龍に勧められて俺は龍の家に寝泊まりすることになった。
「んぐんぐ……ん。おかわり!」
俺は闘技場から帰ってきてひたすらご飯を食べていた。やけ食いだ。いろんな場所で戦ってきた俺が新人兵士ごときに負けたのだ。
「はいはい」
もう何杯食べたのかもわからない白米。俺はあの戦いを思い出すたびに腹が減る。龍はニコニコしながらご飯を盛ってくれる。しばらく俺はご飯を食べ続けていた。
気が付くと俺は机にうつ伏せになって寝ていた。起き上がり時計を見ると深夜を指していた。立ち上がりベランダに出ると夜の街は美しく輝いていた。ドクンと心臓が高鳴る。
「くっ……大罪か」
頭の中に能力の詳細がはっきり映し出される。夢食いの能力だ。夢を食し、相手の自我を奪う。だが、相手が寝ている場合でしかそれはできない。大罪は暴食だ。
「この能力は一体……」
俺は相手を強制的に眠らせたりはできない。戦場で眠っている人間などまずいない。つまりこの能力は使えない。
「どうした?冬樹」
振り向くと龍がいた。
「ああ、いや、外の空気を吸いに来ていただけだ」
「そうか。日本の町はいいだろう?夜でも明るい」
「そうだな。この町はどうやって作り上げられたんだ?」
「昔の日本の技術を引き継ぎ、進化し、ここまで発展した」
俺は街の景色を見ながら考えた。そして龍に向き直る。
「俺を強くしてほしい。今のままじゃエンド……あいつに勝てないとわかった。俺はもっと強くならないと」
龍は微笑むと一言。
「明日は朝早いよ。寝なよ」
「……ああ」
俺は指定された部屋で眠りについた。
朝、6時に起きた俺はリビングで座って龍を待っていた。そして今の時刻は8時だ。
昨日龍の妻子について聞いてみると、今は実家に帰っているそうだ。ここは東京という場所で、龍の妻子の実家は遠く離れた九州という場所らしい。つまりこの家には龍と俺しかいない。
「朝早いと言っておきながら……」
俺がそう愚痴をこぼしたと同時に龍がリビングに来た。
「おはよう」
「ああ」
「さて、朝ごはんだな。何か食べたいのある?」
「特にはない。それより朝早いって……」
「ん?まだ8時じゃん」
「……」
俺はいろいろと悟った。これじゃあ強くなれないということを。龍からほとんどやる気を感じないのだ。
龍が朝ごはんを準備し終え、食卓に運ぶ。俺も早く訓練に出かけたいから手伝う。俺はさっさと食事を終え、龍を待つ。だが、テレビを見ながらゆっくりと食べる。俺はしびれを切らし、口を開く。
「俺を強くしてくれるんじゃなかったのか?」
「ん?ああ、ちゃんと鍛えてあげるよ」
「それならなんでこんなにのんびりと……」
「これがじいさんの教えだからね。焦らずのんびり。無理をしない」
「そんなのんびりで強くなれるものかよ!お前に頼んだ俺がバカだった……」
俺は席を立ち、玄関へ向かう。
「どこに行くんだ?」
「先に訓練場に行く」
「まあ、待て」
「待ってられないから先に行くんだよ!」
ドンと手に持ったコップを机にたたきつける龍。
「待てって言ってるだろう?」
俺はそれだけで怯んでしまった。それだけの威圧感を持っている。
「焦りというのは人を弱くする。おとなしくついてこい」
「……」
有無を言わせない圧力だ。俺はただ頷くしかなかった。
食事を終え、玄関を出たのは9時だった。ルートは昨日と同じ道。どう考えても俺一人でも行けただろう。俺は納得ができず不満に思っていると、龍が話し始める。
「時間というものは無限にはない。その時間でどれだけ効率よく生きるか、それが俺達人類の生き方だと思わないか?」
「突然なんだよ……俺もそう思う。だからさっきからあれだけ訓練場に行こうと言っていたんだ」
