もしも、カルナさんが家族に恵まれていたら   作:半月

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没ルート 記憶喪失編・1

『――――……い』

 

 やけに乱暴にというか、乱雑に揺さぶられる。

 

『――……おい。しっかりせんか』

 

 いやいや、揺さぶられるなんて、生易しいものじゃ無い。

 ゆさゆさ、というよりも、わしゃわしゃ、どさどさ、という感じである。

 

 いつぞや、どこかで誰かが怪我人であることを理由に丁重に扱え! とがなりたてて居たが、その時の『彼』の心情も似たような感じだったのだろう。

 

 ――ん? 彼って誰だろう?

 唐突に、そんな疑問が脳裏に浮かび上がってくる。

 

 あの子にも匹敵するほど、とても大事な人。掛け替えのない存在であったのは間違いない。

 ――だけど、それが該当する個体名/人物名が全く思い出せない――これは、それは……一体……

 

「――れ以上、予の手を煩わすでない!! とっとと、目覚めんか、戯け!!」

「ひょわっ!? なになに、敵襲!?」

 

 ごすっ! と勢いよく、頭蓋に該当する部位に、拳と思しき硬いものが激突する。

 あまりの衝撃に、それまでの疑問も不安も総てが掻き消されて、そうして、勢いのまま飛び起きた。

 

「あれ?」

 

 ――その瞬間、奇妙な違和感に襲われた、よ、うな……。

 端的にあれば、それまで霞のように曖昧だった肉体というものが、その瞬間にしっかとした実体を持って、認知してしまった、とても称すべき、そん、な……あれ? あれれ?

 

 とか、そんなことを脳裏の片隅で考え込んだが、それも刹那のこと。

 目の前に広がっている光景に、目と口をこれでもかと見開いて、惚けるしかなかった。

 

「――ようやく、目を覚ましよったか」

「こ、ここは……。それに、あなたは……」

 

 視界に飛び込んできたのは、簡素な腰布を纏っただけの青年であった。

 ハリのある小麦色の日に焼けた肌に、ツヤを帯びた赤褐色の長髪。

 猛獣を連想させるしなやかな肉体には綺麗に筋肉がつき、隙のない所作は彼が一角以上の戦士であることを言外に語っている。

 

 何よりも印象的なのは、赤瑪瑙を思わせる双眸に浮かんでいる老成した者特有の知恵の輝き。

 年若い青年にはふさわしくないそれは、溌剌とした年頃の彼をまるで森の奥に隠遁する老賢者のようにも見せていた。

 

 けれども、困った。

 ここまで特異な印象を受ける青年であるというのにも関わらず、覚えがない。

 

 それこそ、見慣れない青年だ、としか語りようがないし、評しようもない。

 おまけに、青年の背景となっている荒野にも心当たりがなく、こちらの警戒心も自然と引き上げられる。

 

「――そう、睨むな。

 自爆覚悟であれだけのことをされた後だ、流石の予もいささか気が削がれた」

 

 やや億劫そうに語られた言葉に、少し、警戒心を解く。

 正体は全くもって不明だが、少なくとも、直ちに俺に襲いかかって命を奪おうとする気はないようだ。

 

 であれば、今の俺に必要なのは現状把握なのだろうよ――そこで、現在地が判明するような手がかりが何かないかと周囲を見渡して、絶句した。

 

「あの、その……」

「ん? なんだ?」

「つかぬ事をお伺いしますが――ここに、隕石でも落ちてきたんですかね?」

 

 直線上に抉れた大地に、チリチリと地面を舐める熾火、灰と異臭が漂う大気。

 樹齢何百年もありそうな大樹が炭化し、土塊でできた土砂が何重にも畝を作っている。

 むしろ、先ほどまでなぜ気づかなかったのか、と言わんばかりの惨状に、ますます混乱が深まる。

 

 ……というか、荒野だと思って居たが、そうではないようだ。

 

 むしろ、ここは元々は森か密林の類だったのだろう。

 それがなんらかの要因により、現在の荒野状態になっているとでも言った方が、正しいのではないだろうか。

 

「――待て。爾、今、なんと言った?」

「ええと、隕石でも落ちてきたのか……と」

 

 眼光鋭く睨みつけてきた青年の気迫に押され、縮こまって返事をする。

 そうすると、ますます青年の表情が険しくなった。

 

 ひえええ、なんだかよくわかんないけど、何がどうなってるの……!

