死神と(未定)と異世界   作:マスラヲ

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とりあえず投稿。

作者の本編
⇒「吸血王と魔法と異世界」


1話

「……ごふっ」

 

一人の男が地面に片膝をつき、血反吐を吐きだす。

まだ若いが、その精悍な顔つきと鍛え上げられた肉体からは、歴戦の士といった印象を受ける。

だが現在男の姿は満身創痍。着ている服は所々破れ、土ぼこりと血のあとが目立つ。

切れ口から見える肌は、どこも殴られた後のように青痣になっていたり、刃物で斬られたようになっていたりと、生々しい傷跡が無数にある。

 

「……九鬼……か……ぐっ」

「いかにも。我が名はヒューム。九鬼家従者部隊序列第零番」

「同じく第三番、クラウディオでございます。後ろの者達も同じ所属になりますね」

 

しかしそのような痛々しい姿の男は、その眼に未だ力強い光を宿し、戦闘の意志を燃やし続けている。

自らをこのような姿にし、今も周りを取り囲み武器を構えて警戒している連中があの『九鬼』であろうとも。

絶対に屈さぬと暗に訴えるかのように。

 

「何の用だ……」

 

それでもやはり堪えているのか、苦しげに声を震わせながら、自分を襲撃した当の本人達に問う。

男は別に九鬼に何かした覚えはない。

それなのになんの前触れもなく数十人のメイドや執事服に身を包む目の前の連中に襲撃されたのだから、納得がいかなかった。

 

「あなたは危険分子とみなされました。よって我ら九鬼があなたを拘束、管理いたします」

「これからは我が主、九鬼家のために働け【死神】」

 

ヒュームと名乗った執事は、ここまで自分を最も痛めつけた張本人であるにも関わらず、なおも上から目線で男に告げる。

それが決定事項だと言わんばかりに。

だがそれが嫌に似合う執事だった。

 

「ヒューム、あなたは言葉が足りません。すいませんねこんな男で。要は自由な傭兵稼業から足を洗って九鬼専属になってほしい、ということです。ですがあなたのことなので、どうせ言っただけでは従わないでしょう。ならば『命が惜しければ』ということを分からせれば言いということになりましてね。私は反対だったのですが……」

 

威圧的なヒュームに変わってこの襲撃の意図を丁寧に話す老執事、クラウディオは自分たちの行いが強引であったことを認める発言をした。

 

しかしそれは仕方なのないことだったと続ける。

 

「あなただってもう薄々分かっているのでは? あなたは『強すぎた』んです、【死神】」

 

クラウディオは言う。確かに九鬼に直接被害を与えるようなことはなかった。九鬼家に連なる者を傷つけたこともない。だが間接的に与えることはたびたびあったし、何より男の存在は戦争や紛争を激化させる要因ともなっていた。一個人がそれほどまでの影響力を持っているのは異常だ。

兼ねてよりそんな男の扱いをどうするか議題にあがっていたが、そのたびに犯罪者でもないのに拘束するのはいかがなものか、ただの傭兵に時間がもったいないと見送られてきた。

だがついに、見逃せないほどに男の存在が大きく、何より男が強くなってしまった。

 

九鬼がその一端を牛耳る「世界」に影響を与え得るまでに。

 

「……俺はどうなる」

「あなたが九鬼家で担う役割は私達と同じ立ち位置です。九鬼財閥の重要人物の護衛兼執事として働いてもらいます。時には九鬼家の敵対勢力との戦闘にも参加してもらいますが。もちろん給金だってありますよ? それこそ傭兵としてもらう金額と同じくらいには。だってあなたも―――――」

 

『壁を越えし者』なのですから。

 

「……わかった」

 

男は少しの間悩んだように沈黙した後、了承を口にした。

その時同時に上げた顔には、特になにか感情が浮かんでいたわけではない。

いつも彼が見せている無表情。

敗北感に苛まれている様子でもなく、不安がっているわけでもない。

ただあるがままを受け入れる。そんな諦観にも似た年齢と不釣り合いな顔。

 

「案外簡単に受け入れるのだな?」

「命と引き換えにしてまで守るものなど、俺にはない」

 

一方的な宣告であることは理解しているヒュームは、それをあまり悩みもせずに受けた男に不信感を抱いたようだが、男の返答はごくシンプルだった。

 

「俺が傭兵をやっていたのは金を稼ぎ、命を繋ぐためにそれが最も俺に向いていたからだ。この力を有効に使えるのなら、傭兵でなくてもいい。ただそれだけのことだ」

「プライドがないな。九鬼の従者となる以上そのような考えは捨ててもらうぞ。裏切られてはかなわんからな」

「分からないのか零番。俺が九鬼を裏切ることはない」

「……ふん」

 

気に入らないことにヒュームには分かってしまう。

たったさっきまで激闘を繰り広げた相手だが、その行動原理が理解できてしまうからだ。

それは事前に本人についてのあらゆる情報を読んだときには憶測でしかなかったが、実際に拳を合わせたことによって確信することになった。

 

「相手が『九鬼』である以上俺は従う」

 

意味は違えど、ヒューム自身が九鬼に仕えている理由と似ている。

忌々しいことに。

 

