モンハン世界にINしたアルトリアさん   作:エドレア

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また久しぶりになりました
あと今回登場するモンスターは以前のキリンと同じくモンスターの生態捏造が入ります
途中(に入れたい)BGM ~絶望を撒き散らす凶牙~


零零脈々

 ピチャ、と水の跳ねる音がする。

 いや、水というのは正しくない。確かにここは(・・・)水源豊かな沼地だけど今は確かに地獄だった。なぜなら体に伝う滴が私の着物を真っ赤に染め上げているから。

 

(えっと…どうしていたかしら…)

 

 私を狙う複数の気配を感じる。けど、どうでもいいことだった。───だって斬ってしまえばそれで済むもの。

 白い鎧武者が口から熱線を吐こうとする。

───頭を斬り跳ねた。

 群青色の蟹が私を切り裂こうとする。

───鎌ごと胴体を真っ二つにした。

 番の狼が圧を伴った咆哮と共に迫ってくる。

───すれ違い様に雄の脳天を唐竹割りに、雌は眉間を串刺しにしてやった。

 白い血吸い魔がそのよく伸びる舌を私に向けてきた。

───舌を細切れに、開いた口から頭のある上顎を全てを斬り捨てた。

 

(次は…次は…ああ…)

 

 もう何度斬ったか分からない。

 数えるのすら馬鹿らしい。とにかく色んなやつを斬った。斬った。斬った。斬った。斬った。斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちっ…あれから本当、寝覚めが悪い)

 

 あの暗殺者を仕留めてから早数ヵ月、特に大事も無いまま毛怠い日々が続いていた。

 変わったことと言えば稲妻の獣の、私に対する振る舞いが少し変わったぐらい。遠慮が無くなった代わりに物騒な話題をしなくなった。ネタが無いというのもあるだろうけど露骨にそういった話題を避けるようになったのだ。別に好き好んでしたいわけじゃないから気にしないけど。

 人手が足りないという割りに、村での生活は穏やかなものだった。評判が上がって他の村に駆り出されるとかそれすらも無い。元々、村近辺に住んでいる奴らは人間との距離のを分かっているから依頼に上がらないのが普通だからだ。唯一暗殺者が例外だったし稲妻の獣は新たな住処を探して彷徨していただけであいつ自身は人に何もしちゃいない。穏やかな日々が続くのは自明の理だった。

 

(いつまで続くんだろうな、この生活)

 

 いずれは故郷へと帰るつもりだからここに居着くつもりはない。平穏ではあるけれど、どこか空虚なこの生活を享受するつもりは無かった。

 

 

 

 

 

 義務的に集会浴場へ行くと珍しい事に先客がいた。男三人に女が一人、受付の前で相談している。───狩人だ。どうやら今日の私に出番は無いらしい。

 

「式様、おはようございます。この方々は…」

「流れだろ。湯治に来たんだったら好きにさせとけばいいと思うけど」

「あーいや、実を言うと流れではないんだ。歴としたギルドの仕事で来ていてね」

 

 男の一人が言った。密猟者の調査に来たのだと。どうやら砂の街からこいつらの捜査網を掻い潜ったやつがいるらしい。御付きの制服こそ着ていないが立派な騎士なんだと。

 それとは別にこの渓流近辺に本来生息していないやつの痕跡が見つかったからそれの調査も兼ねてるらしい。密猟者も一攫千金を求めて素材を独占しようと企んでいるだろうから場合によっては三つ巴になるだろうとも言った。

 

「…ふーん。痕跡って何の?」

「比較的、暖かいはずのこの地域で所々凍ってる場所が見つかったんだ。雪が降ったとか霜が降りたとかそういう次元じゃない、完全な『氷結』だ。おそらくはメゼポルタギルド管轄地域で確認される飛竜の仕業なんじゃないかな。君は村の戦力だし、有事の際いなければ困るから君は村に残っていてほしい」

「ひょひょ。モンスターを討伐するだけならチミで十分なんだけどねぇ、適材適所ってやつさ。まぁ、もし怪しいやつが来たら引っ捕らえる事ぐらいは頼まぁね」

 

 だけ、の部分を強調して酒飲みじじいは酒気と共に言葉を吐いた。仲間の女が露骨に顔を顰める。誰が相手であろうとこいつの酒飲みは変わらない。こいつの死因は間違い無く酒によるものだろう。そんなものわざわざ視なくたって分かる。

