「僕とその……付き合ってほしい……!」
「ええええええええっ!?」
ウチは今、アキに告白されている……っ!?
えっと、どうしてこうなったんだっけ?
☆
ある日の夕方、一日の授業が終わるとウチは近所のスーパーマーケットに向かっていた。
ウチの両親は仕事で忙しくて家にいないことが多いから、料理を担当することが多い。
学校帰りに食材を買いに行くことはウチの仕事。
葉月が今晩何を食べたいか、考えながら歩いている。
スーパーマーケットの手前に到着すると、建物の前に見覚えのある後姿が目に飛び込んできた。
あれってアキよね!?
学年全体でも学力は最低クラスで、発言もデリカシーの欠片もないバカな奴。
でも、人一倍友達思いで、ウチが日本語を満足に話せなかったときに手を差し伸べてくれたヒーロー。
アキのことを何もわかっていない人達からの評判はあまり良くないみたいだけど、ウチにとってはかけがえのない、とっても大切な人。
学校の外だからか、声をかけようとしても妙に緊張してなかなか行動に移せない。
でも、せっかく二人きりで会えるんだから勇気を出さなきゃ。
「アキっ」
「あっ、美波。偶然だね」
アキがこちらに振り返って、あいさつを返してきた。
こうして見てみると一挙一動がいちいちカッコいいわね。
「もしかして美波もここで買い物?」
「ええ、そうよ。晩ごはんの食材を買いに来たわ」
「僕もだよ。最近さすがに断食の期間が長すぎて耐えられなくなってきたから、特売品を買って料理しようと思っているんだけど……」
アキはこう見えても料理がすごく上手。
ウチよりも腕前が高いから、悔しいというか危機感を覚えてしまう。
だって、もし将来アキのためにごはんを作ってガッカリされたら嫌だし……って、ウチってば何を考えているのかしら。
「どうしたの、顔赤いけど」
「な、何でもないわよっ!あはは……」
ウチが考えていることを悟られないようにしないと。
「僕もこれから買い物するつもりなんだけど、もしよかったら一緒に店の中回らない?」
「えっ!?」
アキと二人きりでお買い物!?
そ、それってまるで……新婚の夫婦みたい……。
「み、美波、大丈夫?」
「ふぇっ!?どうかしたのっ」
「いや、まったく反応がなかったから、意識がトリップしたのかと……」
「そ、そんな訳ないでしょ!」
と言いつつも、アキが思っていることは図星だった。
二人で献立を考えながら仲良く買い物をしているところを想像していた。
「アキっ!一緒に買い物しましょ!」
「う、うん。そんなに慌てなくても……」
こうしてアキと買い物をすることとなった。
ウチは密かにデート気分を味わうけど。
「アキは今晩何を作るつもりなのかしら?」
「うーん、これだっていうものは決まってないなぁ。金銭的に余裕がないから、安いものを優先的に買って適当に料理するつもりだけど」
「へぇ~」
何気ない会話をしながら、食材をカゴに入れていく。
アキとこういう風に過ごす時間がたまらないわね。
「うーん……」
ふと横を見てみると、アキが立ち止まって何か考え事をしていた。
「アキ、どうしたのかしら?」
「美波……」
声をかけてみると、真剣な表情をして振り返った。
な、何よ、この雰囲気……。
「僕とその……付き合ってほしい……!」
「ええええええええっ!?」
☆
ウチは買い物の途中で、いきなり告白されたんだわ。
アキと付き合うことができるのは嬉しいけど、急にそんなことを言われても心の準備ができてないわよ!
「その……返事は気持ちを整理してからじゃないと……」
「美波、頼むよ!一生のお願いだよ!!」
「……っ!」
アキってば、そこまで真剣にウチのことを想っていてくれていたのね。
一生のお願いだなんて、もしかして一生ウチのそばにいてくれるってこと?
そんなの、答えなんてひとつしかないに決まっているじゃない。
「ウチはもちろん、OKよ。アキは……大切にしてくれる……?」
「それは当然だよ」
真剣な眼差しで答えてくれる。
急展開で少し頭が追いつかないところもあるけど、ウチの想いが叶って本当に嬉しい。
アキも好きでいてくれただなんて夢みたい。
「いや~、良かったよ。一刻も早く食べちゃいたいな」
「はあぁぁあああ!?」
「ど、どうしたの、急に大声で叫んで」
「どうしたの、じゃないわよ!こんなところで何言い出すのっ!?」
告白してすぐに、しかもこんな人の多いところでトンデモないこと言ってるんじゃないわよ!
アキも所詮はケダモノだったのね!
ウチのことをそんな風に思ってくれているのは実は嬉しかったり……じゃなくて、まだ早すぎるわよっ。
「よくわからないけど、僕の言ったことは受け入れてくれるんだよね?」
「最初に言ったのは良いけど、食べちゃうってのはまだ駄目よ!常識的に考えて時期尚早だわっ」
「ええっ!?僕はとにかく食べたいんだよ」
「駄目ったら駄目!」
そんな真剣な顔で言われても、まだ許す訳にはいかないわ。
いろいろ準備もできていないのに。
「美波が何故そんなに怒っているのかわからないよ……」
「だって大切にするって言ったでしょ!?そ、そういうことはもっと年月が経ってからよ!」
「いや、そんなに待てないよ」
アキってば意外と軽い男なのかしら。
絶対そんなことないと思っていたのに。
「何を怒っているのかよくわからないけど、今は時間がないから向こうに行こう」
「えっ」
アキが指差した方向を見てみると、買い物客が列を作っていた。
「アキ、これって」
「いや、だから僕は特売品の卵が欲しいから、美波もついてきてほしいって言っているんだよ。一人当たりの数が限られているからね」
ということは、さっきのは告白じゃなかったってこと?
「僕の分まで卵を受け取ってくれるのはありがたいんだけど、まだ食べるなって言うからびっくりしたよ」
ウチとアキは両想いだというのは、ただの勘違いだったってこと?
「卵はね、栄養価が高くて腹持ちも良いから便利なんだよ」
何得意気になってんのよ……。
ウチは怒り狂って大暴れしそうになったけど、冷静に考えたらこっちが一方的に勘違いしただけだもんね。
アキを怒るだなんて、とんでもないわ。
「全部ウチの思い違いだったのよね。せっかく願いが叶ったと思ったのに……」
「へ?何のこと?」
「もういいわよ、ウチが悪いんだもの。それより買い物を続けましょ」
「う、うん」
アキは不思議そうな顔をしている。
もう今日のことは記憶から抹消したい。
☆
「ふぅ、久しぶりに食料を買ったよ。これで今晩は空腹で倒れる心配はなさそうだね」
アキは買い物袋を両手で抱えて、満足そうにしている。
清貧生活だなんてやめて、普通に料理すればいいのに。
「そういえば。美波、今日はごめんね。理由はわからないけど、怒らせちゃったみたいで」
「えっ?そ、それはもういいの!」
ウチのことを気にしていてくれたのね。
でも、本当のことなんて言える訳がないし、別に嫌われてはいないだろうから、もうなかったことにするわ。
「アキ、もう気にしないでよね。一緒に買い物できて楽しかったんだから」
「そう……」
「それに、ウチの想いはいつか自分の力で叶えるから」
今日のような勘違いじゃなくて、本当の気持ちをぶつけられるように。
そして、アキと本当に恋人同士になれるように頑張らなきゃ。
「ん?どういうことだろう?」
こちらを見て不思議そうな顔をしているアキの姿が印象的だった。