帰国後、俺はカルマとともに能力発動の訓練をしていた。
「それじゃあも一回!」
俺の訓練内容は、飛んでくる球を時間を止めて切るという訓練だった。本来この練習はアイアン(鉄の体の能力)のサイコパスが自分の耐久力を上げるために行うものだ。それゆえに球は普通鉄球などなのだが、俺の場合は能力発動が安定しないため、安全性を考慮してゴムでできた球だ。
「(止まれ!止まれ!)ガハッ!?」
現状は、10回に1回ほど成功するという状況である。
「うーん。やはり安定しないな。いちいち考えるというのが原因なのだろう。考えずに無意識にできるようにならねばな。時間を止めることは考えず、目の前の球に集中してみてくれ」
「はい……」
「よし、それじゃあも一回!」
俺は言われた通り、目の前の球に集中する。
目の前から3つの球が飛んでくる。
シュウウという音とともに、周りが白黒の世界に変わる。成功だ。
俺は球を剣で叩き切る。
「ハッ!ハッ!……」
最後の一つというところで能力が途切れる。
「ガハッ!?」
「お、成功じゃないか!」
「はい……ですが途中で途切れてしまいました……」
「制限時間があるのか?」
「わかりません」
「そうか。それじゃあ、安定するまでしばらく練習しよう」
俺はカルマに言われたとおり、練習を繰り返す。カルマは途中で部下に呼ばれ退出した。
数時間後、カルマが戻ってきた。
「練習ははかどってるか?」
「はい。5つを切れるくらいには長く止められるようになりました」
「おお、そうか。やはり止められる長さは時間だったか?」
「はい。頭の中で数えたら5秒ほどでした」
あれから俺は発動させようと思えばさせられるくらいにまで安定させることができた。そして、球3つを切ることができたら4つ、4つができたら5つという風に増やしつつ、練習していた。余裕ができたころに頭の中で数えたら、止められる時間が増えていっていた。
なぜここまで成長することができたのかというと、時間を止める。すなわち球を準備する時間のみでしか現実の時間は動かないのが理由だ。球を準備する時間はだいたい2分程度、時を止めて切る。球を準備するというふうに練習を重ねる。1時間あたりに30回。カルマが戻ってくるまで4時間かかったため、120回は練習を重ねたということだ。
「ところでカルマ大佐は何の用事だったんですか?」
「ああ、次の作戦についての会議だ」
「作戦?昨日帰国したばかりなのに早くないですか?」
「そんなものだよ」
「それで今回はどんな作戦ですか?」
「ああ、スパイ作戦だ。昨日損害を与えた国の状況と施設の配備位置の確認をして戻ってくるというものだ」
「なるほど。頑張ってください」
「ん?君も来るんだよ」
「え?でもおれ……まだまだ未熟ですし……」
「大丈夫だ。君は新人だ。有名ではない以上相手に顔を知られてはいない。それにいざというときはその能力でもって逃げることはたやすいだろう?」
言われてみればそうだ。昨日今日兵士になって1回しか作戦に出ていない。しかもその作戦での俺の配置は後ろの方だ。顔を見られることはほぼない。それにいま練習したこの能力であればすぐさま逃げることはたやすいだろう。連続で能力発動することは無理だが、少々距離を離す程度ならできるだろう。
「それじゃあカルマ大佐はどうするんですか?かなり有名でしょう?」
「俺は変装していくから大丈夫だ」
それで大丈夫なのか……
「作戦は明日だ。行くのは俺と冬樹。そして俺の部下一人が行くことになっている。必要最低限の準備を整えておいてくれ」
「了解しました」
次の日、俺たちはまたあの国に来ていた。カルマはまるで別人かと思うほどに変装がうまかった。カルマの部下、カメリオンはスタイルチェンジ(変身の能力)のサイコパスだ。
スタイルチェンジは変装がどうというレベルではない。別人になることができる。ただし、人以外のものになることはできない。
俺たちは城壁の一番目立たない位置で話し合いをしていた。そこから穴を空けて侵入するつもりだ。
「それじゃあ行くぞ。先ほど渡した紙に地図を書いてリストに載っている建物をその地図に書いてくれ。何かあったら無線で連絡してくれ。それじゃあ2時間後、この位置に集合だ」
「了解!」
俺たちは一人づつ敵国に侵入した。
俺は東と北の一番重要ではない区域を担当している。カルマは中央と西。カメリオンは前回破壊した正門の付近である南だ。選ばれた順番としては危険度だ。中央は政府や軍事施設と国家関連のものが集まる。西は兵士の家や貸家などが集まる。南は復旧作業に追われているため、兵士が多い。東と北は城下町や国民が住む区域ということで、比較的に兵士が少ないのだ。
俺は北から回り始めた。
(さてと、リストに載っているのは……国民館、学校、図書館か……えっと……こっちか)
俺は昔侵入して記録してきたという地図を頼りに目的の施設を探す。
(まいったな……国民館がない……)
その地図に載っていた位置に行くと、市民館はなく、そこは空き地となっていた。
(とりあえず地図がないことには探しようがないな。図書館あたりに地図はないか?)
おれは図書館を探しに向かった。
(やはり場所が変わっているのか……)
地図に書いてある場所には図書館はなかった。
(このあたりの人に聞くしかないか……)
俺は意を決して国民と思われる人に聞きまわる。
聞いた情報を頼りにフラフラと歩いていると広場に出た。その広場には木々があるだけで、人の姿はない。
(ん?あの子……)
俺は広場の隅の木の下を掘っている子供を見つけた。
(何をしているんだ?)
