視界一面に大きく広がる荒野。
モンスターの咆哮がうるさい。端正に手入れしているケモミミが粟立つ。目の前にいるモンスターはすごく気持ち悪い。丁寧に毛繕いしている尻尾に悪寒が走る。
山羊みたいな角に醜悪な馬面。『フォモール』という名のモンスターだ。
馬面のソイツの首を一刀で切り捨てる。お気に入りの二振りの小太刀は今日も良い切れ味だ。金色がベースで彩られた鞘の方は《
そのとき、一際大きな咆哮が聞こえる。そちらを見ると数匹のフォモールが腕を振り上げてこちらの陣営に攻撃しようとしていた。
「盾ぇ、構えぇーっ!!」
号令と同時に幾つもの衝撃音が
「前衛、
戦場を見渡すと、陣形の中心で指揮をする
「ティオナ、ティオネ!左翼支援急げっ!」
小さな団長、フィンの指示がデコボコ姉妹に向かう。やはりアイツはよく戦場が見えている。こっちとしてはありがたい限りだ。
「あ~んっ、もう体がいくつあっても足りないよーっ!」
「ごちゃごちゃ言ってないで働きなさい!」
彼女らは走り、複数のフォモールを一瞬で倒す。流石は脳筋のボコの方。馬鹿デカい大双刃、《ウルガ》を容易く振り回している。デコの方は我慢の限界が来そうかね?
それにしても数が多い。ちょっと押され気味だ。陣形が少しずつ小さくなっている。
「リヴェリア~ッ、まだぁ~!?」
ボコの方、いや、言いすぎると後が怖い。もといアマゾネス姉妹の妹、ティオナが痺れを切らして叫ぶ。その声の行先、後衛の方から魔法が紡がれていた。
「【――間もなく、
魔法を紡いでいるのは、みんなのおっかさんことリヴェリア。なんでもエルフの王族らしい。
「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」
しっかしリヴェリアの詠唱は長い。それだけに高い殲滅能力のある魔法だけど、いい加減ちまちま首を刈ってるこっちの身にもなってほしい。
「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」
『――オオオオオオオオオオオオオウッ!!』
咆哮の方を見やると、フォモールが前線の一角を吹き飛ばしていた。
「――ベート、穴を埋めろ!」
「チッ、キツネ野郎にやらせろよ!」
おいオオカミ野郎、それはわっちのことか?そいつはできない相談だ。
確かに魔法で一っ飛びできるけど、こっちはこっちで忙しい。なんせ今15匹くらいに囲まれている。ここで離脱したらこの戦況はフィンでも難しくなる。
「レフィーヤ!?」
叫び声がして、フォモールの壁の隙間からエルフっ娘のレフィーヤが鈍器の衝撃波で吹き飛んでいるのが見えた。あれは少しヤバいかもしれない。オオカミ野郎のベートもフォモールの追撃には間に合いそうにない。
魔法を使うか一瞬躊躇って、いるはずのお嬢がどこにいるのか、フォモールの首を
ふいに視線を戻すと、レフィーヤの眼前に立っていたフォモールの体から血飛沫が噴出していた。血霧のカーテンの向こうに見えたのは、今まさに探していたお嬢、アイズ。
「アイズ!」
ティオナが声を上げる。アイズはレフィーヤを見てから、瞬時に動いた。一閃、また一閃と次々にフォモール共を屠っていく。
もうアイツ一人でいいんじゃないかな?
「ちょ、アイズ、待って!?」
うちのお姫様は止まらない。どんどんフォモールの大群へと前進していく。あれはまずいか。何か知らないけど焦ってるみたいだ。
周囲にいた最後のフォモールを斬り伏せて戦場を見渡す。アイズのおかげで崩れていた一角も持ち直し、徐々にだがこちら側が押してきている。今ならあのわんぱくなお嬢様のところに行っても大丈夫だろう。そう考えて魔法を紡ぐ。
「【
わっちの第二の魔法、長短文詠唱で破格の効果、しかし多大な
「【アーラ】!」
唱えた瞬間、金色の長い髪の斜め後ろに
「あ~……だる~……はぁ……アイズ?何を焦ってるのか知らないけど、あんまり無理したら駄目だ。今リヴェリアが詠唱してるし、戦線の維持をするだけでいいぞ?」
「……うん」
うんとは言ってもまだまだアイズは止まりません。フォモールを一撃必殺し続ける。
いつからあの可愛い可愛いアイズたんはこんなモンスター絶対殺すウーマンになってしまっただろうか。いや、今もすっごく可愛いし美人だけども。
「はぁ……昔はわっちのことを『お兄ちゃん』って呼んでくれたのに……育て方を間違えたのかなぁ……」
「……そんな呼び方、してないよ。ふざけている場合なの、
「んなわけないっ」
襲いかかってきた5匹のフォモールを回転斬りでまとめてフォモ/ールにしてやった。
アイズも次から次へとフォモールの上半身と下半身をサヨナラさせている。ワザマエ。
「【汝は業火の化身なり】」
「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」
フォモールを屠っていると後方に膨大な魔力を感じた。そろそろリヴェリアの詠唱が完了する頃合いだ。
「アイズ、朱華、戻りなさい!」
アマゾネス姉妹のデコの方、姉のティオネが叫ぶ。その声に従ってわっちとアイズは陣の中央へ跳躍。おお、眼下の豚共が吠えること吠えること。まあ馬なんですけどね。
「【焼き尽くせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!」
リヴェリアが展開している
「【レア・ラーヴァテイン】!!」
大・炎・上!
魔法が発動した次に瞬間、
灼熱の紅焔に飲み込まれて、数瞬の内に醜い馬面は消え去った。
絵が描ければなあ。