「ならばあとは態度で示せ」

「まずは治療からですね。その後に九鬼帝様にあっていただきますので身嗜みも整えましょう」

 

ヒュームが納得したことで、行われた戦いの激しさとは異なりあっけなく制圧された男は九鬼に組み込まれた。

そのスピード交渉に、ヒュームとクラウディオ以外の従者たちは困惑の表情を浮かべ、武器を下ろすか下ろすまいか悩んでしまい、中途半端な体勢になってしまっている。

相手が相手だけに、これも仕方ない。

もし一対一で戦えば、あの序列零番ヒュームに匹敵する力を持つ男に勝ち目などなかったのだから。

 

「ほら皆さん。呆けてないで後処理を始めてください。ステイシーと李はこちらに。彼の面倒はしばらくあなた達に任せます。2時間後にはこの地を発ち極東本部へ向かうので、そのつもりで準備を進めてください」

「はいはーい。了解っす」

「分かりました」

 

クラウディオの掛け声にやっと硬直が解け動き出した面々。

その中から彼に呼ばれて男の前に出てきたのは、裏社会ではそこそこ有名だった二人だった。

 

「 “血まみれステイシー”に元暗殺者か。九鬼に下ったと聞いていたが」

「その名で呼ぶんじゃねえ。二度とな」

「私のこともぜひ名前で呼んでいただきたいものです。これから同僚になるのですから」

「……すまない」

「はっ。案外素直じゃねえか」

 

姿が完全にメイドなので男も一瞬見間違いとも思ったが、どうやら本人たちらしい。

昔の稼業からは想像もつかない格好だ。

 

「てめぇの名前教えろよ。アタシはステイシー。ただのステイシーだ。間違えんなよ?」

「私は李 静初。よろしくお願いします」

「……俺は海堂 真夜(しんや)」

 

 

 

 

―――――死神と呼ばれている。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「真夜! 真夜はおらぬか!」

 

九鬼財閥極東本部では、今日も平常通り業務が執り行われている。

そんな従者や一般の役員達が行きかうロビーで、一人の少女が最近入った新入りの執事の名前を呼ぶ。

 

「おーい。どこにいるのだー!」

 

少女の名は九鬼 紋白。九鬼家の次女にして、現在毎日を勉強と鍛錬に追われる身分。

しかし今日はたまにある休みの日。

こういう何もない日は、彼と一緒にいるのが最近の彼女のお気に入りとなっている。

 

「ここにいるが」

「おお! そこにいたのかっ!」

 

探し始めてからそれほど経っていないのだが、いつも彼はすぐに自分の前に現れてくれる。

それがまた彼女にとっては心地いい。

 

「今日も話を聞かせてくれ」

「別に構わないが。よく飽きないものだな」

「何を言う! お主が見てきた世界の話はまだまだあるのであろう? ならばすべて聞くまでよ! フハ

 

ハ!」

「そうか」

 

新入りの元傭兵という過去を持つ男、海堂 真夜(かいどう しんや)は今日も相変わらず無表情。

姿勢はいい。直立不動でかなり綺麗だ。

見た目も悪くない。顔は整っているし、引き締まった体と高身長な背丈からはまだ若い年代にも関わらず

 

風格が漂う。

あとは敬語さえ覚えれば完璧な執事ですのに、とはクラウディオ談。

実はこう見えて執事としての能力も結構高いことが判明している。

 

「しかし真夜はあいかわらず無愛想だな。損ではないか?」

「俺は敬語を使えん。気に障ったのなら許せ」

「よいよい。私がいいと言っているのだ。真夜こそ気にするでない。姉上や兄上もそう言っていたであろ

 

う?」

「……礼を言う」

「そんなことより早くお主の部屋へ行こう!待ちきれないぞ!」

「了解」

「フッハハ~」

 

紋白のご機嫌な笑い声が響くロビー。

 

今日も平和な九鬼財閥であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 奴は使いものになるのか?」

「ええ。一通りの教育は致しました」

 

そんな二人を遠くから見詰める二つの影。

ヒュームとクラウディオである。

 

「しかしあの態度はいただけん。やはり赤子か」

「おやおや。彼のことを一番評価していたあなたがそんなことを言いますか、ヒューム」

「……ちっ」

 

たいていの人間のことは赤子扱いのヒューム。

そんな人物評価に厳しいことで有名なヒュームだが、真夜に限っては低い評価をくだせなかった。

 

会った時には既に武術のレベルは超越者。

自らと一対一でも十分にやりあえるその力は、精神を伴ったものであり、未熟であるとはっきりいえるの

 

はその態度ぐらい。

 

「あの若さであそこまでの完成度。いったいどんな生活をしていればああなるのだ」

「それを目の前で言って差し上げればよろしいではありませんか」

「必要か? 奴に」

「……それもそうでございますね」

 

老人二人は、九鬼財閥に引きこんだはいいもののその扱いに少々困る一人の青年の未来に思いを馳せる。

 

「……いっそのこと――――というのはどうだ?」

「それはようございますね」

「では」

「はい。お任せを」

 

二人の間で何かが決まり、その場から姿が消える。

残されたのはただ吹き続ける風のみ。

 

 

 

 

 

 

「ほうほう! それでどうなったのだ!?」

「たいしたことはしていない。その後―――――」

 

 

 

 

 

 

 

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