 

「まさか、爾……」

 

 非常におどろおどろしい、さながら亡者のような呻き声が青年の口から漏れる。

 

 よくよく見れば、彫刻の様に際立った体躯に、凛々しい顔つきの青年である。

 露出している上半身を観察する限り、よく鍛えられていることが一目瞭然である――ひょっとしたら、さぞかし高名な戦士(クシャトリヤ)なのかもしれない。

 

 とはいえ、そんな青年の口から死の国の死神も真っ青な声を浴びせかけられてみろ。

 なんら悪いことをした覚えがなくても平身低頭して、許しを請いたくなる。

 

「覚えておらんのか? ここにはかつて、緑豊かな森があった――それが……」

 

 チラリ、と赤瑪瑙の双眸が大地を見やる。

 無残に焼き尽くされ、命の気配が全くない焦土を目にして、大きな溜息を吐いた。

 

「爾と予の二人が吹っ飛んできたせいで、この惨状だ。覚えがないなどと言わせんぞ」

「吹っ飛んできた!! ――俺とあなたが!?」

 

 何それ!? こちとら全然覚えがないんですけど……っ! と口に出しかけて、慌てて口を閉ざす。

 

 俄かには信じ難くある話だが、青年の真剣極まりない表情を見るからに、嘘ではなさそうだ。

 

 それに、どうせ嘘をつくならば、こんな突拍子もないことではなく、もっとまともな、簡単に信じられそうな内容にするだろう――であるからには、彼の言っていることは嘘偽りのない真実だと思ってもいいだろう。

 

「先ほどからの珍妙な態度といい、爾はよもや……」

 

 目を白黒されている俺を見てどう思ったのか、青年が節くれだった手を伸ばす。

 どうやら、素手で戦うというよりも、武具を使って戦うことを好む相手のようだ。

 ちらりと確認できた掌に浮かんでいる、幾つもの肉刺や弓の弦が原因でできる肩の擦過傷がその証とも言える。

 

 ――すい、と顎を掬い上げられ、深い叡智を宿した赤瑪瑙の瞳が覗き込んでくる。

 

 魂の奥の奥まで、俺という存在を無遠慮に暴き立て様とする眼差しに、知らず識らずのうちに眉間に皺が寄って居たらしい。

 

 くつくつと喉を鳴らしながら、青年は手を離してくれた。

 

「――なるほど、そういうことか」

「あの、何がそういうことなのか、教えてくれませんか」

 

 自分一人だけ納得している青年相手に、自分でも吃驚するほど不快感を感じて、刺々しい声が出る。

 こちらが不機嫌になっていることを察して居ないわけでもない癖に、青年は愉快そうに、たっぷりとした赤褐色の頭髪を掻き上げては思わしげに俺の方を流し見るだけだ。

 

「ここまで歪に捩じくれてしまったモノを見たのは、予も初めてだ。

 よくもまァ、ここまで己に枷を科し、タチの悪い呪いを溜め込んだものよ――いっそのこと、礼賛してやるのが花というもの」

「……あのですね、答える気がないのなら、それはそれで結構です」

 

 たっぷりとした腰布をまとった片膝に肘を乗せ、愉快そうに青年は失笑する。

 揶揄する様に、憐れむ様に奏でられる笑声に、なぜだか無性に腹が立って、その場から立ち上がる。

 

 もういいや。

 こういう自分だけ全部知って居ます、とでもいうべき相手が素直に答えてくれるわけがない。

 それに、そういう奴は総じて性格が悪いと相場が決まってるというものだ。

 

 そう、それこそ、あの月夜の晩の男の様に――――

 

「――おや。どこに行くというのだ?」

「……帰ります。ここに居てもしょうがないので」

 

 太陽の位置と影の長さから計算して、自分がどこにいるのか、を目算する。

 目を眇めれば、遠くに山脈があり、雪を冠った霊峰・ヒマラーヤの姿を目視することができる。 

 

 となれば、ここは、マツヤ王国の辺だろうか……?

