俺の頭の中に、小さい頃の記憶が蘇る。父親、母親が教会の神主に向かって必死に訴えかける姿だ。
「何とかしてください!私たちの子供です!」
「私も何とかしてあげたいのはやまやまなのですが……彼に憑りついている悪魔は追い払うことができません。強大な力を持つため、むしろ彼の中に封印するのがやっとです」
「そんな……それじゃあ私に封印してください!」
「それも無理です。悪魔をあなたに移す過程の中で逃げ出す可能性があります。もし逃げられたら最後、この世の終わりです」
母親と父親は絶句していた。神主はすみませんと一言いい、頭を下げて立ち去って行った。
途方に暮れた両親は両親の手を握って歩く俺のほうを見る。
「あなた……」
「ああ、仕方ない。俺たちの子だと周囲に知れ渡るようなことがあると俺たちすら生活が危うくなる」
「……」
何かを決心したような二人の顔。そして、俺に振り返り、しゃがみ込むと、俺に向かってこう言った。
「お前は私たちの子ではない。一人で生きていくんだ」
俺は言葉こそはわからなかったが、雰囲気でどうなるのかわかって泣いていた。泣いてしがみつく俺を乱暴に振り払うと、両親は走って逃げていく。俺はただ、泣きじゃくっていた。
しばらくし、泣きつかれた俺はとぼとぼと後を追うように両親が走って行った方向に歩みを進める。もう数時間歩いただろうか。その時、一軒の家から小学生くらいの子供が追い出されるのを目撃した。
「お前はもうここには住ませない!住まわせてやってるのに迷惑をかけるような奴なんて!」
「俺が何をしたって言うんだ!」
「悪魔め!二度と来るな!!」
バタンと大きな音をたて、閉じる扉。その扉に向かって少年は
「くそっ!」
と一言呟いた。
少年が俺のほうを見ると優しく声をかけてくる。
「君も、一人かい?」
「……」
「こんなに幼いのに……」
少年は何かを感じ取ったような顔をした。俺はそんなことはわからない。きょとんとして少年を見つめるしかない。
「君も……同じか」
少年は立ち上がり、俺に向かってこう言った。
「これからは一緒に強く生きよう」
それから俺たちは盗みをしたり山で野草を、川や海で魚を採ったりしながら生きながらえてきた。そうしていくうちに俺は小学生ほど、少年は中学生ほどになった。
ある日、俺たちはピンチに陥った。盗みを働いていたい俺たちはついに大人たちに囲まれてしまったのだ。
「くそっ!逃げ場がない!!」
路地裏に逃げたが、そこは壁だった。協力して登ると逃げられそうだが、もうそこに大人たちが来ていた。
「もう観念しろ!クソガキども!!」
「お前らにはしっかい罰を受けてもらうぞ!!」
少年は俯き、わなわなと怒りをあらわにした。
「なんで……なんで人間はこうも理不尽なんだ!!」
「ああん?」
「俺たちは必死に生きてきた!俺たちを救ってくれなかったのはお前ら人間じゃないか!!」
「黙れ!悪魔ども!悪魔に手を貸す人間なんていねえんだよ!!」
「こんな世界、滅びてしまえ!!」
その言葉を発した瞬間、オーラのようなものが少年から湧き出る。
「な、なんだ!?」
「なんかやばいぞ!」
「消えろ!消えろ消えろ消えろキエロキエロキエロ!!!」
地面がグラグラと揺れ始める。
「キエロキエロキエロキエロキエロキエロ!!!」
そう唱えるたびに真っ黒なオーラが集まり、少年を包み込んでいく。
「キエロおおおおお!!!」
その言葉を最後に、オーラがはじけ飛ぶ。俺は少年の名を呼ぶ。
「ラスト!!」
「思い出しましたか?」
「これは……俺の記憶?」
「はい。ラストは暴走し、自分の力を爆発させました。その影響で世界中の人間の記憶が書き換えられました。そして、爆発したわずかな力により人々は、悪魔と同じ力、つまり能力と呼ばれるものが使えるようになりました」
「なんでお前がそれを知っているんだ?」
「私は悪魔です。彼の能力は効きませんでした。ですが、私たち悪魔を封印している人間にはその効果があり、記憶と同時に封印が解かれてしまいました」
「私たち悪魔?悪魔はお前ひとりでは……」
俺はそこまで言うとシュバルツのことを思い出す。やつも悪魔だ。
「悪魔は……一人じゃないんだな?」
「はい。そしてラストは自分の力を取り戻すためにマザーを作りだしたり、悪魔を封印していた人間を集めた。そしてそれらを使ってアビリティードラックを作り出す工場を破壊して回った」
「アビリティードラックはラストの力だったのか?」
「いえ、正確にはラストの内の悪魔の力です。ラストの強い思いと封印された悪魔の外に出たいという思いが強く結びつき、能力を爆発させてしまった。その結果、能力は世界中にばら撒かれることになった」
「結局ラストは何をしたいんだ?」
「私たちの力を集め、神になり、この世界を思いのままに操りたいのでしょう」
「……」
「それから私たち悪魔の力もマザーによりすこしづつ取られています。マザーは悪魔の力を吸い込む力があるようです」
「お前は何をしたいんだ?」
「私は別にこの世界がどうなろうと知ったことではありません。ただ、マザーだけは許せません。私の力を吸収するのですから」
俺は少し考えた。悪魔を倒し、再び俺の体の中に封印した俺をラストは吸収したいはずだ。いまマザーのもとへ行くと力をすべて吸い込まれてしまうだろう。おそらくマザーはラストが操ってるはずだ。
「なら、ラストに協力しよう」
「!?」
「ラストは一緒に育った大切な……いわば家族のようなものだ」
「どうしてですか!?彼は私を吸収するつもりなのですよ!」
「お前がどうなろうと知ったことはない。俺はラストに協力する」
「……後悔してしまえ!お前が私を見放したことを後悔してしまえ!」
俺は目を覚ます。