タツミが斬る!《赤と黒の鬼》   作:虎神

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(さぁて、いよいよもっとどうしよう)

 

ベッドの上、俺はそこに正座しながら今の状況を考えていた。耳に届くはシャワーの流れる音。

そうここは、我らがナイトレイドの打倒すべき敵である、帝国最強とも名高いエスデス将軍の部屋なのだ。

 

「無理だ。いくらなんでも無理だ。あの見るからにやばい人だぞ!?喰われるにきまってる!!」

 

「馬鹿、とりあえず今日のうちは何もせん」

 

....ゆっくりと、俺はその声がした方向に首を向ける。

そこにいたのはシャツ一枚でベッドの前に立つエスデス将軍だった。

 

「...いつおあがりで?」

 

「たった今だ。どれ、何か飲むか?」

 

そう言ってベッドに腰掛けるエスデス。

格好が格好なだけあって、動きの一つ一つが艶かしく感じた。

 

「いえ、いいですよ。...それよりもエスデスさん、俺あなたに聞きたいことがーーー」

 

「むっ...」

 

しかし、その言葉はエスデスの顔が近づき防がれる。

キスをしようとしたんだろうが、俺はその間に即座に手を入れる事に成功した。

いやほんと、いきなりなりするのこの人?

 

「なぜ拒む...」

 

「いや、普通拒むでしょ。たとえエスデスさんが俺のことが好きだとしても、俺はエスデスさんの事が...はっきり言って嫌いの分類に入りますしね」

 

「...ほぉ」

 

その言葉に、目の前のエスデスの目が鋭くなった。

 

「私が嫌い、か。初めてだな、そんな言葉を面と向かって言われたのは」

 

「エスデスさんは強い。だからこそ言われないんですよ。強いものには恐怖し、慄く。それが人間ってものですからね」

 

「ならばーーー」

 

「だからと言って、あなたのやっている事が正しいとは全く思えない。この際ですから言いますが、俺は働くならまだ革命軍の方がマシだと思ってますしね」

 

この際だ、自分の言いたい事は言っておこう。

俺という人間がどれほどこの国に不満があるのか、どれほどこの国が廃れているのか、全て話しておこう。

 

「タツミ、帝国の将軍相手に何を言っているんだお前は」

 

平手打ちが飛んでくるが、それを手で掴み防ぐ。

だが、エスデスの様子は変わらない。

 

「もしも、あなたが革命軍にいたらって心から思うよ。きっと今の状況は崩れ、帝国は今よりは良くなっているだろう。でも、そんな事は絶対にないんだろうなと、つくづく今日の一日で思いましたよ」

 

「...まるで私の事を全て知っているみたいな言い草だなタツミ」

 

「まさか、全てなんて知るわけないじゃないですか。俺はあなたの百分の一すらもわかってないのかもしれない。でも、これだけは断言できる。あなたはただ戦争がしたいだけの狂人だよエスデスさん」

 

ーーーだから、俺がそんな人を好きになる事は絶対にない。

 

そう、俺は言った。

無言のまま顔を俯かせるエスデス。表情は見えない、怒っているのか、それとも悲しんでいるのすらもわからない。

ただ、エスデスの事が嫌いだという事は言う事ができた。

 

「ならばタツミは、私と敵対するという事か?」

 

「...悪いが、このままだったらそうですね」

 

瞬間、俺の首には氷の剣が突きつけられていた。

勿論その柄を握るのはエスデスだ。

 

「何故だ...何故だ何故だ何故だ何故だ!!何故タツミは分からない!この世は所詮弱肉強食だ、弱い者は淘汰され、強いものが生き残る。タツミだって剣の腕を磨き続け強くなったから、私の目に留まったのだ!」

 

「だから、弱い奴は死んでも当然?滅んでも良し?それに対する回答はこうですエスデスさん、ふざけんなっ!!」

 

「ッ!!」

 

「理由がどうだとか関係ない。ただ俺がそれを気にくわないからだ!あんたの短いものさしで、人の命をはかんじゃねぇよ!」

 

もはや叫び声に近いそれによってか、廊下を見回っていた兵が部屋の扉を叩く。

俯いたエスデスは、手に持った氷の剣を消すと大丈夫だと言った。

俺は息を一つ吐くと、ゆっくりとベッドに横になった。

 

「...すいません。でも、これが俺の本心です。あなたを嫌い、あなたを否定する。きっと、あなたが変わらない限りこの想いは変わらないでしょう」

 

「....」

 

「...イェーガーズのみんなに聞きましたけど、エスデスさんは恋がしたかったらしいですね。ここまでの事を将軍のあなたに言ったんだ、何をされても文句は言えない。拷問して支配するのもありでしょう」

 

「....」

 

まぁ、最悪殺されるがしょうがないだろう。将軍の近くにいてここまで生きている事ですら、はっきり言って奇跡なんだ。みんなには悪いが、俺は俺の言いたい事を言いきった。そこには後悔などは全くない。

 

そんな時、俺はあることに気づく。

先ほどからエスデスが、ベッドに座ったまま喋らないのだ。

 

「あ、あの、エスデス...さ...」

 

「....」

 

目を、俺は自分の目を疑った。

そこにあったのはただ無言のまま俯き、目から涙を流す(・・・・・・・)エスデス将軍の姿だった。

 

(え?)

