モンハン世界にINしたアルトリアさん   作:エドレア

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両儀式編、始動
別名我が情熱を注ぎ込んだ大本命編


両儀式編
プロローグ


 霧の山道を歩いている。空は薄暗くて、時間がいつなのか知れなかった。こういう雰囲気は嫌いじゃない。古郷の家にあった竹林に似ているから。ああいう人気の無い道を夜に散歩するのが私の昔の趣味だった。

 …我ながら阿呆らしく思ってくる。自分の事だというのに今じゃどうしてそんな事を嗜好していたのか分からない。おかしな話だけど本当にそうなのだから仕方ない。きっと、二年に渡る生からの別離が今の私と昔の私を切り離してしまったんだろう。

 柄にも無く昔を想ってしまった。今は昔の事なんてどうでもいい。同じように散歩しているわけではないのだ。一人、霧に混じるように朧気な足取りで歩いていく。すると後ろからガタガタと何かの音が聞こえてきた。

 音の正体は地元の御者だった。アイルー、なんていう獣人らしいがどうにも私はこいつらが好きになれない。古郷にはこんなやついなかったし猫が立って歩き喋る様はどう見たって妖怪だ。最初、私は猫又かと思って斬り付けようとしてしまった。こんなのが人間社会に溶け込んでるのがこっちだと当たり前だという。家に戻って伝えたところで彼らは(うち)に採用されないだろう。

 御者のアイルーは村までまだかかる、人も荷物も運ぶのは同じだから乗っていくと良い、そう言った。単なるありきたりの親切だ。だが便利なのは確かなのでその好意に甘えてやる事にした。従者である飛べない丸い鳥が忙しなく走ってくれている。

 

 そうして幾ばくか走った頃だろうか。空がゴロゴロとその気分を悪くしてきた。まるで下界に対する私達へのやつあたりのようなそれは篠の突くが如く、あっという間に激しさを増していった。笠を被っていてよかった。暑さにも寒さにも強いという自信はあるけれど、流石にこんな雨をまともに浴びるつもりは無い。

 …雨は嫌いだ。ところどころ欠けていて思い出せないあの日を思い出してしまうから。あんな人畜無害みたいな顔をしておいて人の心にずかずかと入ってくる、そんな漠迦を思い出してしまうから。私には手に入らないって分かってるのに、いらない夢を見せてくるあいつ。だから、離れたんだ。あいつといると、弱くなるから。

 どうしてだか、あいつの事を考えると心に余裕が無くなる。だからなのだろう。前方に稲妻の獣がいた事に一瞬、気付くのが遅れてしまった。

 雷に驚いた丸鳥がそれを避けようと無理に曲がってしまう。結果、私はそいつの足元に投げ出される羽目になった。

 こういうのを雷獣というのだろう。稲妻の獣は凄く、凄く───綺麗だった。どこか爬虫類染みた風貌ではあるけれど狼のような勇壮さを持ったそれは私の事なんて気にかけていなかった。いや、一瞬私に目を配ったけれど思考を割く程に重要じゃなかったんだろう。それよりも相手にするべき脅威が空に浮かんでいる。降りしきる雨と雲のせいでよく見えないけれどそれは確かに空から私達を睥睨していた。

 

───駄目だ、お前はあれに勝てない。力の差が歴然だ

 

───吼えるだけタダだろう。住処を追われたのだ。こうでもしていないとやっていられない。人間が指図するな

 

 不思議と、声も出していないのにそんな会話が稲妻の獣と交わされたような気がした。

 

 遠くから私を呼ぶ声がする。さっきの御者だ。下段にある道から凄い勢いで走ってくる。私はそれに合わせ飛び降りた。

 後は過ぎ去るだけだった。離れていく彼らを荷台からそっと見る。空にいたあいつはもうほとんど見えないけど、稲妻の獣はまだ吼え叫んでいた。内にあるこらえきれない何かを吐露するように。慟哭か憤怒か。どちらの咆哮なのかは分からなかった。

 

 雨が止んだ頃、私は目的の村に辿り着いた。御者が災難だったとぼやく。この辺の生き物達は自分達の住むべき場所を理解している。だから、人の道に出没するような事はまず無いのだと。最近になってあいつがうろちょろするようになったおかげでこの辺も物騒になってしまった。愚痴混じりにそう漏らす。

 それが私に今回与えられた仕事だった。昨今におけるこの地域の急激な生態変化を調査し報告、危険があれば排除せよと。

 要はギルドの体の良い何でも屋みたいなものだ、今の私は。私は仕事なんて柄じゃないけどこっちに来る時にちょっとしたヘマをやらかしたせいでそれを精算しなくちゃならない。面倒だけどやらなきゃ更に面倒になるだけだから大人しく従っておく事にした。どちらにしろ獲物を用意してくれるのなら大歓迎なのだ。

