【前提】
・クルクシェートラの戦いでドゥリーヨダナ・カルナが敗北。
・アディティナンダはただ一人生き残るが、とある事情により弱体化した状態にある。
・宿敵との戦いを望まぬ形で終わらせてしまったために、アルジュナが鬱々していた。
・三男坊の親友は、そんなアルジュナを心配していて、とある特別な
・三男坊の親友は色々なチート技が使える、超チートである。
・長々と書くのは作者がきついので、突然終わる(←かなり重要!!)
小ネタ・ドロドロぐちゃぐちゃルート<出題編>
『――莫迦だ、莫迦だとは思っていたが、お前は本当に莫迦だったのだな』
呆れたように告げた青年の声が、脳裏で木霊する。
あの時、彼の言葉に対して、自分は一体どのように応えを返したのだろう? あまりにも古い記憶、あまりにも些細な記憶であったがために、長い間思い出の奥底で眠っていたので、自分がどのように対応したのかさえ思い出すことができない。
――――ただ、酷く衝撃的な言葉であったことだけは確かだった。
自分の周りには自分を褒め称える者たちばかりで、そして自分もそんな人々の期待に応えるべく最も優秀な者として振る舞い続けていたので、そうした人を貶すような言葉を吐かれたこと自体が滅多になく、だからこそ彼の言葉が印象に残っていたのだろうと思う。
『普段から、模範たれ、理想たれ、と言われ続けて鬱屈する気持ちはよく分かる。だからこそ、そうした言葉ばかり口にするような、喧しい奴らから距離を取りたい気持ちもな』
――かつかつ、と石畳を踏みしめる靴の音が良く響く。
周りには誰もいない。何より、誰も来れないようにしている。ここは自分が望んだ静寂の気配に満ちていて、もはや表情の一部になってしまった柔和な微笑みを浮かべる必要もない。
『お前に期待しない、お前に余計な重荷を押し付けない、そんな相手がいてくれたらさぞかし気楽だろう! 皆の望む理想の勇者である“アルジュナ”ではなく、ただのアルジュナを見てくれる――確かに一度知ってしまえば、狭苦しい愛情という檻の中だけではうんざりしてしまう気持ちもわからんでもない』
長く平坦な石畳の廊下が漸く終わり、特徴としては老朽化が目立つといった点しか思い浮かばない離宮へとたどり着く。蔦が生い茂る木造の扉の前に立ち、一つ目の鍵を錠前に差し込む。
端から見れば、ごっそりと感情の抜けた、仮面のような顔をしていることだろう。
普段の自分の姿を知るものからして見れば、きっと信じがたい表情を浮かべているのだということを彼は自覚している。
『――だがな、我が従兄弟殿。お前のそれはただの勘違いだ。望むだけ時間の無駄、浪費の限りでしかない。一度だけ従兄弟の誼で警告してやるが、お前のそれは不毛だと言い切ってしまえるぐらいには無意味だ』
そんな自分の姿を、その辺の
――何故ならば、皆の望む、理想の英雄である“アルジュナ”は、きっとこのような顔をしないのだから。
そう胸の内で嘯いて、苔むした石造りの階段を、一段一段ゆっくりと昇っていく。
踊り場の奥、古く重々しい鋼鉄作りの扉がそびえ立つようにして備え付けられている。
錠前に二つ目の鍵を差し込めば、重々しい金属音と共に扉が開いた。
『お前を特別にしない相手など、探せばこの世に大勢いるさ。確かに、お前は皆から求められる立場にあるが、だからと言って世界はお前を中心に回っているわけでもない』
唐突に思い出した。
自分の年上の従兄弟が柄でもなく、自分に苦言を呈してきたのは、王国を追われる前だった。
長兄の賭けで自分たち兄弟が何もかもを奪われ、森へと移り住み、苦渋を舐めたあの日々が訪れるよりも少し前――長兄の即位式にやってきた従兄弟が、連夜のように続く宴の席でそう告げたのだ。
『そして、それを理解できぬほどの自惚れ屋でも愚か者でもない筈だ――お前は』
「……ええ、ええ、分かっています。分かっていますとも、ドゥリーヨダナ。貴方は正しく知恵者だった。神々の血を引く我々の誰よりも、余程『人』を理解なされていた」
思い出の中の従兄弟へと返事をしながら、扉の先へと進む。
――あの時は……どうしたのだろう? ああそうだ。突然、わけ知り顔の従兄弟から話しかけられたことで、ただただひたすらに戸惑っていたのだった。
『――そして何より、相手が悪い。アレがお前を特別に扱わなかったのは、もう既に特別な存在がいたというのが最大の理由であることなど、とっくに解っている事実だろう?』
「……それでも。本当にいるかどうかも分からぬ別の誰かを延々と探し求めるより、確実な手段を用いることは、果たして間違いだったのでしょうか?」
森での雌伏の日々。天界での修行の日々。そして、連日のように続いた戦争中。
いついかなる時もどこであったとしても、“アルジュナ”は特別な存在として扱われ、敬われ、そして期待され続けたのだ。
“アルジュナ”が何かを求めれば、否、何も求めていなかったとしても、皆が喜んで、彼らの持ちうる最上の物を差し出した。
どこに行っても“アルジュナ”は何かを授かった。
それは彼の行いに対する報酬であり、求められる成果に対する必要な品であり、何よりも人々の純然たる好意の現れとして、あらゆるものが彼に恩恵という形で降り注いだのだ。
千里を駆ける駿馬に、神々によって造られた至高の武器、秘伝の術技や賞賛の声や名誉と栄光、そして――――