 

「では本部への連絡をよろしくお願いします。予定では七日間ほどの調査日程となりますのでそれを過ぎても戻ってこなければそういう結果だったと本部へ連絡して構いません」

「そうならないよう、皆様の無事をお祈りしております」

 

 では行ってきます、と狩人達は渓流へ旅立った。

 

「………………余所者なんて来たらあいつらが真っ先に殺るだろうにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっはぁっはぁっ…。畜生、何なんだあいつは!?聞いてたやつと違うどころの話じゃねえぞ!?」

 

 地図に載らない渓流近辺の森の中を必死に逃げる男がいた。密猟者の一味の一人だ。共にいたはずの仲間はいない。もうこの男が最後だ。他の仲間は喰われているか氷の彫像と化しているだろう。

 この世界において密猟者というのはあまり旨味の無い立場である。まず密猟という時点で本来受けられるギルドの支援を受けられない。支給品から始まり様々な支援があるが一番大きいのはネコタクの存在だろう。完全ではないといえ狩り場で力尽きた狩人の生存率の向上に一役買っている。例え狩人が丸呑みにされようが溶岩に落ちようが地中に引きずり込まれようが氷付けにされようが五体満足で生還できるのは彼らの力によるものが大きいのだ(それだけの事態があって尚四散しない狩人の体の方がおかしいが)。

 では密猟者に何も旨味が無いのかというとそうではない。ギルドの規約に縛られずにモンスターが狩れるため素材は好きなだけ剥ぎ取れる。またそういった密猟者は単独で動いているのではなく、大抵バックに何らかの権力を持った有力者がいてギルドを通さない特殊な依頼を請け負うために通常の依頼では有り得ないような多額の報酬が支払われる事もあるのだ。

 一度非合法な報酬に味を覚えてしまうと中々抜け出せない。男は仲間と共にまたそれを味わおうと欲の赴くまま渓流へ踏み行った。

 

「何だよ…!飛竜って聞いてたらどう見たって獣竜種だしあんなやつ見た事も聞いた事もねぇ!もう嫌だぁ…!」

 

 たった一点、彼らにとって不運だったのは狙う相手が想定外のモンスターだった事だ。

 男達が聞いていた相手は氷狐竜デュラガウア。レックス型の飛竜種で、全体的に青い体色に爪などの一部が橙色の姿をしている。耳が特徴的な形をしておりその形から狐の異名をギルドでは名付けている。名の通りに氷属性を扱うモンスターだが、他の氷属性モンスターと違うのは雪山や極海などの寒冷地域などではなく峡谷や塔、高地などといった比較的温暖な地域に姿を現すところだ。どの地域も氷孤竜以外に氷属性を操るモンスターがいないために出現した際の痕跡から特定する事は容易である。

 氷属性のモンスターなのに棲息地域が寒冷地域ではない、というのは現在のところギルドで確認される限り氷孤竜しか持ち得ない生態である。今回の『氷結』も何らかの理由で氷孤竜が渓流地域に流れ着いたのが原因だと密猟者も、ギルドの調査隊もそう考えていた。

 

「ひぃぃぃ、来たぁぁぁ!!!」

 

 逃げる男の後ろから大型の獣竜が姿を現す。大きさは彼の悪魔、恐暴竜イビルジョーと勝るとも劣らない。氷の世界から抜け出たような水色の体に所々黄色の配色が為されている。何よりも特徴的なのはその尻尾だった。───あまりにも巨大過ぎる氷に覆われていたのである。その氷塊の尾が振るわれる度に周囲に冷気が飛び散る。あの尻尾の攻撃を喰らった者の末路を男は知っている。何が何でもあの、錨のような形をした(・・・・・・・・・)尾の一撃は避けねばならなかった。

 

(なんで…なんでこんなに寒いんだっ…)

 

 男は知らない。目に見える脅威とは別に見えない脅威も迫っているのだと。

 温暖であったはずのこの地域がいつの間にかホットドリンクが必要なほどの寒さになっている。氷孤竜への対策にホットドリンクを持ってきてはいたがそれも気休めにしかならない。

