神を喰らう日常   作:指切りの約束

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レムだけが一人称で、それ以外の地の文は三人称になってます。それだけ気をつけてください。






第2話

 よく晴れた日。急いでやる仕事もなく、どこかの部隊がアラガミに囲まれて困っているなどの連絡が無いからラウンジで淡々と流れる電光掲示板の文字をぼんやりと眺める。これと言って僕に重要な情報が流れることも無く、どこの部隊がいついつ出発や誰それの呼び出し、重鎮が来るから気をつけろ等々、はっきり言ってどうでもいい事だ。

 fcで自販機から飲み物を2本買ってミッションカウンターに向かう。掲示板を見た限り今出払っている舞台はあるものの、緊急事態に陥っている部隊はいないのでヒバリちゃんは忙しくないはずだ。やらなければならない書類とかあれば忙しいかもしれないが、この前のヴァジュラ相手に大立ち回りした時のオペレーションのお礼が出来ていないので時間のある今の内にしておきたかったのだ。

 

「あっ! レムさん! 丁度いい所にいらっしゃいました」

「なに?」

 

 ヒバリちゃんに声をかけようとしたら、逆にこちらが声をかけられた。取りあえずは先日のお礼を言ってプルタブを開けてカウンターに置く。

 

「あちらでレムさんを待っている方がいますよ」

「マジか」

 

 それならさっきラウンジにいる時に声をかけてくればいいものを、どうしてわざわざ待つ必要があるのか。そんな少しおかしな奴がいるんだなと思って、ヒバリちゃんに教えてもらった方に目をやる。

 そこには確かにおかしな奴がいた。フェンリルのマークを背負ったコートを身につけ、タバコをふかしている。普段から忙しいあいつが僕を待っている時点で碌なことはない。

 ヒバリちゃんから何も聞かなかったし、僕は何も見なかったことにして、やるべき仕事を探そう。バレットの改良についてリッカちゃんと話してもいいし、コウタくん特訓プログラムを考えてもいい。部屋の片付けは……要らないかな。

 何はともあれ、早くこの場所から逃げなくちゃ!

 

「どこに行くつもりだ? おい」

 

 決心とは反対に、離脱に失敗したことを確認。

 面倒だなと思いつつも後ろを振り向く。そこには今までビールをあげたとき以外見たことのないような笑顔を浮かべるリンドウがいた。

 

「こんなところで会うなんて奇遇だな」

「普通に昨日も会っただろうが」

「そうだっけ? 何か用事でもあるの?」

 

 チラチラと脇を見て抜け出せるタイミングを図っているが、丁度いいタイミングがあっても僕の肩を掴んでいるこの手をどうにかする必要がある。

 

「ある奴を待っててな」

「なら僕に構わないで、静かにその人を待ってたほうがいいんじゃないかな? すれ違っても大変じゃん?」

 

 僕の肩を強く掴んでいる手を離すべくこちらも力で解決しようとする。しかし、あんなに重い人機を振り回しているだけあって全然離れない。詰んだ。

 

「でもな、ちょうど今目の前にいるんだよ」

「へぇ」

 

 体を右にずらし、リンドウの目の前にいる人じゃなくなる。こんな子供みたいな素振りが通用するわけもなく、目線は再び僕に向けられる。

 ここらで潮時かな。観念したほうが楽になりそう。

 

「はぁ。でなんの用かな?」

「すぐ折れるんだったら最初からそうすればいいものを。まぁいいや、とりあえず新人教育に付き合え」

「噂の新型くんの?」

「おう」

 

 新型って近接と遠距離のどっちも出来るんだよね。僕が教えられる所があるのかいささか疑問だ。それに僕じゃなくて他の人でもいいはずだ。同じ部隊のサクヤでもいい。てか、そっちの方が後々やりやすいと思う。

 

「嫌だよ、面倒くさい」

「相変わらず自分の管轄外になると冷たいな」

「うるせ」

「支部長からの命令でもか?」

 