 

「ふーん…。湯煙が曇る村、ね…」

 

 ユクモ村。それが私の一時滞留することになる村の名前だった。

 

 

 

 

 

 自称・鬼門番だとかいう変なやつが入口で絡んできたけど無視をした。ああいうのは無視をするに限る。それよりもまずは村長だ。話は通っているはずだから最低限顔は合わせておかないと。

 なだらかな階段を上がっていく。村長は分かりやすい女だった。村の中腹に拵えた椅子に豪奢な反物を着た竜人族の女性がいる。そいつが長だろう。

 

「あんたがこの村の村長?ギルドから派遣されてきたけど」

「まぁ、貴方様がそうなのですね。遠路遥々ようこそお出でくださいました。話には聞いております。私は───」

 

 村長という女の長ったらしい話を聞いていく。要約するとここには常駐してくれる狩人がいない。今までは湯治も兼ねた流れの狩人に依頼していたがそれもそうもいかなくなったのでギルドに要請したのだと。たぶん、こいつは私がどういうやつかなんて知らずに呼び寄せたのだろう。本当はもっとまともな奴がこの仕事に就くべきだとは思うけどギルドは万年人手不足だ。仕方無しに私という外れ者を向かわせた。私が刀を抜けばどういう結果になるのか分かっているだろうに、それを承知でギルドは私をユクモ村に向かわせたのだ。

 

「そういえば名前をお聞きしておりませんね。名は何とおっしゃられるのですか?」

 

 …名前か。こんな一時の稀人に聞くようなものじゃないだろうに。面倒な事この上無い。

 

「───式。両儀式だ。名字で呼ばれるのは好きじゃないから、よろしく」

 

 村長という女は私の不躾な態度も気にせず、式様、と小さく呟いた後、よろしくお願いしますとだけ言って淡く微笑んだ。

 …様付けなんて家にいた時を除けば香奈と一緒にいた時以来だな。

 

 

 

 

 

 夜。

 私は早速、近場にある渓流を彷徨いていた。別に依頼を受けたとかじゃない。単なる散歩だ。私はこうして昔の私を追うような事に頓着している。

 あの後紹介された私の休息所はとても贅沢な家だった。集会浴場と直接繋がる上にルームスタッフまでいる。長旅で疲れただろう、依頼は明日からで良いから、ともてなされた茶や飯は味に五月蝿い私が文句を出さない程度に満足できた。随分な厚遇だけどそうさせる程にこの村の状況は切迫しているのだろう。危険な仕事を任せるのだからせめて村にいる間は満足してもらおうと。分からない話でも無いけど私には無意味だ。例え野晒しにされたような僻地でも私は同じように振る舞っている。

 夜の渓流は美しかった。月下が夜の川瀬を彩り、光蟲や雷光虫が大地に飾りを付けてくれている。余人のいない自然の中で地図も見ずにフラフラと彷徨う。途中、紫色の蜥蜴共や猪達が寄ってきたけど刀で二、三、仲間の死体を晒してやればすぐに大人しくなった。

 そうして、どれほど歩いただろうか。自然の木を組み上げて作った大木の橋を渡ると祠があった。ここだけは何となく、この渓流の中で切り離された印象を受ける。途中に朽ち果てた家屋があったりもしたけどこの祠は自然に負けていない。木の根が侵食してたり、蜂の巣が作られていようとまだここには人の神秘が残っている。

 飽きる事も無くただひたすら祠を見続ける。人が作り上げた偶像ではなく元々そこにいた何かが奉られている感じだ。普通、人の手が入らなくなった祠の主というのは段々と劣化していって最後には荒神だとか人に害を成す何かへと変貌してしまう。そういう、『魔』を退けるのが両儀の家の役目だけどここは違うようだ。単に力があってしぶといのか、特殊な何かを持っているおかげなのか。理由は知れないけどこの祠の主は訴える事など何も無いらしい。黙して語らずただそこに在り続けている。

 

───その祠の主は底が知れぬ。人間共がここに巣を構え滅び去るよりも先にいた。おおらかな御仁なのか俺がここを仮初めの(ねぐら)にしても気にならんようだ

 

 振り返ると、あの稲妻の獣がいた。

 

 

 

 

 

「よう」

 

 一声あげて軽い挨拶をする。まぁこいつにそんなものは不要だろうけど。

 

───あの後どうしてた?お前は随分とあいつに(うな)されていたようだけど

 

───魘される?まるで俺が悪夢でも見ているような言い草だな

 

───悪夢だなんて大袈裟だ。あれは一時の淡い夢だよ

 

