冬樹が国を捨て、逃げ出した。そう報告があったのは2日前だ。だが、俺には理解しがたいことが起きている。
「ふんふん♪」
俺の左前方の机で鼻歌を歌いながら作業をする冬樹。あの報告が間違えていたのか?いや、あれは間違いないはずだ。じゃあこいつは誰だ?
「おい、冬樹?」
「はい?」
俺の声に反応してこちらを見る冬樹、どう見ても冬樹だ。だが、なんとなく違う気がする。
「お前、本当に冬樹か?」
「何をおかしなことを言っているんですか。カルマ大佐」
「いや、お前が本当に冬樹かわからなくなってな」
「そう。それじゃあ俺は冬樹じゃなく、冬樹に似た、何かなのかもしれませんね」
俺の質問に答えつつ、微笑む彼は本当に冬樹なのか。と、電話が入ってくる。
「はい。こちらカルマです……なんだと!?」
「?」
俺は声を荒げた。先ほど冬樹らしき人物が、トラナイド国を壊滅させたという情報が入った。冬樹は俺の声に反応し、こちらを見ている。冬樹はここにいる。じゃあ冬樹と同じ能力を持ったトラナイド国を壊滅させた人間っていうのは誰だ?
「……わかった。今からだな。了解」
トラナイド国が壊滅したということに関して会議が開かれることになった。東西南北を仕切る指揮官及び、その秘書、そして政府関係の者が呼び出される大きな会議だ。
「冬樹、会議だ行くぞ」
「わかりました」
俺は冬樹の言動を気にしながら、中央会議場に向かう。
俺たちが到着したころにはすでに全員集まっていた。
「遅いぞ!カルマ!」
部屋に入るとすぐにタイラント大佐が声を張り上げる。
「まあまあ、連絡が届いたのは彼が一番最後だったから仕方ないよ」
タイラントをなだめる彼はこの国の国王だ。
「遅れてすみません。それじゃあ会議内容を教えてもらってよろしいでしょうか」
俺がそういうと、会議が始まった。会議の内容はトラナイド国が壊滅したということに関してだ。先ほど連絡で聞いた。改めて詳しく聞くためにそういったのだ。会議の進行は政府の人間だ。
「トラナイド国、世界でも有数のアビリティドラッグ製作所を持ち、海王神の使徒という異名を持った英雄、アクア中佐がいるのは皆さんご存知ですよね?」
「もちろんだ!国一つ水没させたというあの英雄を知らないやつなどいないだろ!」
「いちいち声を荒げないでくれ。タイラント大佐」
「う、うむ……」
声を荒げたタイラント大佐を国王がなだめる。国王命令には逆らえない。
「そのトラナイド国が何者かによって壊滅させられました。その方法と言うのが、兵士全滅及び国のほぼ全焼です」
「ほぼ?」
「はい。8割は燃えてしまいましたが、2割が残っているようです。しかし、燃やされる前に何者かと争っていたと言う情報が入りました。その謎の人物を捕まえるために、兵士は中央に集められていたため、燃やされた際に逃げきれずに全員殺されたと思われます」
「アクアは?アクアがいるなら燃やされることはなかったはずだろ?」
確かに水の力を使う彼女なら、火を止めることはたやすい。
「……焼死体の中からアクア中佐と思われる人物の死体が見つかりました」
司会は重苦しく口を開く。
「頭部無しで」
「なっ!?」
頭部無しとはどういうことだ?俺はその質問をすることにした。
「頭部がないとはどういうことですか?詳しく教えてください」
「はい。焼死体を調べた結果、アクア中佐だとわかったその死体は、頭がなかったそうです。そのせいで身元が判明するのが遅れました。傷口を見ると、何かに爆破されたような感じだったそうです」
「爆破か……レベル9以上のエクスプロージョンの兵士か?」
「わかりません。犯人は二人です」
「どんなやつだ?」
「それはわかりません。犯人は塔に用があったそうです。恐らくその地下にあるアビリティドラッグ製作所でしょう」
「侵入方法は?」
「今から話します。侵入方法はトラナイド国の国民を脅し、自分たちは透明化になって案内させたそうです。」
なるほど。道がわからずさまようくらいなら、道がわかる人物に案内させればいい。自分たちは門をくぐるのに透明化になればいい。こんなに簡単なことはないだろう。ん?待てよ。
「一人は透明化なのはわかりました。ですがもう一人はどうやって?」
「もう一人はどんな能力かわからないそうです。侵入は透明化、戦闘時は瞬間移動をしていたそうです」
「冬樹……お前だったら瞬間移動できるだろ!?」
タイラント大佐は冬樹を睨む。
「確かに時間を止めて瞬間移動できます。ですが、俺はここにいますよ?数キロ離れているトラナイド国にどうやって行けばいいのですか?そしてもう一人の人物は誰ですか?」
「くっ……」
「戦闘の様子はどうやって調べたんだ?」
「かろうじて生きていた監視カメラのデータです。それに映されてました。」
トラナイド国は隣の国ということもあり、俺達の国が一番近い。他の国が来る前にこちらで調査をしたそうだ。
「戦闘時の様子はこちらです」
モニターが監視カメラの様子を映し出す。映像は乱れて顔はよく見えない。瞬間移動にブレイズの能力、もう一人は瞬間移動、高速移動、そして……
「なんだ?あの能力は」
アクア中佐の攻撃を吸収し、大人が数十人で囲んでも囲いきれないほどの太さの塔を一瞬で吹き飛ばすほどの爆発を放つ。映像は、二人が画面から消えたところで終わる。
「あの能力は一体なんだ?まるで攻撃を吸収し、その力をそのまま爆発として利用しているような……」
全くその通りだ。アクア中佐ほどの力になると、あの塔を破壊することなどたやすい。それでもアクア中佐レベル。相当の力がなければあの頑丈な塔は壊せない。数回トラナイド国を攻めたことがあり、塔へエクスプロージョンの攻撃をぶつけたこともしばしば。それでも壊れていない。それが答えだ。それをいとも簡単に破壊するということはアクア中佐と同等、もしくはそれ以上の力があるということだ。
「とにかく、我々の近隣の国が破壊された。それはここも危険だということです。早急に対処をするようにお願いします」
「……」
あんなものを見せられてどう対処しろと言うのか。皆同じ考えのようだ。ふと、俺は横目で冬樹を見る。少しうつむいた顔に影が落ち、その表情は見えない。だが、口もとが吊り上がり、笑っているように見えた。それは俺に恐怖を与えるのに十分だった。