バカと恋と何気ない日常   作:バンっち

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雄二くんと自称婚約者・霧島翔子さんの日常の様子。


第4問 俺と幼馴染と登校前の朝

ある日の早朝、俺はいつものように眠りから目覚めた。

カーテンの隙間から日差しが部屋の中に差し込み、外が爽やかであることが伺える。

 

何の変哲もない一日の始まりだと思ったが、部屋を見渡してみると、明らかに不自然な光景が目に飛び込んできた。

 

 

「……雄二、おはよう」

「ああ、おはよう」

 

とりあえず俺のベッドの真横に佇んでいる翔子に、朝のあいさつをした。

 

目が覚めたら自分の部屋の中に同い年の女が立っている、この光景は通常であればありえないことで、不自然という言葉以外で形容しがたい状況である。

しかし、翔子は確かに今目の前に立っており、その事実が俺の朝を非日常的なものに仕立て上げている。

 

 

「翔子」

「……何?」

 

優しく微笑みながら、返事をしてくる。

さも、この場にいることが当たり前のようになっている雰囲気だ。

 

「何故お前がここにいるんだ」

「……夫を起こすのは、妻の仕事」

「お前と夫婦になった覚えはねえと何回言ったらわかるんだ!」

 

 

こいつはことあるごとに俺の妻であると主張してくる。

どういう思考回路をしているのか、頭の中を一度見てみたいぐらいだ。

 

 

「……永遠の愛を誓い合った、あの日のことを忘れたの?」

「おい、誤解を招くようなことを言うな。そんな事実は一切存在しないぞ」

恐らく夢と現実の区別がついていないのだろう。

 

「それに、俺の部屋に勝手に入ってくるなとあれだけ言っただろ」

「……でも、お義母さんが入れてくれるから」

「おふくろぉぉおおお」

 

おふくろはいつもそうだ。

翔子のことばかり優先しやがって、息子の人権はまるっきり無視だ。

お陰でいつも家でも痛い目にあっている。

 

 

「とりあえず着替えるから、部屋から出て行ってくれ」

「……着替え」

そう呟くと、翔子の顔はみるみる赤くなっていった。

 

「……私も手伝う」

「いや、何でだよ!制服に着替えるのに手伝いなんか必要ないだろ」

「……だったら観察してる」

「やめてくれ!さっさと部屋から出ろよ!」

「……残念」

 

翔子は渋々俺の部屋から出て行った。

 

まったく、翔子の言動が最近ますます悪化しているな。

Fクラスに関わっているからじゃないのか。

まあいい、こんな馬鹿なことを考えていると学校に遅れてしまう。

 

俺は着替えて登校する準備を済ませた。

 

 

 

 

「あら雄二、おはよう」

おふくろは俺の気も知らないで、のん気にあいさつしている。

 

「おはようじゃねぇっ!翔子を俺の部屋に入れるなと何度も言ってるだろうが!」

 

ここは厳しく言ってお灸をすえておかないと。

これぐらいしておかないと、今までの傾向からしてまた同じことを繰り返すからな。

 

 

「あら、別にいいじゃない。雄二と翔子ちゃんは恋人同士でしょ?」

「……照れる」

「いやいや、突っ込みどころ満載だぞ。いつからそんな関係になったんだ」

親が率先して真実を捻じ曲げるなんておかしいだろう。

 

 

「そうね、間違えたわ。雄二と翔子ちゃんは……」

「やっと理解してくれたか」

「恋人じゃなくて婚約者だったわね」

「何故そうなるっ!?」

 

もうこの人たちの思考にはまったくついていけない。

ついていこうとしたら、頭が痛くなるだろうから止めておこう。

 

 

 

「……雄二、朝ごはん」

「は?」

 

翔子が指を差している先には、米や味噌汁、焼き魚などが並んでいた。

様々な食材がバランスよく使用されており、配膳にも気を配っているのが見て取れる。

 

 

「翔子ちゃんが朝早くから来て作ってくれたのよ。好きな人と結婚するためには胃袋をつかむことも大事だとアドバイスしたら、張り切って作ってくれたわ」

「……夫のために料理をするのは、嬉しいこと」

 

動機は意味不明だが、翔子がメシを作ってくれるのは一応ありがたく思っている。

何故なら、おふくろの料理を食べずに済むからだ。

 

ザリガニとイセエビを間違えるような人の料理を食べていたら、胃がいくつあっても足りないからな。

 

 

「……雄二、食べて?」

「わかったから、上目遣いはやめてくれ」

俺は席について、目の前に並んでいる朝メシにありつけた。

 

まずは味噌汁を口に含ませる。

強い香りと仄かな甘みを楽しむことができ、だしもしっかり取られていることが伺えて、単刀直入に言うと本当に美味い。

 

「……雄二、どう?」

「普通に美味いぞ」

「……よかった」

 

そんなに心配そうな顔をしなくても、翔子の腕ならどう考えてもレベルの高い料理ができる。

俺は感想をストレートに口に出すことはできないが。

 

 

「……じゃあ、毎日でも食べたい?」

何だかおかしなことを聞いてくるな。

まあ、おふくろの作る料理とはとても言いがたい謎の物質を食べるよりははるかに良いか。

 

「おう、そうだな」

「……よかった」

 

翔子は満面の笑みを浮かべている。

俺なんかのために料理を作るだなんて、何が楽しいんだか。

 

 

「あら雄二。それはプロポーズかしら?」

「いや、それはおかしいだろ。何がどう転んだらそんなことになるんだよ」

 

おふくろは元々少しぶっ飛んでいる人物だと思っていたが、とうとう本気でトチ狂ってしまったのか?

 

「毎日味噌汁を作ってほしいというのは、昔からプロポーズの言葉の定番なのよ」

「そんなの知らねえよ」

そんな意味を込めて言ったわけではない。

俺はただ体に害のないものを食いたいだけなのだ。

 

 

「……雄二がプロポーズ。嬉しい」

「翔子、おふくろの言うことは本気にしたらダメだぞ」

「……これで正式に婚約者……次は式場選び……」

「おい、俺の話を聞け!あと、不吉なことを口に出すな!」

 

翔子はうっとりしていて、完全にトリップしてやがる。

 

 

「あらあら翔子ちゃん、気が早いわよ。まずはデートして、もっと二人の仲を深めなきゃ」

「……うん。雄二、今日は学校が終わったら二人でお出かけ」

「もう勝手にやっててくれ」

 

朝っぱらから疲れて、最早反論する気力すら湧いてこない。

 

 

「……婚約記念に、まずは二人で手を繋いで登校」

「それは勘弁してくれっ!」

俺は学校の用意を持って、逃げるようにして家から出て行った。

 

「……逃がさない」

翔子が鬼の形相で追いかけてくる。

一瞬でも気を抜いたら捕まってしまう、そのぐらいの猛スピードだ。

 

 

「あらあら、雄二と翔子ちゃんはやっぱり仲良しねぇ」

 

 

 

 

俺はこの日も平穏な朝を過ごすことはできなかった。

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