「作戦内容は敵国の城壁に穴をあける。そして混乱している間に側面から一気に攻め込み、学校の地下の避難所を制圧。人質を取る。人質を盾に、国王を降伏させる。何か質問は?」
黒板に作戦内容を書いて説明していた今作戦の指揮官、エイタルグランダーは作戦に参加する者の中で重要な地位にいる者たちの方を見る。皆はエイタルグランダーの方を見るだけで何も言わない。
「……質問は無いようだな。では各兵士たちに今作戦の内容をしっかりと伝えてくれ。以上、解散」
その声とともに全員が立ち上がり、思い思いに外へ出る。
「作戦は明後日だな。冬樹、戦場に出るための準備を整えてくれよ」
「具体的には何をしたらよいのでしょうか……」
「何、武器の点検とか簡単なウォーミングアップだな。あとは持っていくものの厳選だ。戦場には最低限の物しか持っていけないからな。武器とポーチ、あとは死んでも悔いがないようにペンダントとかかな」
「死!?」
驚いた俺に対してカルマは笑う。
「冗談だよ。君はこの作戦では重要な地位ではないからな。死ぬことはほぼないよ。だが、油断してはダメだぞ」
俺たちは他愛もない話をしながら訓練所に帰った。
俺はくたくたになりながら軍事基地内の自分の部屋に戻った。
「あ、きたきた」
「え?」
俺は聞き覚えのある、だが聞こえるはずがない声に驚き顔を上げる。
「な、なんでいるんだ?はるねぇ」
「明後日初陣なんでしょ?だから応援しに来たの」
「なんで知ってるんだ?」
作戦のことはスパイにばれたらいけないから他言無用だったはずだ。関係者以外の者が知るわけがない。
「秘密よ。それより冬樹、戦場に出て大丈夫なの?死なない?」
「自信ないが、ケイナ中佐が大丈夫だって。俺の部隊はそこまで危険はないところなんだってさ。だから死ぬことはたぶんない」
そう答えるとはるねぇはなぜか怒り始めた。
「もう!そんなんじゃダメでしょ!自信を持ちなさい!そして生きて帰ってくるの!わかった!?」
「うん……わかったよ」
それから長いこと話をした。はるねぇはしばらくすると帰った。一般人が軍事基地にいられる時間はそこまで長くない。俺は食事を食べ、深い眠りについた。
「いよいよか……」
カルマはいつになく真剣な顔で敵国の城壁を見つめる。
俺たちの班は正面に穴をあけ、敵国の兵士をおびき寄せる班だ。エクスプロジョン(爆破能力)のサイコパスが壁に穴をあける。俺たちが正面まで行き、敵兵を少しづつ減らしながら退却するという作戦だ。その間に他の班が城壁内に突撃し、学校を占領、人質を取る。俺たちの班の隊長はカルマだ。
「正面敵は約40」
ケイナがカルマに伝える。それを聞き、別の班に無線で準備が整ったことを伝える。
「それでは作戦を始める。3秒数えたら正面爆破してくれ」
ノイズ交じりにエイタルグランダーの声が聞こえる。カウントダウンが始まった。
3、2、1、0!!
0と同時に正面の壁に大きな爆発が起きる。そして俺たちは声を上げながら進軍する。俺は後衛に配属されたため、後ろの方だ。
相手国もパニックになりつつ対抗する。しかし、敵は40、こちらは110だ。先頭で走りこんでいったカルイが敵を倒しつつ進み、残った敵を後ろの兵士が倒す。
俺たちの班が敵国の領地に4分の1ほど入ったところで退却の号令が入る。
少しづつ後退すると同時に敵国の兵士が大量に出てくる。
(これはうまくいきそうだ!)
俺はそう確信しながら後退する。と、次の瞬間。
ゴオオオ……!!
