神を喰らう日常 作:指切りの約束
第1話
コウタは困惑していた。
赤紙の如く届いたゴッドイーター適合試験への招集。恐る恐るながらも受けた試験を無事に合格出来た彼は、極東支部アナグラのラウンジにいた。
自分の方が少し早くゴッドイーターになったため「オレが先輩だ」なんて言ったが、結局のところは同輩である。そんな同輩は一足早くツバキに連れられて訓練に行ってしまった。
「後からお前の担当者が来るから待っていろ」
なんて指示を受け、ラウンジのソファーで出撃に向かう、もしくは出撃から帰ってくるゴッドイーターの先輩たちを見て、将来的には有望なゴッドイーターになれることを想像する。
―――母ちゃん、ノゾミ。オレ頑張るから!
心の中で家族に思いを告げ、まだ見ぬツバキに言われた教官を待つこと数分。
「君がコウタくんかな?」
「わぁっ!!!」
人が近づく気配も、足音もしない状態からの声がけだったからかコウタは情けない声を出して驚いてしまった。
声を掛けた男の人もコウタの驚きように少し驚いている様子だ。
「ごめんごめん。少し雑務を押し付けられちゃってな。未来有望な新人の教育ってのは何回やっても楽しいからね。急いで来た分驚かせちゃったかな」
「急いできたら逆に分かると思うのですが……」
「そっちの方か。……その事については後からにするか」
「はい?」
「こっちの話。新人ゴッドイーターは訓練してなんぼだからね、ほら早く行くよ」
男はコウタを促して出撃ゲートへ向かう。
「持ち物は何が必要ですか?」
「神機」
「神機だけですか? 回復剤とかOアンプルとか」
「いらない、いらない。僕がいれば死ぬことはないし、死なせたら僕の首が飛んじゃうから」
取り敢えず任務はコウタがやってみな。という男からの指示に従って、ミッションカウンターにいるヒバリさんに任務書類の手続きを頼む。
「これから初出動ですねコウタさん。緊張はありませんか?」
「オレは帰ってこれるのか心配です。あの先輩神機以外はいらないって言ってたけど怪我したらどうするつもりなのか」
「あの方なら大丈夫ですよ。ここにいる第一世代型遠距離神機を使うゴッドイーターの半数は彼に教わっているんですからね」
まじか、と口からこぼれてしまった。
あんなにマイペースで我が道を行く人が、そこまですごい人だとは予想をつけられるはずがない。
「はい、これで完了です。出撃ゲートへ向かってもらっていいですよ」
「ありがとうヒバリさん。っと、一つだけ聞きたいけどいいかな?」
「はいどうぞ」
「オレの教官の名前って何て言うのかな? さっき聞くのわすれちゃって」
「彼は第八部隊、通称遊撃部隊隊長のレムさんですよ」
聞いたことがない名前だったため、任務が終わり次第アーカイブで調べてみようとコウタは思った。
そしてコウタはレムのことに集中しすぎで、どこで任務が行われるのか全くに気にしていなかった。最初の任務はトレーニングルームでだろうと思い込んでいたこともあるのだが。
コウタが持っている書類には『贖罪の町』と書かれていた。
◆
「よし。神機の準備はいいな?」
「いいっすけど。けど、なんでいきなり実地での研修なんですか!?」
前もって新人教育をしてくれとツバキさんに頼まれたコウタくんはどうやら元気な子らしい、というのが僕の初対面での感想だ。
同期に新型神機使いがいて、比較されても折れないように教育しろとの事だった。さて、どのくらいのシゴキに耐えられるのかなっと。
「まずは君が持っている神器について説明しようかな。自分の神機の種類は分かってるよね?」
「はい! 第一世代型遠距離神機アサルトです!」
「アサルトの特徴は近〜遠のどの距離においても攻撃できることにある。場合によっちゃスナイパーの超遠距離やブラスターの超近距離も担当するけど」
「マジすか……」
ここまで出来て極東では二流と言ったところだろう、他の支部に行けば「エリート」なんて威張れるがここでは全然足りない。
カノンちゃんなんかは銃身でアラガミをぶっ叩いたあと、開いた口に突っ込んで爆発バレット打ち込んでるし。一流になると何処か頭のネジが外れるから怖いのだけれども。
コウタくんの家族は極東の居住区に住んでいるそうだから、極東でゴッドイーターをする事になるのなら、僕が面倒を見られる内に極東で生き残れるくらいには強くしなくてはなら無い。
「今日はアラガミと戦うことはないから緊張はしなくていいよ」
「それじゃ、何するんすか?」
「アラガミを見るだけ。スコープで非戦闘中、戦闘中問わず観察するんだ。攻撃もしなくていいから、バレットは外してね」
僕の指示に従うコウタくんはどこか納得出来無いような顔をしている。けれどキチンとバレットを外している。根は真面目なのかな。
「さっきも言ったけど、アサルトってのは簡単に言っちゃえば何でも屋だ。それ故に近距離でのアラガミでの先頭、近接神機使いと離れている際のアラガミからの襲撃何てのも起こり得る。そんな時君は、身体を
「ないっす」
「今日はその不安を取り除く為に観察してもらうから」
ヘリコプターで送ってもらった安全地帯の高台から飛び降りる。着地は出来るだけ音も土埃もたてずに、静かに行う。今回は出来るだけ高台前、もしくは高台からスコープで見える所で戦闘をしなければならない。
贖罪の街は建物が多くそれが障害物となって釣り出しには向いている。高台に行く道も少ないので、警戒を分散させることなく済む。
