ひたすらに走った。もう兵士は追ってきていない。そして逃げてきた場所すらもわからない。ただわかるのは、そこは森林の中だということ。それがわかったのは数分前。いつからこの森林に入ったのか、どうやってここまで来たのか。覚えているのは自分の国を捨て、追ってくる兵士からひたすら逃げたことだけだ。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら俺は森林の奥へ奥へと進む。何があるのかは知らないが、なんとなくこの先に行かないといけない感じがする。
「はぁ……はぁ……うあっ!」
ここまで休みもなくひたすらに走って来たため、疲労が溜まっている。足が震え、思うように立つことができない。意識が朦朧としてきた。薄らと開けた視界の中には、ざわざわと揺れる木々の葉が生い茂り、その隙間に小さな光が見える。星だ。
「夜……だったのか……」
地面に寝転がり、体力の回復をはかる。朦朧とした意識ははっきりとし始めた。
「ここは……どこだ?」
意識がはっきりしたと同時に気付く。ここがどこなのか把握していないことに。ただひたすらに進まないといけないという使命感からここまで来たが、その使命感が何なのか、何故この先に何かがあるということがわかっているのかがわからない。
「……行くか」
俺はこの使命感とこの先にあるものを確認するために、進むことを決意した。しかし、この疲労では目的地にたどり着くことは愚かろくに歩くことすらできないだろう。どこか休めるところを探さねば。
体を起こし、周りを見渡す。木々が立ち並ぶその森林は、俺が進む方向に向かって上り坂になっているようだ。どこかに洞窟か洞穴があるかもしれない。俺は立ち上がり、木の幹で体を支えながら少しづつ進む。と、突然体が宙に浮く。
「うあっ!?」
ネットだ。動物を捕まえるのに使われる罠だった。
「くっ!奴らの罠か!?」
俺を追ってくる兵士の罠かと警戒し、周りを見るが、何もいない。俺はひとまず安堵する。
「どうするか……」
恐らくこれを仕掛けた人物は、次の日に来るはずだ。だがそれは朝までこの状態だということだ。抜け出す方法を考えるもこの状態では何もできない。
「おやおや。これは大物が獲れましたなぁ」
声のする方に顔を向ける。木々の隙間から入ってくる月の光で照らされ、その人物が見えた。
「……何者だ」
「警戒しないでくれ。別に君を食べたりはしない」
七三分けの前髪、もみあげはまっすぐに伸ばし、先端は赤く染められている。服装からしてそこそこお金持ちのようだ。
「ぼくはジェラシー。君は?」
「……冬樹だ」
俺の名前を聞いて、驚いたように目を見開く。
「君がそうなのか?ふふふ……あははは!これは光栄だ!まさかこの世界の災厄がこんなところに!」
「どういうことだ?」
俺は少々苛立ちながら、ジェラシーに問う。
「ああ、すまない。こちらの話だ。さあ歓迎するよ。我々のチームに」
俺は話について行けず、怪訝な顔でジェラシーを見る。
「……とりあえず降ろしてくれ」
「おっとすまない。いま降ろすよ」
ジェラシーは木に取り付けられたロープをほどき、罠を解除する。地面に足がついた瞬間に、時間停止を使い、俺はジェラシーに近づく。喉元にナイフを突きつけた状態で時間停止を解く。
「っ!?」
自分が置かれている状況を理解したジェラシーは焦りの表情を見せる。
「さて、お前が今言ったことについて詳しく話してもらおうか」
「今言ったこととは?」
「時間稼ぎは無駄だ。答えないならすぐにでもお前を殺す。こちらは逃亡している身でな。誰かに見られると困るんだ」
「わかった。話す。まずはぼくたちのチームについてだ。ぼくたちはセブンデッドリーシンズと言うんだ。別に怪しい団体じゃないさ」
「俺が聞きたいのはそんなことじゃない」
喉にナイフの先をつける。鋭い刃により切れた皮膚から赤い液体が流れる。
「君が、災厄だということか。それは、君がこの世界を終わらせる力を持っているということなんだ」
「俺がこの世界を?馬鹿を言うな。そんな力、持っている奴などいない」
「自覚はないようだね。君は大罪を二つ犯しているじゃあないか」
「……どうしてそれを」
「ぼくにわからないわけがない。いや、ぼくたちに分からないはずがない。なぜならぼくたちも大罪を犯した身だからね」
俺はその言葉に衝撃を受け、拘束していた腕を話してしまう。その瞬間、ジェラシーは消えた。
「何!?」
俺は周りを見渡すが、人の気配はしない。
「どこに行きやがった!?」
「ここだよ。冬樹君」
声のする方向を見る。木の枝に座るジェラシー。
「……お前の能力は何だ」
「アビリティコピー(能力複写)。君の能力の一つを借りたよ」
「聞いたこともない能力だな。お前は何者なんだ」
「言っただろう?名はジェラシー。嫉妬の大罪を持つ者さ」
「俺の能力をコピーしたということはお前は俺と同じことができるということだな?」
「その通りさ」
そういうと木の枝から姿を消し、俺の真後ろに現れる。
「君の能力、時間停止の能力を使えるよ」
「!?」
不意に後ろを突かれた俺は高速移動で距離を離す。
「ほう。もう一つは高速移動か。これは面白い」
「もう一つ?」
「大罪を犯した者は何故か別の能力を開花させる。ぼくのもう一つはブレイズ(炎の能力)だ」
そういいながら指先に小さい炎を作る。
「ぼくは君に危害を加えない。だから君もそう警戒しないでほしい」
「……わかった」
俺は手に持ったナイフをナイフ入れにしまう。
「それじゃあ案内しよう。ぼくたちの隠れ家へ」
ジェラシーは俺についてこいと言わんばかりに手を回し、森の奥に進む。俺はその後を追った。