「…………なぁ、覚えとらんと?」
「うん」
「ほんとに?」
「ほんとに」
そう私はりんちゃんの質問に答えて、売店の自販機で買った140円の炭酸水(れもん味)を口にした。
うん、今日も変わらない強めの炭酸が心地よい。
りんちゃんは不思議なモノを見る目で私を見ているが、気にしない。
「…………だって一夏、昨日は自分の机もロッカーも忘れとったとよ?
髪も結んどらんと、ボサボサやったし。
制服のリボンも忘れて、しかも時々外国語で話しよるし。」
りんちゃんはそう言って、ため息を吐きながら自作したのだろうハムエッグのサンドイッチを一口かじった。
りんちゃんの隣を見れば、昼飯に一切手をつけず雑誌を夢中で読んでいるダンがいる。
「そんな事言われてもなぁ。」
私はりんちゃんの言う姿を想像してみた。
髪はボサボサ、制服はきちんと着こなしておらず、自分の机もロッカーもわからない時々外国語を話す私…………
「…………うわぁ」
自分で想像しておいてなんだけど、正直許容範囲外の不気味さだった。
「なんか、昨日の一夏はまるで記憶喪失みたいやったよ。」
私はりんちゃんの言葉を聞いて、慌てて昨日の出来事を思い出そうと頭をフル回転させた。
だけど、まるで靄がかかった様にはっきりと思い出せない…………
けど、所々思い出せる所がいくつかあった。
知らない街に知らない部屋、
鏡に写った…………金髪の女の人?
「なんか…………ずっと変な夢を見てた気がすると…………違う人の人生の夢?みたいな、
よく分かんない。」
そう言って改めて思い出そうとしても…………だめ、やっぱり靄がかかったみたいに思い出せない。
「わかった!」
唐突に、ダンが大声を出して座っていた机から飛び降りた。
私はつい、ダンの大声にビックリして体を飛び上がらせてしまった。
それを見てりんちゃんはダンを睨むが、当のダンは何処吹く風よとてに持っていた『ムー』というのはオカルト雑誌を私達の前に広げて見せた。
「それはいわゆる前世の記憶ってやつや!
科学的に言えば、この雑誌にも書いてあるエヴェレートなんちゃらによるまるちばーす?に意識を接続したという…………」
「ハイハイ、あんたはせからしかけん黙っとき。」
りんちゃんが呆れた様に、ダンのオカルト話しをぶった切った。
問答無用のりんちゃんに、ダンはむぅぅぅと唸りつつもショボくれた様に元の机に座った。
あ、そういえば!
「二人やろ!私のノートに落書きしたん!」
「「落書き?」」
「いや…………やっぱりなんでもなかよ。」
二人が聞き返して、私は先ほどの言葉を取り消した。
そもそも、りんちゃんもダンもそんなつまらないイタズラをするような性格ではないし、むしろ普段からイタズラを止めているタイプの人達だ。
それに、りんちゃんにもダンにも、私にイタズラをする動機なんてないわけだし。
二人とも納得できないような目で見てきたが、
ほんとになんでもないからと私は否定を続けた。
「ほんとに一夏大丈夫?
やっぱり調子悪いんじゃないと?」
りんちゃんがまた心配そうに聞いてきた❗
「おかしいなぁ…………私は全然絶好調なんだけどなぁ。」
「それに、今夜なんでしょ?
あの儀式。
やっぱりそのせいなんじゃないと?」
「りんちゃん思い出させんといてぇ!」
正直、あの儀式は思春期の子供には恥ずかしすぎる。
つい、私は膝に顔をうづめてしまう。
「もういややぁ…………私東京に引っ越したいわぁ……」
わかる、よぉぉぉくわかるよ。
と、りんちゃんが頷いてくれた。
りんちゃんはお父さんが町の町長さんだからやっぱり色々とあるみたい。
色々と…………
(ほんとに東京に住みたい…………)
私は心の中でそう呟いた。
せからしか(うるさい)
初めて方言だと最近気づきました。
たぶん案外知らずにまだ使ってるのかもしれないです……