第55話 来たる、最強の魔導師
あの告白騒動から数日が過ぎ、仲間内でも2人の関係がすっかり定着していた。ウェンディもすっかりギルドに馴染んでいて、ギルドも普段通りの雰囲気に戻っていた。
「ここは慣れた、ウェンディ?」
「はい。なんとかやれてます。2人ともすっかり恋人ですね、手をつないでくるなんて」
「女子寮が良いわね、気に入ったわ」
「フェアリーヒルズか。あそこ家賃が10万するって聞いたが…今のルーシィじゃ厳しいな」
「わ、悪かったわね金欠で」
今日も仲良くやっている2人の会話を打ち切ったのは外から聞こえる鐘の音、しかもいつもの時報とは違った音色だ。
「この鳴らし方、ギルダーツか!遂に帰ってきたか!」
「誰ですかそれ?」
「このギルドで最強の男なんだって。それにしてもこの騒ぎようはなに!?」
ギルドのみんなが急に慌ただしく動き始めた。いつもの騒ぎ方とはまるで質が違い、外からギルダーツシフトなるものが騒がしく聞こえてくる。
「3年ぶりに仕事から帰ってきたんだよ」
「3年も!?どんな仕事よそれ」
「100年もの間誰にも達成できていない魔法界最高難度クエスト、それが100年クエストだ。その下に10年間未達成の10年クエスト、SS級、S級があんだよ。俺の場合10年が限界だな、100年の方は無理」
「ひええ、そんな難しいの?…で、ギルダーツシフトって何?」
「…外見ればわかるさ。もう出来上がってるはずだ」
入り口の方を見てみると、ギルドの入り口からまっすぐに街が割れて、道ができていた。
「街が割れるって、うっそぉ…たった1人のためにここまでする?」
「あいつ、ぼーっとしてるとたまにクラッシュって魔法で民家突き破ってきちゃうんだ。だからここまで障害物がないように改造してんだよ」
「すごいですね!」
「ええ、すごいアホよ」
「来るぜ。このギルド最強の男が…」
帰ってきたギルダーツは三年も仕事に出ていたからか、かなりくたびれた顔をしていた。
「ふぅ。疲れた」
「俺と勝負しろ、ギルダーツ!」
「いきなりそれかよ!」
「おかえりなさい」
「この人が…」
ギルダーツを見る目は羨望と尊敬の眼差しが多い。それだけ信頼され、敬われているのがよく分かる。当の本人は少しぼーっとしているが…。
「お嬢ちゃん、この辺にフェアリーテイルってギルドなかったか?」
「ここよ、それに私ミラジェーン!」
「ミラ?おお、すげぇ変わったな!ギルドも改装したのかよ!」
「見て分からなかったんだ…」
「俺と勝負しろぉ!」
「ナツか。まぁ、また今度な」
あのナツを右手の一発でいともたやすく天井に吹き飛ばした。
「まだまだその座を譲る気はなさそうだな、ギルダーツ」
「ジンヤか!ギルドや面子が変わってもお前は全く変わんねえな。それよりマスター、久しぶり!」
「うむ、仕事はどうじゃった?」
「がっはっはっはっ!!すまねえ、失敗だ…俺じゃ無理だわ」
最強の魔導師をしてまさかのクエスト失敗。その軽い言葉の裏には並々ならぬ重みがあった。この一言に皆驚愕を隠せない。
「すまねえ、名を汚してしまって」
「そんなの気にせんでよい、帰ってきてくれただけで十分。聞く限りでは生きて帰ってきたのは主が初めてじゃ」
「俺は帰るわ。ひー、疲れた疲れた…そうだナツ、後でオレん家来い!…んじゃ失礼」
「入り口から出てけって。直すの俺なんだからよ」
壁を壊しながら後にしていったギルダーツを静かに見送るしかなかった。
「はぁ…飄々としててナツを一撃だからなぁ。やっぱ強えわ」
「手合わせしたことあるの?」
「一回だけやったんだがダメだったよ、さっきのナツみたくすぐ伸された」
「あんたがすぐ伸されるなんてねぇ」
「まだあいつにゃ敵わんよ…(でもあの感じは、まさかな)」
この時、異なる世界軸に繋がろうとは誰も予想していなかった。
はい、というわけでおそらく次かその次がエドラス編の最初になります。
それではまた次回。