「ん……ふわぁ~~ぁ……よく寝たぁ……」
目が覚めたら丁度日の出前ぐらいの時間だった。顔を洗ったり耳の手入れをしたりしようと思って部屋を出る。それから螺旋階段を下りて洗面所に向かう。
みんなまだ寝静まっているようで、周りに人の気配はない。それもそうか。
毎朝鍛練を行っているお嬢でさえ起きてないし、みんな体を休ませるためにぐっすり眠っているのだろう。
「ま、早起きは三文の徳ってね」
ある神さんから教えてもらった極東の格言が思い浮かび、何かいいことあるかな、なんて思いながら鼻歌交じりに歩いた。
暫くして洗面所に到着し、顔を洗い寝癖を直して耳の手入れをする。これがわっちの一日の始まり。
一通り手入れを終えたらやることがなくなってしまった。二度寝しようにも目は完全に冴えてるし、今日は体を動かすのはダメなので鍛練もなし。
手持無沙汰でフラフラと食堂に向かう。まだ朝食を担当する団員は起きてないっぽい。流石にウン十人分の朝食を作るのは面倒だから料理もパス。
「後2、3時間ってところかな」
朝食まで結構時間が空いてるし、散歩にでも行ってみよう。
一旦部屋に戻ってから普段の装備を整える。それからまた下に戻り館を出て門の方へ向かう。門番も交代制とはいえ夜中にもやるのは大変だよなあ。
「おはようさん。お勤めご苦労であ~る」
「しゅ、朱華さん!?」
「あっ、お、おはようございますっ!?」
門番の二人は驚いたご様子。堅いなあ。
「そんな縮こまらなくてもいいって。ほれ、飴ちゃんあげるよ」
「い、いえ、私達は……」
「いいからいいから。遠慮しなさんなって。年寄りの厚意は素直に受け取っとくもんよ?」
「は、はぁ……」
観念したようで、
「うむ。素直でよろしい!じゃあちょっと外出てくるね~。朝食までには戻るから、誰かに聞かれたら伝えておいてちょーだい」
「はい。承りました」
「ついでにその
「ぜ、善処します……」
「ん~、まあいいか。それじゃよろしく~」
まだ時間はかかりそうだ。
振り返ってバベルの方へ向かう。あちらの方が人も多いだろう。
一直線の道を進んでいくと段々とバベルが大きくなっていく。黄昏の館から半ば程の距離でも結構見上げるくらいに高い。
周りの店はまだ開いていない。今頃開店の準備をしているだろう。
この辺りは服飾店が多く【ロキ・ファミリア】の女性陣はどの店でも常連なんだとか。
ロキと二人でアイズたんにセクシーな服を買ってあげたのもこの辺りの店だ。ロキとわっちが、着てくれなかったら舌を噛み千切るだのバベルの最上階から飛び降りるだの散々言ったところ、アイズたんがなんとか着てくれたというエピソードがあったなぁ。
「何か面白いものないかな~」
ずっと歩き続けていたけれど、特に目につくようなものは見つからず結局バベルの真下まで来てしまった。
「相変わらず高いねぇ……最後にバベルを真下から見上げたのはいつだったかな?」
最強の【ファミリア】と謳われてからずっと、家族と一緒に。それぞれの目的は違えど、もっと下を目指してきた。それは今も変わらない。
「ホントに邪魔が入ったもんだ、あの芋虫共め……」
先の遠征でも悔いがある。突然現れた新種のモンスターの所為で、目的だった到達階層の更新ができなかった。傷を負った奴もいたし、物資の被害は軽いもんじゃあなかった。
「次はしっかりやらんとね」
考え事をしていると、一瞬だけ不意に視線を感じる。全身を舐め尽くすような、それでいてどこか艶めかしい、気色が悪いとも言える視線。こんな風に見てくる奴なんて、わっちは一人、いや一神、しか知らない。
「はぁ……あの淫乱病み女神か」
【ロキ・ファミリア】と並ぶ、オラリオ最強の【ファミリア】の主神、美の女神フレイヤ。神々の間では手癖と男癖が悪いと聞いている。
彼女は気に入った冒険者を次から次へと魅了して、自分の眷属にしてしまうのだ。そういったやり方を続けて、最強の探索系【ファミリア】の一つとなったらしい。ロキに気を付けるように言われて、今では危険人物認定している。
「最優先で警戒するべきなのは別にいるけどねぇ」
【フレイヤ・ファミリア】には、正真正銘オラリオ最強の冒険者がいる。唯一無二のLv.7、【
事を構えるなんてのはまず無いとは思うけど、できれば敵にしたくない人物だ。
「あの神さんは探し物でもしているのかな?」
一瞬だけ視線を感じたことに違和感を覚え、その理由が何処かにあるのかと思って辺りを見回す。
そうすると、見覚えのある姿を目にした。昨日アイズが命を救った、兎を彷彿とさせる白髪の少年。今日もバックパックを背負い支給品の装備をしている。
恐怖で冒険者をやめてしまうなんてことはなくて良かった良かった。
「駆け出しも駆け出しで、成立したばかりの【ファミリア】の冒険者、か」
見たところそんな感じ。ソロでダンジョンに向かっているあたり、指導してくれるような人物がいないのだろう。結構大変なんだなあ。
「頑張れよ、兎の少年」
そう独りごちてから踵を返してホームへと足を進めた。