ドォォン!ドォォン!
遠くの方で何かが爆発する音が聞こえる。音がなるたびに壁が反響し揺れる。
子供がうぇぇんうぇぇんと泣く。
「あーあ、せっかくはるねぇの授業だったのになぁ」
クラスの一人、トーマが愚痴を漏らす。トーマは俺の隣の席で、何かと絡んでくる奴だ。
「お前はるねぇのどこがいいんだよ……」
あきれ顔で尋ねる。
「は?あんな美人な先生他にいないんだぞ?お前どんな頭してるんだ?」
頭の血管が切れた気がした。
「そうか、もうノート見せてやんねぇからな」
「すみませんでした」
トーマは土下座の体勢をして謝った。
こんな状況なのにもかかわらず、俺たちがここまでのんきなのは、生まれたときから毎日のように襲撃され、そのたびに基地に避難するため、慣れているのだ。避難所にまで攻め込まれたことは今までない。
その日も俺たちは襲撃が早く終わらないかと愚痴を漏らしながら伸びていた。
ドン!突然避難所の入り口の扉が勢いよく開かれる。俺たちが目を向けた先には、敵軍の兵士が銃を構えていた。……マシンガンだ。
俺たちが逃げようとしてももう遅い。すでに引き金は引かれていた。
ダダダダダダッ!いくつもの弾が飛び交う。それに伴い何人もの人が倒れていく。大人も子供も関係なく無差別に撃たれる。
俺は咄嗟に死んだふりをする。トーマも隣で死んだふりをした。
……銃声が止んでからすでに2時間は経過している。外の様子はどうなっているのかわからない。ただ、爆発音はしない。
「何人かの人質は確保しました。……はい。できるだけ殺さないようにしています」
通信の音か。男の兵士が話している。
(人質?誰か生きているのか……)
俺はハチの巣になったはるねぇのことは考えないことにした。はるねぇなら大丈夫なはずだ。
「……はい。作戦成功まで待機します」
(作戦?どんな作戦だ……)
俺ははるねぇやトーマ、その他の仲間の無事を祈り、強く目を瞑った。
……あれから5時間。静寂や恐怖に負け、逃げようとした少数の人が撃たれて死ぬ。そのたびに銃声と生々しい肉がちぎれる音、悲痛の叫びが聞こえた。
子供の泣き声はたまに聞こえる。あの子供は大丈夫のようだ。泣き止むこともあるということは、親の方も大丈夫なのだろう。
「……わかりました。そちらに合流します」
男の声。どこかに向かうようだ。
ガチャリと扉が開く音が聞こえる。……その瞬間、男の悲鳴が上がる。
再び銃声が鳴り響く。俺は細目で周りを見る。
こちらの兵士何人かが、奇襲を仕掛け、俺たちを捕らえていた兵士を全滅させる。
「みなさん。大丈夫ですか!」
一人の男の声。この声は俺たちの国で有名な兵士、サマール大佐だ。
ハルト連合国とクラナド独立国の戦争、ハルナド戦争でたった一人で3000人を殺したという英雄である。能力はたしか……氷を操る能力だったはずだ。
俺はのっそりと立ち上がる。その瞬間、兵士の一人が駆け寄る。
「大丈夫か?怪我は?」
やさしく声をかけてくれた。おれはありませんと答える。
あたりを見渡すと、はるねぇは無事だ。クラスメイトの何人かは死んでしまったようだが、いちいち泣いている場合ではない。こんなことはよくある。
「外はもう大丈夫です。ここから出ましょう」
サマール大佐がそう促す。
突然、倒れていた敵兵の一人が起き上がり、奇声を上げる。右手には爆薬。彼は爆薬をばら撒き、左手を振りかざす。
ドオオオオン!!!
目の前で閃光が走った。火が爆薬に引火し、爆発したのだ。
その火力は凄まじく、その近くにいた人がバラバラになりながら、吹き飛ぶ。
その瞬間屋根が壊され、バラバラと瓦礫がおちてくる。
「はるねぇ!!」
俺は吹き飛ばされた体を起こし、手を伸ばす。はるねぇの真上から大きな瓦礫が落ちてきたのだ。
ゴオォン。俺の目の前からはるねぇの姿が消えた。
俺は目の前が真っ暗になった。脳裏に浮かぶ死の文字。次に状況が分かったのは、二度目の爆発音だ。爆発により破壊された壁の瓦礫に圧迫され、破裂したガスボンベが、出火した火により、二度目の爆発を起こしたのだ。
はっきりと目の前の惨状が見える。瓦礫のしたから流れてくる赤い液体。鉄のにおいが鼻を突く。
「うあああああああ!!」
俺は叫んだ。その瞬間目の前が再び真っ暗になった。……俺もはるねぇと同じように下敷きになった。
……ふと目を開けると、そこは教室。何事もないようにはるねぇが授業をしている。俺は机にうつ伏せになっていた。
はるねぇが近づいてくる。ゴスッという音とともに頭に走る痛み。そして、あの言葉を言う。
「こら!鷹野君!授業中に寝ない!」
俺は考える。……あれは夢だったのか?
