪」
「大罪?」
「七つの大罪の一つ。憤怒の大罪だ」
「俺がいつ大罪を犯したってんだ!」
「自分自身の力を信じてもらえなかったことに対する怒り。自分自身の力に対する怒り。任務がうまくいかなかったことに対する怒り。三つの怒りが憤怒と化した」
「お前が俺の別人格だというのか?」
「俺はお前。別の人格ではない。お前自身だ。いずれお前に災厄が訪れる。忠告だ。大罪を犯すな!」
そういうと、目の前の俺はうっすらと消えかかる。
「待て!災厄ってなんだ!?大罪を犯したらどうなるんだ!?」
俺の声が届く前に目の前の俺は消えてなくなった。最後に頭の中に響く俺の声。
「忠告だ。大罪を犯すな。でないと災厄が訪れる」
俺は目を覚ました。
「冬樹、どうした?」
俺はあの戦いの時に使ったもう一つの能力をマスターしようと訓練所に来ていた。カルマも俺の能力が気になったそうで見に来ていたが、俺は夢の中の声が頭から離れれなかった。それについて考えているのに気付いたようだ。俺は我に返った。
「あ、いえ。何でもありません」
「そうか。それならいいが……それにしてもお前のもう一つの能力どうやって発動するのか……」
先ほどから何度も使おうとしていたが、まったく発動しない。あの時のことを思い出しても発動の仕方のヒントは見つからなかった。
「人格それぞれに能力が備わっているから、お前の別人格を呼び起こす必要があるということかもしれないな」
「俺の……もう一つの人格……」
俺は夢の中の自分の言ったことを思い出す。
「俺はお前。別の人格ではない。お前自身だ」
あの言葉の意味。それがわからない。俺自身であり、俺自身でない。
「おい。さっきからどうした?」
カルマの声でハッと我に返る。
「なにかあるなら言え。俺はお前の味方だ」
「大丈夫です。早くあの能力を使えるようにならないと……」
「無理はするなよ。悩みがあるなら相談しろ」
「ありがとうございます」
俺は再び訓練に励んだ。その日に俺がその能力を使うことはなかった。
数日がたった。俺はあの戦争で俺の軍だった者及び、北のケイロン、西のトワイライトに仲間として認められた。あの時の活躍、それが皆に認められる要因だった。あの時以来すれ違う仲間に声を掛けられることが増えた。……南のタイラントを除いて。
南のタイラントは俺をまるで不審なものを見るような目で見る。俺の戦い方がまるで化け物だったという。自分自身どういう戦い方をしたのかわからないし、俺の戦い方を見ていた者にしかわからない。俺がその時のことを聞いても何も答えてくれない。だんだんと自分の能力と自分の力に自信が無くなってきた。
「冬樹。会議に出るぞ。次の作戦だ」
「俺はまだ未熟です。もっと訓練してからでないと無理です。次回の作戦には俺は出ません」
「……そうか。まぁあんなことがあったんだ。気分が落ち着くまでゆっくりしているがいいさ」
カルマは優しくそう言ってくれた。俺は本当は逃げているんだ。またタイラントのような人が増えることを恐れて。そして自分自身から。
作戦が始まった。俺は参加しない。カルマと一部の兵士がその作戦に出ることになった。俺はそれを見送った。最近やる気がでない。考え事をするのもつらい。だんだんと訓練所に行くこともなくなり、部屋に籠っていた。カルマやケイナはそんな俺を心配していた。
コンコンとドアをノックする音が聞こえた。俺は返事をしない。する気が起きない。返事をしなければ帰るだろう。そう思っていた。不意にガチャリとドアが開く。入ってきたのはケイナだった。
「ケイナ……中佐……」
「なんで返事をしないのよ。最近変よ?どうしたの?」
「最近やる気が起きないんです……」
「全くもう!そんなんで兵士は務まらないわよ!多重人格がどうだっていいじゃない!あんたはあんたなんだから」
「……」
「私は新しい新人の面倒を見なくちゃいけないから。元気出してね、英雄さん」
それだけを言うと、ケイナは出て行った。俺のやる気が戻ることはなかった。悩んでいるのはそんなことではない。俺は眠りについた。