外の様子を見てみると、日は沈みかかっていた。
辺りは薄暗くなっており、昼間は部活動で賑わっていた校庭も既に閑散としている。
多くの生徒が今日の学校での活動を終え帰宅をしている中、俺は人気のない場所で密かに仕事を進めていた。
その内容とは、主に顧客のニーズに合わせた写真を販売することである。
どのような写真を売っているのか、もしその内容が外部に漏れてしまうと、俺はこの学校にいられなくなってしまうだろう。
そのため完全会員制をとっており、ムッツリ商会の存在はごく一部の人にしか知られていないことになっている。
今日も俺の写真を求めている客を満足させるため、最高のラインアップを用意して、迎え入れるようにする。
「ちょっといいかい?」
早速客がやってきた。
「今日も商品を見せてもらってもいいかな?」
「…………勿論」
Aクラスの久保だ。
成績は学年次席であり、冷静沈着で紳士的。
一見ムッツリ商会には縁のなさそうな男であるが、実はお得意様である。
「どんな写真が置いてあるのかな?」
「…………プールに行ったときの写真が中心。夏休み明けにつき、特別な品揃え」
「ほう、ということは水着姿の写真が多い訳だね」
喋り方だけを考慮すると冷静な雰囲気を醸し出しているが、顔を見てみると表情は緩みっぱなしだ。
普段の姿からは、とてもじゃないが想像できない。
「そしたら、写真を5枚貰おうかな」
「…………セット価格で値引きしておく」
「すまないね」
女子の写真を買うのであれば、まだ普通のことであると理解できる。
しかし、久保の場合はいつも明久の写真を買うのだ。
この事実は、当然口外はしない。
依頼主のプライバシーを守ることも俺の使命のひとつである。
このことを徹底することにより、顧客との信頼関係を崩すことなく、今後の売り上げに繋がっていく。
そして、明久本人にも絶対に言わない。
世の中には知らないほうが良いことも存在する。
「土屋君、どうもありがとう。また買いに来るよ」
「…………毎度あり」
久保は嬉しそうにこの場を去っていった。
以前は女子の写真ばかり扱っていたが、最近は明久関連のグッズの売れ行きが急上昇している。
Fクラスの女子コンビには元々買ってもらっていたが、他の人にも女装姿の写真などが売れている。
明久には悪いが、今後もこっそり販売させてもらうとしよう。
「土屋、今大丈夫かしら?」
早速明久の商品が売れることになりそうだ。
今度は島田が商品を求めにやってきた。
「例のものはできているかしら?」
「…………(コクコク)」
俺は抱き枕を取り出した。
明久の写真がプリントされている、特別仕様のものだ。
「うわぁ……、よくできてるわね」
島田は無邪気に目を輝かせているが、これは立派な変態行為である。
余計なことは口に出さず、感想は心の中に留めておくが。
「毎日これを抱いて寝て……本当にアキを抱きしめているように考えて……写真もベッドの近くに飾って、アキに見守られているような感覚に……ふふふ……」
駄目だ、島田は完全にトリップしているようだ。
「…………妄想するのはいいけど、お金を……」
「ハッ、そ、そうよね!あはは……」
恥ずかしそうにして、財布からお金を取り出した。
「ところでちょっと聞きたいんだけど、アキの商品ってどのくらい売れるのかしら?」
島田のことだ。
恐らく自分のライバルがどのくらいいるのか気になっているのだろう。
「…………最近はよく売れる。人気No1と言ってもいいぐらいの勢い」
「やっぱりアキはモテるのね……」
一瞬で険しい表情となった。
「やっぱりウチもいろいろ対策していかないといけないわね。でも今日はこの抱き枕で楽しみましょ」
島田はまた嬉しそうな顔をして、帰って行った。
何を楽しむのか想像して、鼻血が吹き出しそうになったのは黙っておこう。
☆
しばらくして外の様子を確認すると、もうすっかり日も沈んで真っ暗になっている。
あと少ししたら今日のところは切り上げて、帰宅するとしよう。
「……土屋、まだお店やってる?」
「…………ああ、今日は霧島で最後にする」
学年主席でAクラス代表の霧島が客としてやってきた。
この肩書を見たらムッツリ商会とは関わりのなさそうな人物なのだが、実は超がつくお得意様である。
雄二に対する異様な執着心と圧倒的な財力を有しており、金額などお構いなしにグッズを買い漁る。
正直言って雄二の写真を撮ることは気が進まないが、売り上げのために充実させているのだ。
「……雄二の写真をある分だけ、全部買う」
「…………そんなに買っていいのか?」
「……うん。雄二の写真は独り占めしたいから」
そんなもの買うのは霧島だけだと心の中でツッコミを入れつつ、商品の写真を用意する。
「…………これで全部」
「……ありがとう。お金はいくらかかってもいい」
こうして取引に成功した。
「……そういえば、土屋は誰の写真を集めてるの?」
「…………っ!?俺は特定のヤツの写真を私物化することなどない……!」
こいつは何故いきなり答えにくいことを聞いてくるんだ。
「……土屋は好きな人いない?」
「…………何故そんなこと聞く」
「……参考にしたいから。……愛子のために……」
最後のほうが声が小さくて、一体何についての参考にするのかよくわからなかった。
「…………参考とはどういうことだ」
「……ううん、こっちの話」
まったく真意が読めない。
「…………俺には、そんなものは存在しない」
俺は寡黙なる性識者とか呼ばれているが、この手の話はどうも苦手だ。
自分に関する話題は避けてほしい。
「……土屋はフリー。参考になった」
「…………意味がわからん」
霧島は何か企んでいるのだろうか。
雄二に関すること以外では人畜無害だと思っていたが、こういう人に限って危険な存在になるのかもしれない。
良からぬことが起きないように、警戒しておかないと。
「……でも、てっきり愛子のことが好きなのだと思ってた」
「…………何故そこで工藤愛子が出てくる」
「……いつも仲良さそうにしているから」
「…………っ!?バ、バカな……」
奴と仲良くしているなど、断じてありえない……!
工藤愛子とは保健体育の点数で争う関係にあり、更に俺の目の前に現れる度にスカートをめくって鼻血を出させるという天敵といえる存在なのだから。
(……多分愛子は土屋のことが好き。私と雄二のように恋人同士になれるように協力する)
「……じゃあ、私は家に帰る」
「…………おい、勘違いはするなよ」
(……土屋はきっと照れ隠し。雄二みたい)
霧島はかすかに微笑みながら帰っていった。
しかし、霧島が急に妙なことを言い出して驚いてしまった。
俺が工藤愛子のことを好きになっているだと?
決してそのようなことは……。
ポタポタポタ
いかん、工藤がスカートをめくったときの姿を思い出して鼻血が出てしまった。
今日は何だか調子が出ないな。
輸血を済ませた後に後片付けをして、さっさと帰ってしまおう。
「こんなところで何やってるの?」
だ、誰だ!?
ムッツリ商会の会員ではない奴に見つかってしまったか!?