 寒さで徐々に体の動きが鈍るのが分かる。それでも走る事だけは出来ていた。狩る気などとっくの昔に捨て去っている。俗人染みた欲など欠片も沸き上がってこない。今はただ、生への渇望を胸に走り続ける事しかできなかった。

 

「うそだろっ、あの動きは…」

 

 走って追いかける事に飽いた獣竜が全く違う動きを始める。体を縦に回転させ突進を行ったのだ。本来は爆鎚竜ウラガンキンが行う技である。爆鎚竜のような平たい背ならともかくスパイクのような隆起した骨盤が生えた背で行うようなものではない。だというのに、どこか驚異的な体幹を誇っているのか全くぶれずに男へ突進してきた。

 それでも尚避ける男。爆鎚竜のように的確に敵を捕捉して曲がっては来ず、ただ速度だけが早い真っ直ぐな突進であれば体力を消耗していても避けるのは容易だ。しかしこれで、男の横を通り抜けた獣竜が退路に立ち塞がる形となってしまった。

 

「クソッ、やっぱりやるしかねぇのかっ…!」

 

 得物である飛竜刀【銀】を引き抜き対峙する男。装備は得物と同じ素材で作られた銀色の貴重なシルバーソルシリーズ。全て密猟で手に入れた素材を使って得た物だ。希少種は強さも原種のそれを大きく上回っているが「希少」と付く通りにその発見も原種より困難を極める。発見した場合でも、周囲の環境に影響無しと判断すれば狩らずにむしろ保護が推奨される程だ。ハンターズギルドはモンスターの殲滅組織ではない。自然との調和を目指す組織である。男が希少種素材を集めるには、密猟でもしないと不可能だった。

 

「…フー……」

(狩らねぇとどうせ死ぬんだ。なら最後まで存分にやってやる)

 

 深呼吸。

 得物を引き抜いた事で僅かに男の心に火が灯る。密猟という非合法な形で手に入れた物だが自分が今までに成してきた事が、他ならぬ男の体を包んでいる。会敵からずっと恐怖にそのまま震えていた男だが、己は狩人なのだと再認識する事で泣き叫びそうになる心を奮い起たせた。恐怖は欠片も消えていない。ただ逃げる選択から戦う選択に変えただけだ。

 

(まずは一撃…!)

 

 一発で良い。どこでも良いから攻撃してまずは手応えを感じたい。だが現実は非情だった。

 獣竜の様子がおかしい事に男が気付く。上体を大きくあげ口に何か溜めている。ブレスの予備動作かと思ったがそれにしては溜め時間が長すぎる。

 無知故に、男の末路は確定的だった。少なくとも、もっと離れていれば良かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 獣竜がブレスを地面に向かって放つ。たったその一瞬。

 男のいる範囲も含む、獣竜の周囲全てが凍結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうか、余所者の仕業か。

 少し離れた崖上から俯瞰している稲妻の獣は、簡素にそう思った。

 なにやら暴れる気配がしたものでその気配が覚えの無いものだったが故に、一応、見回りとして来ては見たがなんてことのない極普通の命の営みが交わされていただけだ。

 とみに気にする事でもない。

 と、いうのにどうやら眼下の余所者───氷獰竜ギアオルグは稲妻の獣を次の相手に定めたようだ。濃厚な殺気を孕んだ視線を稲妻の獣に向けている。

 

 氷獰竜ギアオルグ。本来はメゼポルタギルドが管轄する地域・極海にのみ生息するモンスター。獰竜アビオルグの亜種とされているが実際はこちらが祖先に当たる関係だ。『獰』の異名が付く通り非常に獰猛な性質で、目に移るほとんどの生物が捕食対象である。様々な特徴を持っているが特に顕著なのはやはりその尻尾だろう。先が刃のような形状になっており、それを振り回すだけでも十分脅威だがそこに氷を纏って尻尾を強化するのだ。これは近縁種の獰竜にすら無い特異な生態である。

 だがしかし。この場にいる氷獰竜はその尻尾を刃の形ではなく錨のような形状へと姿を大きく変えていた。他の部位もより鋭利な形に変化している。

 辿異種。

 原種とも亜種とも違う、より特異な進化の系譜を辿った種類の事である。辿異種に共通する特徴はそのモンスターにおいて特徴とされる部位がまた別個の形に進化している事だ。またモンスターによっては本来その種が持っていた特徴を別の部位と引き換えに退化させてしまっている例もある。近年のメゼポルタにて初めて確認された種類だけに情報が少なくメゼポルタでもG級のハンター、それも一定の実力を持つ者でしか依頼を受ける事ができない極めて危険性の高い存在である。

