ペルソナ5 短編集   作:ニュウ

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ジョーカーのやりたい放題な日常(下参照)を見たモルガナは一言物申したいようです。
例えばある日夜の自室にて
***

 いつものように川上は仕事を終えると彼の隣りに座った。
「ねえ、君って……」
 刹那、彼の指先が頬に触れると川上は真っ赤になって言葉を詰まらせた。それにかまわず彼の手は頬を捉えた。
 川上はその手にそっと触れて、上目がちに彼を見つめた。
「君って、学校では指一本触れてこないよね。こないだだって……」
 生徒会室での一件。
 学園祭の喧騒とは正反対の場所――ああいうときにまず誰もよりつかない生徒会室で二人っきりになったときも、彼はただ傍にいるだけで半径五十センチ四方には近づいてこようともしなかった。
「それは望まれてない気がしたから? 違うの?」
「ち、違わない」
「人の目、じゃない」
「?」
 ぽつりと呟かれた言葉に川上が首を捻ると彼はにやりと笑って囁いた。

「『盗みたい』のは先生の『心』だから」

「なっ!!!」
 真っ赤になって川上が動揺していると、彼はもう一方の手を伸ばして両手で彼女を捉え、そっと額を近づけた。
「でも今は、甘えてもいいでしょ?」
「もーほんときみって……」
 強引なくせに強引じゃない彼は、こんな密接した距離でも無理に踏み込んできたりはしない。それなのに『心』はさらっと奪っていく。
「きみってこは……」
 そんな彼に甘えるように川上は身をゆだねた。  

***
こんなジョーカーさんの日常にモルガナはどうやら悩んでいるようです。
(冴さん「って、川上ネタ思いつきで書いたのに1000字に満たないからここに載せたんでしょ? さあ答えて!!」)


やっぱり猫が好き (ある日のモルガナとジョーカーの会話)

「盗みたいのは……だから」

「もーほんと、きみって……」

 

 聞こえてくる甘ったるい声にワガハイはうんざりしてため息をついた。

 またかよ。

 誰もいなくなった喫茶店の上の部屋から家具の軋む音が聞こえてきた。正確にいえばたぶんおそらく十中八九、というか間違いなくおんぼろソファに二人乗りのせいだろうが、まあそんなこっちゃ関係ねえ。

 あいつが誰とどこで何をしようがしったこっちゃあねえが、こちとら人間より聡い猫耳の持ち主なんだからちったあ察しろというものだ。

 お耳が勝手に反応してしまい一瞬階段の方を仰ぎみてしまったが、とんっと軽やかに床に着地するとワガハイは入口近いカウンターの椅子の上へと飛び乗った。

 ワガハイ、なんて紳士っ!

 超レトロな黄色い電話の横では思った通り、話している内容まではわからない。

 しばらくするとメイドコスプレの教師とあいつが降りてきた。

 うわっ、カワカミの目、ハートマークだし……。あいつ、一体なにやらかしたんだ?

 若干引き気味のワガハイには目もくれず、先生を帰すとあいつはすぐにスマホを取り出した。

 

「さてと……」

 

 どうやらこの後どうするか物色中って感じだ。

 マジカ。今日は放課後メメントスで大捕物したとこだぞ。

 あきれるやら感心するやらなワガハイをあいつは無言の笑みでバッグに押し込んで、着いた先はお台場海浜公園。ロマンチックな夜景に観覧車といえばお決まりのデートコースだが、今隣にいるのはカワカミじゃなくて別の女だ。

 

「へえー、キミってこういうことできるんだ」

 

 パンクロッカーのねえちゃんはワガハイの存在もおかまいなしにあいつにしなだれかかってきた。

 それを余裕の表情であいつは抱き寄せて……ニャハッ!!

 急いでワガハイはがさごそとバッグの中へと身を隠す。

 し、神経がもたねえ。ワガハイ、オマエとちがって紳士だから!

 観覧車が地上に着くのを確認しておそるおそる顔を出すと、もうそういうシーンは終了していた。

 

 あいつと知り合って数か月。

 あいつが超一流のペルソナ使いの大怪盗様であることはワガハイのよく知り及ぶところだが、それと同時にもう一つの怪盗行為にも長けていることも否応なく気づかされてしまった。

 なにがいいたいかとゆーと……。

 

 あいつ、女心まで盗みやがる! それも常習犯だ。

 

 ふわっとして大人しくて一見虫も食わなそうな可愛い顔してるくせにこれだ。

 まあ昔から英雄色を好むっつうことわざがあるくらいだ。ワガハイも多少のことは知らないふりをしてやる。

 いろんな女の子とデートしてるってこと、杏殿にだって黙っててやってもいい。

 それにこういうことは紳士がいちいち口出すことじゃねえから。

 際どいシーンは見聞きせず、女性に恥ずかしい思いをさせないようにワガハイは最大限に配慮してきた。

 けれどある日、とうとう堪忍袋の緒が切れた。

 カワカミがあいつに頼まれた用事をこなしている目の前で他の女といちゃつき始めやがったのだ。

 