 まあ、いずれにせよ、早く帰らなければならない。……()()()()

 

 ――でも、どこへ? ……どこに、帰る、いや、帰れるというのだろう。

 

 脳裏でバーラタの地図を広げている俺の思考を遮る様に、妙に威厳に満ちた声が響いた。

 

「再度問おうか――どこに行くというのだ?」

「……あなたには関係のないことでしょう。他にも何かあるのですか?」

 

 本当に、外見と口調に齟齬がある相手だ。

 見た目は非常に若々しい青年の姿をしているというのに、こうして会話をしていると、非常に年老いた老人を相手にしている様な、そんなちぐはぐさを感じずにはいられない。

 

 それに、己の発した質問には第三者が必ず答えるだろうという奇妙な確信めいた言動や素振りからして、非常に高位の階級に属するものであることは間違いない。

 ――であれば、ただの戦士というよりも王族の戦士、なのかもしれない。……祭祀階級は、ないな。こんな武闘派なバラモンがいてたまるか。

 

「……行くべき場所も、戻るべき場所もわからないというのに、か?」

 

 ピタリ、と進めようとしていた足が止まる。

 思わず振り返ってみれば、口元だけが微笑んでいる歪な表情を浮かべた青年の姿が、視界に飛び込んでくる。

 

「あなた、一体……!?」

「――さて。三度、問うことにしよう。……爾、己の名を思い出せるか?」

 

 そんなの当たり前だろう! と怒鳴ろうとして、その瞬間、凍りついた。

 

「ほれ? どうした?」

「…………あ」

 

 こちらの反応を楽しむ様に、愉悦を帯びた眼差しで見やる青年。

 狼狽する俺の姿に、嘲笑のようにも見えるその笑みが、ますます深まっていく。

 

「お、俺の名前は……俺は……」

 

 どうしよう。どうしたらいいのだろう?

 頭がズキズキと痛み、グラグラと世界が揺れ惑う――嗚呼、なんということ!

 

 俺は、私は、自分は――――()()()()()()()()()()()()()

 

 途方にくれた感情に襲われ、全身から力が抜け、その場に崩れ落ちた。

 そのまま大地に突っ伏しそうになった俺の耳に、青年の囁きが嫌が応にも忍び込んでくる。

 

「――まァ、それも致し方あるまいよ。

 何せ、かの破壊神さえ傷つけた斧で、爾を殴りつけてしまったが故にな」

「――……つまり?」

 

 勿体ぶった物言いに反感を覚えて、青年を睨みつければ、莞爾とした顔がある。

 そうして、青年は愉快そうに失笑すると、ちっとも悪びれていない表情で軽快に嘯いた。

 

「――なァに、軽い記憶喪失という奴だろうよ。そう、悲観することはなかろうて」

「あんたの仕業か、この野郎!」

 

 思わず絶叫した俺は悪くないはずだ。

 謎の青年は堪えきれないと言わんばかりに笑声を蒼天へと響かせたのであった。

 

 

 ひとしきり笑い転げた後、謎の青年は己のことを「(パラシュ)」と名乗った。

 どっかで聞き覚えがありそうで、その実、ない名前である。

 

 でもなー、どこかで聞いたような気がするんだよなぁ……。まあ、記憶喪失の身の上が何をいうんだって、どこかの誰かさんからツッコミが入りそうだ。ん? 誰かさんとは誰のことだ??

