一人の少年の話をしよう。
そいつは……正義の味方を目指していた。
顔も知らない誰かの為に子供時代を投げ捨て、顔も知らない誰かの為に家族との時間を捨てた。
一人の弓兵の話をしよう。
そいつは……正義の味方にならなくてはいけなかった。
顔も知らない誰かの為に己の青春を投げ捨て、顔も知らない誰かの為に身内すら手にかけた。
少年はいつしか多くの親友に囲まれていた。
弓兵はいつしか多くの親友を喪っていた。
少年は助けを求めて親友達と手を取り合う道を選んだからだ。
弓兵は助けを求めず親友達を遠ざける道を選んだからだ。
少年は多くは救えなかったのかもしれない。
弓兵は多くを救えたのかもしれない。
それでも少年は多くの人から祝福されて……
それでも弓兵は多くの人から増悪されて……
ならば、少年は確かに人を救えていたのだろう。
ならば、弓兵はけして人を救えはしなかったのだ。
少年は多くの笑顔を護れたのだから。
弓兵は多くの悲しみを作ったのだから。
少年は英霊へと至り。
弓兵は守護者へと至り。
こう思いました。
僕【俺】の人生は完璧ではなかった。
それでも……僕【俺】は最後まで理想を貫けた。
それは、本当に気まぐれとも言えた。
久し振りにとった有休、久し振りに得た自由な時間。
独身である僕にとっては何をして良いのやら困るような長い休み。
頭を何度も捻った結果、考えついたのは古い親友達の発足させた部隊への視察。
「それにしても、クロノくんも人が悪いよ。突然報告も無くてくるんだもん。スタッフの皆慌ててたよ」
「それは悪い事をしたかな?ボクの事はそこまで気にしなくても良いのだが」
「そうはいかないよ。だってクロノくんとあの人は 時空世界を救った英雄さん なんだよ」
なのはの言葉に心が凍った。
時空世界を救った英雄。ああ、確かにボクと彼は世界を救えたのだろう。だが、その代償は……
「……クロノくんはまだ…背負ってるの?」
「解らない。でも、ボクはあの日以来……」
そこで言葉を止めた。
なのはにその事を話必要はないんだ。これは……ボクのボクだけの荷物だから。
クロノ・ハラオウンの人生は十年前のあの事件から定められている【呪われている】。
クロノ・ハラオウンが兄と慕った彼が……亡くなったあの日から。
彼の理想を継ぐと決めた。幸せを全て捨て去ると誓った。
クロノ・ハラオウンに安らぎは無用だと斬り捨てた。
休みを取るのはあくまで身体と心のメンテナンスの為。身体が動く限り、心が屈しない限り……クロノ・ハラオウンに平穏は要らないのだ。
「……クロノくん。忘れないで。クロノくんは1人じゃ無いんだよ」
「ああ、知ってるさ。だから…」
「嘘だよ!だって、今のクロノくんは!!」
アーチャーさんと同じ生き方をしてるんだよ。
なのはの叫びが辺りに響いた。
昔話をしようと思う。
クロノ・ハラオウンの生涯が変わったある事件の前座の物語を。
歯車が確かに狂い始めた小さな事件を。
聖杯事件 なのは達と出逢う三年前。
ボクは赤い弓兵と契約した。