次の日の夜、カルマが電話を掛けてきた。さすがに大佐の電話を無視するわけにはいかない。
「はい。カルマ大佐」
「お前最近訓練すらやってないだろ?」
電話をとるとすぐにそんなことを言ってきた。
「……はい」
「どうした?タイラント大佐から言われたことを気にしてるのか?いい加減顔を出せ」
「……」
「……返事もなしか。明日、訓練所に来るようにわかったか?」
「……はい」
俺の返事を最後に電話は終わった。俺は外に出る支度を済ませ、眠りにつく。
朝、昨日冬樹に電話で訓練所に来るように伝えた。彼はまじめだ。最近は調子が悪いようだが、来いと言ったら来てくれるだろう。……だがなんだこの不安は。とてつもなく嫌な予感がする。念のため部下に呼びに行かせよう。
「おい、フリル、いるか?」
「はい。お呼びでしょうか?」
彼女はフリル、新入りの兵士だ。能力はアベックフローリング(物体浮遊)だ。レベルこそは高くないが、身の周りの世話をしてくれる。彼女曰く、俺に憧れていて、俺の元で働きたかったというのが理由で兵士になったそうだ。身の周りの世話をしてくれる兵士は他にもいるが、彼らは今日は休みだ。
「冬樹を知っているだろう?」
「はい。敵国占領作戦で最も活躍したという兵士ですね」
「ああ。彼は今部屋にいる。呼んできてくれ」
「わかりました」
俺は彼女が部屋を出るのを見届けたあと、外の空気を吸いにベランダに出た。嫌な予感が治まらない。未来予知ではちゃんと俺の前に来ている。なのになんだこの嫌な予感は。
しばらくして一本の電話が来た。フリルからだ。
「どうした?」
「冬樹少将の部屋にいるのですが、彼はいません」
「そうか、すれ違ったのかもな。とりあえず戻ってこい」
「……」
「どうした?」
「いえ……ちょっと気になったことがあって……」
「気になったこと?」
「はい。部屋が嫌にきれいなんです。まるで誰もこの部屋に住んでいないように」
その言葉を聞いて俺の中の嫌な不安がますます強くなる。
「その状況を詳しく頼む。部屋の探索は許可する」
「了解。まず部屋の様子についてです。入り口には靴は無く、部屋の中は荷物が一つもありません」
「荷物がない?」
「はい。ベッドはきれいに洗濯されて、しわ一つありません。クローゼットを調べますね」
「あ、ああ……」
話を聞くたびにどんどん強くなる不安。
「……服が一つもありません。おそらく誰も住んでいないでしょう」
俺は嫌な考えが頭によぎった。だが、その考えを無視する。
「部屋を間違えたんじゃないか?」
そんなことはない。彼女が間違えるということはあるわけがない。それはわかっている。俺は俺の嫌な考えを否定してほしかった。だが、その思いはむなしく打ち砕かれた。
「……確認しました。部屋は間違いありません」
俺は裏切られたショックで頭に血が上る。
「……すべての兵士を集めろ」
「……はい」
さっきから無数の兵士が俺を探している。うかつに動けない。もう嫌だ。こんな人生は嫌だ。誰にも会いたくない。何もしたくない。この国を出て俺は一人で生きる。
「いたぞ!」
「くそっ!」
俺は逃げる。無線で連絡している声が聞こえる。ここは路地裏だ。前をふさがれるのは間違えない。ここは……
「!?消えた!?」
「いや、時を止めて逃げたんだ!早く追え!」
彼らはすぐに散っていった。俺の新たな能力、透明化だ。この能力は俺の意思とは関係なく発動された。怠惰の大罪を持つ俺。夢の中であった。
「お前は……あの時の……」
目の前に座り込む自分。どう見てもこの前の夢で出会ったやつだ。
「あの時あった奴は俺とは違う。俺は怠惰の大罪を持つ者。面倒な話はしない。すぐにこの国を出るんだ」
「何故だ?」
「お前ももわかっているんだろう?この国は住みづらい。自分一人で生きたいと思っているはずだ」
「そんなこと……」
否定できない。目の前のやつは俺自身。俺の思っていることは筒抜けだ。
「怠惰の大罪を背負った君の新たな能力は透明化。ピンチになったら発動する。今はな」
「透明化?」
「いずれわかる。話はそれだけだ」
目の前の俺は光の粒子となろうとしていた。消える予兆だ。
「待て!お前らは一体何なんだ!?」
「……俺はお前の大罪。大罪を犯さないことを推奨する」
そういうと目の前の俺は消えて行った。そして、俺の夢も覚めた。
透明化の能力が解けた。透明化状態の時は、自分自身の姿が見えないため、どこにいるかもわからない。そのため、その場から動かなかった。自分自身の腕や足が見えた時が、透明化が解けた証拠だ。
俺は路地から抜け、門の方に逃げる。途中何人かの兵士に会うが、時間停止で抜ける。
俺は無事逃げることができた。後ろから何人もの身内が呼びかけ、兵士が追ってくる。だが、俺の速さには勝てない。俺は後ろを振り向かず走った。