来てしまった。予想はしていたものの実際に違う空間に飛ばされるとなると驚かずにはいられない。おそらく信長と答えたのだから戦国時代に来たのだろう。
まずここがどこかを確認しなければいけない。辺りにあるのは生い茂る木々だけ。繁茂する木草が自然の力強さを語っている。目の前に水たまりがある。映る自分の顔が僕じゃない。いや奏太じゃないというほうが正しいだろう。顔や身長、服装が全く違う。つまり空間が入れ替わるだけではなく僕の肉体まで変わってしまったのだ。ここで1つ出た疑問は今の自分の肉体はここに存在していたかということだ。ここに住んでいた人間をのっとったのであれば周りの人間にも当然認知されている。そうでなければ突如現れた人間ということになり、周りに怪しまれる。こんな未知の世界ではどうなるか分からない。
「お~い。犬千代~。」
どこからか声がする。人間がいるならば是非会いたいものだ。声が大きくなってくる。近づいてきてるようだ。声の主を見てみると13~15くらいの少年が走ってくるではないか。目が合うとこちらにくる。追いかけられると反射的に逃げてしまう。体が軽い。速く走れる。陸上部だった僕でもこんな整地されていない場所を素早く走るのは無理だろう。おそらくこの体はそうとう鍛えぬかれている。逃げてもまだ「犬千代~犬千代~」とこちらに向かって追いかけてくるではないか。そこでようやく理解した。今の僕は『犬千代』なのだ。止まって彼が追いついてくるのを待つ。
「走る犬千代に勝てるわけないじゃないか。からかわないでくれよ。お館様がお呼びだ。行くぞ。」
よく見るとなかなか強そうな青年ではないか。好印象だ。育ちがいいのだろうか。
「おいどうした。今日の犬千代は変だぞ。急に消えたと思ったらいつも近寄りたがらない。林にいるし。目が合ったと思ったら逃げられるし。本当にどうしたんだよ。」
心配してくれているのか。僕は話しをするような友達がいなかったので当然いつもと違うようなことがあっても誰も心配なんかしてくれなかっただろう。犬千代という青年はいい友をもったものだ。困ったことにこういう時なんと返せばいいか分からない。とりあえず無難に「悪かった。ありがとう。」とだけ答えた。
彼は満足そうに頷き歩き始める。僕もそれについて歩く。
今からたくさんの出来事が僕を苦しめにくるはずだ。最善を尽くすことにしよう。「死を恐れない僕には怖いものなんて限られてくる。」この時までは本気でそう思っていた。甘すぎる僕の考えに活が入れられるのはそう遠くない未来だった。