 ***

 

「オメー、そりゃねーーだろっ!!」

 

 ワガハイが睨み付けるとあいつはきょとんとした顔をして振り返った。

 女を見送った直後で、まだ喫茶店のドアにつけられたベルがカランコロンと音を立てている。

 

「どうした?」

 

 じいっとワガハイの顔を眺めるとあいつはふいにポケットの中を探り、手を差し出した。

 その手の上にのっていたのは、ちょいピンクや黄みがかったアレ。

 

「カリカリじゃねえっ!」

「あれ、違った? 今日あんまり食べてなかった気がして」

 

 ドキッとして思わずワガハイは後ずさってしまった。

 よくみてんじゃねーか。女の方ばっか見てると思ってたらよ。

 

「そうじゃねえだろっ! オマエ、一体何考えてんだ? ちょっとそこ座れっ!!」

 

 ワガハイの剣幕にビビったのか、あいつは大人しくワガハイの隣りのカウンター席に腰掛けた。

 今日という今日はワガハイ、マジで怒ってんだ。

 ここはひとつ、大人のスマートな恋愛のルールっつーやつを説いてやらねばならん。 

 そんなワガハイの意気込みが伝わったのか、あいつは急にしょぼんと肩を落とした。

 

「ごめんね、モルガナ」

 

 あ、あれ? もしやわかってるのか? ほんとは罪悪感でいっぱいとか?

 予想外の反応にワガハイ、気勢をそがれてしまった。

 

「や、あれだ。わかりゃーいいんだよ。わかりゃぁ」

「そういう問題じゃない」

 

 あいつは大きく首を横に振った。

 

「どうして気づかなかったんだろう。何かあってからでは遅いだろ? この感じ、やっぱりお腹すいてるんでしょ? でも食べられない?」

「は?」

「もしかして見ない間に変なものでも食べた? それで食べられなくなったの? 今から見てもらえるとこどっかあるかな?」

 

 あたふたと辺りを見回して、終いにはスマホを取り出してあいつがどこかに電話しそうになって、ワガハイはやっと現実に戻ってこられた。

 

「いや、そうじゃねーだろっ!」

「でもこういうのはちゃんと」

「そうじゃねーし! ビョーキじゃねーからっ! 確かに今日あんま食ってねーけど! たまたまだし」

 

 つーか、食えなかったのは元を正せばオマエのせいなんだぞ。

 カワカミと女医の一触即発の危機に涼しい顔して飯が喉をとおるかっつの。

 

「ほんとに大丈夫?」

「おうっ! つかよ、むしろビョーキなのはオメーの方だ。ジョーカー」

 

 クエスチョンマークがあいつの頭の上に浮かぶのが見えた。

 

「オマエの女好きはもはやビョーキだ。だけどそのことに関しちゃワガハイ、もはやなにもいうまい。怪盗たるもの、女心の一つも盗めないとだからな。けれど何事にも限度とかルールっつうものがあんだろ?」

「……」

「カワカミはオマエのために用事してくれてたんだぞ。そこに他の女つれてきていちゃつくとか、さすがに鬼畜すぎるだろ?」

 

 あいつは神妙な顔つきでじーっと聞いていた。

 ワガハイが話し終えるとあいつはぽつりと言った。

 

「そう、かな?」

「そうかな? じゃねーっつの」

「先生が応援してくれてるのは『怪盗団』だから」

「その『怪盗団』はオマエだろ? ジョーカー」

「それはそうなんだけど」

 

 それ以上何も言わないのがあいつらしくて、なんとなく納得しちまいそうになる。

 『怪盗団』だから、か。

 いやいやいや、ここはひとつ、紳士としてワガハイ言わねばならぬのだ。

 

「つってもカワカミもパンクロッカーのねえちゃんも、教師だ医者だとかいってオマエよりもずっと大人だったとしても、だ。オ・ン・ナ、なんだぜ? 世の悪人を改心させる正義の怪盗団のリーダーなのにオマエ、そのうち『改心』させられちまうかもしんねーぜ?」

「『改心』か。させられたらどうなるかな?」

「そりゃ、暴露大会だろ」

「……」

「あーだめだ、考えるだけでオソロシイ……。女はこわいぞ? オマエよく平気でいられるな」

 

 こんな状況で微笑んでいられるなんてやっぱりタダ者じゃねえ。

 カタッと椅子が床を鳴らす音に耳が反応して振り向くと、あいつは立ち上がってどこかに行こうとしていた。

 

「あ、おい! まだ話は終わって……」

「ちょっと待ってて」

 

 そう言い残してあいつは厨房へと入って行った。

 しばらくすると両手に大きな皿を抱えて帰ってきた。このスパイシーかつスイートな香り、片方はカレーだ。

 カレーの皿を自分の前に、もう一方の皿をワガハイの前にあいつは置いた。

 

「お腹、すいちゃったから。一緒にたべよう?」

 