「……ってぇなぁ。はるねぇの授業眠いんだよ」
夢と同じ流れ、同じセリフ。俺はこの先を知っている。
「もう!学校でははるねぇはやめてって言ってるでしょ!」
俺は勢いよく立ち上がる。はるねぇは目を丸くする。
「もうすぐ襲撃が来る。いつもの避難所はダメだ。山の方に逃げよう」
俺がみんなに言う。みんなは当然キョトンとしている。
「おい冬樹。お前何言ってんだ?」
となりのトーマが俺に問いかけると同時にサイレンが鳴る。
俺ははるねぇの手をつかんで校舎を出て、山に向かう。クラスの何人かは半信半疑ながら、俺についてきたようだ。
山の上につき、街を眺める。ところどころから黒い煙が上がってきている。避難所の入り口には何人かの兵士が集まってきていた。
「なんでわかったの?」
はるねぇに尋ねられる。俺は夢の中で同じものを見たと答えた。俺にもどうしてこうなったのかわからないからだ。
あのとき俺は瓦礫に潰されて死んだはずだ。あの瞬間何が起きたのか、どうしてあの瞬間まで戻ったのかわからなかった。
案の定避難所には兵士が入って行っている。これは完全に時間が巻き戻ったとしか考えられない。
5時間後、学校が破壊され、崩れていくのが見えた。おそらく避難所に向かった人達は下敷きになったであろう。俺たちは町が静かになったのを見計らって山から下りた。
数日後、俺は政府から呼び出された。用件は俺が見たという夢の話についてだ。どう考えても、学校が破壊されるところまでわかっているのはおかしいとにらんだらしい。俺は正直に話すことにした。
「ですから、自分でもわからないのですが、時間が戻ったのです」
俺はあったことをすべて話した。
「ふむ……そんな馬鹿な話があるわけがないだろう!」
途中までおとなしく聞いていた国王が怒鳴った。
「お前はスパイだ!だから襲撃があることがわかった!お前が連れ出したのはお前の仲間だ!」
俺には完全にこじつけとしか思えないことを怒鳴りながら言う。しまいには、
「よって、貴様と貴様の仲間を処刑する!」
処刑宣告を出された。
俺は焦って弁解を試みた。しかし、それは無意味に終わる。
目の前に迫りくる国王の付き人。俺を捕らえるつもりなのだ。俺は逃げ出した。
後ろからバンバンと撃たれる弾。俺はジグザグに避けながら走り抜ける。
何発かは頬をかすめる。チリチリとした痛みを無視して、玄関から転がりでる。外で待っていたはるねぇが声をかけてくる。
「あ、冬樹、終わったの?」
「急げ!急いでここから逃げるぞ!」
はるねぇはただならぬ事態を感知したのかエンジンを掛けはじめた。俺は助手席に乗り込む。
後ろから撃たれる銃弾が車のボンネットに当たる。
「逃がさん!」
付き人の一人が手をこちらに構える。周囲の大気がその手に集中する。集まった大気が空気の球となり、発射した。その速度は車の速度を軽々と超える。空気の球が通った近くのガラスがことごとく割れていく。……あんなもの当たってはただじゃすまない!
俺はその球を見ながら危機感を覚えた。脳裏でキーンと音が鳴った気がした。その瞬間、周りの情景が白くなる。
(一体何が起きたんだ!?)
俺は横を見る。焦りの表情をし、運転席に座るはるねぇ。その動きは止まっているように見える。もう一度球を見る。もうこちらまで来てもいいはずのその球はその場に浮いている。周りのガラスが宙を舞い、幻想的な感じすら覚える。
(時間が……止まってる!?)
俺は助手席から下り、その球の方に向かう。もっとよく観察してみると、どうやら止まっているわけではないようだ。わずかながら回転しながらその場に浮く空気の球。俺はその球に手を突っ込んだ。そのまま横に振る。球を切るように。
再び助手席に戻った俺は目を瞑る。シュゥゥっと蒸発するような音が脳裏に響き、俺は目を開ける。止まった時間が動き出した。後ろを見ると、あの球は切断されたように半分に割れ、消えてなくなった。奥の方に見えるサイコパスの付き人は驚きの表情を浮かべていた。