しばらく走っている間に国境の城壁に着いた。見事に破壊されたそれは、たくさんの兵士たちによって直されていく。主に、サイコキネシス(物体浮遊能力)のサイコパスが修繕に当たっているようだ。俺たちはその国境をまたごうとしていた。
「停まって停まって~身分証とか見せてね」
国境警備の兵士がこちらへやってくる。
「あ、冬樹じゃねぇか。何してんだ? ここに何か用か?」
そう馴れ馴れしく話しかけてくる兵士は、はるねぇの親戚だった。
「えっ……と……」
はるねぇは何を言えばいいかわからずうろたえている。
「じ、実は……」
「おっとすまねぇ。無線だ」
そういうと、その場から少し離れていった。
「おじさんなら話してもいいんじゃないか?」
「そうなんだけど……一応おじさん兵士だし……」
と話していると、おじさんはこちらへ戻ってきた。
「お前たち、スパイの疑いがあるんだって?一体なんでこんなことに……」
俺は今までのいきさつを話す。
「はぁ……今までとはかなり異例だな。時間を戻せるのか」
「正確には過去に戻れるかな。あともう一つ、時間停止だ。さっきわかった」
「なるほど、これは人間が使える能力をかけ離れている。政府のやつらはおそらくお前の能力の存在を知らないのだろう。いや、俺もお前の話を聞くまでそんな能力知らなかったし」
口調からすると、おじさんは俺の話を信じてくれているようだ。
「よし、わかった。俺が何とかしてやる!」
「え?でもおじさんそこまで階級高くないですよね?」
たしかおじさんは建技少尉だったはずだ。
「うるせぇな!お前らの誤解を解いてやるって言ってんだ。俺の上司が信頼厚いからな。上司に言えば何とかなる!」
「結局他人任せじゃねぇか」
俺たちは車でその上司がいる軍事基地に向かった。そしておじさんに案内されその上司の部屋に着く。
コンコンコン「失礼します。シェルマーです。カイル大佐は居ますでしょうか」
「ああ、入ってくれ」
おじさんはドアを開け入る。俺たちもそれに続く。
「何かあったか?」
カルマと呼ばれたその男はどこからどう見ても歳は20代前半だった。
「実は私の親戚の彼が前代未聞の能力が使えるようなのです。しかし、彼はその能力の異例さから政府から不条理な疑いを掛けられているのです。どうにかしてもらえないでしょうか」
カルマは俺を見据える。
「ふむ……君、名は何と言う」
「冬樹です。鷹野冬樹」
「確かにその名前の青年が逃げたとの報告は受けている。君がか。何もせずに政府の護衛兵士の能力を打ち消した青年とは。して、君の異例の能力とは何だ?」
「俺も何かはわかりません。時間を戻したり、止めたり……自分の意識関係なく突然起きるのです」
「なるほどな」
それだけを言うとカルマは立ち上がる。
「君を私の部下に引き入れたい」
俺たちはきょとんとしていた。
「し、しかし大佐!彼はまだまともに能力を使えていません!」
「何を言う。そんなもの訓練を重ねればよかろう」
そういうと、俺の前に歩いてきて、手を差し伸べる。
「どうだ?わたしとともに戦場に出てみないか?」
俺は少し考えた。そして
「はい!」
カルマの手に自分の手を重ね、握手を交わす。
数時間後、カルマが政府に説得し、彼らをおとなしくさせることに成功した。そして俺は自分の荷物を取りに家に戻る。
「本当に行くの?」
荷物を準備し終え、玄関で靴を履いていた。
はるねぇは心配そうだ。
「大丈夫だ。それに、これは俺の夢だった。前からそうだっただろ?」
はるねぇは少しうつむいていた。そして何か吹っ切れたのか、顔を上げる。
「うん。わかった。冬樹がその気ならわたしは応援する。頑張って」
「……ありがとう」
俺は家を出て玄関で待っていたカルマの車に乗る。
「いいおねぇさんじゃないか」
「血は繋がってませんがね。大切な家族です」
車が出発する。はるねぇは玄関から小さく手を振っていた。
「これから行く道は、君にとっては過酷な道になるかもしれない。覚悟はできているか?」
俺ははるねぇを目で追いながら答えた。
「はい。覚悟はできています」
遠くなるはるねぇと過ごした家を見ながら俺はこの先のことについて考えていた。
翌日、俺はさっそく訓練所に来ていた。ここではさまざまな訓練ができる。銃を撃つ練習、近接武器を使う練習、能力に応じた練習など。
「とりあえず最初は自分に合った武器を決める。それからだ。練習は」
俺はとりあえず剣を持ってみた。
「お、おもっ!?こんなの持てないですよ!」
その重さは、20kgを超えていただろう。
「ああ、それはビルドアップ(筋力上昇能力)のサイコパスが使う武器だからな。重いほど威力が高いからな」
俺はそれを持つのをあきらめて、隣においてあった剣を持ち上げる。
「うーん……さっきよりは軽いですが、やっぱり重いですね」
「その程度振り回せないと戦場に出られないぞ。今日から毎日筋トレだな」
俺は遠い目をして天を仰ぐ。カルマはその様子をみて頭を掻く。
「じゃあこっちの銃はどうだ?」
俺は銃のエリアへ行き、ピストルを持つ。
「撃ってみていいですか?」
「ああ」
俺は的を狙い撃つ。反動がすごかった。本物の銃の反動がこれほどだとは思っていなかった。狙いは完全に明後日の方向だった。