 大きな皿にただ入れただけ。芸術性のかけらすら感じられない、ピンクっぽいやつとか黄色っぽいやつがそこにあった。

 げっ。

 

「なんでワガハイはカリカリなんだ?!」

「普通のもの食べたいのはわかるけど、お腹の調子よくなさそうだから」

「猫じゃねえから!」

「モルガナが病気になったりしたら困るし。カレーは刺激強すぎるから」

「ワガハイがビョーキになったら困るのか?」

「困るよ」

「イセカイではワガハイいないとにっちもさっちもいかねーから?」

「天才か?」

「おおうっ」

「……というのは冗談だ。それもあるけど、困るよ。モルガナにはずっと元気でいてもらわないと」

「そ、そっか」

 

 今のあいつの言葉に嘘がねーことはワガハイにはわかる。どうやらあいつなりに本気でワガハイのことを心配しているらしい。

 そうまでいわれちゃあ、しかたねえなあ。

 あまり気は進まないものの、カリカリを口に頬張る。つーか、こんなもそもそかさかさしたもの、グルメなワガハイには……ニャッニャハッ!!

 

「なんだこれ、今まで食べてたのと違う。思いのほかに奥深いシーフード感……」

「よかった。気に入ってもらえて」

 

 新製品か。あいつ、いつの間にこんなの買ってたんだろ。

 

「なにこれ、案外うま……じゃなくって、食えはする! 一応礼はいっておく!」

 

 そういうとあいつはカレーを食べる手をとめて、めちゃくちゃ嬉しそうな顔で微笑んだ。

 べつに、ワガハイも嬉しくないわけではない。

 でもなんだか癪なので、そっぽを向いてカリカリに集中することにした。するとあいつがぽつりと言った。

 

「さっきの話だけど……先生に甘えすぎなところ、あると思う」

「あ?」

「なんだかんだ、ほとんど毎日お手伝いしてもらってるし」

 

 食べかけのカリカリをごくんと飲み込んで見上げると、あいつは真面目な顔をしていた。

 

「あーまあさ、その件に関してはワガハイもそそのかしてる部分はあるからさあ。今日だって『カワカミに頼むか?』ってワガハイが聞かなきゃあ……」

「でも助かるのは事実だ」

「だなあ。実際洗濯に掃除に大助かりだもんなあ。おかげで怪盗の仕事もはかどってるもんな」

「だからさ。『改心』させられても文句言えないかも」

 

 一瞬ワガハイは返す言葉が見つからなかった。

 まさかそこまで覚悟してたとは。それならワガハイはもう、何も言うまい。

 ……なんて半分以上納得させられかけたところでふと我に返った。

 

「いや、つーかさっ。オマエ結局誰が好きなわけ? カワカミか? パンクねーちゃんか? 占い師か? 将棋のねーちゃんか? それともマコト? 春? もしや杏殿?!」

 

 言っててくらくらしてくる。

 あいつマジで何人彼女いるんだ。不誠実だ。紳士じゃないにもほどがある。

 今日はカワカミとパンクねーちゃんだったが、いつ誰がニアミスして一触即発の危機かわかったもんじゃねえ。

 

「みんな好きだよ」

 

「はあ? みんな、とか一番ダメなやつだろーが。つーかよ、『改心』させられたら、みんな、逃げちまうぜ?」

「それは困った」

 

 余裕に満ちた笑みからは焦燥感の一つも感じられやしねえ。

 マジで全然反省してやがらねえな。

 

「ちったあ真面目に考えろ!」

「考えてるよ」

「ウソだな!」

「考えてるって。仕方がない。みんな好きだ」

「っておい……。オープンすぎんだろその発言」

「だからいつか、そんな日が来ても文句は言えない」

「みんなから総スカン食うぞ。おまけにそのうちお前によってくる女、いなくなるかもよ?」

「モルガナも?」

「ワガハイ?」

「モルガナも見捨てる?」

 

 口調は軽いのに、あいつは真顔だった。

 

「……ワガハイは全部お見通しだし、今更じゃね?」

「そっか。じゃあいいや」

 

 それだけいうとあいつはまたカレーを食べ始めた。

 

「え?」

「モルガナも食べなよ。いつもいってるじゃないか。腹が減っては戦は出来ぬ、だろ?」

「おおう」

 

 あの緊張感。なんだったんだろう。

 ワガハイとしたことが、ついつい甘やかすようなことをいっちまった。

 結局元の木阿弥だ。

 釈然としないものを感じつつカリカリを頬張っているワガハイの隣りであいつはあっというまにカレーを平らげて立ち上がった。

 

「モルガナがいてくれればいいよ」

 

 ボソッとそれだけ言うとその背中は厨房の奥へさっさと消えて行った。   

 そしてワガハイ一人が取り残されて、なぜか胸の奥の柔らかいところがつんとつつかれたような気になった。なんだこれ。

「ふーん。ま、いいけど?」

 とりあえず皿に手を突っ込むと、掴みそこねたカリカリがするっと肉球の間を滑り落ちた。

 

  

 




モルガナがいればそれでいい。
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