「ヒバリちゃん」
『なんでしょうか?』
「僕の方はいいからコウタくんの周りの観測を強めてもらってもいいかな? 僕の方でも警戒するけど、やっぱり機械でやったほうが安心だから」
『了解です。他に頼むことはありますか?』
オウガテイル3体発見。
息を殺し、あらかじめ装着しておいた単発弾を放つ。
弾は3体のうちの1体に当たり、爆発を生じて残りの2体にもダメージを与える。
オウガテイルがこちらを観測したのを確認して、高台前まで駆ける。
「そうだね。中型、もしくは大型が近くを通りそうだったら連絡して。フェロモン使ってこっちに引き寄せて、コウタくんに見せるから」
『レムさんだから心配はしませんが、それでも気をつけてくださいね』
「了解です!」
オウガテイルが尾を振って棘を飛ばしてくるのを感じて
、前転で避ける。直感は当たり、前いた地面に棘が突き刺さる音がした。
さてと、どんなふうに
◆
アナグラに帰ってきたコウタは興奮覚めやらぬと言った感じで、ラウンジにいた。30分ほど前にレムとのミッションを終え戻って来たコウタは先程の光景が目に焼き付いて、離れていなかった。
コウタはゴッドイーターに対してあまり良い印象を持っていなかった。それもそのはず、居住区にゴッドイーターが現れるという事は既にアラガミの侵入を許し、有効打を与えられていないということになる。
そんな彼らにいい印象を持つはずがなかった。
しかし。
「最前線は違ったんだな」
しかし、レムの戦闘は全く違った。
アラガミを観察するように言われたのだが、それをしていたのは最初の方だけだった。すこし倍率を小さくして、アラガミと戦闘するレムも観察していた。
視線をあちこちに向け、アラガミにはノールックでバレットを当て、襲い掛かってくるアラガミを躱す。
到底自分には真似できないと思いもしたが、自分も出来るようにならなくてはとも思った。
そして最後にはヴァジュラが現れた。
スコープ越しでも威圧がビリビリと感じ、数歩後ろに下がってしまった。ヒバリから攻撃範囲に入らないように誘導されながら、ヴァジュラを観測する。
ヴァジュラが結合崩壊される怒る時も、こちらに向けて電球を放つ時も目を離さなかった。目を離したら死ぬと心のどこかで理解していた。
息の詰まるような数分間を超えるとその後はいつの間にかアナグラに戻っていた。
レムはこれから用事があるからと言ってエレベーターに乗ってどこかに行ってしまった。エレベーターに乗る前に「明日からはトレーニングルームで擬似アラガミと戦闘訓練するからそのつもりでね」と言い残した。
「コウター!」
深く沈んだ意識が名前を呼ばれた事で浮き上がる。
名前が呼ばれた方を見ると先に訓練に行っていた神薙ユウがあった時と同じ屈託のない笑顔を浮かべ、駆けて来る。
「ユウ! 今トレーニング終わった感じ?」
「うん。想像してたより大変で、もうクタクタだよ。ツバキ教官は予想通りのスパルタだし」
言われてみればユウの笑顔は疲労がありありと見てとれる。
「コウタの方はどうだった?」
「オレは……。改めてアラガミの怖さを痛感したよ」
至近距離で見るアラガミの怖さ。
これまで居住区に住んでいた時に見ていた時とは違う、既に対岸の火事ではないと理解したことによって生じる恐怖。
今まで見てきたアラガミに襲われるゴッドイーターに自分がなるかもしれない、そう思うだけで体が震える。
新人ゴッドイーター二人はそれぞれの思いを胸に秘めて成長して行く。
◆
「新人の教育はどんな感じだ?」
コウタくんの教育が無事終わり、何だかんだ文句を言っていたが新人教育は良いなと思いながら通路を歩いていたらツバキさんに声をかけられた。
たしかツバキさんももう一人の新人の新型くんに指導していたんだっけ。
「いささか気が早いと思いますが、と言うより早すぎる気もしますが中々良い感じに育つと思いますよ」
「そうか」
「取りあえずは新型くんに潰されない位には鍛え上げます。ここの居住区に住んでいたお陰で来族出身の奴らより、アラガミに対する恐怖感が少なかったですし」
今まで新人教育について聞いてこなかったツバキさんが尋ねてくるなんて、同時に戦線投入しようとしている新型くんが想定以上に人機の扱いが上手かったからだろう。
僕もリンドウとよく比べられ、二人で対決しあっていたから何となく分かる。結局の所、どっちも折れてそれぞれ秀でた部分を押し出していったから今も仲良くやっている。
「上の方は新人を増やせと言ってくるが、そういう者こそ現状を確認しに来れば良いのだ」
「こんな明日生きてるか死んでるか分からない所に来る物好きなんて居ませんよ。はぁ、僕も現役引退して教育だけに専念したいな」
「お前が辞めたら誰が代わりをやる。しばらくは現役続行だな」
「サクヤとかジーナがいるじゃないですか」
名前を上げたのは僕が結構長く教えている二人だ。今でも研究会や相談に乗っていたりと、僕の代わりに据えるのになかなか適していると思う。
他にもう一人カノンがいるが……うん。
「彼女たちでもお前の代わりは無理だ」
「えー、そんな」
「大体、支部長の懐刀と噂されているお前がそうそう辞められるわけもないがな」
「そんな噂から気在るんすか……」
「私も小耳に挟んだ程度だがな」
ただ支部長から言われる事をこなしてるだけなんだけどな。懐刀とかそんなの出来ると思うほど自惚れてないし、まだまだ死にかけることだって多い。
「ため息しか出ないなぁ」