「うーんむにゃむにゃ……はっ!?」
俺は目を覚まし勢いよく体を起こす。どうやら能力について考えているうちに寝てしまっていたらしい。だが今はそんなことはどうでもいい。
「今何時だ!?」
任務の後にカルマと約束した時間が気になった。
「……6時か。よかった。確か約束は9時にカルマ大佐の執務室だったな」
俺はとりあえず安堵した。
「時間あるしとりあえず準備するか」
着替えや持ち物の点検などを済ませて時計見ると、6時30分だった。
「うーんまだ時間あるな……朝飯食べるか」
部屋から出て食堂に向かう。
「うわっ!」
歩いていると、横から勢いよく飛ばされた。廊下の角から人が飛び出したのだ。
「いっててて……」
俺は打った尻を撫でながら起き上がる。
「まったく……前見て歩けよな!」
そう言い放ったのはどこかで聞き覚えのある声だった。
「え?お前……トーマか?」
目の前で同じように倒れている男を見た。あの無駄にうるさいくせっ毛が跳ねた。
「え?あ、冬樹じゃねぇか!何してんだ?こんなところで」
「それはこっちのセリフだ。生きてたんだな」
「あたりまえよ!なんか知らんが俺がスパイの仲間だのなんだのと憲兵が上がってきてな。まいったものだよ」
あの日、俺とはるねぇが逃げたあとおそらく俺が引き連れて山の上に避難したグループはスパイの仲間だと思われ、捕まったものがいたようだ。中には逃げようとして撃ち殺された人もいたらしい。
「お前は素直に捕まったのか?」
「まさか!ちょうど帰ってきてた父さんが憲兵を追い返したよ」
確かトーマの父親は兵士で能力はフローズン(凍結の能力)のサイコパスだったはずだ。おそらく憲兵を凍結させたか、家ごと凍結させて入り口を無くしたのだろう。
「まぁ立ち話は何だし、どこか行こうぜ」
「おれは食堂行くつもりだが、お前も来るか?」
「おう!」
俺たちは食堂に向かった。
「それで、お前の能力は何だ?」
俺はトーマに聞く。ガツガツと食べながらこちらの話を聞いていた。今日の朝の献立はチャーハンとみそ汁とサラダだ。ゴクリと飲み込んで話し始める。
「俺の能力は父さんと同じフローズンだったよ。なんかさ、小さいころ検査したとき間違った結果が出たとか」
「能力があるってわかったのはなんでだ?」
検査は行こうと思えばいつでも行けるが、基本的に薬撃ち込んですぐに反応が出るために検査は一回でいい。たまに失敗して間違った結果が出ることもあるが、6歳になってから強制的に行う検査で結果がわかる。なぜ6歳なのかは、すぐに反応が出ないときや5歳からようやく反応が出るということが多々あるからだ。原因は薬に対する対抗力が強いため、薬を駆除しようと働くのだ。しかし、この薬は入ったらすぐに神経と絡まりあい、そのまま全身に行き渡るため、基本的には早い。そのため、駆除しようと働いた抗体により駆除され、その結果検査結果が出なかったりするのだ。5歳になって能力開花するのは神経に入りこみ行き渡ることができたが、脳がそれを認識しないという時そういうことが起きる。成長したときにようやく脳が認識し、能力開花ってことが多い。
能力は基本的に10から0までに力が分けられる。10はセンシュトラル国の英雄、カムイやロストワン国の英雄、フリズンなどの能力のように強力な力を持っている。基本的な兵士は4~6だ。カルマ大佐やシェルマーおじさんなどはここにあたる。大佐であってもこのレベルだ。10はいかに強力かがわかるだろう。そして1がほとんど裏方の方で活躍しているものだちだ。先ほど言った薬を撃ち込んで抗体により駆除されたという時にこのレベルである場合が多い。0はサイコパスではないという意味だ。
話を戻すと、産まれてから1回、6歳のときに1回、計2回は検査を受ける。これで検査結果が出なかったらサイコパスではないと考えるべきなのだが、俺とトーマは何故かこれで結果が出ず、今になって能力が発覚した。俺の場合は過去に戻ったことにより、能力が発覚した。
「俺はなんか友達叩いたら凍った」
「……」
訳のわからない理由だった。
「氷はすぐに解けてなくなったけど、俺が能力使えることがわかった。それでいままでの検査結果になぜでないのか調べたら、2回連続で検査結果に間違えがあったらしい」
俺はあきれた。さすがなぜかいろんなところでバカをやらかすだけはあるなと思った。
「ところで冬樹の能力はなんだ?」
「俺は時間操作ってことになってるな」
突然トーマが笑い始めた。
「時間操作ぁ?そんなの聞いたことねぇよ」
俺は「じゃあなんであのとき俺についてきたんだ!」とかいろいろツッコミたいところはあったが、やめた。
「証拠見せてあげようか」
「おう!時間操作できるならやってみろや!」