 

 この辿異化した氷獰竜はどうやら氷獰竜としての性質を保ったまま極海地域から抜け出てしまったらしい。尻尾に纏った氷が常温であるはずの渓流地域で溶けていないのは一重に氷獰竜自身の能力と、単純に氷を砕くだけの猛者に出会っていないからだ。

 この氷獰竜は既に雷狼竜ジンオウガを知っている。彼であれば更に強いはずである金雷公ですら属性の相性も相まって余裕で圧殺できるだろう。メゼポルタでG級に認定されるモンスターは他の地域でのG級とは訳が違う。常識的に考えてこの氷獰竜が渓流地域に出現してしまったのは紛れもない災害と呼べる事案だった。

 

 全く、面倒な事になったものだ。

 稲妻の獣はそう思いつつ崖から飛び降り氷獰竜と相対した。氷獰竜は既に溜めの姿勢を取っておりいつでも攻撃が行える状態である。少なくともこれまで屠ってきた雷狼竜と同じように殺すつもりだろう。

 

 だがこの氷獰竜も無知だった。上には上がいるという事を。

 

 氷獰竜も雷狼竜も溜めてから行う攻撃を持つが、溜めたあとの行動はまるで違う。氷獰竜は氷で強化した尻尾に頼った範囲攻撃を主体とする。もしくはブレスで周囲を凍結だ。遠くから見ていれば避ける事そのものは余裕でできる。そこまで早い攻撃ではないからだ。そして雷狼竜は───。

 

 稲妻の獣も雷電を溜める。近くで見ていれば気付いただろう。溜め始めた瞬間、徐々に身体が白くなっていく(・・・・・・・)様子を。

 

 

 

 

 お互いの溜めが弾け飛ぶ。

 その瞬間、極み吠える一撃が閃光と共に氷獰竜を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なーんにも起きない、か…)

 

 特にやることも無く、ただひたすら部屋の寝台で横になっている。

 本当にやることが無い。退屈ではあるんだけど、村にいるように言われているから、稲妻の獣に話をしに出掛ける事もできない。

 いっそ強引にでも、隠れて出掛けようかと思った時だった。───誰かが廊下の奥からこっそりやってくる気配がする。受付嬢でもルームサービスでもない、知らない気配だ。

 自分に関わるこんな事ですら、絵本を読んでいるような他人事のような気持ちでいられるからやっぱり私は異常者なんだろう。退屈を紛らわせてくれるのならむしろ来いと心の中で催促する。

 やがて現れたのは一人の銀色の武具を纏った狩人らしき男だった。なぜか表面が所々凍りついている。朝見かけた連中にはいなかった奴だ。

 

「なぁ、おまえ!ダメ元で聞いてるのは分かってるんだけど、俺を匿っちゃくれねぇか!頼む!」

「いいよ」

「やっぱダメだよな…えっ?」

「いいって言ったんだ。で、匿うって何すればいいの」

「え、と…。俺をこの家に置くとか、素性とか黙っていて貰えると助かるなって…」

「そういう簡単な事か。分かった」

「…え?あんた、冗談じゃないよな?まさか本気で言ってる?この、見ず知らずの怪しい男を本当に匿うって?」

「うん。退屈してたし。今ならちょうどいいかなって。素性も何も、オレは興味無いしな」

「…えっと、よろしくお願いします?なのかこれ…」

「オレの邪魔さえしなけりゃそれでいいよ。部屋は好きに使え。オレは寝る事ぐらいにしか部屋を使わないし、その物入れや本棚なんか使わないからな。ちょうどいいだろ」

 

 

 

 

 一時の稀人だったつもりなんだけど───まさかこれが長い付き合いの始まりになるだなんて、この時は夢にも思わなかった。




冒頭でもお伝えした通り久しぶりなりましたね
いや、酒飲みながら辿異ギアのハンマー赤まで最終強化するためにマゾい連戦繰り返してたらなんか頭に降りてきたんですよ。酔っぱらいのテンションで書いたものなので誤字脱字あれば指摘よろです。お願いしますm(__)m

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