 

 正直、自分自身のことはさっぱりだ。

 が、おそらくとはいえ、記憶を失う前の俺との間にさほど交流があったとも思えない。

 

 パラシュはやや意地悪ではあったが、親切であった。

 自分自身のことすら漂白してしまった俺に対して、懇切丁寧に現状を説明してくれた。そのおかげで、なんとか俺は冷静であれたとも言える。

 

「爾、己が人間ではないことは理解しておるか?」

「――まあ、そうとしか思えないよなぁ」

 

 共に荒野になってしまった大地を歩きながら語られた、パラシュの言葉に不承不承に頷く。

 

 一昼夜休みなく歩き続けていたが、俺の体に疲労の類の感情はない。

 それに、吹っ飛ばされてきたという割には、俺の体には傷一つないから、人外であるかはともかくとして、なんらかの加護を持っていることは疑いようがないだろう。

 

 疲れを感じていないというのは、パラシュも同様だろうが、なんというか目の前の彼は人間として規格外の立ち位置に置かれていそうだし、彼に人間の参考として捉えて、常識を当てはめるのはやめておこう。

 

「……ふむ。肉と血、それに魂によって構成されておる人とは違い、爾は己の本性を隠し通すために人の皮を被っておる状態だ。そのために、幾重にも難解な術を用いておるのだが……」

 

 ――それが、とパラシュは嘆息した。

 

「爾を人たらしめておる術の一部が誤作動を起こしておる。

 爾が己自身のことを、その名前すらも思い起こせぬのも、そのせいだろうて」

 

 すい、と印象的な赤瑪瑙の瞳に不安そうな表情を浮かべた俺の顔が映る。

 我ながら情けなさすぎる顔をしている俺を哀れに思ったのか、再びため息をついたパラシュは、ゆるゆると言葉を続けた。

 

「――とはいえ、そう時間はかかるまい。ひとところに落ち着き、傷を癒せ。さすれば――」

「それじゃあ、困る! だって、俺は、こんなとこにはいられない!」

 

 とはいえ、不安を押さえつけられていたのも、この辺までだった。

 

 この際、自分自身のことが思い出せないのは致し方ないと割り切れる。

 だけど、帰るべき場所/戻るべき場所が思い出せないのだけは――如何してだが、どうしようもなく、割り切れなかった。

 

「――だって! だって、俺は “あの子” のためにここにいる!!

 それなのに、そうだというのに! あの子が誰なのか、どこにいるのかもわからないまま、この状態で安穏とい続けろっていうの!?」

 

 焦燥感に駆られて叫んだ俺に、青年はじっとその印象的な双眸を眇める。

 深淵の奥の奥まで見透かしてしまいそうな、そんな冷徹さを宿した眼差しだ。それを、あの子のものとよく似ている、と感じて、その “あの子”が誰なのか思い出せずに、絶望したくなる。

 

 思わず膝をつきそうになったのを、必死にこらえた。

 

 こんなところで足を止めるわけにはいかない。“あの子”の名前は思い出せないけど、それでも、細やかな特徴は徐々に思い起こせる様になってきた。

 

 ――口数の少ない、寡黙な性格の子だった。

 ――滅多に荒ぶることのない、穏やかな性格の子だった。

 ――交わることができずとも、人々の営みの光景を尊ぶ子だった。

 

 嗚呼、思い出せる。思い出すことができる。

 俺はあの子のために地上にいて、あの子のために天より訪れた。

 あの子が健やかである様に、あの子が伸びやかである様に、あの子が幸せである様に。

 近くから、遠くから、その姿を見守ってきたのが、俺だった。

 

 それなのに、どうして、あの子の名前すらも思い起こせない。

 どんな武器で殴られたにせよ、自分自身よりも大切に思っていた相手のことを忘れてしまったなんて。

 

 嗚呼、それは――――なんて、無様。

 

 唇をかみしめて、拳を握り締める俺を見てどう思ったのか。

 赤瑪瑙の双眸をふと緩めて、パラシュが慰める様に、言葉を紡いだ。

 

「――まァ、そう、落ち込むな。

 そもそも、ルドラの斧で殴られておいて、その程度で済むことは僥倖といえよう――なにせ」

 

 青年の節くれだった掌が虚空で何かを掴む様な仕草を見せる。

 その瞬間、空っぽだった筈の彼の掌に、成人男性の身の丈ほどもある長大な斧が顕現した。

 

