バカと恋と何気ない日常   作:バンっち

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第1問 僕と弁当と昼休み

キーンコーンカーンコーン

 

授業の終わりを告げるチャイムの音色が、教室に響き渡った。

 

午前の授業は全て終わり、今から昼休みが始まる。

持参したお弁当を取り出したり、購買部でパン等を買ったりして昼ごはんを用意し、親しい人たちと話をしながら昼食の時間を過ごす。

そのような至って普通の光景が繰り広げられる中、僕は自分の机の上に突っ伏していた。

 

 

「お腹すいたなぁ……」

 

1週間前に姉さんが海外に飛び立ってからというもの、僕の生活はすっかり元の清貧生活に戻っていた。

要するにゲームや漫画の購入のための費用を確保するために、食費を削るという生活だ。

新作のゲームを買うことができるようになるのはいいんだけど、やっぱり空腹と戦うことは辛いものがある。

 

とにかく生活に余裕はまったくないため、昼食は水と塩で乗り切らなければならない。

とりあえず昼休みになったから、空腹を満たすために水道水を飲みにいこう。

 

席から立ち上がろうとした、そのとき……

 

 

「お前また空腹で倒れてるのか。毎度懲りない奴だな」

 

雄二が僕の元に近づいてきた。

それにしても、この男は空腹に苦しんでいる人を目の前にして心配する一言をかけることすらできないのか。

前から思っていたけれど、やっぱり血も涙もない男だ。

 

 

「お前、何か余計なことを考えなかったか?」

「い、いや、そんなことないよ!」

 

鋭い目つきで睨まれ、慌てふためいてしまった。

 

 

「明久、お主相当辛そうじゃぞ。今日も昼飯は持っておらんのか?」

 

 

秀吉が心配そうに聞いてくる。

やっぱり秀吉は誰かさんと違って優しいなぁ。

 

 

「昼ごはんは持ってるよ。ほら、この塩」

「…………それは食事とは言わない」

 

ムッツリーニは僕の貴重な食料に対して、何てことを言うんだろう。

まったくわかってないなぁ。

 

 

「ま、ただの自業自得だな。明久には悪いが、この自作の弁当で栄養補給をさせてもらうぞ」

 

雄二は僕に見せびらかすようにして、お弁当を掲げてくる。

くっ……。

この男はどこまで腐った奴なんだ……!

 

 

「それにしても、雄二が弁当を持ってくるときはいつも自作のものなのじゃの」

「まあな。もしおふくろに作らせたら、とんでもないものができてしまうからな……」

 

心なしか、雄二はどこか遠くを見つめているような気がした。

その姿に何となく同情するというか……。

 

でも雄二ってああ見えて料理の腕前はかなり高いんだよね。

あのお弁当を見ていたら余計にお腹がすいてきた。

 

「雄二、そのお弁当のおかずをちょっと分けて……」

「いや、何でだよ。メシを食いたきゃゲーム代を食費に回せよ」

 

ちっ、やっぱりこの冷徹な男の辞書には情けという文字は存在していないようだ。

 

 

 

「あ~き~ひ~さ~くぅ~ん」

「うわあっ!?ひ、姫路さん!?」

 

突然姫路さんがどす黒いオーラをまとって目の前に現れた。

明らかにいつもと様子が違っていて、恐怖に近い感情を覚える。

 

 

「姫路さん、ど、どうしたの?」

「明久君はやはりそうだったんですね……」

「な、何が!?」

「明久君は坂本君の手作りのお弁当が食べたいんですねっ!?坂本君の手料理を食べたい、そういう関係なんですね!?」

 

目に少し涙を浮かべて、そう訴えかけてくる。

 

「いや、そういうことじゃないよ!?」

 

僕はただ空腹を満たしたいだけなのに、何故かあらぬ疑いをかけられている。

 

 

「おい姫路、誤解を招くような発言は……ぎゃぁぁあああっ!!」

「……雄二、浮気は許さない」

 

今度は霧島さんがどこからともなく現れて、雄二の頭を鷲掴みにしている。

 

「姫路の発言は大嘘だぞ!?俺が明久のために弁当を作るだなんて、そんな気持ち悪いことする訳ないだろ!!」

「……浮気してないの?」

「当たり前だろ!大体俺には同性愛の趣味はないぞ!」

「……それなら、いい」

 

霧島さんは誤解が解けたのか、雄二を開放した。

 

 

「……雄二、やっぱり私がお弁当を作ってあげたい」

「い、いや、そんなことしなくていいって何度も言ってるだろうが……ゲホゴホッ」

 

今のは聞き捨てならない。

 

「霧島さんは雄二にごはんをつくってあげようとしてるの?」

「……うん。……夫のために料理をすることは、幸せだから」

 

少し顔を赤らめて、嬉しそうに答える。

あの綺麗で頭も良い霧島さんにここまで想われるだなんて、やはり雄二はとてつもなく憎たらしい存在だ。

 