トーマは笑いながら言った。俺は能力を発動させた。目の前にある水が入ったコップを持ち、トーマの頭に水をこぼす。勢いよく飛び出した水は、空中で止まる。俺はコップを元の場所に置き、少し離れる。そして時間を戻す。
「ははは……」
バシャという音とともに笑い声が途切れる。
「どうだ。これが俺の能力だ」
トーマは、悔しそうにこちらを睨む
「今度は俺の番だ。トーマはもう一個の水が入ったコップを持つ。勢いよくこちらにこぼす。その瞬間に、飛び散った水の塊は氷となり、俺に飛んでくる。俺は能力を発動させて、その氷をキャッチ。思いっきりトーマに投げつけてやった。あとは言うまでもない。トーマは「覚えてろよー!」と言いながら逃げて行った。
朝飯を取ったあと、カルマの執務室に向かった。
「冬樹です。カルマ大佐。入ってもよろしいでしょうか」
「はい」という返事を聞き、俺は扉を開ける。
「今日は何をするんですか?」
「ああ、今日はこのあたりの状況確認だ。まあパトロールってところだな」
兵士の仕事は訓練、任務、戦争だけじゃない。国のパトロールや頼み事をこなすのも仕事の一つだ。
「わかりました。それじゃあ行きますか」
俺とカルマはパトロールに出かける。パトロールしながら話す。
「君の未来や過去に行ける能力は気持ちが関係してるんじゃないのか?」
「わかりません。未来に行きたいと思えば行けました。でも過去は戻りたいと思っても戻れなかったんですよね」
「過去に戻るってことは過去で何かを起こしたら、その未来が変わるということだよな。俺の能力で未来を見たとき、その未来が変わったように。うーん実に不思議な能力だ」
「一応時間停止は発動させようと思えば簡単にできます。でも2回以降は発動しなかったんですよね」
あの時、2回発動し、そのあとに来たブレイズのサイコパスに殺されかけた。3回目を発動しようとしても発動しなかったからだ。また、先ほどトーマを返り討ちにしたあと、3回目を使ってみた。しかし、やはり発動しなかった。
「2回か……それには意味があるのかもしれないな。時間を止めることにより、時間の歪みが起きてそれを調整するためにクールタイムが必要だったりとか」
「そんなまさか。時間の歪みを調整って誰かがやってるみたいじゃないですか。それだったら過去に戻ったときや未来に行ったときの時間の歪みは調整されませんが」
「冗談だよ。しかし、回数制限があるとなったらうかつには使えないな」
と目の前に八百屋が横切る。大きな荷台が段差で跳ねた。その拍子にリンゴが飛び出す。俺は能力を使い空中に浮かぶリンゴを拾う。そして能力を解く。
「あ、あれ?」
八百屋のおばさんは狐につままれたような表情をして、何事もなかったように荷台を引いて行った。
「さっき能力使ったんだろう?いまはもう使えるのか」
「つかえましたね」
「研究が必要みたいだな。パトロールが終わったらさっそく研究してみるか」
俺たちは歩きまわり、パトロールを終わらせた。帰り、道の途中で公園である男を見つけた。その男は、帽子をかぶり、マントを羽織って顔はよく見えなかった。ジャングルジムの一番上でギターを弾いていた。そのジャングルジムの下には子供が何人か集まっていた。
ぽろろんという音を鳴らし、子供たちを釘づけにする。
「おや?君は……なかなかおもしろい能力があるようだな」
「な!?」
「は!?」
その男は俺の能力の存在を感づいたのだ。兵士だという理由だけなら能力を持っているってだけわかるはずだ。それなのに、俺に特別な能力があることがわかった。
「あなたは一体……」
「いや失敬。ぼくは旅人さ。いろんな国で唄を聴かせている。君の能力については風のうわさで聞いているよ」
「歌人というやつか。あなたとはまた会うことになりそうですね」
「ふふふ……また会えることを祈るよ。君の名前はなんだ?」
俺に向かってそう問いかける。
「俺の名前は鷹野冬樹です」
「鷹野冬樹。ふむ。いい名前だ。覚えておこう」
ぽろろんと再び音を鳴らす。
「ぼくもサイコパスの一人でね。兵士なんてやってられなくて旅を続けているんだ」
「どんな能力を使っているんですか?」
「それは秘密。身分がばれたら困ることもあるからね」
「そうですか。うちでは身分がわからないものは国内に入れないんですが。一緒に来てもらえますか?」
「ふふふ……」
不気味に微笑む。俺たちはその男を捕まえるために近づく。
「ぼくを……」
ぼそっと口を開く。
「捕まえられるなら、捕まえて見なよ!」
ジャアアアアン!!突然変貌したようにギターを鳴らす。
その音を最後に俺は気を失った。
再び目を開くと、あたりは夜になっていた。ジャングルジムの下で曲を聴いていた子供達とカルマは気を失っていた。
(くそっ……一体何があったんだ……)
俺はカルマを起こし、気を失った子供たちを病院に送り届けた。