 ――まず、目を惹きつけられたのは、武器とも思えぬその美しさ。

 さながら、最高級の翡翠を削り出して、名工の手によって極限にまで磨き上げられた斧。

 

 宝玉の繊細さを帯びておきながら、その繊細さと相反する暴力性が宿っている。

 緑色の光が明滅する刃の部分には、逆巻く波濤と荒れ狂う暴風を封じ込められているようだ。

 

 ――まず間違いなく、これは人の手で作り上げられたものではない。

 なにせ、荒々しいまでの美しさの中に、ぞっとするほど強大なモノの存在、否、気配が色濃く根付いている。

 

 ――それこそ、天地創造の神として崇められている梵天にも匹敵する、絶大な力を誇る破壊神の……とまで思い至って、戦慄を覚えた。

 

「…………あの、俺、確かにこれに殴りつけられたんです、よね?」

「あァ。いっそ惚れ惚れするほどの殴られ様だったぞ?」

「…………」

 

 ――……そりゃあ、記憶の一部が吹っ飛んでも致し方ないよなぁ。

 

 というよりも、パラシュが言う様に、記憶の一部や術式の混乱だけで済んで、良かったと言うべきだろう――己の強運っぷりに感謝するしかない。

 

「記憶の一つや二つで嘆くな。そもそも、五体が無事に残っていることに感謝しておくことだ」

「ソ ウ デ ス ネ」

 

 まァ、予も本気で殺すつもりがなかったからなァ……と呟いていた様だが、そればかりは聞かなかったことにしておこう。

 どんな経緯があったかは知らないが、本気で振るわれた一撃だったら、確実に五体が四散していたのは間違い無いだろう。

 

 と言うより、残骸も残らないほど、木っ端微塵になっていた可能性の方が高いのだが。

 

 ――本当に、俺ってば、一体何をしでかしたんだろう?

 

 目の前で、翡翠の斧が空にかき消える。

 無手になった手を軽く振ったパラシュが、出来の悪い生徒を見る目で俺の方を見遣った。

 

「爾の体……というよりも器だが……、爾自身が想定する以上に損傷を受けておる。

 そんな体で無理に活動したところで、自滅するのがオチよ。であれば、適当なところで身を休め、損傷した箇所の回復に努めるのがもっとも効率よく無難な道であると知れ」

「……はい」

 

 焦燥に駆られた俺を嗜める様に告げられた言葉に、反論を全て封じられてしまった。

 それにしても、見た目の派手さとは裏腹に、懇々と諭してくるパラシュは、まるで教師の様だ。

 最初こそ、意地悪な物言いではあったが、なんだかんだで世話を焼いてくれているし、意外と面倒見の良い性格なんだなぁ。

 

「――どうした? やけに素直になったな?」

「言われてみれば、その通りだ――と、思っただけ。それにしても、パラシュって……」

 

 傲岸な物言いでこちらを見下ろしてくる青年に、ちょっと小首をかしげる。

 別に他意があった訳でも無いが、なぜだか、その言葉はポロリと己の口より零れ落ちた。

 

「……師匠みたいだなぁ、と思っただけだよ」

「――ふん! 爾に指摘されるまでもなく、予に教えを請う者は大勢おるわ」

 

 見目は若々しい癖に、年老いた老戦士の様なことを語る彼の姿に、小さく微笑んだ。

 彼が見た目通りの年齢では無いことは薄々察せずにはいられなかったが、それでも、外見に相反する振る舞いが何故だか微笑ましかったのだ。

 

 ……それにしても、彼奴に比べると、随分と――人らしいなぁ。

 

 脳裏をよぎったのは、記憶の断片。

 神像のように静謐で、神々しい雰囲気の男が一人、月夜の下に佇んでいる。

 ふわり、と記憶の底から漂ってきた、濃厚な蓮華の香りが鼻腔を擽った。

 

 泡沫の様に浮かび上がったそれに、あれ? と内心で首をかしげる。

 

 ――――先ほどの俺は、一体誰とパラシュを比較したのだろうか?

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