「君はわかっていない。効率よくはただ早く動く、早く行動するということではない。時には休憩を入れることでもあるんだ。無理して倒れたら効率もくそもない」
「……」
「いまから君には持久走をやってもらう」
話している間に訓練場の運動場に着く。そこは訓練所を3つほど建てられるほどに広い。こんなところで持久走をするというのか……
「君の能力は時間停止と俊足だろ?」
「まだあといくつかの能力は持っている」
「びっくりだね2つ以上の能力を持ってるなんて」
「で、それが持久走とどう関わりがあるんだ?」
「時間停止状態で俊足を使い続け、走れるだけ走ってもらう」
「は?いや見てただろ?時間停止状態で俊足を使ったら跡形もなく消滅してしまう」
「ああ、そうだね。ほら、早く行ってきなよ」
龍は一体何を考えているのか、俺には一切わからなかった。俺はスタートラインに立ち、時間停止を使う。そして俊足をした。
体を持って行かれる感覚。
(ああ、俺はバラバラになって死んだ……いや、こんな思考ができる時点で死んではいない)
俺は恐る恐る目を開ける。物凄い速度で壁が迫っていた。俺は止まり切れずにぶつかる。
「痛くない……?」
俺は壁から体を引き離す。と、時間停止可能時間である5秒が過ぎ、能力が解ける。龍は俺の方を向き、手招きをしている。一度戻ってこいと言う意味だろう。俺は俊足で龍の元に戻る。
「よかったな。生きてるじゃん」
「いや一体どういうことだ?」
「ぼくの能力はアンチブレイク。この国で何をしようがされようが、傷一つつかない。壁に銃を撃っても銃は壁の手前で落ちる。壁に穴が開くことなんてない」
「つまり?」
「君がさっき言ったバラバラになるということはありえない。ぼくの能力がある限り」
「じゃああの時電気を受けたら死ぬって……」
「ああ、あれは嘘だよ」
「じゃあなんで俺はあいつの電撃を受けたんだ?……いややっぱり答えなくていい」
いたずらっぽく微笑む龍を見てなんとなく察してしまった。能力を解いたんだろうあの時だけ。
「ほら、持久走の最中だ。走れるだけ走ってきなよ」
俺は再び走る。圧倒的な速さだ。制御が難しい。だが、幸いカーブが広く曲がることはできる。
数分後、俺は地面に倒れていた。体力が尽き、立つことすらままならない。ただでさえ走るのに体力を使うのに、さらに能力を使うことで体力は一気に無くなる。時間停止は5秒間しか効果がなく、2回しか使えない。だが、2分おきに再び使えるようになる。2分で60周ほど走れた。
「お疲れ。だけど1時間も持たないなんてね」
「時間停止使ってるんだから当然だろ……」
「うん。確かにその効果で普通の数倍の距離を走ることができただろう。けど、ぼくは1日中休みなく能力を使っている。この国全土を覆う能力を。まあ、僕はこの能力を持ったからこういう仕事をさせてもらってるだけだから、もっと過酷な仕事を任されてる人なんて大勢いる」
「つまり?」
「体力はぼくが標準レベル。君は体力がないということだ」
体力の有無は耐久戦に持ち込まれると辛くなる。この国の人間と戦っても体力の差で負けるということだ。
「なら体力が尽きる前に片付ければいい話だろ?」
「そんな簡単な話があるわけない」
「俺はいままでそれで戦ってきた。それで勝ってきたんだ。体力なんてあってないようなものだろう?」
「そう。それなら彼と戦ってもらう。実は訓練所にもバーチャルバトルチェアあるんだ」
そう言って訓練所に入っていく。俺もそれに続く。訓練所に入り次第、最初に目についた男に話しかける龍。
「錬はいるか?」
「ああ、あそこで訓練してるよ」
男は錬と呼ばれる者の居場所を指さす。
「ありがとう」
一言お礼を言い、錬の元に向かった。錬の向かい側には大砲。恐らくビルドアップの類の能力だろう。大砲は錬に向かって発射された。
