アクアが操る水の龍をひたすらかわす。時間停止と俊足でアクアに近づこうとするが、アクアの周囲をぐるぐると回る水の柱によって邪魔される。そのうえ、アクアは塔の上にいるため、登らなければならないが、その場合俊足は使えないし、時間停止の制限時間に間に合わない。
「クソッ!」
「あっははは!さっきまでの威勢は何処に行ったのぉ?逃げてばっかりつまらないわよ」
俺は上から俺の様子を見下す アクアに嫉妬する。あの強力な力……俺以上の力……妬ましい!
突然俺は内側から涌き出る力を感じた。そして俺の意識が遠ざかる。
あれだけ動いていた冬樹の動きがピタリと止まった。ぼくは何があったのかと心配になるが、先程のダメージで体が思うように動かない。
「あれぇ?どうしたのぉ?もう鬼ごっこは終わり?つまらないわねぇ……終わりならもう、殺しちゃっていいわよね!」
アクアの周りを回っていた水の柱と、冬樹を執拗に追いかけていた水の龍が、冬樹に向かって勢いよく動く。
「冬樹!!」
ぼくの叫びは虚しく、冬樹は水の壁に押し潰された。ぼくはうなだれた。この戦争を終わらせる災厄を失った。ぼくたちには数百とある国を全て壊滅させることはできない。目の前が真っ暗になる。
「なん……でよ……」
アクアの驚き、戸惑うような声にぼくは顔を上げる。冬樹が立っていたその場所には水の玉ができている。冬樹を守るかの様に球体ができており、冬樹は先程と同じように顔を下に向け、立っていた。
「ええい!!このっ!」
アクアは執拗に水の柱を冬樹にぶつけるが、冬樹を守そのバリアに弾かれる。いや、あれは吸収している。バリアに触れた瞬間、そのバリアに吸い込まれて無くなる。
「ふふふ……あははは!!」
冬樹が笑いだす。その様子に呆気に取られたアクアはただ呆然と冬樹を見つめる。
「お陰で強くなれたよ……アクアさんよお!」
ぼくは身震いを起こした。あれは冬樹じゃない、本能的に分かる。そもそも人間かどうかすらも怪しい。形は完全に冬樹そのものだが、中身が違うような気がしてならないのだ。アクアも心なしか怯えているように見える。
「ふ、ふふふ……今さら本気を出しても私には勝てないわよ!」
「そうかい。それは残念だ……」
言い終わるとともに俊足で塔の真下まで移動する。直後、塔から爆発音が聞こえ、塔は倒れ始めた。
「っ!?」
アクアは事態を飲み込めないようで、突然倒れ始めた塔に驚き、判断が遅れる。その場から離れたのはもうほとんど地面に着いたときだった。
「はあ……はあ……」
荒い息づかいで立ち上がるアクア。片方の腕はもげ、額から血を流す。体の所々に赤く滲んだ血の蹟がある。瓦礫や窓ガラスに当たってできた傷だろう。
「どうした?お前らはそんな程度なのか?」
「クッソおおおお!!」
アクアは最後の力を振り絞るように声を張り上げ、水の龍を出す。それは今までと比べ物にならないほどの大きさだった。これが海王神の使徒と呼ばれる所以だろう。
「っ!?」
だが、そんな巨体な龍すらも、一瞬で吹き飛ぶ。破裂した水の龍はただ降り注ぐ雨となった。
「終わりだ。死ね」
冬樹は何の慈悲もなくアクアの頭を吹き飛ばした。人間ならば戦う術が無くなった者に対して同情するのが当たり前だろう。つまり彼は人間じゃない。鬼……そんな言葉が頭に浮かぶ。
「冬……樹?」
冬樹はぼくの方を見て微笑み、その場に倒れた。その微笑みはいい獲物を見つけたと言わんばかりの狂喜を感じさせる、そんな笑みだった。
アクアが倒されたと知ると、他の兵士は散りじりに逃げ出した。数人は冬樹を狙ってくるが、ぼくの敵ではない。冬樹に攻撃を当てないようにブレイズで敵を焼き払う。ぼくは冬樹を背負い、足を引きずりながら、国を出る。
「仕上げをしないと……」
黒だった国はドラッグを破壊し、兵士をある程度片付け、国を壊滅させる。これがマザーの指示だ。
「はあああ!!」
ぼくは力を振り絞る。ぼくは一応レベル9のブレイズの能力者だ。国ひとつ燃やし尽くすのは容易い。巨大な火の玉を作り出す。実際は国の5分の1程度の大きさしかないが、それでも彼らに太陽が落ちてきたと思わせるのには十分だ。火の玉が地に着いた瞬間、爆風と熱風で周囲を一瞬で破壊し、溶かす。放置すれば国の大半を燃やしつくし、壊滅させられるだろう。
ぼくは冬樹を背負い、秘密基地に戻ったのだった。