前半はクシャルの専用BGMとか聞きながら書きました
荒天の中、必死に槍を振るうアルトリア。ウェールズも雷を呼び鋼龍の動きを阻害しようと試みる。だがそれでも鋼龍を止めるには至らない。山の頂上、少し盆地になった場所を陣取っているアルトリアとウェールズだが鋼龍はそこに一切降りず自身が生み出す暴風雨を武器に二人の動きを抑えていた。殴り付けるような横風に思うように動けない。
「まるでキャスターのような戦い方ですね…!」
龍としての勇壮さを示す鋼龍だがその実、聖杯戦争におけるキャスターを思わせる戦術を取っていた。自ら出向くのではなく自身に有利な陣地を作り上げその中に敵を誘い込む。時折ハズレ扱いされるキャスタークラスだがサーヴァント個々の能力差はあるものの、陣地作成スキルで作り上げられたキャスターの領域は最優のサーヴァントであるセイバークラスのサーヴァントでも無傷の踏破は難しいとされる程の物だ。武勇に頼るのではなく姦計で以て聖杯戦争に臨むのがキャスターの常道。
そう、全てが鋼龍の策だった。
雨を降らせてまず自身の威を知らしめる。集落まで飛びこちらにけしかけるようにしたのも全て鋼龍が意図してやった事だ。アルトリアにあれを断るという選択肢は無かった。鋼龍の誘いに乗らず集落に籠れば鋼龍は集落で戦おうとしたはずだ。そうなれば間違いなく集落は壊滅する。鋼龍はアルトリアと集落の関係を把握した上でアルトリアを誘ったのだ。アルトリアからすれば集落全体を人質に盗られたのと同じである。アルトリアは誘われているのを前提に鋼龍の策に乗ったのだ。その策ごと粉砕するつもりで山に出向いたのだが現実はそう甘くない。
「せめて一瞬でも動きを止められれば…!」
常に滞空してるためまともに武器を当てる事ができない。ウェールズの雷やアルトリアの魔力放出による遠距離攻撃手段は勿論あるが鋼龍はそれを簡単に避けてしまう。
対して鋼龍は有利な位置から思うままに風のブレスを吐いてくる。こちらが動きを止めればすかさず鉤爪による急襲が待っているため息つく暇も無い。
鋼龍は油断も慢心も一切無くアルトリアを殺しにかかっている。自身の領域を作り上げそれで動きを抑制し単純なブレスと爪のみでアルトリアの相手をする。派手さの欠片も無い戦術、ただ堅実にアルトリアを仕留めるためだけに鋼龍は動いている。自分からアルトリアの土俵である地上に降りるような事はしない。それほどこの鋼龍は人間という存在を熟知していた。
「っ、しまっ───」
気付かぬ内に後退させられていたのだろう。後ろを見ればすぐ崖になっている。横に動いたり前進して落ちる事を避けたいのだが遅かった。
鋼龍は今までのような単発のブレスではなく場を縦横無尽に走るような竜巻を生み出してきた。それが二つ、アルトリアとウェールズを挟み込むように左右から迫ってくる。そして前を塞ぐように鋼龍が滑空しながら突進してきた。
「ウェールズ!」
ウェールズがほぼ捨て身で突進を敢行する。ぶつかり合うウェールズと鋼龍だがこういう場合、体格の差が物を言う。衝突した瞬間弾き飛ばされるウェールズ。だが僅かな隙、衝突の際に発生した一瞬の硬直をアルトリアは見逃さない。衝突直後にウェールズから飛び降りありったけの魔力放出を込めた刺突を鋼龍の頭に見舞う。ここにきてやっとまともになった反撃は鋼龍の右目を貫いた。
たまらず後退する鋼龍。だがこちらも無傷では済まなかった。アルトリアはともかく、ウェールズは弾き飛ばされた衝撃で後ろ足が曲がってはいけない方向に曲がっていた。騎馬として致命的である。
「このままでは…!」
一撃と引き換えに状況は更に悪化した。ウェールズを庇いながら戦うなど苦行を通り越して無謀である。それでもアルトリアにウェールズを見捨てるなどという事は出来なかった。ウェールズは懸命に立ち上がり騎馬としての役目を果たそうと足に力を込めている。そんな健気なウェールズに近付こうとする影。アルトリアではなく鋼龍だ。まずは邪魔な下僕を殺そうと口にブレスを溜めている。
「させるかっ!」
鋼龍の前に立ち持ち替えた聖剣でブレスを防ぐアルトリア。しかしどちらにしても詰みだった。このままでは遠からず自分達は敗北する。聖剣の真名解放が出来れば確実に勝てるという自信はあるのだがあれは少なからず溜め時間を要する。そんな時間を鋼龍が与えてくれるはずも無い。
最早これまでか。そう思いせめて一時的な撤退をと考えるアルトリアの後ろから一筋に伸びる矢があった。矢は鋼龍の風の鎧に阻まれず胴体を貫通する。
「あぁ…やっと、会えたよ。どうやらベストなタイミングで着いたみたいだね。その様子じゃ、ピンチもピンチって具合かな?」
イリヤだった。
ようやく頂上まで辿り着き戦いの惨状を見た瞬間すぐさま鋼龍に矢を放ったのだ。鋼龍は突然現れた部外者に怒りのブレスを放つがその英霊とも並ぶ敏捷性で以てイリヤは楽々回避する。
「…何者かは知りませんが助太刀、感謝します」
「何者かって貴方に今一番簡単に説明するなら前に君へ矢を放った者だよ?アルトリアちゃん」