───ならばどう醒める。あれを夢だと言うのなら現実に俺はここにいまい。かつていたあの頂きに俺はいるはずだ

 

───うん、直に醒める。だってあいつは───

 

 

 

 

 オレが殺すから。

 

 

 

 

 少し"目"を見開いてそう伝えればはっと息を呑む気配がした。ようやく私がたかが人間と侮れる存在じゃない事を思い知ったらしい。話が通じている時点でそうだと理解してもらいたいものだが。

 

───そうか。あいつはお前の獲物か。なら手を出すのは野暮だな

 

───そういう事。だからお前はしばらく大人しくしていてくれ。表向きにはここ、お前が来たせいでおかしくなってるって触れ込みだから。

 

───ふむ。やはり人間共は今一歩踏み込みが浅いか。俺などその異変の一部でしか無いというのに

 

───この辺で一番強いのがお前だからだろ。お前がこっちに何もしなきゃオレもお前に何もしないよ

 

───は、俺が一番強いときたか。あの龍に俺は住処から追い出されたというのにな

 

 月夜の中、語り合う。傍から見れば私とこいつはただ並んでいるだけで何も喋ってはいないけど確かに私とこいつは語り合っていた。どうして話が通じるのかは知らない。興味も無いし、そういうものだと分かりきっているからだ。気にせず話しかけてくる辺り、こいつも同じ見解のようだ。

 

───この祠の主って、強いの?

 

───強い、か…。どうだろうな。俺は姿なぞ見た事無いし、どのような形で現界するのかも知らん。たぶん、その質問は無意味だろう

 

───なんだ、つまんない。歪んでいたのなら斬ってやろうと思ってたのに

 

───超越者を前にして言う事がそれか。血気盛んなのは構わんが寿命が縮むぞ?ただでさえお前達人間は命の時間が(はや)に過ぎ去る事で仕方無いだろうに

 

───大事なのは命の長さじゃないよ、質だ。どれほど短い命であっても望む通りに在れたのなら自ずと意味はちゃんと出てくる。知ってる?人間はね、一生に一度しか人を殺せないんだ。殺してしまえばもう自分の死を背負えない。一人ぼっちで死んでいくんだ。だからそうならないよう、人っていうのはそう生きてる。普通はね

 

───ほう

 

 言外にお前はどうだと値踏みするような視線をこちらにやる稲妻の獣。私はどうだなんて分かりきってる。私は───。

 

───いや、やめておこう。どうやらそれを聞くのは俺の役目ではないらしい

 

───え?

 

───何となしにだがな、お前はたぶんどこかを勘違いしている。そう思った、それだけだ

 

───オレが、勘違い…?

 

───元より何を求めているか。もう少しだけ、それについて考えてみるといい

 

 私が何を求めているのかなんてそれこそ語るまでもない。殺しがしたくて、人を殺してしまいそうで、だから、まだ話の済む竜とかを相手にしようとして、

 

 

 

 

 

 

『人を、殺してはいけないんだよ』

 

 

 

 

 

 

「っ…!」

 

 どうして。

 どうしてあいつの顔が浮かぶの。

 あんな漠迦なんて知らない。

 あいつにまた乱されるのが嫌なのに。なんで、なんで。

 嫌い(好き)嫌い(好き)嫌い(好き)嫌い(好き)嫌い(好き)嫌い(好き)嫌い(好き)嫌い(好き)大っ嫌い(大好き)

 

───やはり俺が気にかける事では無かったか。不躾に心を乱したのなら謝ろう。夜も直に明ける。お前と話すのは心地好い。また今度話してくれないか?

 

───え、あ、うん。分かった。オレもお前の事は嫌いじゃないよ

 

 思考の渦に没頭していた私を稲妻の獣は引き戻してくれた。うん、今はまだいい。あいつの事なんて帰ってから考える事なんだ。こんなところに来てまであいつに乱される道理は無い。

 明日、いやもう今日の昼か。本格的に依頼が来るという話だからそれまで違和感の無いよう家に戻ってなくちゃならない。最後に混乱させられたけど、稲妻の獣との会話を名残惜しみながら私は村に戻った。




書けた。やっと書けたああああああああああ!!!!!
式さん書きたくて書きたくてしょうがなかったんだ。私の一番好きなキャラだから(正確には少し違うけど)
地味に一人称視点初です。なるべくらっきょ本編見直しながら書いていこうと思います
ちょっとした補足ですが式の実力はらっきょ本編とそこまで変わりありませんがあっちと違ってナイフではなく刀を常時携帯しているので相対的にらっきょ本編よりも強く見える印象で書いていきます。昏睡の経緯については後々
中身はまだまだ未定ですがオチについては決まってます
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