国の中央にそびえ立つ塔の近くの裏路地で、俺たちの案内人を解放する。
「余計なことは言うなよ?これはお礼だ」
俺はその案内人に釘を刺して、金を手に握らせる。案内人は突然現れた札束に困惑し、俺が早く行けと催促するとビクッと肩を震わせて足早に逃げて行った。
「よし、あとはあの地下に入るだけだね」
俺とジェラシーは透明化の能力を解く。
先ほどの案内人は、門に入る前に捕らえたこの国の民だ。透明化ではうかつに動けないため、姿を見られてもいい人物に連れて行ってもらうことにしたのだ。後ろから近づき、肩を掴んだ瞬間に透明化を使う。これにより顔を見られないで済む。そのあとは簡単だ。頭に銃を突きつけ、塔のところに案内しろと脅すだけだ。ジェラシーはあらかじめ能力を使い、俺の肩肩を掴んでいた。
門を入るときにこの国の住民であるという証明か、ただの旅人であるという証明、商人であるという証明のいずれかが必要である。俺たちはどれも持たないため、そのまま通ったら当然お陀仏だ。だが、一度入ってしまえばどうということはない。
話は戻って現在塔の前。恐らくここの地下に俺たちの目的の物がある。町の中央に立つ塔の地下というのは狙われにくいからだ。だが、俺たちは違和感を感じていた。
「おかしいな……警備が薄すぎやしないか?」
「確かに。まさかここじゃないということありえる?」
「俺に聞くな」
「そうだね。とりあえず入ってみよう」
塔の中に入ると、塔の床に堂々と地下階段があった。
「どう見ても罠だな」
「あえて引っかかってみるってのもどうかな?」
「それはいい考えだな」
俺たちは慎重にその階段を降りる。地下に降りれば降りるほど真っ暗になる。数分続く長い階段を降りると、ドアがあった。ドアノブを回し、少し押す。
「……鍵もかかってない」
「すでに誰かが乗り込んでる……なんてことはないよね?」
「まさか……そんなことあるかよ」
俺はなんとなく嫌な予感がしていた。
ドアを開け中に入る。中は普通に明かりが灯っている。左右に分かれた道は少しカーブになっていた。恐らく円柱型の地下施設なのだろう。ドアはすべて円柱の外側に付いている。
「右から行く。左から頼んだよ」
「わかった」
俺は左の通路にある部屋を慎重に調べながら進む。結局どの部屋も人はいなかった。そのことが俺をさらに不安にさせる。まさかばれているなんてことはないはずだ。
俺たちは一つのドアの前で合流する。位置的に出口の裏側だ。円柱になっているため、右から行っても左から行ってもここにたどり着く。
「何かあったか?」
「いや、何も」
「残りはここか」
唯一円柱の内側に付くドア。おそらくここに何かあるのだろう。ドアノブを握り、回す。
「……やっぱりカギはかかってないな」
慎重に開け、ドアの隙間から中を覗き込む。
「っ!?」
俺は言葉を失った。中央にある緑色の液体が入った水槽。その水槽、部屋の床や壁、その部屋の家具に赤黒くなった。血がついていた。床にはバラバラになった人体のパーツが散らばっている。ドアを開け、中に入る。
「すでに奇襲されていたようだね。死体の腐り具合から見て時間はほとんど立っていない」
「誰がこんなことを……」
「すべての部屋の人間をここに集めて、全員を殺した。この施設の部屋はそこそこあったよ。一人で集めるのは無理だ。つまり組織的なものが動いたか」
一人で集めるのが無理なのは、一人でも逃すと国の兵士がここに集まることになる。俺たちが来たときは兵士の死体などなく、ましてや外は平和そのものだった。つまり一人でやったわけではないということだ。
「これをやった奴等も俺たちと同じ目的か?」
「いや、違う。この水槽には手を出していない。つまりここにある別の何かを盗んだってことだろうね」
俺達が話していると、水槽の裏からガタっという音が聞こえた。
「誰だ!?」
俺は反射的に銃を構える。もちろんジェラシーもだ。何かが出てくるわけでもなかったため、俺たちは二手に分かれて裏に回る。
「……ここの生き残りか?」
机の下でガタガタと震える科学者らしき人物。空言のように何かをつぶやいていた。
俺は銃をしまい、その人物に近づく。
「大丈夫か?何があった?」
「サイコパス……人間を越えた存在……神に近い存在……」
「それは……どういう意味だ?」
その科学者は何かに憑りつかれたようにその言葉しか発しなかった。
「……こいつはもうだめだね」
ジェラシーが言う。
「とりあえずここは黒だね。さっさとやっちゃおうか」
「ああ」
俺は立ち上がり、銃を構え、目の前の科学者に向ける。科学者は命乞いをすることもなく、ひたすら何かに怯えていた。まるで俺たちのことが目に入っていないようだった。
「何の抵抗もないやつを撃つのは気が引けるが、仕方ないな。このままほおっておいてもかわいそうだしな」
俺は頭に弾丸を撃つ。頭から血が噴き出し、倒れる。倒れる瞬間、その科学者が笑ったような気がした。