マザー
しばらく歩くと、拓けた土地に着いた。その土地の中央には大きな丘があった。丘のくぼみの前に来ると、ジェラシーは立ち止まる。
「ムゲンセンソウニシュウシフヲ」
そういうと、目の前の壁が下がり始めた。どうやら隠し扉だったようだ。
「着いたよ。ここがぼくたちの隠れ家さ」
俺はここの奥からとてつもなく嫌な気配を感じていた。まるで誘われているかのようなそんな気配だ。
「ここはどういう場所なんだ」
「ん?ぼくたちの隠れ家。それ以上でも以下でもない」
「お前は感じないのか?この気配が」
「気配?ああ。それはすぐにわかるさ」
俺たちは開いた扉の先に進む。階段状になったその坂道の奥から光が漏れる。
「ジェラシーか。おかえり……おや?お客さんかな?」
声の主は髪が長く、帽子を深くかぶっている。ギターを持ち、椅子に腰を掛けていた。
(どこかで見たことあるような……)
「なんだ冬樹君か。いつか会うことになる、その予言が当たっただろう?」
「お前は何を言っているんだ。そしてどうして俺の名前を知っている」
その男は目を丸くして、キョトンとしていた。
「全く、あなたが記憶を消したんでしょう?」
俺の背後から声が聞こえた。俺は驚き、後ろを振り向く。
「こんにちは。いえ、もうこんばんはかしら?」
「あなたは……ゴーデンテイ王国にいた……」
「名前はグリードよ。強欲の大罪を持つ者」
「あなたも大罪を持った人間だったのか。それじゃああんたも……」
「察しがイイね。ぼくはラスト、色欲の大罪を背負う者さ」
ここはどうやら大罪を持つ者が集まる場所のようだ。七つの大罪。今はまだ3人しかいない。あと4人はどこにいるのだろうか。
「能力はなんだ?」
「僕はストレイジオペレイション(記憶操作)とスピリットオペレイション(精神操作)。記憶を消したり付け足したり、相手の心を操ったり、主に人間の内部に干渉することができる」
「私はアブソープション(吸収)、すべての物を私の中に取り込む。たとえ人間だろうと機械だろうと……そしてもう一つはあなたも使っているトランスペアレント(透明化)よ」
「やけに親切なんだな」
「それはそうさ。もうぼくたちは仲間なのだから」
「それはどういう意味だ?」
「君も気づいているだろう?この気配。この気配を感じ取れる者は仲間の証さ」
気配……先ほどの誘われる気配が今度は優し気な……まるで実家にいるような安心する気配に変わっていた。
「これは一体何なんだ?」
「この気配の正体は、上の物さ」
俺は上を見上げる。ミラーボールのようであり、大きな真珠のようでもある。薄い桃色に輝くその球体は、俺の罪を許してくれているようだ。
「一体なんだ?これは」
「大罪を持つ者への救済。大罪を背負った者はここに引き寄せられる。たとえこの星の裏側にいようと、宇宙の果てにいようとね。尤、宇宙の果てから来た、なんて話は聞かないが」
「あんな風に言ってるけど、彼もこの球体の正体を知らない。もちろん私たちも知らない。この球体は私たちに使命をくれる。何をしなければいけないのか、頭の中に直接語りかけてくる。わたしたちは、これをマザーと呼んでいるわ」
結局正体はわからない。だが一つわかることがある。この球体は俺たちの親だということだ。
「大罪は七つ。お前たち3人で3つ。あと4人はどこだ?」
「次は何を聞くかと思ったらそんなことか。さっき言った使命を果たしに行ってるのさ」
「どこにだ?」
「それはわからない。ただ、共通しているのは、この世界で起きているふざけた戦争、”無限戦争”に終止符を打つということだ」
「無限戦争に終止符を?お前たちにそれができるのか?」
「やれと言われている。幸いぼくたちには二つ以上の能力があり、それがどれもレベル9以上の強さの能力だ。はっきり言って国の兵士なんて相手にならないね」
俺もそれには共感できた。ゴーデンテイ王国の兵士も、俺の能力の一つで壊滅させることができた。正確にレベルを測ったことはないが、間違えなくレベル9以上はあるだろう。
「おっと、ぼくに使命が下りたよ」
ジェラシーが口を開く。
「なんだって?」
「トラナイド国の北部の調査。そして、黒であれば壊滅させる」
「黒?」
「能力を覚醒させる薬、アビリティドラッグの作製所がある場所が黒。なければ白だ」
アビリティドラッグ。能力を覚醒させるために作られた物。数千年前に作られ、世界を震撼させたというものだ。今では普通に作られるようになり、サイコパスの人々はみなこれを摂取している。これの作製は世界で六ヶ国の国にある作製所でのみ作られていて、この作製所を持っている国が最も裕福な国と言われるようになった。だがそれはトランプのババ抜きのようで、誰がジョーカーを持っているかわからないように、持っている国は隠し、持たない国はそれを探す。言わば、逆ババ抜き。最後までジョーカーを持っていれば勝ちということだ。
俺はそんなことよりも別のことが気にかかっていた。それは……
「トラナイド国……だと?」
「ん?そうだけど?そこがどうかしたのかい?」
「ああ。俺の親を殺し、俺を絶望に突き落とした国。復讐を誓った国だ」
「つまり君が言いたいのは……」
「俺を連れて行ってくれ。トラナイド国が黒であろうと白であろうと、俺はトラナイド国を滅ぼす」
ジェラシーは戸惑っていた。そして救いを求めるようにグリードに目を向ける。
「マザーの言うことは絶対。黒でなければ滅ぼしてはいけない」
「それじゃあ俺は一体どうしろと!」
「黒であることを祈るのね。尤、私はあの国は黒だと思うわ」
「その理由は?」
「前回のゴーデンテイ王国の調査の時、兵士たちの噂話を聞いたの。トラナイド国はドラッグが尽きることはないらしいというね」
俺は心からほっとした。そしてとてつもなく嬉しくなった。