 マジすか支部長……。

 後ろ盾が無い僕は基本上の者に逆らうことが出来ない。だって逆らったら首が飛んで、最悪本当に死んじゃうかもしれないのだから。

 でも今は流石にやめて欲しかった。

 

「いつから行くの?」

「今からだ。準備出来てるな」

「そんなわけ無いじゃん。3分だけ待って。準備して出撃ゲートの前にいるから」

 

 リンドウは付き合えと言っていたから僕が教えることはあまり無いのだろう。けれど、コウタくんの指導の参考にするために行かせてもらおう。

 誰に言い訳をしているか分からないが、持ち物を確認して人機を取りに行かなきゃ。

 

 

 

 

「命令は3つ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ」

 

 ユウは数週間に及ぶトレーニングを終え、ついに実地に赴く事となった。ミッションを受け、ヒバリに第一部隊の隊長と行くことを説明され待つこと数分。タバコを吸いながら、軽口を叩いてリンドウがやって来た。

 「詳しい話は着いてからする」と言って出撃ゲートに向かう。出撃ゲートでも待つこと数分。誰かを待っている様子のリンドウの携帯端末が鳴り、何事もなかったかのように出撃ゲートをくぐる。ユウも少し遅れてリンドウについて行く。

 

 ヘリコプターに乗り込むリンドウに「誰か待ってたんじゃないですか?」と尋ねられるほど、ユウに余裕はなかった。このヘリコプターが着けば遂にアラガミと対面する。その恐怖がユウの余裕を無くさせる。心臓の鼓動が早くうるさい。

 向かい側に座るリンドウはいつもの事のように外の景色を見ている。

 

 そしてヘリコプターは断罪の街に到着する。それぞれの人機を持って大地に降り立つ。吸っていたタバコの火を消し、リンドウはユウに話しかけた。

 リンドウの自己紹介が終わり、生き残るためにすべきことを伝えられた。

 少し心に余裕が戻り「それじゃ4つですよ」と伝えようとした時、ユウの後ろから声がした。

 

「それだと4つじゃないか」

「確かにそうだな。まぁとりあえず死ぬな。それさえ守れば万事どうにでもなる」

 

 その人がリンドウの待ち人だと分かると同時に、この人が何処からやって来たのか分からなかった。ヘリコプターに乗っていたのは自分を含め二人だったはずで、後からヘリコプターがもう一台やって来た音もしていなかった。

 

「大抵コイツが何とかしてくれるからよ」

「人任せ過ぎる。君が直属の上司なんだから君が責任を持て」

「あ、あのこの方は?」

「おら早く自己紹介しろ」

 

 ユウは勇気を振り絞って「この方はどうやって来たのか?」を聞いたのだが、リンドウには「この方はどなたですか?」というように聞こえレムに催促をした。

 自分の求めていたものとは違うが言われてみればそっちの方が遥かに興味がある。自分の目の前にいる()()()()()()の神機を持っている人は誰なのか。

 

「極東支部第八部隊隊長のレム。基本の仕事は遊撃だけど、何故かヘリコプターの操縦とかオペレーターもやってるよ」

「これからコイツにも手伝ってもらうから顔と名前は覚えとけ」

「それは初耳なんだけど……」

「言ってないからな」

 

 リンドウにとても良い笑顔でヘッドロックをキメるレムの言葉で、ユウのいくつかの疑問が解消された。彼が誰でどうやって来たのか。

 しかしそれと同時にまた疑問が生じた。

 コウタから話してもらったレムはアサルトを使っているはずだ。しかし、いまレムが持っているのはアサルトではなく()()()()()である。

 

「てかお前。なんでスナイパーなんだよ」

「昨日、サクヤとジーナといろいろ研究するためにスナイパーに変えてたし、君が突然言い出したから変える時間が無かったんだよ」

「それじゃお前を呼んだ意味がねぇな……」

「……帰っていい?」

「それじゃ俺たちが帰れなくなるから」

 