 

一度目をこすり、改めて見る。

 

「....グスッ」

 

(...えぇぇぇぇえええええ!!?)

 

いや待ってほしい、本当に待ってほしい。どうしてこんな状況になっているのかが分からない。

だってあのエスデス将軍だぞ?あの将軍が泣くとか...え?偽物?

 

「...おい、失礼な事を考えているなタツミ」

 

「え!あ、そのぉ...」

 

「ふっ、まぁいいさ。私とて、涙を流したのなどいつぶりなどと覚えていない。村がなくなった時でさえ涙は出なかったというのに、好いている者から絶対的な拒絶を貰うと、ここまで悲しいものなのだな」

 

それは、涙の混じった微笑み。

だが、やはり悲しみの方が優っているように思えたが、それでも俺は。

 

「...取り消すつもりはありませんよ」

 

「ああ、別にいい。ここで取り消しなどしていたら、それこそ私はお前を殺していたかもしれん」

 

「こんな俺を、まだ好きでいるつもりですか?」

 

「...ボルスが言っていた。恋愛とは時間をどれだけかけるかが勝負らしい。挫けずアタックしまくれだと。だから、私はお前を諦めないぞ、タツミ」

 

エスデスはそのまま、俺の体を抱きながら横になる。

普通ならきっと、ドキドキして眠れなどしなかっただろうが、肩を少し震わせながら抱きつく歳上のはずのエスデスは、まるで子供のように思えれたのだった。

 

(はぁ、まるで俺が悪いみたいじゃないか)

 

「おやすみ、エスデス」

 

そして、ゆっくりと頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日眼が覚めると、隣でエスデスはまだ寝ていた。

泣き疲れたのかは分からないが、随分とぐっすりだ。俺は起こさぬように拘束から出ると、そのままみんながいるであろう部屋に向かった。

 

「おう、おはようタツミ!昨日お前の声が聞こえてきたんだが大丈夫だったか?」

 

「おはようウェイブ、てかそこまで聞こえてたのか。悪かった、少しエスデスさんと言い合いになって」

 

それに驚いたウェイブは、"ええぇ!?"と大きなリアクションをとる。

 

「エ、エスデス隊長と言い合いとか...お前だけだよそんな事が出来るのは」

 

「別に、ウェイブがチキンなだけでしょ?おはよう、お兄さん」

 

「ん?おうクロメか、おはよう。あと、そのお兄さんっていうのやめてくれ。なんだかむず痒い」

 

「分かった、じゃあタツミって呼ぶね!」

 

話に入ってきたのは、椅子の上で袋に入ったお菓子を食べている、セーラー服に似た軍服を着た少女クロメだ。

ナイトレイド、アカメの実の妹でもある。

 

「おい、俺はチキンじゃないぞ」

 

「そうだぞクロメ、ウェイブはコウガマグロだ」

 

「いや、それってビビりって特性的に対して変わらないんじゃ...」

 

「あ、そうだね。ごめんねウェイブ、間違っちゃって」

 

「本気で謝りにきただと!?やめろ、そんな目で俺を見るなぁぁぁあああああ!!」

 

ふむ、さすがはウェイブだ。おちょくられたら右に出るものはイェーガーズにはいないだろうな。

だけど、うちの変態馬鹿に勝てるかな?などと考えていると、背後から頭の上に何かが乗っかった。

 

「っと」

 

「あ、コロ駄目でしょ!ごめんなさいタツミ」

 

「はは、いいよ別に。おはようセリュー、コロ」

 

「はい!おはようございます!!(キュー!)」

 

流石、相性抜群だ。

そして数分後、軍服を着たエスデスが扉から入ってきた...が、何か様子がおかしかった。

 

「すまない、少し遅れた」

 

「いえ、別にそれはいいんですが...って、隊長なんか目が赤くないですか?」

 

「...気のせいだ」

 

「いや、でも...」

 

「なんだウェイブ、貴様そんなにも私の拷問が受けたいのか?だったらそういってくれればーーー」

 

「いえ!なんでもございません!!」

 

顔を真っ青にしながらそう言うウェイブ。

部屋にいる皆は笑っていたが、それよりも俺はエスデスの様子が少し気になった。

そうなにか、落ち込んでいるように思えたのだ。

 

「それとタツミ」

 

「あ、はい」

 

突然呼ばれた自分の名前に驚くが、どうせお前も付いて来いみたいな事を言うのだろう思った。

だが、いきなりエスデスが自分に袋を一つ投げ捨てた。

 

「....あの?」

 

「お前は今日で釈放だ、無理矢理連れてきて悪かったな。それは迷惑料だと思って取っておいてくれ」

 

『...!!?』

 

.......え?