(さっきの話ではあの訓練って意味ないだろ……)
「この部屋ではぼくの能力は効いてないんだ。日本の特殊技術でぼくの能力が効かないようにしてある」
「え?」
大砲の弾は錬と呼ばれる男の胸に直撃した。
「……あれって大丈夫なのか?」
「普通の人間なら死ぬだろうね」
さらに大砲の弾は爆発。その火力は圧倒的だろう。日本の技術でこのガラスも対爆性があるのだろう、ガラスは揺れるだけだった。
「あの爆発ってどれくらいのものなんだ?」
「手榴弾を5個くらい圧縮した火力はあるかな」
煙の中から先ほどの男が全く同じ位置、全く同じ体勢で立っていた。
『弾の準備をします。しばらく休憩してください』
アナウンスと同時に錬は出てきた。
「お疲れ、錬」
「おう、龍、来てたのか」
「うん。君に頼み事があってね」
「なんだ?」
「冬樹と戦ってもらいたいんだ」
錬は俺の方を見る。錬は背が高く、体もガッチリとしていた。
「ああ、昨日フロンティアに出ていたやつか」
「うん」
「そんな弱いやつと戦えと?」
「言っても聞かないから実践投入して痛い目見てもらおうと」
「なるほど。よし、こっちにこい、たっぷりしごいてやるよ」
俺は錬について行く。試合室と書かれた部屋に入ると、昨日見た椅子がそこにあった。
「そっちに座れ」
促されるままに座り、ヘルメットを被る。意識が浮遊し、再び落ちる。そして目を開くと例の試合会場だ。
「それじゃあ始めるよ」
頭の上から響く龍の声。同時にカウントダウンが始まる。
「3、2、1、0!」
0と聞こえた瞬間に俊足で錬に突っ込む。錬は大きく振りかぶり、地面に腕を叩きつける。横に躱し、脇を抜け、背後に回る。
「もらった!!」
錬の背中を刺した感触はあった。だが、
「効かんわ!」
錬は背中に刺さった剣を背中の筋肉だけで破壊した。
「なっ!」
「次はこっちの番だ!」
振り向きざまに腕を振る。エリアルと戦った俺にはこんな攻撃躱すのはたやすい。武器を呼び出す。
「剣がダメならこれでどうだ!」
時間停止。呼び出したショットガンをすべて近距離かつ、360度すべての角度から撃つ。空中に飛び出した弾は空中で止まる。時間停止を解くと、一気にすべての弾丸が錬にぶつかる。
「全く効かんな!」
体に撃ち込まれた弾をすべて吹き飛ばす。俺は躱すことができず1発右目に当たった。
「くっ……」
右目を押さえ、跪く。俺は再び立ちあがり、時間停止、ショットガンを錬の正面に数発撃ち、錬の裏に回る。背中に手を触れ、時間停止を解除した。能力を打ち消すことができればショットガンは効くはずだ。
「ぐああっ!?」
胸にショットガンを撃ち込まれた錬は短い悲鳴を上げ、地面に倒れる。
「ど、どうだ!」
と、突然足をすくわれる。そのまま地面に倒れ、痛みに一瞬だけ目を瞑る。再び目を開けると、錬が空から降ってきていた。そのまま腹部に錬の肘が食い込み、反吐を吐く。
「ぐあっ!!」
「なんだこの程度か!」
俺は錬の腕を切り、必死に逃げようとするが、全く動く気配がない。疲れ切った俺は諦め、地面に倒れた。それを見た錬は立ちあがる。
「おいおい、まさか銃を胸に撃たれてなんで生きてるって思ってるんじゃないだろうな」
「くっ」
「図星か。俺の能力はビルドアップなんかじゃない。アイアンボディ、どんな攻撃を受けても無傷で済ませることができる」
「だが能力無効化したはずだ……」
「毎日大砲くらっている俺に銃弾なんて蜂に刺された程度だ」
「……」
「お前最後体力尽きてあきらめただろう?」
「……」
「そんなことでは勝てぬぞ。こちらも常に力を込めておかないといけないのだから体力は消耗する。こちらの体力が尽きるまで耐えることができないとは甘い」
俺たちは現実世界に戻った。