 レムは少し悩む様子を見せ、スナイパーを握り直し高台から降りてすぐに姿が見えなくなってしまう。

 リンドウはため息を吐いて、ユウの方に体を向ける。

 

「なんか悪かったな。まぁ気を取り直して初ミッションと行こうか」

 

 

 

 

「レムさーん。居ますか?」

 

 アサルトの運用法について分からないところが出来たコウタは、ベテラン区にあるレムの部屋の前に来ていた。部屋にいたら何でも質問していいと言われており、その言葉に従ってきたのだが、返事はなく。どうやらレムが居ないことが分かった。

 

「仕方ないか、レムさんが何処にいるかヒバリさんに尋ねよう」

 

 踵を返し、ラウンジに戻ろうとした時後ろから声をかけられた。

 

「あら、レムに何か用かしら?」

「え?」

 

 アナグラにやって来てからレムとの訓練に勤しみ、榊博士の講義を聞き、残りの時間はユウやヒバリ偶にツバキと話をするのみのため、アナグラにいる多くのゴッドイーターのことを知らずにいた。

 そして今目の前にいる女性も自分と同じく腕輪をつけていることからゴッドイーターだと分かるが、名前は分からない。

 簡単に折れてしまうのではないかと思えるほど線の細い体に、さらにその儚さを主張するような艶のある真っ直ぐな銀髪。綺麗な顔には眼帯が付けられている。

 

「えっと……アナタは?」

「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るものよ」

「す、すみません。オレは藤木コウタっす! 一応これから第一部隊に配属になるらしいです……」

 

 コウタが少し緊張し挨拶をすると、女性は艶美な笑みを浮かべた。

 

「冗談よ。少し言ってみたかっただけなの。そんなに緊張しないで」

「は、はい」

「わたしはジーナ。ジーナ・ディキンソン、防衛班第三部隊に所属よ」

 

 すると突然ジーナはへそ出しスタイルのコウタの体を触り始めた。

 

「ひゃい! いきなり何するんすか!?」

「ちゃんと鍛えられてるわね。やっぱり彼の腕がいいのかしら」

「あのー、聞いてもらえてます?」

「話なら中で聞くわ」

「……聞いてないよな」

 

 コウタの呟きに応えるでもなく、ジーナはレムの部屋の扉脇にあるパネルに数字を入れる。するとレムの部屋の扉が開いた。

 

「ほら入って」

「勝手に入っていいんすか?」

「ここはレムの部屋だけど、レムの部屋なんて呼べるところじゃなくなってるから良いのよ」

 

 入っていいのか悩みながら、コウタはジーナの後に続く。レムさんの部屋はどんな感じなのだろうと、ジーナにはああ言ったものの、うきうきしながら部屋に入った。

 しかし部屋の中はのコウタの想像と全く反対だった。

 ベテラン区の部屋という事もあり、新人区にあるコウタの部屋に比べれば大きさは全く違う。だが、生活感で言ったならば天と地の差でコウタの方が上だった。

 おそらくお酒やコレクションを置くであろうと思われる棚にも、体を休めるためのベッドにも書類やファイルが所狭しと置かれている。

 生活感があるところと言えば沢山の紙が散乱し、飲み物の缶があるテーブルぐらいだろう。

 

「空いてる椅子に適当に座って」

 

 小さな冷蔵庫の扉を開いて中を屈んで覗く。飲料缶を取り出して、テーブルの上に乗せジーナ自身も席につく。

 

「それで、何が聞きたいのかしら?」

「はい?」

「レムの部屋に来たんだから聞きたいことがあったんでしょ。私はスナイパーだからアサルトのことはそんな詳しくは知らないけど、初歩的なところなら答えられるはずよ」

 

 半信半疑でコウタはジーナに対して、レムにしようと思っていたオラクル運用について質問をする。アサルトはアラガミとの距離が近いため、オラクル運用はブラストに似通う。

 スナイパーのジーナに答えられるのかと(失礼ながら)思っていたコウタだったが、おそらくレムとの仲の良さからレムの弟子であると思われるジーナの回答は適切で、コウタの悩みは解消され、さらに新しい知識まで身についた。