前方で大きな火柱が上がる。敵国の兵士の主力、ブレイズ(炎の能力)のサイコパスだ。次々と前方の味方兵士が焼かれていく。俺は恐怖心を覚えた。
その光景を見ていた俺に後ろから大声で切りかかる敵兵がいた。俺はその姿を捉えたが、躱しきれない。死を覚悟し、目を閉じた。
いつまでたっても切られない俺の体。違和感を感じ目を開けると、今にも切りかかろうとしている敵兵がいた。あたりは白黒の世界に包まれ、音もなかった。能力が発動したのだ。
俺は剣を敵兵の首に切りつけた。一瞬だけ動きが早くなり、血しぶきが飛ぶ、それもすぐに止まる。俺は、その場から少し離れた。シュウウという蒸発するような音とともに景色が戻る。敵兵は驚きの表情をしつつその場に倒れて動かなくなった。周りで見ていた仲間もなぜか驚きの表情を浮かべていた。
指定の位置まで撤退した俺たちは、待っていた遠距離部隊の援護により無事撤退に成功した。敵国の兵士も最初は遠距離部隊の攻撃を防ぎつつ攻めてくるだけだったが、突然慌てたように城壁内へ戻って行った。おそらく側面から攻める部隊が城壁内に侵入したのだろう。
俺は城壁内で立ち上る煙を見ながら水を飲んでいた。そこへカルマがやってくる。
「よくやったな。俺たちの仕事は終了だ」
「……先頭の兵士たちはどうなりましたか?」
「何人かは焼死、一部が切り殺された。失った人数は56人だ」
「そうですか……」
「そんなことで悲しんでるようでは兵士は務まらないぞ。作戦遂行のために命を掛ける。それが兵士だ」
「それはわかっていますが、いざ戦場に出てみると……」
「気持ちはわかる。だが、俺は何千人と仲間が死ぬのを見てきた。だから強く思う。彼らのために生きようと」
「そうですね。俺だって兵士です。こんな惨状なんてこれから見るわけですからこの程度で落ち込んだりしません」
「その意気だ。ところで冬樹、敵を倒したんだって?」
「はい」
「どうやって倒したんだ?報告に来た兵士は君が瞬間移動したと言っていたが」
俺の動きは傍から見たら瞬間移動しているように見えるようだ。
「能力が発動しました。前回と同じ時間停止の能力です。いや、正確には遅くしているというべきですか」
「遅くか……その能力はどうやって発動した?」
俺は能力発動時を思い出す。
「……自分の死を覚悟して目を瞑りました。そしたら能力が発動していました」
「うむ……どうやって発動したかよくわからないな。もしかすると気持ちか?自分の死にたくないという気持ちと死ぬという事実がぶつかったその時に発動するのかもな。一度試してくれ。確か過去に行くことができるんだったな。じゃあ未来に行けるかどうか」
俺はカルマに言われる通り、目を瞑り強く念じる。未来に……未来に行きたい……と
ギュルルルと何かが回転するような音が頭に響く。そして違和感を感じ目を開けると、
「こ、ここは!?」
焼野原となったあたり一帯。そこは俺が先ほどまで休んでいた場所だった。隣にはカルマがいた……それはかみなりに撃たれたかの如く、座ったまま身動き一つせず。
俺がふと顔を上げると、目の前でケイナが青く迸る電気に撃たれ倒れていった。
やばい!やばいやばいやばい!俺の頭の中でやばいという警告が鳴り響く。相手はスパーク(放電の能力)のサイコパスだ。電気は人の動く速度を遥かに上回り、その威力は人など一撃で殺せる。
テントの影からその能力を使うものが顔を出す。
戻れ戻れ!俺は目を瞑りそう念じる。
ふと目を開けると、その男はこちらに電気を飛ばそうとしていた。
戻れ戻れ!
男が電気をこちらに飛ばし、一瞬で目の前にくる。動きが遅く感じられた。能力は発動していない。
俺の額に電気が当たるのと同時にシュウウという音が頭に響く。
ハッと目を開けると、そこは先ほどカルマと話していた場所だった。
「どうした?」
カルマがそう問いかける。
「ここは危ないです。もうじきここいったいが焼野原にされ、この班は全滅します」
カルマは目を丸くする。
「未来を見てきたのか?」
「はい。俺も未来で殺されかけました」
それを聞いたカルマは皆に指示をする。俺たちは、俺の言ったことが本当なのかを確認するために、ケイナがその位置を確認できるところに隠れた。
しばらくして、ケイナが反応する。
「来た。敵は20。先ほどのブラストとおそらく敵主力だろうと思われるサイコパス」
「焼野原ってやつがやったのか?」
「それはわかりません。すでになっていましたから」
「どうやら俺たちは冬樹のおかげで命拾いしたようだな」
カルマはそういうと、皆に撤退の指示を出した。自国に帰るようだ。作戦は失敗に終わった。あの人数の主力をこちらに出すということは中はもう片付いたということだろう。
俺たちは何事もなく自分の国に帰ることができた。