 

「……でも、そこまで拒否するなんて」

「だからな、俺なんかのためにそこまでする必要はないという話で……」

「……やっぱり吉井に手作り料理を食べさせる気がある」

「何故そうなるんだ」

 

霧島さんは目を光らせ、戦闘態勢に入った様子だ。

 

「こんなところで殺されてたまるかぁぁあああ」

雄二は目にも留まらぬ速さで教室から逃亡した。

 

「……逃がさない」

霧島さんも颯爽と駆け出し、雄二を全力で追跡した。

 

 

「やれやれ、あやつらはいつもあのような感じじゃな」

「…………落ち着きがない」

まあ、Fクラスらしいといえば、それまでだけどね。

 

 

 

ところで僕はあのバカに構っている余裕はないんだ。

この空腹を満たすために、昼休みが終わるまでに水を飲みに行かないと。

 

「そういえば明久君はお腹が空いていて、お昼ごはんを持っていないんですよね?」

「うん、そうだけど……」

何だか嫌な予感がする。

それも生命に関わりそうなことになりそうな。

 

「よかったら、私のお弁当を分けてあげますよ?」

ほら、やっぱりね。

 

姫路さんの料理はただでさえ破壊力が抜群なのに、空腹で体が弱っている状態で食したら三途の川を一気に飛び越えるという状況になりかねない。

 

 

「本当は私の作ったものを食べさせてあげたかったんですけど、今日はお母さんに作ってもらったお弁当を持ってきたんです」

 

よかった。

どうやら姫路さんが手にしているものは、化学兵器の類ではなさそうだ。

 

「今度は私がお弁当を作って、明久君に分けてあげますねっ」

 

クラスのアイドル的な存在からこんなことを言われたら一般的な男子生徒は泣いて喜びそうなものだけど、この場合は違う意味で涙か止まらなくなってしまう。

姫路さんのお母さんが作ったお弁当はとても美味しそうだけど、もしここでおかずを分けてもらったら今度は姫路さんの料理を食べる羽目になってしまうだろう。

 

ここは我慢して断らないと。

 

 

「い、いや、悪いから遠慮しておくよ」

「そんな風に考えなくてもいいんですよ。明久君にお弁当を食べてもらうと嬉しいんです」

姫路さんは目を輝かせている。

 

困ったな、こうなったら……。

 

「ほ、本当にいいんだって!ごめんね!」

僕は逃げるが勝ちということわざの通りに、Fクラスの教室から急いで逃げ出した。

ごめん姫路さん、流石に命は惜しいんだ。

 

 

                    ☆

 

 

水飲み場に到着し、ようやく食事の時間となった。

蛇口を捻ろうとした、そのとき……。

 

「アキ、また水と塩だけなの?」

美波が声をかけてきた。

 

「よかったらウチのお弁当を分けてあげよっか?」

 

美波は料理が上手だし、姫路さんのようにはならないだろう。

でも、他人のお弁当をもらうのはやっぱり悪いよなぁ。

 

「いや、遠慮しておくよ。さすがに美波に悪いしね」

「もう、アキってば。ウチはアキの体調が悪くなったりしたら、そっちの方が嫌なのよ?」

「えっ、何で?」

 

僕の体調が美波に何の関係があるんだろう。

 

「えっ!?そ、それは……アキの身に何かあったらウチは悲しくなるから……じゃなくて!そ、そうよ、関節技をかけられなくなるからよ!」

「そんな……」

 

何て理由だ。

やっぱり僕が心配されることは、ありえないわけだね……。

 

(うう……、また変なこと言っちゃったわ。本当はアキに手料理を食べてもらいたいだけなのに……)

 

理由はよくわからないけど、美波が塞ぎ込んでいる。

 

 

「とにかく!倒れるといけないから、ウチのお弁当を食べなさいよ!関節技なんてやらないから」

「わ、わかったよ」

 

食べないと逆に恐ろしい目に遭いそうだから、とりあえず弁当箱に入っているおかずをつまむ。

 

 

「美味しい……」

「ふふっ、よかったわ」

 

毎日のように料理しているだけあって、とても上手だ。

 

 

「美波に何かお礼をしないといけないレベルだね」

「お礼……?」

 

美波はその手があったかと言わんばかりの表情をしている。

 

「あ、でもお金がかかるものは駄目だよ!?申し訳ないけどそんな余裕はないから」

「そんなものいらないわよ。でも、お礼は考えておくわね」

 

とても気分を良さそうにしている。

 

 

(お礼は、アキとデートできる権利がいいかしら。いっそのこと、婚約を……)

 

 

よく聞こえないけど、美波が何かブツブツ呟いている。

いずれ僕の将来に関わるようなことが起こりそうな予感がするけど、気のせいなのだろうか。

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