『――諦めろ。そして、一刻も早く勘違いを修正してしまうのが一番だ。お前はビーマと違って、俺の弟たちを傷つけたりなどしなかったからな、一度だけ、このドゥリーヨダナが忠告を贈ってやる』
高位の聖仙の手による
こればかりは扉を開ける鍵など必要ない――ただ、所有者である自分がその場に立つだけで、扉は自分を認識し、ゆっくりと開かれる。
――扉の先、何重にも薄衣の目隠しがなされた部屋の奥。
こちらに背を向いた状態で、座している人影がある。微かな衣擦れの音も立てぬように慎重に進めば、その人影が物悲しげな音色の弦楽器を爪弾きながら、静かに唄っているのだと分かる。
……何の変哲も無い、ただの童謡だ。
けれども、あまりにも愛おしそうに甘やかな声で奏でられる旋律の見事さに、自然と表情が柔らかなものへとなっていくのを自覚する。
『――アレは、カルナの家族だ。兄なのか姉なのか、父なのか母なのか、正直なところはこのわたしにもよく分からん。ただ……どちらにせよ、
……弦を鳴らす手の動きが止まる。
スルスルと衣擦れの音に合わせて、人影がこちらを振り向く。コトリ、と膝の上に置かれていた弦楽器が床の上へと移された音がした。
「――誰だ?」
訝しげな表情を浮かべ、警戒するように身構える
思わず出てきてしまいそうな笑声をぐっと堪えて、今度はわざと音を立てながら、その側に膝をつく。
びくり、と震える、蜂蜜色の花の茎のように細い手の甲に、自分の掌をそっと重ねる。
――途端、安心したように肩の力を抜いた彼女の姿は、普段よりも幼く見えて、あまりにも微笑ましかった。
「嗚呼、なんだお前か。……全く、いつも言っているだろう? 部屋に入る時は物音を立ててくれないと困るって」
「――済みません。……ですが、歌を止めさせるのも忍びなく……次は気をつけます」
「――是非ともそうしてくれ。俺の精神の安定のためにもな」
やれやれ、と大仰な仕草で溜め息を吐く彼女の、豪奢な赤金を帯びた金色の髪を、ゆっくりと搔き分ける。
『――だからこそ、お前自身よく解っていないような不穏な感情の矛先にするのは、もう辞めろ』
掻き分けた先にある、
……この場に目撃者となりうるものがどこにもいなくて、本当に良かった。
さぞかし今の自分は歪んだ嗤い顔を浮かべていると自覚しているだけに、
「それにしても、今回は早かったな。ひょっとして、また無茶な真似をしたのか?」
「いいえ。単に相手の力量が私に及んでいなかったというだけです」
「相変わらず、嫌味な言い方だなぁ……」
「――――ですが、事実でしょう?」
クスクスと嗤いながら、そう答えれば、目の前の唇がへの字に歪む。
瞳を自分の方へと向けながら、眉根を下げて不快感を表している彼女を揶揄うように言葉を紡げば、さらに眉間の間の皺が険しくなる。
「お前の実力のほどは充分解っているさ! でも、心配なものは心配なんだ。怪我したらどうしようとか、油断していた隙を突かれてぐっさりやられてしまったらどうしよう、とか」
「――ですが、相手は最高の戦士である私ですよ?」
……ゆっくりと相手の手を取って、立ち上がる。
自分の引かれるままに進み、全てを委ね切っているその姿を眺めて、胸の奥底でなんとも形容しがたい感情が渦を巻いた。
「阿呆! それとこれとは別問題!! 頭では解っていても、お前がこうやって元気な声を聞かせてくれるまで、こっちは心配で気が気じゃないんだから!」
「そう、ですね……。貴女は、私ならばできて当然と褒め称えるよりも先に、こうして私の怪我を確認し、私の無事を喜んでくれるのですね……」
「――? お前は、変なことを言うなぁ」
キョトンとした顔でこちらを見つめている彼女の掌をそっと掬い上げる。
ほっそりとした彼女の手の甲を自分の頰に押し当て、ゆっくりと瞼を伏せ、彼女の次の言葉を待った。
「何度も言っているじゃないか。お前が武勲を立てたり、出世したりするよりも、こうして無事に帰ってきてくれた時の方が嬉しいって。――当たり前だろう?」
「……当たり前、ですか?」
「そりゃそうだ、だって――――」
ふわり、と咲き始めの蕾を思わせるような、そんな優しく柔らかな微笑みが向けられる。
華奢で繊細な容姿にはそぐわない、威勢の良い声が、高らかにその言葉を謳い上げる。
「
――ぐるぐると胸の奥で何かが大蛇のように蜷局を巻いている。
それがゆっくりと鎌首をもたげようとしているのを必死に宥めて、できるだけ淡々と感謝の言葉を述べた。
「……ええ、そうですね。
「……なんだか、あまり謝意の伝わらない返事だなぁ。俺に対する尊敬の念とか、どこに行ったんだ?」
「失礼な。敬愛しておりますよ、姉上。ただ、貴女に対して遠慮をしているのもどうかと思い、少しばかり粗雑な対応をしているのも事実ですが」
「何それひどい!?」
衝撃を隠せない様子の彼女の姿に思わず笑声を上げてしまえば、涙目で睨みつけてくる。
――
*
*
*
『……そんな感情、とっとと捨ててしまえ。そんな感情を向けられたところで、アレは困惑するだけだし、何より報われない以上――お前にとっても救いがないぞ』
――――記憶の中の誰かの声は、最後にそれだけを残して風化していってしまった。
一応、過去に《出題編(本作)》《解答編》まで公開して、ストックに《正答編》まである。
ある……んだけどクソデカ感情で殺し合って欲しいという性癖が災いした結果、ドロドロぐちゃぐちゃルートにふさわしい誰にも救われない話になっているのでUPするのは《解答編》までにしようと思っておりまする。