 

「なんだ貴様らその顔は。何かおかしなことでも言ったか?」

 

おかしいなんてもんじゃない。

あの残虐将軍のエスデスが、俺と言う思い人を諦めた!?いや、俺としたらすごく助かったんだが、少し信じられないでいた。

しかも、それは周りとて同じ反応だった。

 

「エスデス将軍、今日は少し休みましょう。きっと疲れが溜まっているんです!眠るなら抱き心地が良いコロを貸しますから!!」

 

「いらん」

 

「まさか、昨日聞こえたタツミの怒鳴り声に関係が!?ほらタツミ!影で鞭降られる前に謝っちまえ!!」

 

「ふらん」

 

「将軍、お菓子食べる?」

 

「くわん」

 

お前ら三人共馬鹿じゃねぇの?

特にクロメ、それはもはや慰めになってない。

だけどーーー

 

「いきなりどうしたんですか、あなたらしくもない」

 

「なんだ、私の事が嫌いなのだろう?ならばどこでも行ったらいいじゃないか」

 

....ん?

 

「いや、だからってこんな追い出すみたいな」

 

「知らん、さっさと行け」

 

全く聞く耳を持たないエスデス。

俺はそんなエスデスの様子を見て、どうしてこんな行動をとったのかが分かった。

 

「...エスデスさん、まさか拗ねてます?」

 

『!!?』

 

きっと、驚くということは皆も気づいていたのだろう。まぁ普通怖くて言えないがな。

すると、エスデスの肩が震えだす。

 

「...てけ」

 

「え?」

 

小さな声、思わず耳に手を当て聞き返してしまった。

そしてキッとエスデスは俺を睨むと、その細腕で胸ぐらを掴んだ。

 

『え?』

 

「さっさと出て行け!!この馬鹿タツミィィイイイイイ!!!」

 

「ぎゃあぁぁああああ!!?」

 

パリーンっと窓を突き破り吹き飛んだ俺、いや違った。吹き飛ばされた俺は、そのまま城の城壁すらも飛び越えていったのだった。

そして思う、エスデスも可愛らしい所があるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ....」

 

『.....』

 

やってしまった。声を荒げ私らしくもない。

部下も皆、私を見て呆然としていた。

 

「...すまん、取り乱した」

 

「い、いや、それよりもタツミは大丈夫でしょうか?」

 

「あいつなら大丈夫だろう。あれでも強い」

 

そうは口が言うも...ああ、胸がモヤモヤする。

これが恋というものだろうか?よくよく考えてみれば、どうして私はこんなにあいつに惚れ込んだのだろう。きっとよく探せば、あいつよりもいい人材がいるはずなのに。

 

そんな事を考えていると、先ほどまで喋らなかったボルスが口を開いた。

 

「エスデス隊長、少しいいですか?」

 

「なんだ」

 

「それでは...では頭で想像して見てくださいね。今、タツミくんはエスデス将軍が飛ばしたであろう場所で、綺麗な女性と話している」

 

ーーーバキッ!!

 

(おっと、どうやらこの机は腐っていたらしいな。新しく支給しておこう)

 

「その女性の家で、夕食を食べ笑っている」

 

ーーードゴンッ!!

 

(おや、次は床か。全く、この城はいつから欠陥建築になった?)

 

「そして最後はその女性と、ベッドでーーー」

 

ーーードガァッァアアアアアアン!!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ...」

 

壁が吹き飛んだ。

否、言葉通り吹き飛んだのだ。

タツミが飛んでいった窓はもはやなく、そこには土竜の頭ほどの大きさの大穴が開いていた。

ウェイブ達は何も言えない、もしも今エスデスに口を開こうなら、氷漬けにされてしまう予感があったからだ。

だが、ボルスだけは口を開く。

 

「エスデス隊長。それは本気でタツミくんを好きだという証拠です。きっと、あなたの思い人はタツミくん以外に現れないと思います」

 

「...何故、お前にそれが分かる?」

 

「何故?簡単ですよ、エスデス隊長ーーープライドが高いあなたを、そんなに顔を赤くさせている原因がタツミくんだからです」

 

覆面で見えなかったが、きっとその時ボルスは笑ったのだろう。

それを聞いて、私は改めて自覚した。

 

ああ、私はタツミが大好きなんだと。

 

 

 

 

 

 

 


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