ロキ・ファミリアに雄狐様を!   作:長月の辺

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第七話

「ひぃっ!?」

「どけえっ!」

 

余所の冒険者に襲いかかっていたミノさんをベートが(すんで)のところで倒した。ギリギリセーフ。ほっと一息。だけどまだ一匹残ってる。

 

今はダンジョンの上層、6階層だ。奇跡みたいに上へ上へと上っていったミノタウロスを追いかけてここまで来た。幸か不幸か、ミノタウロスの犠牲となった者はいない。

 

ミノタウロスを見失ったのか、アイズが焦りを見せる。隠しているのだろうが、わっちにはお見通しだ。体の痛みもあるだろうに、無理をさせてしまってるな。

 

わっちも一回転移を使って待ち伏せしようと思ったんだけど、どういう訳かミノタウロスたちは様々なルートに分かれたので取りこぼしてしまったのだ。

 

「来い、アイズ、朱華!」

 

ベートはミノタウロスの臭いで居場所が分かったようで、わっち達を呼ぶ。

え?わっちは臭いを嗅がないのかって?嫌だよ、臭いもん。

 

ベートに付いて走っていくとミノタウロスの背中が見えた。しかし、ソイツは5階層に繋がる階段を駆け上がっていく。

 

階段を上がった先はルームの中央だ。先程見えていたミノタウロスの姿はなく、かなり静まり返っている。耳くらいは使おうじゃないか。集中だ。

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオッ!!』

「ほぁああああああああああああああっ!?」

 

ミノタウロスの鳴き声と馬鹿みたいな悲鳴が聞こえた。

 

「っ!」

「アイズっ!」

 

わっちやベートよりも先にアイズが飛び出し、声の方に駆け出す。やがてミノタウロスと悲鳴の主は見つかった。

まだ青年にも満たない少年。綿飴みたいに真っ白な髪。涙が滲みかけている瞳の色は、リンゴの熟しすぎて少し痛んだ部分のような深紅(ルベライト)

美味しい食べ物を連想させるその人物は、今まさに生死を懸けた逃走の真っ最中だった。

 

「ド素人じゃねえか!?」

 

ベートの言う通り、少年はギルドの支給品の防具を身に着けていた。動きも滅茶苦茶で、おそらく冒険者になってからまだ一週間とかそこらじゃないのかな?

 

あっ、ヤバい。少年がミノさんの踏みつけを奇跡的に躱して転んでしまった。

 

「――」

 

それを見ていたアイズはこっちのことも気にせずに加速。わっちも走ろうとしたんだけど体痛くて無理だった。情けなさ過ぎて涙ちょちょぎれるわ。おじさんだからもう枯れてるんだけどね。

 

ルームの隅に追い込まれた少年は現実を受け止められていないのか、引きつった笑みとも言えない表情をしていた。ミノさんが腕を振りかぶり、少年が洪水状態の目を見開く。

 

(ああ、アレだ。兎だ)

 

少年の姿が見覚えのある動物と重なった。

 

ミノタウロスが拳を振り下ろす前に、それに追い付いたアイズが剣を閃かせる。

 

「え?」

『ヴォ?』

 

今度は少年だけでなく、牛さんも間の抜けた声を出した。

無数の斬撃に伴って銀色の光が走る。

 

『グブゥ!?ヴゥモオオォォォオオオォ――!?』

 

血飛沫が舞い、ミノタウロスの細切れが出来上がった。

少年が血を浴びて真っ赤なトマトみたいになった。

 

牛さんの血に塗れた兎少年とアイズの目が合う。少年の目はまだ見開かれたままだった。

 

「……大丈夫ですか?」

 

アイズが声を掛けるが、返事が無い。ただの屍、いや、現実を認識できていないようだ。

 

「あの……大丈夫、ですか?」

 

再びアイズが尋ねる。相変わらず少年からの返事が無い。表情すらも変わらない。

その少年の様子に、アイズは困り果ててしまったようだ。困惑するアイズたんも可愛い。

 

面白そうだったので飛び出していきそうになったベートを制止し、少し離れて様子を窺った。

すると、次第に少年の顔がミノタウロスの血の色ではない赤みを帯びてくる。心配になったのか、アイズは少年に手を差し伸べた。

 

「立てますか?」

 

その時、やっと開かれようとしていた少年の口が止まる。アイズの手を、それから顔を見つめる少年。少年は血まみれになっていても分かるほどに全身を紅潮させた。それから。

 

「だっ――」

「だ?」

 

突然、びっくりするくらいの勢いで跳ね起きる少年。

次の瞬間。

 

「だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

駆け出しとは思えない速さで少年は逃げ出した。

 

「……」

 

呆然と立ち尽くすアイズ。ちょっと口を開いて呆けてるのが最近のアイズたんとギャップがあってすごく可愛らしい。この姿を収める機能を持つ魔導具を誰か作ってくれ。何でもするからさ。

 

「……っ、……っっ、……くくっ!」

 

隣にいるベートが腹を抱えて必死に笑いを堪えている。こんなベートは初めて見た。

 

「…………」

 

アイズが頬を赤らめてこちらの方をきっ、と睨みつけた。それはもう、【剣姫】と呼ばれる女剣士ではなく、可愛らしい普通の16歳の美少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

萌え。

 

 

 

様々なことがあったけれど、わっち達の長い長い遠征は、漸くおしまいとなった。

 

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