「全く、そんなんじゃ銃は操れないよ」
女の声が聞こえる。ふと後ろを見ると階段の上に、髪は長く、片目が髪で隠れている女がいた。胸は……まな板だった。服装は最低限を隠してある程度だった。
「ああケイナ、来てたのか」
カルマはその女に親し気に話しかける。
「新人が異例の能力だと聞いてね。気になってきてみたんだ。君、名前は?」
「鷹野冬樹です」
彼女は階段を下り、俺の前に立つ。……かなり小さい。俺の胸の位置に脳天がある。
「彼女はエイサイズ(超視力)の持ち主で、かなり遠くを双眼鏡などを持たないで見ることができる。ケイナ中佐だ」
「なるほど。で、なんでこんなにちいさ……」
突然横腹に衝撃が走る。それはタイヤを投げつけられたような衝撃だった。
「あんたねぇ……先輩に向かって小さいとか、いい度胸してんじゃないのよ」
目がギラギラと光っていた。完全に怒っている。
「す、すみません……」
「ケイナは小さいことを気にしてるんだ。彼女の前で背の話はしないでおけ」
カルマがそう耳打ちしてきた。
「まぁまぁケイナ、まだ新人だからな。こいつに銃の扱いを教えてやってくれ」
「仕方ないわね。そういえばあんたの能力は何?」
「それはまだわからないんです」
ケイナは驚きの顔を見せていた。
「へぇ。よくこんなやつ部下に引き入れたわねカルマ」
「可能性を感じたからな。わかっている限り、時間を操る能力だ」
「時間をねぇ。そんな能力聞いたこともないわ」
やはり俺の能力は異例らしい。
「まぁいいわ。とりあえず、さっきの見てる限り、筋力が恐ろしく無いわね。筋トレから始めなさい。そうね……1ヶ月は筋トレね」
俺はまた天を仰ぐ。
あれから1ヶ月。俺はケイナの指導のもと、筋トレを続けていた。そして今日。ようやく武器の扱いに入るところだ。
「いい?剣はただ振るだけじゃダメなの。相手の動きをよく見て、素早く反応し、相手の急所を確実に叩き切る。それが大切。まずは軽々と振り回す練習として、素振り、そして相手を切る感覚になれるために、この藁人形を切る訓練をしなさい」
俺はまた長い訓練が始まる予感がしていた。なにせ1ヶ月、食事時と寝る時間を除いてすべて筋トレに打ち込んだのだから。
「ケイナ中佐はカルマ大佐とどんな関係なんですか?ため口ですが」
「ん?いまそんなこと聞く必要ある?一応カルマとは兄弟だけど」
……俺の耳が壊れたのか、兄弟だとか聞こえたのだが。
「カルマ大佐ってかなり背が高いですよn」
みぞおちにグーパンが入った。俺は武器を投げ出し、悶絶する。
「兄さんと比べないでよね!わたしだって大きくなれたらなりたかった!」
「く、口調……ちゃんとしましょう……」
ふんとそっぽを向くケイナ。
その後、俺は剣、槍、斧などを使って、剣を使うことに決めた。
「とりあえずそれね。次は飛び道具ね。銃は銃でもたくさん種類あるから、好きなものを選びなさい」
撃ち方と構え方を習いながら、それぞれの武器を使っていった。
「そういえばケイナ中佐は何を使うんですか?」
ケイナはニッコリしながら得意げに武器を見せる。
「私のはこれよ!私の能力と一番マッチングしているからね」
それはスナイパーライフルだった。
「このスナイパーライフルにはスコープはないの。代わりに拡張マガジンを搭載して通常の5倍まで弾数を引き上げたわ。わたし特製の武器よ!」
俺は適当に相づちを打ちながら武器を選んだ。なぜかそのあとスナイパーライフルの持ち手で殴られた。
武器を決めた俺は、ケイナの指示に従いながら訓練を重ねる。武器は近距離は剣、遠距離はハンドガンだ。
「いい?ハンドガンだからって舐めたらだめよ。その反動はなかなかなんだから。下手に片手で撃とうとしたら肩外すわよ。もっと脇を絞めて。狙いは両目で。片目じゃ狙いは定まらないわ」
指導を受ける分には言ってることはまともなのに、なんでか腹が立つ。どこからどう見ても子供の彼女に指導されるなんて、自尊心が傷つく。しかし、訓練は訓練、相手は年上、そして中佐である。
数ヶ月後、俺たちは復讐作戦に乗り出すことになった。この復讐とは先日の奇襲に対する復讐だ。なぜ俺がこんな重要な作戦のメンバーに入っているのかというと、ケイナの提案だ。本物の殺し合いに出てみないと実戦経験がないとこの先やっていけないだろうということだ。俺はまだ能力を使いこなせない……というかあれ以来一度も使っていない。何度か練習はしたが、何度やっても発動しなかったのだ。
「本当にそいつを出すのか?」
同じ作戦に出る別の班の指揮官がカルマに問う。
「わたしもちょっと不安なのですが、彼の指導役のケイナ中佐が大丈夫といいますし、ま、大丈夫でしょう」
「そんな適当な……」
カルマは余裕の表情で言う。
「彼の能力を見せるチャンスですし、それに彼の成長のきっかけにもなります。ここは彼を信じて出してみてもいいでしょう」
なぜこんな言い争いをしているのかというと、実際に戦争に出るために必要な訓練日数は、最低でも1年。俺はというとたったの3ヶ月だ。言い争いになっても仕方ない。しかし、相手は簡単に折れた。
「まぁ、君の部下だろう。我々になんの被害もないからな。何かあったら君の責任だ。いいね」
カルマは「はい」とにっこりしながら言った。
そして会議は作戦内容に移った。