俺はその子に近づく。
あと数十メートルというところでその子に気付かれる。
「あっちょっと!」
突然逃げ出したその子を追いかける。
俺が追いかけてくるのを見ると、突然風が吹き始める。まるで俺を近づかせまいとするように。その子はどんどん離れていく。
(仕方ない。こんなところで使いたくなかったが……)
俺は能力を発動させた。あたりは白黒の世界に包まれ、風は止む。
5秒。それだけあれば近づくことはたやすい。俺はその子を捕まえ、時間停止を解く。
「え?わわっ!?」
「ちょっと待って、話を聞きたいだけだから」
その子はバタバタと暴れ逃げ出そうとする。
「離せ!サイコパスってことは兵士だろ!?兵士は嫌いなんだ!」
「わかった!わかったから!離すから逃げないでくれ。話を聞かせてくれるだけでいいんだ!」
俺はその子を下す。
「な、何の用だよ!」
「えっと、さっきは何をしていたんだい?」
「僕の勝手だろ!お前に関係ないよ!」
俺は困った。
「わかった。じゃあ俺のことを先に話す。だから君のことを聞かせてくれないか?」
「……」
その子は黙った。
「さっきのは何だ?」
口を開く。
「さっき?」
「瞬間移動してたのだよ!あんなの、聞いたこともないぞ!」
「ああ、あれは俺の能力だ。時間を止める能力」
「時間を……止める?」
驚いたように目を丸くする。
「それじゃあ君のことを聞かせてくれ。君はさっき何をしていたんだ?」
「……」
その子は黙る。
「おじいちゃんとの思い出の物を掘っていた」
「おじいちゃんとの思い出?」
「おじいちゃんはすごい兵士だった。いろんな人に慕われ、たくさんの敵を倒し、僕にお土産話を聞かせてくれた。その時にくれた物だよ。おじいちゃん、殺されちゃってお墓をこっそり作ったんだ」
「殺された?戦って殺されるのはあたりまえじゃないのか?」
その子は俺を睨む。
「違う!戦ったんじゃない!軍人がおじいちゃんを嵌めたんだ!」
「何が……あったんだ?」
「裏切りにあって殺された。おじいちゃんがスパイだっていう偽の証拠とかを作って、政府に渡したんだ。そしたら政府はおじいちゃんを殺せという命令を出した」
「……」
「裏切者の墓など作ってはならないって言われておじいちゃんの墓は作れなかった。だからあの木の下にこっそり作ったんだ」
「それであの木の下に思い出の物を埋めてたのか。じゃあなんで掘りだしてるんだ?」
「おじいちゃんの思い出のものがすべて見つかって燃やされたんだ!だからこのペンダントだけは見つからないようにと……」
「なるほど。埋めている場所を書いた紙が見つかったのか……」
「お前も兵士だろ!?ほらペンダントを奪えよ!」
「待った。俺はこの国の兵士じゃない。だから君のペンダントを奪ったりしない」
その子はまた、目を丸くしていた。
「俺の名前は冬樹。君は?」
「僕は……秋人」
「そうか。いろいろ教えてくれてありがとな」
俺は、お礼を言って立ち去ろうとした。
「待って!」
秋人が呼び止める。
「僕を冬樹の国に連れて行って!」
「え?でも親とか家はどうするんだ?」
「僕には親はいない。みんな一緒に殺された。僕だけ逃がしてくれたんだ」
彼の話はこうだった。
親が殺された後、自分の家が燃やされた。危機一髪でおじいちゃんとの思い出だけを持って逃げだせた。そして彼は人目のつかない橋の下を基地とし、城下町で盗みを働きながら生きてきた。しかし先日、兵士に見つかり、彼の持ち物はすべて取られてしまった。
逃げ出すのは簡単だった。あの風の能力ですべてを追い返したからだ。彼に近づくにつれ風はかなり強いものになるため、体に触れない距離で弾は落ちる。それで逃げてこれた。そして、かろうじて覚えていた思い出のペンダントの位置に来て、俺と会ったということだ。
「わかった。君を連れ出すよ。その前に俺の任務を手伝ってくれないか?」
「うん!わかった!」
俺は秋人の案内で無事目的の場所を回ることができた。図書館では多めに地図を取ってきた。
「よし、任務完了だ。ありがとうな」
「うん。じゃあ……」
「見つけたぞ!」
秋人が何かを言う前に敵の兵士が現れた。
「やばい!逃げないと……」
「待て!」
敵兵士は計3人。俺はやれると確信した。
「なんでだよ!早く逃げないと殺される!」
俺は迫ってくる3人に集中する。一人がニヤッと顔を歪ませる。その手には銃があった。
敵が引き金を引く寸前、俺は能力を発動させた。
俺の能力は時間完全停止ではない。わずかながら時間は動いているのだ。そのため、白黒の世界に入っても、引き金は引かれる。ゆっくりと銃口から出てきた弾をつまみ、相手の額の位置に持ってくる。向きもしっかりと額に向けた。残り2秒。俺は後ろの兵士2人の首を剣で切り、タイムリミット。額を撃ちぬかれて一番前の兵士が倒れる。首から赤い血柱を立てながら、後ろにいた兵士二人が倒れる。そしてパン!という銃声がなる。
「ふぅ……」
俺は息を吐く。
トテトテと俺のところに秋人がくる。
「すごい!すごいよ冬樹!」
はしゃぎ始める秋人。
「その前にここを離れるぞ。さっきの銃声で何人かが集まってくるはずだ」
俺たちはその場を離れ、最初の集合場所に戻った。