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

「いいのよ。新人教育は仕事の一つで、更にアナタは私の弟弟子(おとうとでし)なんだから」

 

 指導を終えたジーナは飲み物に口をつける。その姿を見ていたコウタは、机の上に散乱しているレポートが目についた。

 

「あのこれって」

「昨日の話し合いに使ったものがそのままになってるのよ。レムったら片付けずにミッションに行ったのね」

 

 ここはレムの部屋ではあるがこの部屋にはあまり居なく、大抵ミッションやラウンジに居る。寝る時も「薬の匂いを気にしたければ、医務室にベッドがある」と言い、医務室で寝泊まりをしている。

 

「レムさんってそんなに忙しんですか?」

「仕方なくだけどね」

 

 ジーナの言葉にコウタは首を(かし)げる。

 

「アナグラの神機使いって一枚岩じゃないの。遠距離神機使いだけでも、3つのグループに分かれてるし」

「そうだったんすか」

「その内の一つ、私達がいるグループのリーダーがレムってわけなの」

 

 沢山あるレポート用紙の中から白紙のものを抜き出す。更にペンを持って、字を書き始める。

 

「貴族派・実力派・不干渉派の3つね。それで私達は実力派って事になってるわ。これは別に貴族派が付けたものだから、私達は便宜上使ってるだけだけどね」

 

 貴族派と実力派を線で結び、対立と脇に書く。

 2つの派閥と不干渉派の間に線を引き、不干渉派はこの場では関係ないことを示す。

 

「貴族派は名前の通り、貴族たちが泊を付けるためにゴッドイーターなっている人達の事よ。私達はレムが中心になって、日頃から研究しているの」

「だから、遠距離人機について結構詳しく知ってるんすね」

「まぁね。私達は勉強して、生き残ることに必死なだけだから。でも、レムはね……」

「レムさんは違うんですか?」

「皆は生きる事だけを考えろ」

「レムさんの言葉ですか?」

 

 そんなところね、と言って再び筆を走らせる。

 実力派の下には、レムの名前を一番上として何人かの名前が書かれていく。

 

「コレにアナタを足して全員かしら。シュンとカレルは違うから」

「派閥なんて言われてるから大きいと思ってたんですけど、結構人数は少ないんすね」

「アナグラにいる人だけだからよ。本当は結構いるの。あとは、女性が多いのも特徴ね。コレも貴族派が私達にちょっかいを掛けてくる要因だわ」

 

 ジーナが女性に印をつけると、確に男性よりも女性の方が多かった。

 

「ここ最近は弟子を取るつもりはないって言っていたから、アナタがレムの弟子になったって聞いた時は驚いたわ」

「レムさんは結構教えてくれてますよ」

「一度関わりを持ったら、死ぬまで関わりを持とうとする人だから。それで理由は、さっき行った話に関係するわ」

「貴族派とかですか?」

 

 首を縦に振り、ジーナは言葉を続ける。

 

「最近貴族派からの干渉が増えてるからアナタは私達ではなくリンドウさん、第一部隊の下だけに入れたかったんだと思う」

「……」

「レムは今はそんな気にしてないから、アナタも気にすることはないわ。さっきも言ったけど、生き残ることだけを考えなさい。他のゴタゴタはレムや私達がやってあげるから」

 

 少し晴れない気持ちでレムの部屋を出るコウタがチラリと見たベットの上の書類には、『アラガミの生活区域』や『アラガミの進化の過程』と言った榊博士に習っているような事が書かれていた。

 

 




GE2の時とは違って、恋愛要素はどっかに行きました。
世界観を壊すことなく、少しばかりのオリジナリティーを加えられたらいいと思ってます。
今回だと貴族派とかそこら辺ですね。



ここから少し設定

確かこの時のレムの年齢は23歳(のはず)
リンドウと同期だから入隊時は13歳(のはず)
フランと10歳差で留めて、リンドウと同期にするために深く考えてなかった模様。

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