「私の名前を…!いえ、それよりも…!」
「色々と話したい事一杯あるんだけどさ、まずはこのクシャルダオラをぶっ倒さなきゃね。見たところそのキリン、瀕死みたいだけどその子抱えたまま戦うつもり?」
アルトリアに降って湧いた助力だがアルトリアからしてみれば信用ならない。だが鋼龍を倒さなければならないのは事実だ。
「私が足止めしといてあげるからさ、その子どっか安全なとこに避難させてあげなよ。大事な子なんでしょ?山登ってきたなら分かると思うけど中腹に良い感じの洞穴あったしそこに置いてくるといいよ」
「それはありがたいのですが貴方の真意が読めません。何故…?」
「何故も何も無いさ。こいつを倒したら出来る話だよ。あ、それと集落のセレット君から伝言。無事に帰ってきてくれだってさ。凄い心配してたよ?」
「セレットが…?そうですか…」
どういう経緯で集落を知ったのかは一旦隅に置いておくとしてセレットに心配をかけているのは心が痛む事だった。背に腹は代えられない。アルトリアは決心する。こうして話してる間も鋼龍の猛攻は続いているのだ。
「貴方は───」
「イリヤ。イリヤ・ムウロメツって名前だからちゃんと呼んでね?アルトリアちゃん」
「…!イリヤ、一旦この場を預けます。ですので───」
「そうみなまで言わなくていいって。さっさと行ってきなさいな。ちゃんと受け持つからね」
ウェールズを抱え場を脱出しようと元来た道を引き返そうとするアルトリア。それを逃したくない鋼龍だが絶え間無く自身に飛来してくる矢が邪魔で鬱陶しい。
「あ、そうだ。ちょっと聞いておきたい事が一つあるんだけども」
「何でしょうか?」
「いや、ね───」
───足止めするのは構わないけど別に倒しちゃっても問題無いでしょ?
「…!」
そう、あっけらかんと軽口を叩くイリヤ。イリヤという名前と銀髪に赤の外套。あの時を思い出させる状況である。
「…すぐに戻ってきます」
そう言い残し、アルトリアはウェールズと共に撤退した。残ったのは邪魔をされた憤怒を風に表し豪風を巻き上げる鋼龍とイリヤだけである。
「あー、失敗したかなこりゃ。普通の狩りなんて久しぶりだよ。こういうの、私本来の戦い方じゃ無いんだけどな」
龍弓[天崩し]を構えイリヤは嘆息する。確かに大長老から指摘された通り、楽しそうな事を追い求めた先が死地になる状況だった。
「まぁ、やってやるさ、存分に!」
「…ウェールズ、ここで待機していて下さい。良いですね?」
すぐに戻る必要がある。イリヤを一人にしてはいけない。何となく、そんな予感がアルトリアにはあった。この中腹の洞穴にまで若干の距離がある。長居は無用だ。しかし───。
「駄目です!ウェールズ、じっとしていて下さい!」
ウェールズは曲がった足を引き摺りながらアルトリアと共に戦おうと歩こうとする。とても痛々しい姿だ。戦えないのは誰がどう見ても分かる。
「何故こんな時に限って言う事を聞いてくれないのですか…!」
ウェールズは角に雷光を溜め自分はまだやれると主張する。虚勢なのは明らかだというのにそれでもアルトリアに付き添いたいのである。
アルトリアはそんなウェールズの意思が痛い程分かった。主一人を置いて自分だけ安全な場所にいるなど騎馬の名折れだ。堪らず、アルトリアはウェールズの首筋を抱き締め顔を埋める。
「ウェールズ…」
互いに身を寄せ合い温もりを確かめ合う二人。それでもアルトリアはウェールズを連れて行く事はしなかった。
「ウェールズ、貴方はまだ弱い。少なくともあの龍に僅か一矢報いる程度の力しか貴方には無いのです。貴方の命と引き換えにしてもあの龍にはまだ届かない。私は貴方を無駄死にさせるつもりはありません。失いたくないのです。貴方は大切な私の愛馬。今までも多くのものを失ってきた身ですがもうこれ以上大切な誰かを死なせたくは無い」
アルトリアが独白する。普段、感情を大きく人前で見せる事はしない彼女の声には多少の嗚咽が混じっていた。
「貴方と初めて出会った時、驚きもしましたが純粋に嬉しく思えたのです。だって貴方の姿は私にとってようやく出会えた既知のものだったから。事実としては貴方はこの世界の生き物でしたけどそれでも私にとっては故郷を思い起こさせる存在でした。いつかもし連れて帰る事が出来たのなら、騎士達に、ラムレイやドゥン・スタリオンに、シロウ達に紹介したい。未知のものばかりであるこの世界でユニコーンに出会えたのだと自慢したい。手前勝手な話ですが貴方は私にとってこの世界と故郷を結ぶ大切な架け橋なのです」
もしかしたら。いつか帰れる日が来るのなら。連れて帰れるのなら。いくら王として振る舞っていても結局アルトリアは人だった。そんな日を夢想しなかった事は無い。
「だから…お願いです。どうかここで待っていて下さい。必ず、必ず───」
───必ず戻るから。
アルトリアはこの世界に来て一番の笑顔をウェールズに向け洞穴から頂上へ向かう。ウェールズはアルトリアの独白を理解したのか縋るようなか細い一声で鳴きアルトリアを見送った。
文字数が増えない…大丈夫なのかこんなのでと思いつつ投稿